隣人は私と愛犬をまるごと独占したい
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新しい生活の匂いは、真新しいフローリングの木の香りと、積み上げられた段ボールの乾いた紙の匂いが混じり合ったものだった。
南向きの大きな窓からは、午後の柔らかな陽光が惜しみなく注ぎ込み、宙に舞う細かな塵をキラキラと白銀に輝かせている。
「ふう……。あと少しで、リビングの荷物は片付きそうだね」
ナマエは額に浮かんだ汗を手の甲で拭い、腰に手を当てて大きく息を吐いた。
動きやすいデニムに白のTシャツというラフな格好だが、その曲線的な身体のラインは隠しきれず、動くたびに瑞々しい女性らしさがこぼれ落ちる。
「……ワンッ!」
黄金色の毛並みを陽光に輝かせ、レオが嬉しそうに尾を振りながら室内を駆け回る。彼専用に設えられた一角には、お気に入りのライオンのぬいぐるみと、ふかふかの新しいクッション。ここはもう、彼にとっても自分の家なのだ。
「レオ、そんなに走ったら埃が舞っちゃうよ。……エルヴィン、そっちの棚は大丈夫?」
ナマエが振り返ると、そこには軍手をはめ、テキパキと本棚の整理をこなすエルヴィンの姿があった。
エリート弁護士としての鋭い眼差しはそのままに、シャツの袖を捲り上げて作業に没頭する彼の腕には、浮き出た血管と強靭な筋肉が男性的で荒々しい色気を宿している。
「ああ。重要な資料の仕分けは終わった。あとは君の食器類をキッチンに収めるだけだ」
エルヴィンは手を止め、ナマエを見つめた。その青い瞳には、達成感とは別の、もっと深く、暗く沈殿したような情熱が灯っている。
彼にとって、この引っ越しは単なる住居の移動ではなかった。
ミョウジナマエという、あまりにも無防備で光に満ちた存在を、自分の管理下——二十四時間体制の保護下に置くための、最終的な防衛線の確立を意味していた。
「……ナマエ、少し休もう。根を詰めすぎると、明日の仕事に響く」
「そうだね。エルヴィンもずっと動いてるし、コーヒーでも淹れようか。……あ、まだカップがどこか分からなくなっちゃった」
ナマエが困ったように笑いながら、段ボールの山に手を伸ばそうとした、その時だった。
背後から、逃げ場を塞ぐように大きな影が彼女を包み込んだ。
「……っ、エルヴィン?」
エルヴィンの強靭な腕が、ナマエの細い腰を背後から力強く引き寄せた。
分厚い胸板が彼女の背中に密着し、布越しでも伝わってくる彼の体温に、ナマエの心臓が跳ね上がる。彼の顎が彼女の肩に乗り、耳元で低い、熱を帯びた声が響いた。
「……ようやく、俺の視界から君が消えない生活が手に入った」
その声は、安堵というよりは、獲物を完全に巣穴に追い込んだ捕食者の独占欲に満ちていた。
エルヴィンは、ナマエの項に鼻先を埋め、深々と彼女の香りを吸い込む。石鹸の清潔な香りと、作業で少しだけ上気した彼女特有の甘い匂い。それが彼の理性を容赦なく削り取っていく。
「エルヴィン……急にどうしたの? まだ、片付けが終わってないのに……」
「片付けなど、いつでもいい。……今、この瞬間の君が、俺の腕の中にいるという実感が欲しいんだ」
彼はナマエの身体をくるりと自分の方へ向けさせ、壁との間に閉じ込めた。
逃げ場のない至近距離。
エルヴィンの瞳が、濃厚な光を宿し、彼女の唇を、そしてその奥にある魂を射抜く。
「ナマエ。君は、自分がどれほど危うい存在か分かっていない。……俺がいない場所で、誰かにその笑顔を向けていると思うだけで、俺の冷静さは容易く崩壊する」
「……エルヴィン。私はもう、あなたの隣にしかいないよ」
ナマエは、彼の首に腕を回し、潤んだ瞳で真っ直ぐに見上げた。
彼の中にある、歪で、けれど誰よりも切実な愛。
それを重いと感じるどころか、自分のすべてを預けられる喜びとして受け入れるのが、彼女という女性だった。
