本編
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ベルが研究室に来てからどれくらい経ったどうか。もうかなり顔を見ていない。あれから息抜きにしていた翻訳の仕事もひと段落ついた。これではどちらが本職なのか分からないが、今のこの状況には満足している。
そして久しぶりのオフを満喫していた昨日。ジンさんから呼び出され向かうと新薬の研究を進めるようにと命令を受けた。表面上はアポトキシンで亡くなったとされた志保ちゃんの引き継ぎで仕事が回ってきたのだ。友人である志保ちゃんが亡くなったというのに何故こんなに平然としていられるかって?表面上は亡くなったとされているが本当は灰原哀として生きていることを知っているから。生きていることを知られるのはリスクがあるため頻繁には出来ないが、時々連絡だってしている。
まったく人使いが荒いものだ、と心の中で悪態をつくと、「それと、」とさらに言葉をつづけた。
「お前には今回ちょっとした調査をしてもらいたい。」
「調査…分析、ですか?別に構いませんけど期待はしないで下さいね。」
「いや、デスクワークじゃなく。カルヴァドスには潜伏調査をしてもらいてえ。」
「…へ?潜伏、調査ですか?」
「ああ、本来はベルモットに行かせるつもりだったんだがな。あの方から直々に命を受けその任務に行くんで欠員しているんだ。」
「いや、あの無理です。私運動音痴だし絶対にやらかします。やらかす自信しかないです。」
「うるせえ。お前に拒否権はない。男女ペアでやって貰わないといけない任務なんだ。」
「…じゃあジンさんがベルモットに頼んで変装させてもらえばいいじゃないですか。」
ぼそっと呟けば人を殺せるような睨みを聞かせて無理やり黙らされた。
「そ、それに!男女ペアってことは組織内の誰かと行動しろってことですよね?それじゃあ当初の約束と違いますよ、そもそも研究員として働いているのに…」
「フッそれこそベルモットの変装を使えばいいだろ。あいつなら喜んでお前を変装させるだろうさ。」
しまった。墓穴を掘ってしまった。そっくりそのまま逃げに使った言い訳が自分に帰ってきてしまうなんて…。ここまでくると私に拒否権があるとは思えなくなってきた。ここで断ると潜伏調査で死ぬ前に今殺されてしまいそうだ。
「あー!もう!分かりました!やってやりますよ。でも期待はしないで下さいよ!」
「端からお前に期待なんざしてねーよ。今回の調査はバーボンの同行をしてもらう。敵対している組織のパーティーに潜入しこれからの動きを少しでも掴んできてもらいてえ。ベルモットから聞いているかもしれないが最近組織入りした新入りだ。少なくとも俺らより顔を知られていない。仕事は出来る男だがまだ信頼はおけない奴だ。お前は奴と情報を引出し、同時に変な動きをしないか見張っておけ。」
「なるほど、私はバーボンの監視をしろ、と。そういうわけですね」
「ああ、そういうこった。出来るな?」
「…善処します。ちなみにその任務はいつですか?」
「明日だ。」
「ちょっと、カル。動かないでちょうだい!今大事なところなの。」
「ああ、ごめん…。ってちゃんと聞いてよ!ジンさんったら人使い荒すぎない?」
目の前には真剣な表情を浮かべるベルモットの顔。ベルが幾つかは知らないが、というか教えてくれないが恐ろしく整った顔にはシワ一つすら刻まれていない。というか私の話し聞いてくれてないよね?
