降谷さんと義娘【お父さんはトリプルフェイス】
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降谷さんと風見さんが私の元を訪れてから3日。徐々に状況を受け入れはじめた頃、降谷さんが最後に言った言葉について考える時間が多くなった。
’’一緒に住む。家族になる。’’
もしその申し出を断ったとすれば、まだ未成年で学生の私は施設に入ることになるだろう。正直1度会っただけの降谷さんと過ごすより同じような境遇を持つ人と暮らす方が私のためになると思う。でもなんでだろう、不思議と降谷さんに安心を覚えた。この人なら大丈夫だと。そこからさらに3日後悩みに悩んだ末、降谷さんの家族になることを決めた。一週間前、赤ん坊のように大声を上げて泣いた私の背中を温かい掌で優しく、ゆっくりさすってくれた彼。とても悪い人には見えなかったし本能的にこの人と居たいと思った。
次の日の午前に病室のドアがノックされた。そこには以前一緒にいた風見さんの姿はなく一人で病室に入ってきた降谷さん。
「久しぶりだな。まだ怪我は痛む…?」
「あっ…まだ少し痛いけど、少しずつよくなっています。」
「そうか、よかった。……それで、だな。答えは決まったかな?」
優しく労わるように微笑んでいた降谷さんだったが、ふっと真剣な表情に変わった。
もう私の中で答えはでている。シャンと姿勢を伸ばし降谷さんの目を見つめながら答える。
「……ご迷惑をたくさんお掛けすると思いますが、私を、みょうじなまえを降谷さんの家族にしてほしいです」
「みょうじさん…。いや、なまえ。迷惑なんて思うもんか。……これからよろしく、」
先ほどまでのピリっとした空気とは一変して、一気に穏やかな空気が室内を包み込んだ。改めてこれからよろしく、とお互いに挨拶を交わしながら握手をした。
それから二週間後、大分怪我も回復し、万全ではないが自宅療養という形で退院した。その日は降谷さん…お父さんが車で病院まで迎えに来てくれた。私が養子になると決まってから、お父さんの方で戸籍の変更や引っ越しの準備をしてくれていたみたいで、退院の日には全てが終わっていた。
お父さんが乗っていた高級車にも驚いたが、さらに驚いたのは自宅だった。独身の一人暮らしには有り余る広さのマンションに住んでいて、私の部屋に案内されれば元々住んでいた家の2倍の広さがあってさらに、愛用していた家具に加えて可愛らしい家具や雑貨が一通り揃えられていた。聞けば以前は1人暮らしの狭い家に住んでいたそうなのだが、私と一緒に住むということで新しい住まいを用意してくれたのだと風見さんから伺った。
「降……お父さん。こんなによくして貰っていいんですか?」
一か月前まで顔も名前も知らなかったわけで、正直こんなに良くして貰えるなんて思ってもみなかった。不安気にお父さんを見ると笑いながら気にするな、と言われた。
事故のくだりを病室で聞いた時からテロリストの追跡や張り込みなど命をかけていると聞いて普通の仕事ではないと思っていたが、まさかすごい人なんじゃないだろうか?若いのに人一人を養えてそれでも余裕のある経済力なんてどんな職なんだろうか?