「なら、証明してくれ。……君のすべてが、俺の所有であることを」
エルヴィンは、彼女の言葉を飲み込むように、深く、激しく唇を重ねた。
触れるだけのキスではない。舌を絡め、彼女の甘さを隅々まで収穫するような、略奪的な口づけ。
ナマエの身体が熱くなり、膝から力が抜けていくのを、彼はさらに強く抱き寄せることで支えた。
「ん……、あ……っ……」
微かな喘ぎ声が、静かな部屋に溶けていく。
エルヴィンの大きな掌が、ナマエのTシャツの裾から忍び込み、滑らかな背中の肌を這い上がった。その触球が触れるたびに、ナマエの背筋を甘い痺れが駆け抜ける。
「……ナマエ。今夜は、君を眠らせない。……この家のすべての角まで、俺が君を愛していることを刻み込みたい」
彼の言葉は、もはや契約でも論理でもなかった。
剥き出しの欲望。そして、二度と彼女を離さないという執念。
エルヴィンは彼女を軽々と抱き上げると、まだカーテンも付いていない寝室へと運んでいった。
窓の外では、夕暮れが都会の空を濃い紫へと染め変えていく。
レオが少しだけ寂しそうに鼻を鳴らし、クッションの上で丸くなったが、今の二人にはその声も届かない。
新しい城の、最初の夜。
策士が勝ち取った最高の報酬は、腕の中で熱く溶けていく、たった一人の愛しい女性だった。
「……愛している。誰にも、指一本触れさせない」
その誓いは、夜の静寂の中に深く、重く、沈み込んでいった。
新しいカーテンの隙間から、鋭いほどに純粋な朝の光が差し込み、寝室の空気を白く洗い流していた。
ミョウジナマエは、まどろみの中で心地よい重量感を感じていた。右側には、熱を帯びた強靭な壁のようなエルヴィンの体温。そして、体の真ん中には……。
「……ん、レオ。重いよ……」
ナマエが薄目を開けると、そこには黄金色の毛並みを誇らしげに輝かせたレオが、ベッドのど真ん中で「へそ天」の無防備な姿で爆睡していた。二十キロを超える巨体が、ダブルベッドの領土の七割を占拠している。おかげで、家の主であるはずの二人は、ベッドの両端に申し訳程度に身を寄せ合っていた。
「……おはよう、ナマエ」
耳元で、低く掠れた声が響いた。
エルヴィンだ。起きたばかりの彼の声は、いつも以上に深く、脳髄に直接振動が伝わるような色気を孕んでいる。
「エルヴィン、おはよう。……見て、レオったら。自分のベッドがあるのに、どうしてもここに来ちゃうんだね」
ナマエは苦笑しながら、レオの柔らかい腹を撫でた。レオは夢を見ているのか、ピクピクと足を動かし、満足げな寝息を立てている。
「ふむ……。昨夜、俺が厳重に施錠したはずなのだが。彼はいつの間にか、この鉄壁の防御網を突破して侵入したらしい。非常に優秀な工作員だ」
エルヴィンは上半身を肘で支え、乱れた金髪の間から青い瞳を覗かせた。
普段の隙のない弁護士の姿からは想像もつかない、無防備な雄の気配。はだけたナイトウェアの隙間から覗く、彫刻のように美しい鎖骨と、鍛え上げられた胸筋。その質感に、ナマエの顔がふっと熱くなる。
「ねえ、狭いね。エルヴィン、落ちそうじゃない?」
「ああ。物理的に言えば、俺の背面の余白はあと数センチしかない。このままでは重力に従って床へ転落する可能性が極めて高いな」
エルヴィンは淡々と、まるで法廷で事実関係を整理するように言った。だが、その瞳には冷徹さではなく、悪戯っぽい熱が宿っている。
「どうする? レオを起こして、自分のベッドに戻ってもらう?」
「いや。それでは彼の睡眠権を侵害することになる。……それに、もっと合理的で、かつ俺にとっても有益な解決策がある」
「えっ、解決策?」
ナマエが不思議そうに小首を傾げた瞬間、エルヴィンの大きな掌が、彼女の腰をぐいと引き寄せた。
「わっ……!」
驚く間もなく、ナマエの体はエルヴィンの逞しい体の上へと引き上げられた。
彼女の細い体が、彼の厚い胸板の上にすっぽりと重なる。視線の高さが逆転し、ナマエは彼の広い肩の中に閉じ込められる形になった。
