推しの心臓、我が家の1LDKにあり
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その夜、エルヴィン・スミスは未知の深淵に足を踏み入れようとしていた。
リビングの柔らかな間接照明の下、彼は自身のスマートフォンを書物というよりは精巧な測量機器のように扱い、眉間に深い皺を寄せて画面を見つめている。傍らでは、ナマエが淹れたてのアッサムティーの香りに包まれながら、のんびりと読書を楽しんでいた。
「……ナマエ。以前、君が言っていた『検索エンジン』という情報収集手段についてだが」
「うん、どうかした?」
「俺の名を、日本語……つまりこの世界の言語で入力してみたところ、膨大な量の、そして非常に不可解な情報群に遭遇した。……これは、何らかの情報戦(デマ)か、あるいは高度な暗号報告書なのか?」
ナマエはティーカップを置いた。
「……エルヴィン。もしかして、自分の名前でエゴサしたの?」
「エゴサ……エゴサーチか。自身の社会的評価を客観的に分析する行為だと言うなら、その通りだ。だが、結果が俺の予測モデルから著しく乖離している」
エルヴィンは深刻な顔で、スマホの画面をナマエへと向けた。 そこには、某大手検索サイトの画像検索結果が広がっていた。公式のイラストに混じって、世界中の描き手が情熱を込めて描き出した「彼」の姿が並んでいる。
「まず、この『ファンアート』と呼ばれる創作物だが……。なぜ私は、これほどまでに服を脱がされていたり、あるいはリヴァイと並んで奇妙なポーズをとらされていたりするのだ? 中には、俺が猫の耳を模した装飾を頭部に装着しているものまである」
「あはは! それは……みんなの愛だよ、エルヴィン。二次創作っていう、リスペクトの形なの」
「リスペクト……。猫の耳をつけることが、指揮官への敬意に繋がるという論理が、俺にはまだ構築できない」
エルヴィンはさらに画面をスクロールした。次に彼がクリックしたのは、「歴代アニメキャラ・理想の結婚相手ランキング」というタイトルのまとめサイトだった。
「……ナマエ、これが最大の謎だ。この統計データによれば、俺は数多の候補者を抑え、上位にランクインしている。……しかも、タグには『スパダリ』や『抱かれたい男』、そして『理想の旦那様』という文言が散見される」
「……う。……まあ、そうだよね。エルヴィンの人気は不動だもん」
ナマエは頬を赤らめ、視線を逸らした。 目の前の本人が真面目な顔で「抱かれたい男」というワードを口にする破壊力は、いかなる巨人をも凌駕する。
しかし、エルヴィンは立ち上がり、ナマエの正面に座り直した。その瞳は、重大な作戦会議を始める直前のような、冷徹なまでの真剣味を帯びている。
「ナマエ。俺は大真面目に君に相談したい。……なぜ俺は、こんなに多くの異性に『理想の結婚相手』と呼ばれているのだ?」
「え、それは……かっこよくて、頼り甲斐があって、声も良くて……」
「真面目に考えてくれ」
エルヴィンは、指を組んで机に置いた。
「かつての俺は、目的のために多くの命を切り捨て、自身の平穏すら放棄した男だ。地下室という執着のために部下を死地に追いやり、最後には自分自身をも駒として投げ出した。……家庭を築く上で最も必要とされる『安定』や『献身』から、最も遠い場所にいたはずだ」
エルヴィンは一つひとつ、自分の欠点を論理的に列挙し始めた。
「俺は家事こそ一通り覚えたが、本質的にはワーカホリック(仕事中毒)だ。一度目標を定めれば、寝食を忘れて没頭する。……君という例外を除けば、俺は他人の感情の機微を察するのが得意とは言えない。そんな男が、なぜ『理想の夫』などという過分な評価を、不特定多数から受けることになる?」
ナマエは、そのあまりに真っ直ぐな自己分析に、思わず吹き出してしまった。
「あはは! エルヴィン、それ……本気で悩んでるの?」
「俺はいつだって本気だ。……情報の不一致は、判断を誤らせる。もしこの世界が私に『理想の夫』としての役割を期待しているのだとしたら、俺はどのようにそれに応えるべきなのか……」
「……あのね、エルヴィン」
ナマエは笑い声を収め、彼の手を優しく包み込んだ。
「みんな、あなたの『脆さ』を知っているからだよ」
「脆さ……?」
