本編
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「合言葉は?」
「original sin」
日本語で『原罪』という意味。アダムとイヴの逸話によく使われる言葉だ。以前請け負った翻訳の仕事で聞いたことがある。
「原罪…ですか。趣味が良いとは言えませんね。」
「そ、そうですね。色んな解釈が出来ると思います。それこそ有名なのはアダムとイヴの物語ですよね。」
「お詳しいですね。カルヴァドスさんはそういった手の話しに興味があるように見えませんけど。」
「ははっ、そうですか?よ、よく言われます。」
遠まわしに嫌味を言われているのだろうか?確かに変装したあとの容姿はあまりに派手で教養が備わっているようには見えなかったが。爽やかで人に気配りが出来る安室さんが嫌味を言うようには思えない。やはりとても似ているだけで他人なのだろうか。
会場に入ると、私に負けず劣らず着飾っている人たち。ここは本当に日本なのか。まるで海外のセレブが集まるパーティー会場のようだと錯覚する。気遅れする私に比べバーボンさんは人の良い笑顔を浮かべ次々と挨拶周りをする。そんな彼についていくのに必死で段々緊張の糸も解れてきた。しばらくする頃には笑顔で偽名を名乗って自己紹介も淡々と出来るようになってきた。
「…カルヴァドスさん、次はこのパーティーの主催者に挨拶をしに行きます。くれぐれも怪しまれないように自然体でいきましょう」
私だけに聞こえる声でつぶやいたバーボンさんに頷き返し人の波を縫って初老の男性に声を掛ける。
「本日はこのような素晴らしいパーティーにお招き頂きありがとうございます。私は相良正宗と申します。こちら妻の愛美です。」
「愛美と申します。本日はありがとうございます。」
「おお、これはこれは。ご丁寧にどうも。楽しんで頂けて何よりです。しかし今夜は’’ネズミ’’が紛れ込んでいるらしくてじゃの。警備を強めているのだが中々相手を掴めない。少々物騒になって申し訳ないの…。」
「そうだったのですね。どうりでボディーガードが多いと思いました。…お気遣いありがとうございます。」
困った表情を浮かべながら人差し指で頬を搔くバーボンさん。その姿はまるでポアロで女性客に絡まれていた時の安室さんと酷似していた。
「おや、愛美さん、と言ったかな?何をそんなに驚かれているんじゃ?」
「あっいいえ。不躾ながら会長さんが私の祖父に似ていたもので…少し驚いてしまいました。」
咄嗟に出た嘘でも少しの真実を混ぜこめば、事実に聞こえる。
「ほほっ。こんな別嬪さんが孫なら嬉しい限りじゃわ」
「まあ!別嬪なんで·····!褒めても何も出ないですよ!」
やばい。やばい、これ以上喋るとボロが出てしまいそうになる。今は相手に話しを合わせられているけど会話が発展したら·····。
「会長すみません。今日は妻の体調が優れなくて。何処か体を休められる場所はありませんか?」
様子のおかしな私に助け舟を出してくたバーボンさんを見ると会長に向けてスっと目を細める。対する会長も意味ありげにニヤリとしたりと思うと、表情とは違う、務めて明るい声で思ってもみない心配をしてみせる。会長が側近に目配せしたかと思えば細身の男性がこちらにやってきて、ご案内します。と恭しく礼をする。
「こちらが休憩室になります。」
一言お礼を述べ豪華な家具が所狭しと並んでいる部屋に入る。
ーーーガチャ
「·····え?」
「ふむ、閉じ込められましたね。そんなことだろうと思いましたけど。」
まただ。また困った表情で頬を掻くバーボンさん。
「待って下さい。状況が上手く読めないんですが」
「僕達がこのパーティに紛れ込んだネズミだとバレていたみたいですね。恐らくですが我々の組織内に内通者がいたのでしょう。心当たりがあります。」
「そ、それで私達はこのまま捕まってしまうんですね·····。」
「何を言っているのですか?そんなわけないでしょう、脱出しますよ。」
「鍵閉められてるんですよ?こじ開けたら物音でバレてしまいます。」
「何も出入口がそこのドアだけだとは限らないでしょう。」
何を言っているのだろうかこの男は。もしかして、いやまさかな、と彼の顔を見れば、ご名答です。と笑顔でサラリと言ってみせた。
「待って下さい!ここ何階だと思ってるんですか?!」
「16階ですけど。」
何言ってるんですか?とでも言う顔で返答を貰ったが彼には常識が通じないみたいで、ふわりと目眩がした。
では行きますよ、と大きな窓に向かうバーボンさんの腕を掴んで必死に説得する。
「これ脱出ルートは以外にないんですか?!私絶対途中で落ちます!絶対!」
「ないことは無いですけど、これが1番リスクが少ないんです。」
いや、16階から脱出するのがリスクが少ないってどういうこと?!