「……エルヴィン?」
「こうすれば、ベッドのスペース問題は完全に解消される。君が俺の肉体という『敷地』に移動したことで、レオくんの専有面積を削ることなく、俺たちは密着したまま眠りを継続できる。……完璧な解決策だろう?」
「それ、ただの屁理屈だよ……」
ナマエは呆れながらも、彼の胸から伝わるトク、トク、という力強い鼓動に、心地よい安心感を覚えていた。
彼の腕が、彼女の背中を愛おしむようにゆっくりと巡る。大きな掌が肩甲骨を撫で、やがて腰の曲線に定着した。
「屁理屈ではない。これは、愛する者同士における空間の有効活用だ。……ナマエ、君は驚くほど軽くて柔らかいな。このまま一生、俺の重しになっていてほしいくらいだ」
エルヴィンは彼女の髪に顔を埋め、深く息を吸い込んだ。
朝の光に透ける彼女の肌。まだ夢の余韻を残した、潤んだ瞳。
彼が長年求めていた平穏という名の聖域が、今、この腕の中にあった。
「……もう、エルヴィンったら。朝からそんなこと言って。……でも、あったかいね」
ナマエは彼の首筋に顔を寄せ、甘えるようにすり寄った。
エルヴィンの腕に力がこもる。
「……ナマエ。朝食の前に、少しだけ『監査』をさせてもらってもいいかな」
「監査……?」
「君が昨夜、本当に俺の愛だけで満たされたのか。……それとも、まだ不足があるのか。……俺の指先で、確かめさせてほしい」
エルヴィンの唇が、ナマエの耳朶を甘く噛んだ。
「……っ、あ……」
熱い吐息が首筋を這い、ナマエの思考が再び白く溶けていく。
下の方では、レオが「フガッ」と大きな寝言を漏らし、バタバタと尻尾でベッドを叩いた。
「ふふ、レオが怒ってるよ。二人の世界に入らないでって」
「気にするな。彼は寝ている。……今は、俺と君だけの時間だ」
エルヴィンは彼女を抱き上げたまま、さらに深く、深い口づけを求めた。
新しい城での、騒がしくて甘い朝のルーティン。
最強の弁護士が、一匹の犬と一人の天然な女性に完敗を認め、その幸福にどっぷりと浸かる時間は、まだ始まったばかりだった。
南向きの大きな窓からは、午後の柔らかな陽光が惜しみなく注ぎ込み、宙に舞う細かな塵をキラキラと白銀に輝かせている。
「ふう……。あと少しで、リビングの荷物は片付きそうだね」
ナマエは額に浮かんだ汗を手の甲で拭い、腰に手を当てて大きく息を吐いた。
動きやすいデニムに白のTシャツというラフな格好だが、その曲線的な身体のラインは隠しきれず、動くたびに瑞々しい女性らしさがこぼれ落ちる。
「……ワンッ!」
黄金色の毛並みを陽光に輝かせ、レオが嬉しそうに尾を振りながら室内を駆け回る。彼専用に設えられた一角には、お気に入りのライオンのぬいぐるみと、ふかふかの新しいクッション。ここはもう、彼にとっても自分の家なのだ。
「レオ、そんなに走ったら埃が舞っちゃうよ。……エルヴィン、そっちの棚は大丈夫?」
ナマエが振り返ると、そこには軍手をはめ、テキパキと本棚の整理をこなすエルヴィンの姿があった。
エリート弁護士としての鋭い眼差しはそのままに、シャツの袖を捲り上げて作業に没頭する彼の腕には、浮き出た血管と強靭な筋肉が男性的で荒々しい色気を宿している。
「ああ。重要な資料の仕分けは終わった。あとは君の食器類をキッチンに収めるだけだ」
エルヴィンは手を止め、ナマエを見つめた。その青い瞳には、達成感とは別の、もっと深く、暗く沈殿したような情熱が灯っている。
彼にとって、この引っ越しは単なる住居の移動ではなかった。
ミョウジナマエという、あまりにも無防備で光に満ちた存在を、自分の管理下——二十四時間体制の保護下に置くための、最終的な防衛線の確立を意味していた。
「……ナマエ、少し休もう。根を詰めすぎると、明日の仕事に響く」
「そうだね。エルヴィンもずっと動いてるし、コーヒーでも淹れようか。……あ、まだカップがどこか分からなくなっちゃった」