「完璧な指揮官なのに、心の中ではずっと子供みたいに真実を追い求めていたこと。冷酷な決断を下しながら、本当は誰よりも傷ついていたこと。……そんなあなたの人間臭いところが、みんな堪らなく愛おしいの。そして、その情熱をたった一人の女性に向けるところを想像して……勝手に盛り上がってるの」
ナマエは少し恥ずかしそうに付け加えた。
「つまりね、エルヴィンのその『不器用な誠実さ』が、この世界では最強の武器なの。家事ができるとか、安定してるとか、そういう次元の話じゃないんだよ」
エルヴィンは、ナマエの言葉を咀嚼するように黙り込んだ。 碧い瞳が、画面の向こう側の無数の「声」と、目の前の最愛の女性を交互に映し出す。
「……そうか。……俺は、君以外の人間に対しても、何らかの『期待』を抱かせてしまっていたということか。……これは、想定外の副産物だな」
エルヴィンは、スマホの画面を消し、テーブルの上に置いた。
「世界中の人間が俺をどう評価しようと、それは自由だ。……だが」
彼はナマエの手を握り直し、少しだけ身を乗り出した。
「君にとっての『理想』であれば、それでいい。……もし俺が君というたった一人のクライアントを満足させられないのであれば、世界中のランキングで一位を獲ったとしても、それは俺にとって壊滅的な敗北を意味する」
「……エルヴィン。……それ、天然で言ってる?」
「? 事実を述べているだけだ」
エルヴィンは、ナマエを抱き寄せ、その耳元で低く囁いた。
「……今夜は、その『理想の旦那様』としての役割を、より深掘りする必要がありそうだ。……まずは、君の満足度を極限まで高めるための、新しいアプローチを試してみようと思う」
「ちょ……エルヴィン! またそういう方向に……っ」
ナマエの抗議は、彼の優しくも強引な口づけによって塞がれた。 エゴサーチという名の沼から這い出した英雄は、今や自分だけに向けられた「熱狂的なファン」である妻を、徹底的に攻略することにその知性を注ぎ込もうとしていた。
数分後、リビングには消し忘れたスマホの画面が、静かに光を放っていた。 そこには依然として、「エルヴィン・スミス・愛妻家」という予測変換候補が並んでいたが、本人はもう、そんな文字情報には全く興味を示していなかった。
彼にとっての唯一の理想は、腕の中で顔を赤らめている、この女性の中にしかなかったのだから。
リビングの柔らかな間接照明の下、彼は自身のスマートフォンを書物というよりは精巧な測量機器のように扱い、眉間に深い皺を寄せて画面を見つめている。傍らでは、ナマエが淹れたてのアッサムティーの香りに包まれながら、のんびりと読書を楽しんでいた。
「……ナマエ。以前、君が言っていた『検索エンジン』という情報収集手段についてだが」
「うん、どうかした?」
「俺の名を、日本語……つまりこの世界の言語で入力してみたところ、膨大な量の、そして非常に不可解な情報群に遭遇した。……これは、何らかの情報戦(デマ)か、あるいは高度な暗号報告書なのか?」
ナマエはティーカップを置いた。
「……エルヴィン。もしかして、自分の名前でエゴサしたの?」
「エゴサ……エゴサーチか。自身の社会的評価を客観的に分析する行為だと言うなら、その通りだ。だが、結果が俺の予測モデルから著しく乖離している」
エルヴィンは深刻な顔で、スマホの画面をナマエへと向けた。 そこには、某大手検索サイトの画像検索結果が広がっていた。公式のイラストに混じって、世界中の描き手が情熱を込めて描き出した「彼」の姿が並んでいる。
「まず、この『ファンアート』と呼ばれる創作物だが……。なぜ私は、これほどまでに服を脱がされていたり、あるいはリヴァイと並んで奇妙なポーズをとらされていたりするのだ? 中には、俺が猫の耳を模した装飾を頭部に装着しているものまである」
「あはは! それは……みんなの愛だよ、エルヴィン。二次創作っていう、リスペクトの形なの」
「リスペクト……。猫の耳をつけることが、指揮官への敬意に繋がるという論理が、俺にはまだ構築できない」
エルヴィンはさらに画面をスクロールした。次に彼がクリックしたのは、「歴代アニメキャラ・理想の結婚相手ランキング」というタイトルのまとめサイトだった。
「……ナマエ、これが最大の謎だ。この統計データによれば、俺は数多の候補者を抑え、上位にランクインしている。……しかも、タグには『スパダリ』や『抱かれたい男』、そして『理想の旦那様』という文言が散見される」