「あの……公安ってなにをする仕事なんですか?」
素朴な疑問が口をついてでた。私の問いに少しだけ考えて、一言’’日本を守る仕事だな’’……なんとアバウトな返答なんだろう。
命を張っているようだし、なにかの特殊部隊にでも入っているのだろうか。これ以上詮索するのはまた今度にしておこう。何から何まで新しい環境で今はそちらに慣れるのが先決だろう。
・
・
・
その後衣服や日用品の最低限を揃えるためお父さんと買い物に出かけた。たくさん買ってもらって申し訳ない気持ちでいっぱいだったが無いと生きていけないものあったし、これから嫌でもお世話になるのだ。甘えておこう。
家に帰って疲れているだろうからと早めの入浴を済ませ、お父さんが家にきた初日のお祝いだと美味しい料理をたくさん振る舞ってくれた。案外家庭的な一面があるみたいで料理も上手だったし、何よりベランダで栽培している家庭菜園には主婦みたいで驚いた。
今日は色んな所に言ったし、正直まだ数回しか会ったことのない目の前の男性の娘になったなんて人生なにがあるか分からない。最初はお互い壁があったが今日一日共に行動していく中で大分ラフに話せるようになってきたな…なんて出来事を振り返っていると今日の疲れがどっと波のように押し寄せてきたのか瞼が重くなってきた。
「なまえ、眠いか?…疲れたよな。寝室に行くか?」
目が覚めるような気もしないし、今こうしている間にもどんどん瞼は重くなっていく。寝室まで運ぼうか、と言われたが流石にそれは、と断った。
「…今日はありがとう…お父さん。そうするよ。おやすみなさい」
「うん。また明日おやすみ」
眠い目をこすりながら自分の部屋のベッドに飛び込んだ。ああ、なんてフカフカなんだろう。家では敷布団で寝ていたし、体がどんどん埋もれていく感覚に身を任せ、意識を飛ばすように眠りについた。
・
・
・
ああ、ここはどこだろう。真っ暗い空間に一人、ただ歩いている。しばらくすると向こうの方に火が轟々と燃え上っているのが見えた。なにもない空間に突如現れたものに吸い寄せられるようにそこに向かって歩いた。だんだん近づくとなにが燃えているのかが見えてきた。…あの日、事故にあった日。私たちが乗っていた車だ。
「………っ!! お父さん!お母さん!!今、今助けるから!」
横転して火がまわっている車に急いで駆け付ける。早く、早くお父さんとお母さんを助けないと!!死んでしまう!ドアが開いている運転席に近づき2人がどうなっているか見た瞬間言葉を失った。
顔から血を流し、体中に窓ガラスの破片が刺さっている。炎によって既に火傷を負っている皮膚は赤くただれ始めていた。いつもニコニコ笑っていた二人からは想像の出来ないあまりにも無残な姿に一歩下がる。
「お父さ…ん?お母…さん…?」
ああ、ああ。遅かった。もう少し早く気づければ助けられたのかもしれない。既に息をしていないだろう二人をただただ見ていることしかできなかった。
「なまえ。なまえ、なんで…お前だけ……助かったん…だ。お前も一緒にいこう」
亡くなっていると思っていたお父さんが突然目をこちらに向け低く唸るように、まるで恨めしそうに私に憎悪の感情を向けてくる。
「ち、違うっ…!違うの!ごめんなさい…。ごめんなさい!」
目を覚ますとどこか知らない天井と閉めていないカーテンから青白い月が部屋を少しだけ照らしていた。ああ、夢だったんだ。あれは夢、でも……。
「ひっ…うぅ……ごめっ…ごめんなさい…ふっ…」
思い出すだけで苦しくて悲しくて涙が止まらなかった。鮮明な映像の中、確かに私に向けられた憎しみの感情。病院で毎日のように泣いて、とっくに涙なんて枯れていたと思っていたのに。
時計を見るとまだ12時でおそらく寝付いてからそんなにまだ時間も経っていないだろう。