ナマエが困ったように笑いながら、段ボールの山に手を伸ばそうとした、その時だった。
背後から、逃げ場を塞ぐように大きな影が彼女を包み込んだ。
「……っ、エルヴィン?」
エルヴィンの強靭な腕が、ナマエの細い腰を背後から力強く引き寄せた。
分厚い胸板が彼女の背中に密着し、布越しでも伝わってくる彼の体温に、ナマエの心臓が跳ね上がる。彼の顎が彼女の肩に乗り、耳元で低い、熱を帯びた声が響いた。
「……ようやく、俺の視界から君が消えない生活が手に入った」
その声は、安堵というよりは、獲物を完全に巣穴に追い込んだ捕食者の独占欲に満ちていた。
エルヴィンは、ナマエの項に鼻先を埋め、深々と彼女の香りを吸い込む。石鹸の清潔な香りと、作業で少しだけ上気した彼女特有の甘い匂い。それが彼の理性を容赦なく削り取っていく。
「エルヴィン……急にどうしたの? まだ、片付けが終わってないのに……」
「片付けなど、いつでもいい。……今、この瞬間の君が、俺の腕の中にいるという実感が欲しいんだ」
彼はナマエの身体をくるりと自分の方へ向けさせ、壁との間に閉じ込めた。
逃げ場のない至近距離。
エルヴィンの瞳が、濃厚な光を宿し、彼女の唇を、そしてその奥にある魂を射抜く。
「ナマエ。君は、自分がどれほど危うい存在か分かっていない。……俺がいない場所で、誰かにその笑顔を向けていると思うだけで、俺の冷静さは容易く崩壊する」
「……エルヴィン。私はもう、あなたの隣にしかいないよ」
ナマエは、彼の首に腕を回し、潤んだ瞳で真っ直ぐに見上げた。
彼の中にある、歪で、けれど誰よりも切実な愛。
それを重いと感じるどころか、自分のすべてを預けられる喜びとして受け入れるのが、彼女という女性だった。
「なら、証明してくれ。……君のすべてが、俺の所有であることを」
エルヴィンは、彼女の言葉を飲み込むように、深く、激しく唇を重ねた。
触れるだけのキスではない。舌を絡め、彼女の甘さを隅々まで収穫するような、略奪的な口づけ。
ナマエの身体が熱くなり、膝から力が抜けていくのを、彼はさらに強く抱き寄せることで支えた。
「ん……、あ……っ……」
微かな喘ぎ声が、静かな部屋に溶けていく。
エルヴィンの大きな掌が、ナマエのTシャツの裾から忍び込み、滑らかな背中の肌を這い上がった。その触球が触れるたびに、ナマエの背筋を甘い痺れが駆け抜ける。
「……ナマエ。今夜は、君を眠らせない。……この家のすべての角まで、俺が君を愛していることを刻み込みたい」
彼の言葉は、もはや契約でも論理でもなかった。
剥き出しの欲望。そして、二度と彼女を離さないという執念。
エルヴィンは彼女を軽々と抱き上げると、まだカーテンも付いていない寝室へと運んでいった。
窓の外では、夕暮れが都会の空を濃い紫へと染め変えていく。
レオが少しだけ寂しそうに鼻を鳴らし、クッションの上で丸くなったが、今の二人にはその声も届かない。
新しい城の、最初の夜。
策士が勝ち取った最高の報酬は、腕の中で熱く溶けていく、たった一人の愛しい女性だった。
「……愛している。誰にも、指一本触れさせない」
その誓いは、夜の静寂の中に深く、重く、沈み込んでいった。
新しいカーテンの隙間から、鋭いほどに純粋な朝の光が差し込み、寝室の空気を白く洗い流していた。
ミョウジナマエは、まどろみの中で心地よい重量感を感じていた。右側には、熱を帯びた強靭な壁のようなエルヴィンの体温。そして、体の真ん中には……。
「……ん、レオ。重いよ……」
ナマエが薄目を開けると、そこには黄金色の毛並みを誇らしげに輝かせたレオが、ベッドのど真ん中で「へそ天」の無防備な姿で爆睡していた。二十キロを超える巨体が、ダブルベッドの領土の七割を占拠している。おかげで、家の主であるはずの二人は、ベッドの両端に申し訳程度に身を寄せ合っていた。
「……おはよう、ナマエ」