「……う。……まあ、そうだよね。エルヴィンの人気は不動だもん」
ナマエは頬を赤らめ、視線を逸らした。 目の前の本人が真面目な顔で「抱かれたい男」というワードを口にする破壊力は、いかなる巨人をも凌駕する。
しかし、エルヴィンは立ち上がり、ナマエの正面に座り直した。その瞳は、重大な作戦会議を始める直前のような、冷徹なまでの真剣味を帯びている。
「ナマエ。俺は大真面目に君に相談したい。……なぜ俺は、こんなに多くの異性に『理想の結婚相手』と呼ばれているのだ?」
「え、それは……かっこよくて、頼り甲斐があって、声も良くて……」
「真面目に考えてくれ」
エルヴィンは、指を組んで机に置いた。
「かつての俺は、目的のために多くの命を切り捨て、自身の平穏すら放棄した男だ。地下室という執着のために部下を死地に追いやり、最後には自分自身をも駒として投げ出した。……家庭を築く上で最も必要とされる『安定』や『献身』から、最も遠い場所にいたはずだ」
エルヴィンは一つひとつ、自分の欠点を論理的に列挙し始めた。
「俺は家事こそ一通り覚えたが、本質的にはワーカホリック(仕事中毒)だ。一度目標を定めれば、寝食を忘れて没頭する。……君という例外を除けば、俺は他人の感情の機微を察するのが得意とは言えない。そんな男が、なぜ『理想の夫』などという過分な評価を、不特定多数から受けることになる?」
ナマエは、そのあまりに真っ直ぐな自己分析に、思わず吹き出してしまった。
「あはは! エルヴィン、それ……本気で悩んでるの?」
「俺はいつだって本気だ。……情報の不一致は、判断を誤らせる。もしこの世界が私に『理想の夫』としての役割を期待しているのだとしたら、俺はどのようにそれに応えるべきなのか……」
「……あのね、エルヴィン」
ナマエは笑い声を収め、彼の手を優しく包み込んだ。
「みんな、あなたの『脆さ』を知っているからだよ」
「脆さ……?」
「完璧な指揮官なのに、心の中ではずっと子供みたいに真実を追い求めていたこと。冷酷な決断を下しながら、本当は誰よりも傷ついていたこと。……そんなあなたの人間臭いところが、みんな堪らなく愛おしいの。そして、その情熱をたった一人の女性に向けるところを想像して……勝手に盛り上がってるの」
ナマエは少し恥ずかしそうに付け加えた。
「つまりね、エルヴィンのその『不器用な誠実さ』が、この世界では最強の武器なの。家事ができるとか、安定してるとか、そういう次元の話じゃないんだよ」
エルヴィンは、ナマエの言葉を咀嚼するように黙り込んだ。 碧い瞳が、画面の向こう側の無数の「声」と、目の前の最愛の女性を交互に映し出す。
「……そうか。……俺は、君以外の人間に対しても、何らかの『期待』を抱かせてしまっていたということか。……これは、想定外の副産物だな」
エルヴィンは、スマホの画面を消し、テーブルの上に置いた。
「世界中の人間が俺をどう評価しようと、それは自由だ。……だが」
彼はナマエの手を握り直し、少しだけ身を乗り出した。
「君にとっての『理想』であれば、それでいい。……もし俺が君というたった一人のクライアントを満足させられないのであれば、世界中のランキングで一位を獲ったとしても、それは俺にとって壊滅的な敗北を意味する」
「……エルヴィン。……それ、天然で言ってる?」
「? 事実を述べているだけだ」
エルヴィンは、ナマエを抱き寄せ、その耳元で低く囁いた。
「……今夜は、その『理想の旦那様』としての役割を、より深掘りする必要がありそうだ。……まずは、君の満足度を極限まで高めるための、新しいアプローチを試してみようと思う」
「ちょ……エルヴィン! またそういう方向に……っ」
ナマエの抗議は、彼の優しくも強引な口づけによって塞がれた。 エゴサーチという名の沼から這い出した英雄は、今や自分だけに向けられた「熱狂的なファン」である妻を、徹底的に攻略することにその知性を注ぎ込もうとしていた。
数分後、リビングには消し忘れたスマホの画面が、静かに光を放っていた。 そこには依然として、「エルヴィン・スミス・愛妻家」という予測変換候補が並んでいたが、本人はもう、そんな文字情報には全く興味を示していなかった。
彼にとっての唯一の理想は、腕の中で顔を赤らめている、この女性の中にしかなかったのだから。