―――コンコン
ドアを控えめにノックする音に咄嗟に涙を拭って、出来るだけ平然を装って、はい。と返事をする。
ドアをゆっくり開けたお父さんは何も言わずこちらにやってきてベッドのふちに腰かけた。
「怖い夢でも見たか?大分うなされてたぞ」
「…っ。事故にあった日の夢を見て、死んだはずのお父さんが私にお前も一緒にいこうって。…なんで私だけ助かった…っの…!」
言い終わる前に突然温かい体温が私の身体を包み込んだ。優しく労わるように背中を撫でながら
「君が生きてくれていて、本当に感謝しているんだ。お父さんやお母さんも絶対に俺と同じ気持ちだ。だからそんなこと言うんじゃない。」
止めたはずの涙がせきを切ったかのように流れる。この人がお父さんで本当によかった。未だ背中を一定のリズムで赤子をあやすかのように叩いてくれる。
温かい包容に包まれながら、泣き疲れた私はいつの間にか眠りに落ちていた。
’’一緒に住む。家族になる。’’
もしその申し出を断ったとすれば、まだ未成年で学生の私は施設に入ることになるだろう。正直1度会っただけの降谷さんと過ごすより同じような境遇を持つ人と暮らす方が私のためになると思う。でもなんでだろう、不思議と降谷さんに安心を覚えた。この人なら大丈夫だと。そこからさらに3日後悩みに悩んだ末、降谷さんの家族になることを決めた。一週間前、赤ん坊のように大声を上げて泣いた私の背中を温かい掌で優しく、ゆっくりさすってくれた彼。とても悪い人には見えなかったし本能的にこの人と居たいと思った。
次の日の午前に病室のドアがノックされた。そこには以前一緒にいた風見さんの姿はなく一人で病室に入ってきた降谷さん。
「久しぶりだな。まだ怪我は痛む…?」
「あっ…まだ少し痛いけど、少しずつよくなっています。」
「そうか、よかった。……それで、だな。答えは決まったかな?」
優しく労わるように微笑んでいた降谷さんだったが、ふっと真剣な表情に変わった。
もう私の中で答えはでている。シャンと姿勢を伸ばし降谷さんの目を見つめながら答える。
「……ご迷惑をたくさんお掛けすると思いますが、私を、みょうじなまえを降谷さんの家族にしてほしいです」
「みょうじさん…。いや、なまえ。迷惑なんて思うもんか。……これからよろしく、」
先ほどまでのピリっとした空気とは一変して、一気に穏やかな空気が室内を包み込んだ。改めてこれからよろしく、とお互いに挨拶を交わしながら握手をした。
それから二週間後、大分怪我も回復し、万全ではないが自宅療養という形で退院した。その日は降谷さん…お父さんが車で病院まで迎えに来てくれた。私が養子になると決まってから、お父さんの方で戸籍の変更や引っ越しの準備をしてくれていたみたいで、退院の日には全てが終わっていた。
お父さんが乗っていた高級車にも驚いたが、さらに驚いたのは自宅だった。独身の一人暮らしには有り余る広さのマンションに住んでいて、私の部屋に案内されれば元々住んでいた家の2倍の広さがあってさらに、愛用していた家具に加えて可愛らしい家具や雑貨が一通り揃えられていた。聞けば以前は1人暮らしの狭い家に住んでいたそうなのだが、私と一緒に住むということで新しい住まいを用意してくれたのだと風見さんから伺った。
「降……お父さん。こんなによくして貰っていいんですか?」
一か月前まで顔も名前も知らなかったわけで、正直こんなに良くして貰えるなんて思ってもみなかった。不安気にお父さんを見ると笑いながら気にするな、と言われた。
事故のくだりを病室で聞いた時からテロリストの追跡や張り込みなど命をかけていると聞いて普通の仕事ではないと思っていたが、まさかすごい人なんじゃないだろうか?若いのに人一人を養えてそれでも余裕のある経済力なんてどんな職なんだろうか?