耳元で、低く掠れた声が響いた。
エルヴィンだ。起きたばかりの彼の声は、いつも以上に深く、脳髄に直接振動が伝わるような色気を孕んでいる。
「エルヴィン、おはよう。……見て、レオったら。自分のベッドがあるのに、どうしてもここに来ちゃうんだね」
ナマエは苦笑しながら、レオの柔らかい腹を撫でた。レオは夢を見ているのか、ピクピクと足を動かし、満足げな寝息を立てている。
「ふむ……。昨夜、俺が厳重に施錠したはずなのだが。彼はいつの間にか、この鉄壁の防御網を突破して侵入したらしい。非常に優秀な工作員だ」
エルヴィンは上半身を肘で支え、乱れた金髪の間から青い瞳を覗かせた。
普段の隙のない弁護士の姿からは想像もつかない、無防備な雄の気配。はだけたナイトウェアの隙間から覗く、彫刻のように美しい鎖骨と、鍛え上げられた胸筋。その質感に、ナマエの顔がふっと熱くなる。
「ねえ、狭いね。エルヴィン、落ちそうじゃない?」
「ああ。物理的に言えば、俺の背面の余白はあと数センチしかない。このままでは重力に従って床へ転落する可能性が極めて高いな」
エルヴィンは淡々と、まるで法廷で事実関係を整理するように言った。だが、その瞳には冷徹さではなく、悪戯っぽい熱が宿っている。
「どうする? レオを起こして、自分のベッドに戻ってもらう?」
「いや。それでは彼の睡眠権を侵害することになる。……それに、もっと合理的で、かつ俺にとっても有益な解決策がある」
「えっ、解決策?」
ナマエが不思議そうに小首を傾げた瞬間、エルヴィンの大きな掌が、彼女の腰をぐいと引き寄せた。
「わっ……!」
驚く間もなく、ナマエの体はエルヴィンの逞しい体の上へと引き上げられた。
彼女の細い体が、彼の厚い胸板の上にすっぽりと重なる。視線の高さが逆転し、ナマエは彼の広い肩の中に閉じ込められる形になった。
「……エルヴィン?」
「こうすれば、ベッドのスペース問題は完全に解消される。君が俺の肉体という『敷地』に移動したことで、レオくんの専有面積を削ることなく、俺たちは密着したまま眠りを継続できる。……完璧な解決策だろう?」
「それ、ただの屁理屈だよ……」
ナマエは呆れながらも、彼の胸から伝わるトク、トク、という力強い鼓動に、心地よい安心感を覚えていた。
彼の腕が、彼女の背中を愛おしむようにゆっくりと巡る。大きな掌が肩甲骨を撫で、やがて腰の曲線に定着した。
「屁理屈ではない。これは、愛する者同士における空間の有効活用だ。……ナマエ、君は驚くほど軽くて柔らかいな。このまま一生、俺の重しになっていてほしいくらいだ」
エルヴィンは彼女の髪に顔を埋め、深く息を吸い込んだ。
朝の光に透ける彼女の肌。まだ夢の余韻を残した、潤んだ瞳。
彼が長年求めていた平穏という名の聖域が、今、この腕の中にあった。
「……もう、エルヴィンったら。朝からそんなこと言って。……でも、あったかいね」
ナマエは彼の首筋に顔を寄せ、甘えるようにすり寄った。
エルヴィンの腕に力がこもる。
「……ナマエ。朝食の前に、少しだけ『監査』をさせてもらってもいいかな」
「監査……?」
「君が昨夜、本当に俺の愛だけで満たされたのか。……それとも、まだ不足があるのか。……俺の指先で、確かめさせてほしい」
エルヴィンの唇が、ナマエの耳朶を甘く噛んだ。
「……っ、あ……」
熱い吐息が首筋を這い、ナマエの思考が再び白く溶けていく。
下の方では、レオが「フガッ」と大きな寝言を漏らし、バタバタと尻尾でベッドを叩いた。
「ふふ、レオが怒ってるよ。二人の世界に入らないでって」
「気にするな。彼は寝ている。……今は、俺と君だけの時間だ」
エルヴィンは彼女を抱き上げたまま、さらに深く、深い口づけを求めた。
新しい城での、騒がしくて甘い朝のルーティン。
最強の弁護士が、一匹の犬と一人の天然な女性に完敗を認め、その幸福にどっぷりと浸かる時間は、まだ始まったばかりだった。
