本編
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右横にはバーボンさん。ポアロでの安室さんとはギャップがあり未だに慣れない。恒例になりつつある変装をベルに施してもらい普段は着ないお洒落なドレスを身に纏う。全く扱ったことのない拳銃を護身用にガーターベルトにしまい込んで準備万端。以前行った会場より規模は小さいものの緊張するのには充分だった。開催される会場が地上から離れたビルの最上階で行われていないことに若干の安堵を感じつつバーボンさんの背中に続く。
前回潜入した主催者は敵対している組織が主催したものであったが、今回の任務はどちらかというと協力関係にある組織との…会食に近いらしい。もうあんなスリルを味わうのは御免だ。近くにいたウェイターにワイングラスを渡され黙って受け取った。いざという時酔っていました、では話にならないので一度グラスの縁に口紅をつけ飲んでいることを演出する。
ただ何が嫌だってバーボンさんの腕に私の腕を絡めていること。慣れない私にとってはとても恥ずかしいのである。バーボンさんは涼しい顔をしているがこちらは平常心顔を保つのに精いっぱい。
「……そんなに料理が気になりますか?」
「気にならない、と言ったらウソになりますけど…ちょーっとだけ美味しそうだなって。」
「顔に食べたいと書いてありました。挨拶周りも大方終わったので食べてきてもいいですよ。」
食べたい顔ってどんな顔なの。考えていたことが相手にバレてるって私そんなに分かりやすかったかな。実際ドレスを着る前に食べてお腹が出るのが嫌だったから軽いものしか摂ってないしお腹は空いている。お腹の虫が鳴るのもそれはそれで恥ずかしいし、ここは素直にお言葉に甘えてご飯にありつくことにしよう。
「じ、じゃあ、お言葉に甘えて食べてきます。すぐ戻ってくるのでどこかに行かないでくださいよ。こんなとこで1人になるなんて食べた物も出そうですし。」
「それは困りますね。安心してください、どこにも行きませんよ。いってらっしゃい。」
フフと笑みを浮かべるバーボンさんの顔はまるで子供に言い聞かすようだった。私子供じゃないんだけどなあ。
バーボンさんと別れテーブルに目を向けると本当に美味しそうな料理たちが、早く僕たちを食べてと言わんばかりにキラキラ輝いている。お肉が乗っているお皿を取りそのまま口に運ぶと柔らかいお肉が解れるように溶けていった。微かなハーブと塩が効いたローストビーフに感激していると、ドンっと誰かが背中にぶつかってきた。何事かと振り返るとぶつかってきたであろう男性が少し驚いた顔をしている。小さく謝罪を述べたと思うとそのまま人を合間を縫ってどこかに行ってしまった。どこかで見たことのある顔を脳内で検索してみたが生憎思い出せることはなかった。
そんなことよりも目の前の美味しい料理に夢中になっていた私はバーボンさんがどこかに行ってしまったことなど気づくはずもなかった。
***
お腹が空きすぎている時って案外すぐにお腹がすぐに一杯になるもので、今もまさにその状況。そんなに食べていないのに結構お腹にきている。
食べることに夢中で彼が今どこにいるかもわからない。辺りを見渡しても見知ったあの姿はなかった。さっきまで美味しい食べ物で幸せだったのに一気に不安が襲ってくる。お手洗いや休憩所にいるかもしれないと会場を出てロビーや廊下を進むもどこにもいない。
「(しまった。はぐれちゃった…。…ん?)」
曲がり角に見覚えのある金髪が通った気がした。急いで後を追いかけるとビンゴだった。しかし1人ではないようで男性のすぐ前を歩くバーボンさん。その光景にひどく違和感を感じた。目を凝らしてみると彼の後ろにいるのはさっき私にぶつかってきた男性。男性は手に拳銃を持ちバーボンさんのすぐ背中に突き付けている。これは誰が見ても危険な状況である。バーボンさんの命が危ないかもしれないと思った瞬間からだが勝手に動いていた。
「ちょっ!ちょっと!!止まりなさい!」
私の声に気付きすぐ静止し、バーボンさんを突き付けていた銃口を私に向ける。バーボンさんの方を見ると完全に手を掴まれていて振りほどけないようだった。彼の危険が逸れたのはいいけど、ここまで完全に考え無しで動いたものだから、これからどうすればいいかも分からない。これは大分マズイやつだ。背中に冷や汗が伝った。一か八かで太ももに隠していた拳銃を取り出すため手を滑らすと銃声が響く。と同時に激しい痛みと焼けるような熱さが左を襲った。
「…っ!?ぃっ……!」
目の前の男が発砲した弾が私の左手を掠めた。ボタボタと容赦なく血液が指先を伝って重力に従うのが感覚で分かる。この発砲は脅しではない。男がトリガーにかけた指をゆっくりと引くのが見える。銃口はきっと私の心臓…。バーボンさんのような反射神経を待ち合わせていない私はきっと数秒後にこの世を去るだろう。せめてもの抵抗としてきつく瞼を閉める。
―――――パンッ!
