本編
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「で?初任務はどうだったのよ?」
「どうもこうも…めちゃくちゃ大変だったよ。死ぬかと思ったんだから。」
「生きてるからいいじゃない。それにカルは上手くやったと思うわ。」
「うーん、そうかな?」
あの任務の日から2日後。ベルモットが別の任務から帰還した。バーボンさんに私の本当の任務がバレていたことや、もしかしたら別の仕事をしているのかもしれない、という事は言わなかった。バーボンさんはそのことを知ったからといって怒るような人じゃないと思うし、喫茶店で働いていることだって確信したわけじゃない。組織に言っていないことだったら彼の立場も危うくなるかもしれないし、一番の理由は任務で大変そうなベルモットに心配事を増やしたくなかった。前回の任務でいかにベルモットが命を危険に晒しているのかを身を持って知った。
「ねえカル?さっきから心ここに非ずって感じよ。なにか悩んでいることがあるなら私に相談しなさい。私は絶対にあなたの味方よ。」
「ベル…。…あのね、これは友達のことなんだけど…。」
「フフ。友達、ね。いいわ、話してごらんなさい。」
バーボンさんや安室さんの話は伏せて話しをする。
「好きな人がもし自分の知らない顔を持っていたらどうする?でも確信はしていないの。そう思うような節があるだけで、その子の思い違いってこともあるかもしれないし、」
「そうね…アドバイスをするとすれば、少なくとも私は自分の目できちんと確かめるわ。そしてきっと受け入れるでしょうね、だって愛する人の全てを知りたいじゃない。カル、貴女は違うの?」
「そっか、そうだよね。私逃げてた。そうでなければいい、って考えるだけで本当のことを知るのが嫌だったのかもしれない。日向で生きてるって思っていた人が暗い世界で日々命を懸けてるって思いたくなかった。」
「すっきりしたようでよかったわ。その’’友達’’にもよろしく言っといて」
そうと決まれば行動に移すまでが早かった。居ても経ってもおられず、ベルに断わって喫茶店ポアロに向かう。
入店すればちょうど空いていたのだろう、お客さんはまばらだった。それでも喫茶店にしては大いに繁盛しているように思える。それもこれも美味しい食べ物と安室さんのおかげだろう。女性の店員さんが席に通してくれたので案内に従ってカウンター席に座る。
「いらっしゃいませ。…今日はお仕事ではないんですね!」
「あっ安室さん。ったまたま!近くに寄ったので。安室さんのサンドイッチが食べたくなってしまって。」
それは光栄だ、嬉しそうに話す安室さんの左頬をみれば新しく張り替えられたであろう絆創膏が貼ってある。安室さんがバーボンさんという事実に直面しても不思議と焦ったりショックはなかった。きっと心のどこかで分かっていたのだろう、反対に親近感すら湧いた。私なんかより危険と隣り合わせにいる安室さんの方がもっと大変だろうけど、表と裏を行き来することや正義とは何かという葛藤、疑心、そして不安。大きさは違えど同じ境遇にいる。人間の心とはおかしなもので、相手が自分と似ているというだけで相手への好意が深まることがある。一種の類似性の法則。
私がなんやかんやと考えているうちに1つ1つの具材があっという間にサンドイッチというものを構成し、私の目の前に食べてほしそうにコトン、と置かれた。
お待たせしました、ごっゆくりどうぞ。と決まり文句を言い業務に戻ろうとする安室さんに聞こうと思っていたことを思い出す。
「あのっ!特に深い意味はないんですけど、その左頬の傷ってどうされたんですか?」
あまりに脈絡の無い質問に自分でも笑ってしまう。安室さんは1節置いて、近所の野良猫と戯れていたらうっかり引っかかれてしまって…と困った表情を作る。妥当な理由だと思った。まさか銃で撃たれましたなんて馬鹿正直に言うわけない。努めて笑顔で、そうだったんですね、お大事になさって下さい。と少し他人行儀めに返事をする。今度こそ業務に戻ってしまった安室さんを尻目に、不自然にならないようにゆっくりと食事をして店を出た。