「あの……公安ってなにをする仕事なんですか?」
素朴な疑問が口をついてでた。私の問いに少しだけ考えて、一言’’日本を守る仕事だな’’……なんとアバウトな返答なんだろう。
命を張っているようだし、なにかの特殊部隊にでも入っているのだろうか。これ以上詮索するのはまた今度にしておこう。何から何まで新しい環境で今はそちらに慣れるのが先決だろう。
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その後衣服や日用品の最低限を揃えるためお父さんと買い物に出かけた。たくさん買ってもらって申し訳ない気持ちでいっぱいだったが無いと生きていけないものあったし、これから嫌でもお世話になるのだ。甘えておこう。
家に帰って疲れているだろうからと早めの入浴を済ませ、お父さんが家にきた初日のお祝いだと美味しい料理をたくさん振る舞ってくれた。案外家庭的な一面があるみたいで料理も上手だったし、何よりベランダで栽培している家庭菜園には主婦みたいで驚いた。
今日は色んな所に言ったし、正直まだ数回しか会ったことのない目の前の男性の娘になったなんて人生なにがあるか分からない。最初はお互い壁があったが今日一日共に行動していく中で大分ラフに話せるようになってきたな…なんて出来事を振り返っていると今日の疲れがどっと波のように押し寄せてきたのか瞼が重くなってきた。
「なまえ、眠いか?…疲れたよな。寝室に行くか?」
目が覚めるような気もしないし、今こうしている間にもどんどん瞼は重くなっていく。寝室まで運ぼうか、と言われたが流石にそれは、と断った。
「…今日はありがとう…お父さん。そうするよ。おやすみなさい」
「うん。また明日おやすみ」
眠い目をこすりながら自分の部屋のベッドに飛び込んだ。ああ、なんてフカフカなんだろう。家では敷布団で寝ていたし、体がどんどん埋もれていく感覚に身を任せ、意識を飛ばすように眠りについた。
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ああ、ここはどこだろう。真っ暗い空間に一人、ただ歩いている。しばらくすると向こうの方に火が轟々と燃え上っているのが見えた。なにもない空間に突如現れたものに吸い寄せられるようにそこに向かって歩いた。だんだん近づくとなにが燃えているのかが見えてきた。…あの日、事故にあった日。私たちが乗っていた車だ。
「………っ!! お父さん!お母さん!!今、今助けるから!」
横転して火がまわっている車に急いで駆け付ける。早く、早くお父さんとお母さんを助けないと!!死んでしまう!ドアが開いている運転席に近づき2人がどうなっているか見た瞬間言葉を失った。
顔から血を流し、体中に窓ガラスの破片が刺さっている。炎によって既に火傷を負っている皮膚は赤くただれ始めていた。いつもニコニコ笑っていた二人からは想像の出来ないあまりにも無残な姿に一歩下がる。
「お父さ…ん?お母…さん…?」
ああ、ああ。遅かった。もう少し早く気づければ助けられたのかもしれない。既に息をしていないだろう二人をただただ見ていることしかできなかった。
「なまえ。なまえ、なんで…お前だけ……助かったん…だ。お前も一緒にいこう」
亡くなっていると思っていたお父さんが突然目をこちらに向け低く唸るように、まるで恨めしそうに私に憎悪の感情を向けてくる。
「ち、違うっ…!違うの!ごめんなさい…。ごめんなさい!」
目を覚ますとどこか知らない天井と閉めていないカーテンから青白い月が部屋を少しだけ照らしていた。ああ、夢だったんだ。あれは夢、でも……。
「ひっ…うぅ……ごめっ…ごめんなさい…ふっ…」
思い出すだけで苦しくて悲しくて涙が止まらなかった。鮮明な映像の中、確かに私に向けられた憎しみの感情。病院で毎日のように泣いて、とっくに涙なんて枯れていたと思っていたのに。
時計を見るとまだ12時でおそらく寝付いてからそんなにまだ時間も経っていないだろう。
―――コンコン
ドアを控えめにノックする音に咄嗟に涙を拭って、出来るだけ平然を装って、はい。と返事をする。
ドアをゆっくり開けたお父さんは何も言わずこちらにやってきてベッドのふちに腰かけた。
「怖い夢でも見たか?大分うなされてたぞ」
「…っ。事故にあった日の夢を見て、死んだはずのお父さんが私にお前も一緒にいこうって。…なんで私だけ助かった…っの…!」
言い終わる前に突然温かい体温が私の身体を包み込んだ。優しく労わるように背中を撫でながら
「君が生きてくれていて、本当に感謝しているんだ。お父さんやお母さんも絶対に俺と同じ気持ちだ。だからそんなこと言うんじゃない。」
止めたはずの涙がせきを切ったかのように流れる。この人がお父さんで本当によかった。未だ背中を一定のリズムで赤子をあやすかのように叩いてくれる。
温かい包容に包まれながら、泣き疲れた私はいつの間にか眠りに落ちていた。