「·····えっ!あっ!·····ちょっと!何するんですか!」
掴んでいた腕を逆に掴み返されて肩に担がれる。手足をバタつかせ抵抗してみせるもさほど効果はなかった。
ああ、もう私の人生はここで終わりだ。こんなに短い人生ならもっとしたいことをすればよかった。
気づいた時には体全体に強い風があたる。バーボンさん念の為と近くにあったカーテンを取りそれで私と彼の体をグルグル巻にした。
「さ、行きますよ。」
ーーードタドタドタ。ガチャンッ
「おい、そこで止まれ!!」
廊下が慌ただしくなったかと思うと、閉まっていたドアが勢いよく開き私たち二人に拳銃を向け牽制する。
「全く、来るのが遅いですよ。」
バーボンさんの挑発に乗せられ銃口から実弾が飛び出しこちら側へと真っ直ぐ向かってくる。硝煙が上がったかと思うと背後の窓ガラスが悲鳴を上げていた。
「おかげで窓を破る手間が省けました。」
相手のコントロールが決して悪いわけではなかった。むしろバーボンさんが実弾を避けなかったら被弾していただろう。あまりに非現実的な出来事が続きすぎてもはや声すらも出ない。
「では、また会いましょう。……貴方たちが生きていたら、ですけど。」
どこまでも余裕を見せるバーボンさんは躊躇なく足を横桟にかけるとそのまま飛び降りた。………飛び降りた?!途端に全身を襲う浮遊感に胃がひっくり返りそうになる。ほぼ反射的にバーボンさんにしがみつくもこのような状況でトキメキもクソない。今まで味わったこともないような浮遊感にグッと目を閉じこれでもかというほど体に力が入る。きっと人間は自分の許容範囲を超えると叫び声すらでなくなるのだ。
死を覚悟したが、いつの間にか不快な浮遊感はなくなり、やってくるであろう体への衝撃はいつまで経ってもやってこなかった。
おそるおそる閉じていた目を開けると命綱ようなものを握り締めながら下へと下るバーボンさんが。
「……私生きてる?」
「ここが死後の世界に見えますか?」
命綱の先を辿ると錨が建物にしっかり食い込んでいる。会場はきっと大騒ぎになっている頃だろうか。追手が地上に来る前に撤収しなければまたピンチになる。もう手放しで落下はしていないものの、結構なスピードで下っているため若干の浮遊感が走る。中途半端な高さも意外と怖いもので、現実から目を背けるように開けていた目をもう一度閉じた。
「さ、休んでいる暇はありませんよ。こちらです。急ぎましょう。」
「あ、待ってください!」
やっと地に足がついた。まだ体がフワフワしていて不思議な感覚だ。2人を縛っていたカーテンだったモノをシュルっと解き一息つく時間もなく会場近くに駐車していた車に半ば飛び込むように乗り込む。まっすぐアジトに向かうのはリスクが高いと踏んだ私たちはしばらく車を走らせた。
「バーボンさん。いつもこんな危険な任務をしているんですか?」
「フッ、危険とはいつも隣り合わせです。でも今回は運が悪かった。…初任務でこんなことになるなんて貴女もツイてないですね。ベルモットから少し聞きましたが科学班でいらっしゃるとか。」
「そうなんです。ベルモットが急遽任務につけなくてって、それで私に白羽の矢が立ったんです。私には務まらないと言ったんですけど、有無を言わさない空気に押し負けちゃいました…。」
「それはお気の毒に。さしずめ貴女の任務は情報収集より僕の監視、と言ったところでしょうか。」
「知ってたんですか?すみません、疑っているみたいで嫌な思いされましたよね…。」
「謝ることはないですよ、きっと僕でも同じようにしたはずです。気にしてませんよ。」
「ありがとうございます…って!バーボンさんほっぺた怪我されてますよ!あっ血が…運転されたままでいいのでジっとしてくださいね。」
左頬に銃弾が掠めたのだろう。大きな傷ではなかったが一直線に切り傷ようなものが出来ていて血も滲んで若干滴っている。
肩にかけていたバッグからハンカチを取り出し血を拭い気休めではあるが絆創膏を貼った。消毒もしたかったが今そのようなものは持っていない。