乾いた音が聞こえ体に力を入れるも一向に衝撃や痛みはやってこない。おそるおそる閉じていた瞼を持ち上げると拘束されていたであろうバーボンさんが男と私の間に立っている。
「………へ?…ど……して…?」
「…ぅ…僕はいつでも逃げ出せたものを、…全くあなたっていう人は無茶をされるんだから…。」
2度にわたる銃声を聞きつけた人たちがこちらに向かって走ってくる。さすがに多勢に無勢だと感じたのだろう男はこちらを一瞥した後、人のいない方向を逃げていった。お腹から出血しているバーボンさんを残すわけにもいかず彼に近づく。集まってきた人だかりをかき分けながら会場のスタッフが焦った様子でやってきた。
「銃声が聞こえましたが何があったんですか!?」
「…ただのおもちゃです。おそらくですが私恨をもたれていたようで脅されたんです。」
なんで嘘をつくのか、と口を開こうと思ったがやめた。あえて伏せたのも何か理由があってのことだろうし救急車を呼ばれて大事になる方がマズいと判断したからだ。集まった人だかりは徐々にほぐれていき数人が立ち話をしている程度にまで落ち着いた。
「バーボンさん、そんな体でどこに行くんですか?!救急車を呼んだ方が懸命ですよ!」
注視しなければ分からないが、黒いスーツの一部が段々色濃くなってきているのが分かる。表情もいつもの涼しい顔を保っているが、若干冷や汗もかいている。
「いつまでも…っ…ここにいれませんからね。とりあえず車にい…きます。」
「……肩を貸します!」
ドレスが汚れますよ、と声が頭上から降ってきたが私は服が汚れるからという理由で大怪我をしている人を放っておけるほど冷酷な人間ではない。
「別に気にしませんよ。……ってバーボンさんしっかりしてください!!」
会場を出て車に戻る途中で段々と意識が朦朧としだしているのか重くなっていく体に最悪の状況を想像した。
’’死んでしまうかも’’
病院はダメ、組織までの道のりは結構な距離があるからこの状況では懸命な選択ではない、そうなると……私の家。距離も近いし研究用だが薬剤も揃っている。会場のロータリーに常駐しているタクシーを適当に捕まえ家の住所を伝える。大体ここから10分くらいで到着しそうだ。
「お連れ様は大分お飲みになられたんですか?」
「え、ええ。…お酒に弱いのについ飲みすぎちゃったみたいで…。」
誰もこのぐったりしている男が銃で腹を撃たれているとは思うまい。でも運転手さんとの何気ない会話で焦りが少しだけだけど和らいだ。
***
「ありがとうございました!」
お金を払って急いでマンションの中に駆け込んだ。肩を貸しているもののまだ自力で歩いてくれている。しかし汗も酷いし体も熱を持っている。いつもより長く感じたエレベーターを出て、半ば雪崩れ込むように部屋に入る。バーボンさんをベッドに寝かせ休む暇もなく、家中のガーゼや包帯をかき集め研究部屋から使えそうな薬品を片っ端しから取り出す。薬品を扱いは実験上するものの医療行為はからっきしで必要最低限の処置しか出来ないだろう。しないよりかマシだと自分に言い聞かせ、グッショリと血液で濡れている服を剥がす。右の横腹を打たれたようで血は止まることがない。想像していたものより酷い傷で驚いた。あんなに平然としていたから。
「バーボンさんすみません。体の下にタオルを引かせてくださいね。あと麻酔がなくて…痛いだろうけど我慢してください!」
血で汚れている個所を清潔なタオルでふき取り、流れ出ている血を止めるため患部を抑えつけながら血液凝固剤を打ちこんだ。出血が落ち着いてきたことを確認してピンセットを器用に使って腹の中にある銃弾をなんとか摘出した。幸いにも弾は浅いところで止まっていて高度な手術を要することはなかった。消毒した針と糸で簡単に縫合していく。
「…大丈夫よ、私。何度か実験でマウスの傷跡を縫合したじゃない。気を確かに持つのよ、しっかり。」