で、私はどうするのだろうか。安室さんがバーボンさんだと分かり弱みを握るのだろうか、こちら側の人間だから、私と似ているからとアプローチするのか。いいや、きっとどれもしない。今まで通りポアロのお客さんの1人として、顔すらすらないメンバーの1人として関係を続けていくだろう。結局一歩踏み出す勇気はないのだ。
いつもそうだった。何も恋愛面だけじゃない。学生の頃は引っ込み思案で親しい友達を作る勇気もなく向こうから話しかけてくれるのを待っていたし、イベントごとでは裏方に徹した。今の翻訳家という職もあまり人と関わりたくないと選んだ道だ。年齢を重ねるごとに’’慣れ’’として人との関係づくりも円滑にできるようになったものの人間、根本から変われることなんてそうないのだ。昔から私を知る人は「変わったね!」と言うがそれはきっとハリボテで繕った私だと、そう思う。
研究室に戻りプライベート用のメールを開くと志保ちゃんからのメールを受信していた。メールの内容は主にアポトキシンが人体にもたらした副作用について。この副作用があってこそ彼女は今も生きながらえているが対する特効薬は出来ていない。一時的に体が元に戻ることもあるらしく、詳しい原因は分かっていないが特効薬を作る手掛かりになると私は踏んでいる。
ただ問題はアポトキシンに対しての解毒作用ではなく、身体の幼児後退そのものを叩かなければいけない。そのためまずはアポトキシンの副作用を抽出し、亜種として幼児後退薬を作る必要がある。いくら個人の研究室といえども記録を残してしまうと気づかれた時、芋づる式に全てがバレてしまう。そうなると私の命はおろか志保ちゃんやその周りの人にも迷惑が及ぶ。そうなることを危惧し幼児後退薬の研究は自宅で実験している。
順調に結果も出ていて、進捗も好調。完成まであと3割、と言ったところだろうか。一方志保ちゃんから引き継いだ研究は停滞してしまっている。アポトキシン以外の薬もいくつか研究していたようで、これをほぼ1人でやっていたのかと思うと、ため息もつきたくなる。
「さっ!やりますか!」
ここ連日の疲れを体の中にしまい込み、満身創痍の体に喝をいれ研究に取り組む。今日も私の夜は長い。
「どうもこうも…めちゃくちゃ大変だったよ。死ぬかと思ったんだから。」
「生きてるからいいじゃない。それにカルは上手くやったと思うわ。」
「うーん、そうかな?」
あの任務の日から2日後。ベルモットが別の任務から帰還した。バーボンさんに私の本当の任務がバレていたことや、もしかしたら別の仕事をしているのかもしれない、という事は言わなかった。バーボンさんはそのことを知ったからといって怒るような人じゃないと思うし、喫茶店で働いていることだって確信したわけじゃない。組織に言っていないことだったら彼の立場も危うくなるかもしれないし、一番の理由は任務で大変そうなベルモットに心配事を増やしたくなかった。前回の任務でいかにベルモットが命を危険に晒しているのかを身を持って知った。
「ねえカル?さっきから心ここに非ずって感じよ。なにか悩んでいることがあるなら私に相談しなさい。私は絶対にあなたの味方よ。」
「ベル…。…あのね、これは友達のことなんだけど…。」
「フフ。友達、ね。いいわ、話してごらんなさい。」
バーボンさんや安室さんの話は伏せて話しをする。
「好きな人がもし自分の知らない顔を持っていたらどうする?でも確信はしていないの。そう思うような節があるだけで、その子の思い違いってこともあるかもしれないし、」
「そうね…アドバイスをするとすれば、少なくとも私は自分の目できちんと確かめるわ。そしてきっと受け入れるでしょうね、だって愛する人の全てを知りたいじゃない。カル、貴女は違うの?」
「そっか、そうだよね。私逃げてた。そうでなければいい、って考えるだけで本当のことを知るのが嫌だったのかもしれない。日向で生きてるって思っていた人が暗い世界で日々命を懸けてるって思いたくなかった。」
「すっきりしたようでよかったわ。その’’友達’’にもよろしく言っといて」
そうと決まれば行動に移すまでが早かった。居ても経ってもおられず、ベルに断わって喫茶店ポアロに向かう。