治療している時には夢中で気づかなかったが絆創膏を貼るため近づいたので思った以上にバーボンさんの顔が近い。
「で、出来ました!絆創膏しか貼っていないので帰ったら消毒してくださいね。化膿してからでは遅いですから。」
突然襲ってきた恥ずかしさと緊張でついつい早口に捲し立てる。私の様子が可笑しかったのかフッと微笑むバーボンさんにときめいてしまう。今日一日どこか冷たい瞳をしていたのにこんな表情も出来るなんて。
「もう追ってくることはなさそうですね。ではこのままアジトまで送り届けますので。」
「送って頂きありがとうございます。バーボンさんは戻られないんですか?」
「いえ、お構いなく。この後も少し立て込んでいるので。」
特に引き止める理由もなく、軽く会釈して去っていく車を見送った。見えなくなった所で踵を返し自分の研究室へと向かった。
部屋の中に入ったと同時に自分ではない誰かの仮面や普段は着ないであろう派手なドレス、高いヒールを脱ぎ捨て、いつもの私に戻った。魔法から解けたシンデレラのように別人だ。
半ば倒れこむようにソファに沈み込み今日の出来事を思い返した。
やはりバーボンさんは安室さんなのか。たった一度の癖で確信なんて得られなったが思い返せば思い返すほどあれも似ていた、これも似ていた、とパズルを無理やりはめ込めようと脳がもって行く。
考えれるほど坩堝にはまっていくような気がして、考えることをやめた。深い溜息をつき体の力をフッと抜けば途端に強烈な眠気が襲ってくる。そういえば今日の任務に緊張してあまり寝れてなかった。それに加えて命に関わるようなことな出来事がさらにこの眠気に追い打ちをかけている気がした。
ああ、シャワー浴びようと頭の片隅で考えて意識を手放した。
「original sin」
日本語で『原罪』という意味。アダムとイヴの逸話によく使われる言葉だ。以前請け負った翻訳の仕事で聞いたことがある。
「原罪…ですか。趣味が良いとは言えませんね。」
「そ、そうですね。色んな解釈が出来ると思います。それこそ有名なのはアダムとイヴの物語ですよね。」
「お詳しいですね。カルヴァドスさんはそういった手の話しに興味があるように見えませんけど。」
「ははっ、そうですか?よ、よく言われます。」
遠まわしに嫌味を言われているのだろうか?確かに変装したあとの容姿はあまりに派手で教養が備わっているようには見えなかったが。爽やかで人に気配りが出来る安室さんが嫌味を言うようには思えない。やはりとても似ているだけで他人なのだろうか。
会場に入ると、私に負けず劣らず着飾っている人たち。ここは本当に日本なのか。まるで海外のセレブが集まるパーティー会場のようだと錯覚する。気遅れする私に比べバーボンさんは人の良い笑顔を浮かべ次々と挨拶周りをする。そんな彼についていくのに必死で段々緊張の糸も解れてきた。しばらくする頃には笑顔で偽名を名乗って自己紹介も淡々と出来るようになってきた。
「…カルヴァドスさん、次はこのパーティーの主催者に挨拶をしに行きます。くれぐれも怪しまれないように自然体でいきましょう」
私だけに聞こえる声でつぶやいたバーボンさんに頷き返し人の波を縫って初老の男性に声を掛ける。
「本日はこのような素晴らしいパーティーにお招き頂きありがとうございます。私は相良正宗と申します。こちら妻の愛美です。」
「愛美と申します。本日はありがとうございます。」
「おお、これはこれは。ご丁寧にどうも。楽しんで頂けて何よりです。しかし今夜は’’ネズミ’’が紛れ込んでいるらしくてじゃの。警備を強めているのだが中々相手を掴めない。少々物騒になって申し訳ないの…。」
「そうだったのですね。どうりでボディーガードが多いと思いました。…お気遣いありがとうございます。」
困った表情を浮かべながら人差し指で頬を搔くバーボンさん。その姿はまるでポアロで女性客に絡まれていた時の安室さんと酷似していた。
「おや、愛美さん、と言ったかな?何をそんなに驚かれているんじゃ?」
「あっいいえ。不躾ながら会長さんが私の祖父に似ていたもので…少し驚いてしまいました。」