自分を鼓舞するため何度も呟く。出来るだけ細かく均等に縫い合わせるよう心掛ける。
「よし、なんとか出来た…。よかった。」
医者のように、とはいかないが案外上手く治療することができ、一安心。バーボンさんとビルから飛び降りた時より緊張したかもしれい。まあ緊張の種類が違うが。
用意していた止血剤や解熱薬、痛み止めなどを飲ませ、申し訳ないが上半身は裸になってもらう。目のやり場に困るが、家に男性用の服なんてあるわけないし、こんな夜遅くに近所で開店している服屋などない。包帯でグルグル巻きにしているし大丈夫だろうと布団を優しくかける。
家に来た時よりも表情は随分和らいでいて、薬が効いているのかぐっすり眠っている。いくら縫ったとはいえ完璧ではないし、明日組織で詳しく見てもらう必要があるだろうと、ベルに医療班を動かしてもらえるよう連絡をいれた。それからすぐに’’手配は済ませておいたから安心して’’と返信がきてホッとする。汗をびっしょりかいた体が気持ち悪くてシャワーだけ浴びた。
「私今思えば余計なことしたのかな。」
脳裏に浮かぶ会場でのシーン。きっとバーボンさんは私の助けなんていらなかった。実際拘束されていたが振り解いていたし、ピンチって感じでもなかった。僕はいつでも逃げられたとも言っていたし…。良かれと思ってした行動が結局バーボンさんに大怪我を負わせてしまった。
「意識が戻ったら余計なことをしてごめんなさい、って謝ろう。」
ずっと神経を使っていて安心したせいかドッと疲れが体を襲い、簡易ベッドにもなるソファに横たわると数秒もしないうちに瞼が重くなっていく。
「はやく、元気になって…下さい。」
身体は鉛のように重く段々とソファベッドに沈んでいく。まるでユラユラとゆりかごに揺られるような感覚に意識を手放した。
前回潜入した主催者は敵対している組織が主催したものであったが、今回の任務はどちらかというと協力関係にある組織との…会食に近いらしい。もうあんなスリルを味わうのは御免だ。近くにいたウェイターにワイングラスを渡され黙って受け取った。いざという時酔っていました、では話にならないので一度グラスの縁に口紅をつけ飲んでいることを演出する。
ただ何が嫌だってバーボンさんの腕に私の腕を絡めていること。慣れない私にとってはとても恥ずかしいのである。バーボンさんは涼しい顔をしているがこちらは平常心顔を保つのに精いっぱい。
「……そんなに料理が気になりますか?」
「気にならない、と言ったらウソになりますけど…ちょーっとだけ美味しそうだなって。」
「顔に食べたいと書いてありました。挨拶周りも大方終わったので食べてきてもいいですよ。」
食べたい顔ってどんな顔なの。考えていたことが相手にバレてるって私そんなに分かりやすかったかな。実際ドレスを着る前に食べてお腹が出るのが嫌だったから軽いものしか摂ってないしお腹は空いている。お腹の虫が鳴るのもそれはそれで恥ずかしいし、ここは素直にお言葉に甘えてご飯にありつくことにしよう。
「じ、じゃあ、お言葉に甘えて食べてきます。すぐ戻ってくるのでどこかに行かないでくださいよ。こんなとこで1人になるなんて食べた物も出そうですし。」
「それは困りますね。安心してください、どこにも行きませんよ。いってらっしゃい。」
フフと笑みを浮かべるバーボンさんの顔はまるで子供に言い聞かすようだった。私子供じゃないんだけどなあ。
バーボンさんと別れテーブルに目を向けると本当に美味しそうな料理たちが、早く僕たちを食べてと言わんばかりにキラキラ輝いている。お肉が乗っているお皿を取りそのまま口に運ぶと柔らかいお肉が解れるように溶けていった。微かなハーブと塩が効いたローストビーフに感激していると、ドンっと誰かが背中にぶつかってきた。何事かと振り返るとぶつかってきたであろう男性が少し驚いた顔をしている。小さく謝罪を述べたと思うとそのまま人を合間を縫ってどこかに行ってしまった。どこかで見たことのある顔を脳内で検索してみたが生憎思い出せることはなかった。