「はい。出来たわよ~!ほら、鏡を見なさい。」
渡された手鏡を受け取って、顔を映せばちょっと不機嫌そうにしている誰かと目が合った。私が瞬きをすれば鏡の中の人も瞬きをする。
「いや、これ…誰なの?」
「さあね、ん~少なくともカルではない誰かよ。いくら外見が変わろうと挙動不審な態度を取ればチグハグに見えてしまうわ。大切なのは違う誰かを堂々と演じることよ。疑われてもポーカーフェイスを忘れてはいけないわ。ま、これは変装を教えてくれた有名な奇術師の受け売りだけどね。」
「ふーん?ベルモットの変装って独学だと思ってたんだけど教わったものだったんだね。」
「ふふ、そうね。さ、この話はもうおしまいよ。そろそろバーボンと落ち合う時間でしょ?待たせては予定が狂ってしまうわ、早く準備して。」
「…はーい。」
普段は絶対着ないであろう派手なドレスに袖を通して、キラキラと輝るアクセサリーを身につける。姿見の前で全身をチェックするもカルヴァドスやみょうじなまえの面影は一切なかった。まるで別の人の人生に成り代わったみたいで少しだけワクワクする。
バーボンに研究所の存在を知られないためにあらかじめ待ち合わせ場所として別の場所を指定しておいた。連絡手段として支給された携帯電話で少しやりとりをしただけの相手と会わなければいけいと思うとかなり億劫だ。潜入先のパーティーは会員制でパートナーとして妻や愛人、恋人と同伴しなくてはいけない。むさくるしい連中だけが集まってするパーティーなど怪しさ満点で、カモフラージュとして連れていくのだそうだ。ベルにあなたなら出来るわ、と励ましのエールを貰ったが既に出来る気がしない。初対面の相手と仲睦まじく、それも恋人や愛人として演じなければいけないなんて私にはハードルが高すぎた。難しい論文や仮説を立てる方はまだマシである。
「そろそろつくわ。いい?あまり緊張しないこと。焦った時こそ冷静になるのよ。それにバーボンがどうにかしてくれるわ。」
「…頑張ってみるよ。送ってくれてありがと。」
高級車から降り、送ってくれたベルモットに手を振ると、バチンと片目を閉じサッと手を上げ行ってしまった。キザな行為すらサマになってしまうのだから、すごいと思う。
バーボンさんとは事前に携帯で軽い流れを打ち合わせしていた。確認のためもう一度画面を開き頭の中で設定を復唱する。待ち合わせ場所では、人違いを防ぐためにアナログな方法ではあるが何かお揃いのものを身に着けようということになっている。他の人と被らないものとなると難しい。キッチンに置いてあったリンゴが目に入ったので特に意味もなくリンゴのブローチとネクタイピンにしようと提案した。というわけで私の左胸にはシルバーに輝くリンゴモチーフのブローチが輝いている。その日に急いでブローチを探した結果、これが結構おしゃれなものを見つけてしまって気に入っている。
「こんばんは。……そのブローチ、カルヴァドスさんで間違いないですか?」
「あ、はい。そうで………す。…うそ。」
「僕が今回一緒に同行させてもらうバーボンです。よろしくお願いしますね。ところでそんなに驚かれてどうかされましたか?」
「あっいえ、少し顔見知りに似ていてものですから驚いてしまって…。改めましてカルヴァドスと申します。今日はご迷惑をかけると思いますが、こちらこそよろしくお願いします。」
ああ、どうしよう。きちんと笑顔を作れているだろうか。焦った時こそポーカーフェイスを忘れるなと言ったベルの顔が脳裏に浮かぶ。最初からこんな試練が待ち受けているなんて聞いていない。世界には顔が似ている人が3人存在すると言われているが、そんな次元ではない。もはや本人。声や背格好までそのままだ。私みたいに変装をしている可能性もあるが、組織内で変装を得意とするのは私が知る限りベルモットだけだ。まさか私が知っている安室透さんなのだろうか。可能性は捨てきれない。現に私だって組織に属しながら別の仕事をしているわけだし。