咄嗟に出た嘘でも少しの真実を混ぜこめば、事実に聞こえる。
「ほほっ。こんな別嬪さんが孫なら嬉しい限りじゃわ」
「まあ!別嬪なんで·····!褒めても何も出ないですよ!」
やばい。やばい、これ以上喋るとボロが出てしまいそうになる。今は相手に話しを合わせられているけど会話が発展したら·····。
「会長すみません。今日は妻の体調が優れなくて。何処か体を休められる場所はありませんか?」
様子のおかしな私に助け舟を出してくたバーボンさんを見ると会長に向けてスっと目を細める。対する会長も意味ありげにニヤリとしたりと思うと、表情とは違う、務めて明るい声で思ってもみない心配をしてみせる。会長が側近に目配せしたかと思えば細身の男性がこちらにやってきて、ご案内します。と恭しく礼をする。
「こちらが休憩室になります。」
一言お礼を述べ豪華な家具が所狭しと並んでいる部屋に入る。
ーーーガチャ
「·····え?」
「ふむ、閉じ込められましたね。そんなことだろうと思いましたけど。」
まただ。また困った表情で頬を掻くバーボンさん。
「待って下さい。状況が上手く読めないんですが」
「僕達がこのパーティに紛れ込んだネズミだとバレていたみたいですね。恐らくですが我々の組織内に内通者がいたのでしょう。心当たりがあります。」
「そ、それで私達はこのまま捕まってしまうんですね·····。」
「何を言っているのですか?そんなわけないでしょう、脱出しますよ。」
「鍵閉められてるんですよ?こじ開けたら物音でバレてしまいます。」
「何も出入口がそこのドアだけだとは限らないでしょう。」
何を言っているのだろうかこの男は。もしかして、いやまさかな、と彼の顔を見れば、ご名答です。と笑顔でサラリと言ってみせた。
「待って下さい!ここ何階だと思ってるんですか?!」
「16階ですけど。」
何言ってるんですか?とでも言う顔で返答を貰ったが彼には常識が通じないみたいで、ふわりと目眩がした。
では行きますよ、と大きな窓に向かうバーボンさんの腕を掴んで必死に説得する。
「これ脱出ルートは以外にないんですか?!私絶対途中で落ちます!絶対!」
「ないことは無いですけど、これが1番リスクが少ないんです。」
いや、16階から脱出するのがリスクが少ないってどういうこと?!
「·····えっ!あっ!·····ちょっと!何するんですか!」
掴んでいた腕を逆に掴み返されて肩に担がれる。手足をバタつかせ抵抗してみせるもさほど効果はなかった。
ああ、もう私の人生はここで終わりだ。こんなに短い人生ならもっとしたいことをすればよかった。
気づいた時には体全体に強い風があたる。バーボンさん念の為と近くにあったカーテンを取りそれで私と彼の体をグルグル巻にした。
「さ、行きますよ。」
ーーードタドタドタ。ガチャンッ
「おい、そこで止まれ!!」
廊下が慌ただしくなったかと思うと、閉まっていたドアが勢いよく開き私たち二人に拳銃を向け牽制する。
「全く、来るのが遅いですよ。」
バーボンさんの挑発に乗せられ銃口から実弾が飛び出しこちら側へと真っ直ぐ向かってくる。硝煙が上がったかと思うと背後の窓ガラスが悲鳴を上げていた。
「おかげで窓を破る手間が省けました。」
相手のコントロールが決して悪いわけではなかった。むしろバーボンさんが実弾を避けなかったら被弾していただろう。あまりに非現実的な出来事が続きすぎてもはや声すらも出ない。
「では、また会いましょう。……貴方たちが生きていたら、ですけど。」
どこまでも余裕を見せるバーボンさんは躊躇なく足を横桟にかけるとそのまま飛び降りた。………飛び降りた?!途端に全身を襲う浮遊感に胃がひっくり返りそうになる。ほぼ反射的にバーボンさんにしがみつくもこのような状況でトキメキもクソない。今まで味わったこともないような浮遊感にグッと目を閉じこれでもかというほど体に力が入る。きっと人間は自分の許容範囲を超えると叫び声すらでなくなるのだ。