そんなことよりも目の前の美味しい料理に夢中になっていた私はバーボンさんがどこかに行ってしまったことなど気づくはずもなかった。
***
お腹が空きすぎている時って案外すぐにお腹がすぐに一杯になるもので、今もまさにその状況。そんなに食べていないのに結構お腹にきている。
食べることに夢中で彼が今どこにいるかもわからない。辺りを見渡しても見知ったあの姿はなかった。さっきまで美味しい食べ物で幸せだったのに一気に不安が襲ってくる。お手洗いや休憩所にいるかもしれないと会場を出てロビーや廊下を進むもどこにもいない。
「(しまった。はぐれちゃった…。…ん?)」
曲がり角に見覚えのある金髪が通った気がした。急いで後を追いかけるとビンゴだった。しかし1人ではないようで男性のすぐ前を歩くバーボンさん。その光景にひどく違和感を感じた。目を凝らしてみると彼の後ろにいるのはさっき私にぶつかってきた男性。男性は手に拳銃を持ちバーボンさんのすぐ背中に突き付けている。これは誰が見ても危険な状況である。バーボンさんの命が危ないかもしれないと思った瞬間からだが勝手に動いていた。
「ちょっ!ちょっと!!止まりなさい!」
私の声に気付きすぐ静止し、バーボンさんを突き付けていた銃口を私に向ける。バーボンさんの方を見ると完全に手を掴まれていて振りほどけないようだった。彼の危険が逸れたのはいいけど、ここまで完全に考え無しで動いたものだから、これからどうすればいいかも分からない。これは大分マズイやつだ。背中に冷や汗が伝った。一か八かで太ももに隠していた拳銃を取り出すため手を滑らすと銃声が響く。と同時に激しい痛みと焼けるような熱さが左を襲った。
「…っ!?ぃっ……!」
目の前の男が発砲した弾が私の左手を掠めた。ボタボタと容赦なく血液が指先を伝って重力に従うのが感覚で分かる。この発砲は脅しではない。男がトリガーにかけた指をゆっくりと引くのが見える。銃口はきっと私の心臓…。バーボンさんのような反射神経を待ち合わせていない私はきっと数秒後にこの世を去るだろう。せめてもの抵抗としてきつく瞼を閉める。
―――――パンッ!
乾いた音が聞こえ体に力を入れるも一向に衝撃や痛みはやってこない。おそるおそる閉じていた瞼を持ち上げると拘束されていたであろうバーボンさんが男と私の間に立っている。
「………へ?…ど……して…?」
「…ぅ…僕はいつでも逃げ出せたものを、…全くあなたっていう人は無茶をされるんだから…。」
2度にわたる銃声を聞きつけた人たちがこちらに向かって走ってくる。さすがに多勢に無勢だと感じたのだろう男はこちらを一瞥した後、人のいない方向を逃げていった。お腹から出血しているバーボンさんを残すわけにもいかず彼に近づく。集まってきた人だかりをかき分けながら会場のスタッフが焦った様子でやってきた。
「銃声が聞こえましたが何があったんですか!?」
「…ただのおもちゃです。おそらくですが私恨をもたれていたようで脅されたんです。」
なんで嘘をつくのか、と口を開こうと思ったがやめた。あえて伏せたのも何か理由があってのことだろうし救急車を呼ばれて大事になる方がマズいと判断したからだ。集まった人だかりは徐々にほぐれていき数人が立ち話をしている程度にまで落ち着いた。
「バーボンさん、そんな体でどこに行くんですか?!救急車を呼んだ方が懸命ですよ!」
注視しなければ分からないが、黒いスーツの一部が段々色濃くなってきているのが分かる。表情もいつもの涼しい顔を保っているが、若干冷や汗もかいている。
「いつまでも…っ…ここにいれませんからね。とりあえず車にい…きます。」
「……肩を貸します!」
ドレスが汚れますよ、と声が頭上から降ってきたが私は服が汚れるからという理由で大怪我をしている人を放っておけるほど冷酷な人間ではない。
「別に気にしませんよ。……ってバーボンさんしっかりしてください!!」