「ここで話しは出来ませんし、最終的な打ち合わせは車の中でしましょう。」
車内でこれからの打ち合わせをするも話しの半分程度しか脳に入ってこない。
「…という流れで行きます。でも今回はほとんど僕が動くのでカルヴァドスさんは隣にいて下さるだけで結構ですよ。ジンからもそのようにするよう言われています。」
「あ、はい。分かりました。」
目の前のバーボンの一挙一動を観察してしまう。しかしいつも笑顔の安室さんとは正反対の態度に違うかもしれないとも思えてくる。そうであってくれ、と強く願ってしまう。
そして久しぶりのオフを満喫していた昨日。ジンさんから呼び出され向かうと新薬の研究を進めるようにと命令を受けた。表面上はアポトキシンで亡くなったとされた志保ちゃんの引き継ぎで仕事が回ってきたのだ。友人である志保ちゃんが亡くなったというのに何故こんなに平然としていられるかって?表面上は亡くなったとされているが本当は灰原哀として生きていることを知っているから。生きていることを知られるのはリスクがあるため頻繁には出来ないが、時々連絡だってしている。
まったく人使いが荒いものだ、と心の中で悪態をつくと、「それと、」とさらに言葉をつづけた。
「お前には今回ちょっとした調査をしてもらいたい。」
「調査…分析、ですか?別に構いませんけど期待はしないで下さいね。」
「いや、デスクワークじゃなく。カルヴァドスには潜伏調査をしてもらいてえ。」
「…へ?潜伏、調査ですか?」
「ああ、本来はベルモットに行かせるつもりだったんだがな。あの方から直々に命を受けその任務に行くんで欠員しているんだ。」
「いや、あの無理です。私運動音痴だし絶対にやらかします。やらかす自信しかないです。」
「うるせえ。お前に拒否権はない。男女ペアでやって貰わないといけない任務なんだ。」
「…じゃあジンさんがベルモットに頼んで変装させてもらえばいいじゃないですか。」
ぼそっと呟けば人を殺せるような睨みを聞かせて無理やり黙らされた。
「そ、それに!男女ペアってことは組織内の誰かと行動しろってことですよね?それじゃあ当初の約束と違いますよ、そもそも研究員として働いているのに…」
「フッそれこそベルモットの変装を使えばいいだろ。あいつなら喜んでお前を変装させるだろうさ。」
しまった。墓穴を掘ってしまった。そっくりそのまま逃げに使った言い訳が自分に帰ってきてしまうなんて…。ここまでくると私に拒否権があるとは思えなくなってきた。ここで断ると潜伏調査で死ぬ前に今殺されてしまいそうだ。
「あー!もう!分かりました!やってやりますよ。でも期待はしないで下さいよ!」
「端からお前に期待なんざしてねーよ。今回の調査はバーボンの同行をしてもらう。敵対している組織のパーティーに潜入しこれからの動きを少しでも掴んできてもらいてえ。ベルモットから聞いているかもしれないが最近組織入りした新入りだ。少なくとも俺らより顔を知られていない。仕事は出来る男だがまだ信頼はおけない奴だ。お前は奴と情報を引出し、同時に変な動きをしないか見張っておけ。」
「なるほど、私はバーボンの監視をしろ、と。そういうわけですね」
「ああ、そういうこった。出来るな?」
「…善処します。ちなみにその任務はいつですか?」
「明日だ。」
「ちょっと、カル。動かないでちょうだい!今大事なところなの。」
「ああ、ごめん…。ってちゃんと聞いてよ!ジンさんったら人使い荒すぎない?」
目の前には真剣な表情を浮かべるベルモットの顔。ベルが幾つかは知らないが、というか教えてくれないが恐ろしく整った顔にはシワ一つすら刻まれていない。というか私の話し聞いてくれてないよね?