死を覚悟したが、いつの間にか不快な浮遊感はなくなり、やってくるであろう体への衝撃はいつまで経ってもやってこなかった。
おそるおそる閉じていた目を開けると命綱ようなものを握り締めながら下へと下るバーボンさんが。
「……私生きてる?」
「ここが死後の世界に見えますか?」
命綱の先を辿ると錨が建物にしっかり食い込んでいる。会場はきっと大騒ぎになっている頃だろうか。追手が地上に来る前に撤収しなければまたピンチになる。もう手放しで落下はしていないものの、結構なスピードで下っているため若干の浮遊感が走る。中途半端な高さも意外と怖いもので、現実から目を背けるように開けていた目をもう一度閉じた。
「さ、休んでいる暇はありませんよ。こちらです。急ぎましょう。」
「あ、待ってください!」
やっと地に足がついた。まだ体がフワフワしていて不思議な感覚だ。2人を縛っていたカーテンだったモノをシュルっと解き一息つく時間もなく会場近くに駐車していた車に半ば飛び込むように乗り込む。まっすぐアジトに向かうのはリスクが高いと踏んだ私たちはしばらく車を走らせた。
「バーボンさん。いつもこんな危険な任務をしているんですか?」
「フッ、危険とはいつも隣り合わせです。でも今回は運が悪かった。…初任務でこんなことになるなんて貴女もツイてないですね。ベルモットから少し聞きましたが科学班でいらっしゃるとか。」
「そうなんです。ベルモットが急遽任務につけなくてって、それで私に白羽の矢が立ったんです。私には務まらないと言ったんですけど、有無を言わさない空気に押し負けちゃいました…。」
「それはお気の毒に。さしずめ貴女の任務は情報収集より僕の監視、と言ったところでしょうか。」
「知ってたんですか?すみません、疑っているみたいで嫌な思いされましたよね…。」
「謝ることはないですよ、きっと僕でも同じようにしたはずです。気にしてませんよ。」
「ありがとうございます…って!バーボンさんほっぺた怪我されてますよ!あっ血が…運転されたままでいいのでジっとしてくださいね。」
左頬に銃弾が掠めたのだろう。大きな傷ではなかったが一直線に切り傷ようなものが出来ていて血も滲んで若干滴っている。
肩にかけていたバッグからハンカチを取り出し血を拭い気休めではあるが絆創膏を貼った。消毒もしたかったが今そのようなものは持っていない。
治療している時には夢中で気づかなかったが絆創膏を貼るため近づいたので思った以上にバーボンさんの顔が近い。
「で、出来ました!絆創膏しか貼っていないので帰ったら消毒してくださいね。化膿してからでは遅いですから。」
突然襲ってきた恥ずかしさと緊張でついつい早口に捲し立てる。私の様子が可笑しかったのかフッと微笑むバーボンさんにときめいてしまう。今日一日どこか冷たい瞳をしていたのにこんな表情も出来るなんて。
「もう追ってくることはなさそうですね。ではこのままアジトまで送り届けますので。」
「送って頂きありがとうございます。バーボンさんは戻られないんですか?」
「いえ、お構いなく。この後も少し立て込んでいるので。」
特に引き止める理由もなく、軽く会釈して去っていく車を見送った。見えなくなった所で踵を返し自分の研究室へと向かった。
部屋の中に入ったと同時に自分ではない誰かの仮面や普段は着ないであろう派手なドレス、高いヒールを脱ぎ捨て、いつもの私に戻った。魔法から解けたシンデレラのように別人だ。
半ば倒れこむようにソファに沈み込み今日の出来事を思い返した。
やはりバーボンさんは安室さんなのか。たった一度の癖で確信なんて得られなったが思い返せば思い返すほどあれも似ていた、これも似ていた、とパズルを無理やりはめ込めようと脳がもって行く。
考えれるほど坩堝にはまっていくような気がして、考えることをやめた。深い溜息をつき体の力をフッと抜けば途端に強烈な眠気が襲ってくる。そういえば今日の任務に緊張してあまり寝れてなかった。それに加えて命に関わるようなことな出来事がさらにこの眠気に追い打ちをかけている気がした。
ああ、シャワー浴びようと頭の片隅で考えて意識を手放した。