入店すればちょうど空いていたのだろう、お客さんはまばらだった。それでも喫茶店にしては大いに繁盛しているように思える。それもこれも美味しい食べ物と安室さんのおかげだろう。女性の店員さんが席に通してくれたので案内に従ってカウンター席に座る。
「いらっしゃいませ。…今日はお仕事ではないんですね!」
「あっ安室さん。ったまたま!近くに寄ったので。安室さんのサンドイッチが食べたくなってしまって。」
それは光栄だ、嬉しそうに話す安室さんの左頬をみれば新しく張り替えられたであろう絆創膏が貼ってある。安室さんがバーボンさんという事実に直面しても不思議と焦ったりショックはなかった。きっと心のどこかで分かっていたのだろう、反対に親近感すら湧いた。私なんかより危険と隣り合わせにいる安室さんの方がもっと大変だろうけど、表と裏を行き来することや正義とは何かという葛藤、疑心、そして不安。大きさは違えど同じ境遇にいる。人間の心とはおかしなもので、相手が自分と似ているというだけで相手への好意が深まることがある。一種の類似性の法則。
私がなんやかんやと考えているうちに1つ1つの具材があっという間にサンドイッチというものを構成し、私の目の前に食べてほしそうにコトン、と置かれた。
お待たせしました、ごっゆくりどうぞ。と決まり文句を言い業務に戻ろうとする安室さんに聞こうと思っていたことを思い出す。
「あのっ!特に深い意味はないんですけど、その左頬の傷ってどうされたんですか?」
あまりに脈絡の無い質問に自分でも笑ってしまう。安室さんは1節置いて、近所の野良猫と戯れていたらうっかり引っかかれてしまって…と困った表情を作る。妥当な理由だと思った。まさか銃で撃たれましたなんて馬鹿正直に言うわけない。努めて笑顔で、そうだったんですね、お大事になさって下さい。と少し他人行儀めに返事をする。今度こそ業務に戻ってしまった安室さんを尻目に、不自然にならないようにゆっくりと食事をして店を出た。
で、私はどうするのだろうか。安室さんがバーボンさんだと分かり弱みを握るのだろうか、こちら側の人間だから、私と似ているからとアプローチするのか。いいや、きっとどれもしない。今まで通りポアロのお客さんの1人として、顔すらすらないメンバーの1人として関係を続けていくだろう。結局一歩踏み出す勇気はないのだ。
いつもそうだった。何も恋愛面だけじゃない。学生の頃は引っ込み思案で親しい友達を作る勇気もなく向こうから話しかけてくれるのを待っていたし、イベントごとでは裏方に徹した。今の翻訳家という職もあまり人と関わりたくないと選んだ道だ。年齢を重ねるごとに’’慣れ’’として人との関係づくりも円滑にできるようになったものの人間、根本から変われることなんてそうないのだ。昔から私を知る人は「変わったね!」と言うがそれはきっとハリボテで繕った私だと、そう思う。
研究室に戻りプライベート用のメールを開くと志保ちゃんからのメールを受信していた。メールの内容は主にアポトキシンが人体にもたらした副作用について。この副作用があってこそ彼女は今も生きながらえているが対する特効薬は出来ていない。一時的に体が元に戻ることもあるらしく、詳しい原因は分かっていないが特効薬を作る手掛かりになると私は踏んでいる。
ただ問題はアポトキシンに対しての解毒作用ではなく、身体の幼児後退そのものを叩かなければいけない。そのためまずはアポトキシンの副作用を抽出し、亜種として幼児後退薬を作る必要がある。いくら個人の研究室といえども記録を残してしまうと気づかれた時、芋づる式に全てがバレてしまう。そうなると私の命はおろか志保ちゃんやその周りの人にも迷惑が及ぶ。そうなることを危惧し幼児後退薬の研究は自宅で実験している。
順調に結果も出ていて、進捗も好調。完成まであと3割、と言ったところだろうか。一方志保ちゃんから引き継いだ研究は停滞してしまっている。アポトキシン以外の薬もいくつか研究していたようで、これをほぼ1人でやっていたのかと思うと、ため息もつきたくなる。
「さっ!やりますか!」
ここ連日の疲れを体の中にしまい込み、満身創痍の体に喝をいれ研究に取り組む。今日も私の夜は長い。