「はい。出来たわよ~!ほら、鏡を見なさい。」
渡された手鏡を受け取って、顔を映せばちょっと不機嫌そうにしている誰かと目が合った。私が瞬きをすれば鏡の中の人も瞬きをする。
「いや、これ…誰なの?」
「さあね、ん~少なくともカルではない誰かよ。いくら外見が変わろうと挙動不審な態度を取ればチグハグに見えてしまうわ。大切なのは違う誰かを堂々と演じることよ。疑われてもポーカーフェイスを忘れてはいけないわ。ま、これは変装を教えてくれた有名な奇術師の受け売りだけどね。」
「ふーん?ベルモットの変装って独学だと思ってたんだけど教わったものだったんだね。」
「ふふ、そうね。さ、この話はもうおしまいよ。そろそろバーボンと落ち合う時間でしょ?待たせては予定が狂ってしまうわ、早く準備して。」
「…はーい。」
普段は絶対着ないであろう派手なドレスに袖を通して、キラキラと輝るアクセサリーを身につける。姿見の前で全身をチェックするもカルヴァドスやみょうじなまえの面影は一切なかった。まるで別の人の人生に成り代わったみたいで少しだけワクワクする。
バーボンに研究所の存在を知られないためにあらかじめ待ち合わせ場所として別の場所を指定しておいた。連絡手段として支給された携帯電話で少しやりとりをしただけの相手と会わなければいけいと思うとかなり億劫だ。潜入先のパーティーは会員制でパートナーとして妻や愛人、恋人と同伴しなくてはいけない。むさくるしい連中だけが集まってするパーティーなど怪しさ満点で、カモフラージュとして連れていくのだそうだ。ベルにあなたなら出来るわ、と励ましのエールを貰ったが既に出来る気がしない。初対面の相手と仲睦まじく、それも恋人や愛人として演じなければいけないなんて私にはハードルが高すぎた。難しい論文や仮説を立てる方はまだマシである。
「そろそろつくわ。いい?あまり緊張しないこと。焦った時こそ冷静になるのよ。それにバーボンがどうにかしてくれるわ。」
「…頑張ってみるよ。送ってくれてありがと。」
高級車から降り、送ってくれたベルモットに手を振ると、バチンと片目を閉じサッと手を上げ行ってしまった。キザな行為すらサマになってしまうのだから、すごいと思う。
バーボンさんとは事前に携帯で軽い流れを打ち合わせしていた。確認のためもう一度画面を開き頭の中で設定を復唱する。待ち合わせ場所では、人違いを防ぐためにアナログな方法ではあるが何かお揃いのものを身に着けようということになっている。他の人と被らないものとなると難しい。キッチンに置いてあったリンゴが目に入ったので特に意味もなくリンゴのブローチとネクタイピンにしようと提案した。というわけで私の左胸にはシルバーに輝くリンゴモチーフのブローチが輝いている。その日に急いでブローチを探した結果、これが結構おしゃれなものを見つけてしまって気に入っている。
「こんばんは。……そのブローチ、カルヴァドスさんで間違いないですか?」
「あ、はい。そうで………す。…うそ。」
「僕が今回一緒に同行させてもらうバーボンです。よろしくお願いしますね。ところでそんなに驚かれてどうかされましたか?」
「あっいえ、少し顔見知りに似ていてものですから驚いてしまって…。改めましてカルヴァドスと申します。今日はご迷惑をかけると思いますが、こちらこそよろしくお願いします。」
ああ、どうしよう。きちんと笑顔を作れているだろうか。焦った時こそポーカーフェイスを忘れるなと言ったベルの顔が脳裏に浮かぶ。最初からこんな試練が待ち受けているなんて聞いていない。世界には顔が似ている人が3人存在すると言われているが、そんな次元ではない。もはや本人。声や背格好までそのままだ。私みたいに変装をしている可能性もあるが、組織内で変装を得意とするのは私が知る限りベルモットだけだ。まさか私が知っている安室透さんなのだろうか。可能性は捨てきれない。現に私だって組織に属しながら別の仕事をしているわけだし。
「ここで話しは出来ませんし、最終的な打ち合わせは車の中でしましょう。」
車内でこれからの打ち合わせをするも話しの半分程度しか脳に入ってこない。
「…という流れで行きます。でも今回はほとんど僕が動くのでカルヴァドスさんは隣にいて下さるだけで結構ですよ。ジンからもそのようにするよう言われています。」
「あ、はい。分かりました。」
目の前のバーボンの一挙一動を観察してしまう。しかしいつも笑顔の安室さんとは正反対の態度に違うかもしれないとも思えてくる。そうであってくれ、と強く願ってしまう。