会場を出て車に戻る途中で段々と意識が朦朧としだしているのか重くなっていく体に最悪の状況を想像した。
’’死んでしまうかも’’
病院はダメ、組織までの道のりは結構な距離があるからこの状況では懸命な選択ではない、そうなると……私の家。距離も近いし研究用だが薬剤も揃っている。会場のロータリーに常駐しているタクシーを適当に捕まえ家の住所を伝える。大体ここから10分くらいで到着しそうだ。
「お連れ様は大分お飲みになられたんですか?」
「え、ええ。…お酒に弱いのについ飲みすぎちゃったみたいで…。」
誰もこのぐったりしている男が銃で腹を撃たれているとは思うまい。でも運転手さんとの何気ない会話で焦りが少しだけだけど和らいだ。
***
「ありがとうございました!」
お金を払って急いでマンションの中に駆け込んだ。肩を貸しているもののまだ自力で歩いてくれている。しかし汗も酷いし体も熱を持っている。いつもより長く感じたエレベーターを出て、半ば雪崩れ込むように部屋に入る。バーボンさんをベッドに寝かせ休む暇もなく、家中のガーゼや包帯をかき集め研究部屋から使えそうな薬品を片っ端しから取り出す。薬品を扱いは実験上するものの医療行為はからっきしで必要最低限の処置しか出来ないだろう。しないよりかマシだと自分に言い聞かせ、グッショリと血液で濡れている服を剥がす。右の横腹を打たれたようで血は止まることがない。想像していたものより酷い傷で驚いた。あんなに平然としていたから。
「バーボンさんすみません。体の下にタオルを引かせてくださいね。あと麻酔がなくて…痛いだろうけど我慢してください!」
血で汚れている個所を清潔なタオルでふき取り、流れ出ている血を止めるため患部を抑えつけながら血液凝固剤を打ちこんだ。出血が落ち着いてきたことを確認してピンセットを器用に使って腹の中にある銃弾をなんとか摘出した。幸いにも弾は浅いところで止まっていて高度な手術を要することはなかった。消毒した針と糸で簡単に縫合していく。
「…大丈夫よ、私。何度か実験でマウスの傷跡を縫合したじゃない。気を確かに持つのよ、しっかり。」
自分を鼓舞するため何度も呟く。出来るだけ細かく均等に縫い合わせるよう心掛ける。
「よし、なんとか出来た…。よかった。」
医者のように、とはいかないが案外上手く治療することができ、一安心。バーボンさんとビルから飛び降りた時より緊張したかもしれい。まあ緊張の種類が違うが。
用意していた止血剤や解熱薬、痛み止めなどを飲ませ、申し訳ないが上半身は裸になってもらう。目のやり場に困るが、家に男性用の服なんてあるわけないし、こんな夜遅くに近所で開店している服屋などない。包帯でグルグル巻きにしているし大丈夫だろうと布団を優しくかける。
家に来た時よりも表情は随分和らいでいて、薬が効いているのかぐっすり眠っている。いくら縫ったとはいえ完璧ではないし、明日組織で詳しく見てもらう必要があるだろうと、ベルに医療班を動かしてもらえるよう連絡をいれた。それからすぐに’’手配は済ませておいたから安心して’’と返信がきてホッとする。汗をびっしょりかいた体が気持ち悪くてシャワーだけ浴びた。
「私今思えば余計なことしたのかな。」
脳裏に浮かぶ会場でのシーン。きっとバーボンさんは私の助けなんていらなかった。実際拘束されていたが振り解いていたし、ピンチって感じでもなかった。僕はいつでも逃げられたとも言っていたし…。良かれと思ってした行動が結局バーボンさんに大怪我を負わせてしまった。
「意識が戻ったら余計なことをしてごめんなさい、って謝ろう。」
ずっと神経を使っていて安心したせいかドッと疲れが体を襲い、簡易ベッドにもなるソファに横たわると数秒もしないうちに瞼が重くなっていく。
「はやく、元気になって…下さい。」
身体は鉛のように重く段々とソファベッドに沈んでいく。まるでユラユラとゆりかごに揺られるような感覚に意識を手放した。