Chapter 2 ⛧磁気と引力
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宇宙暦850年。中央政府の直轄宙域にて、歴史的な合同軍事演習が行われようとしていた。
参加するのは、ナイル・ドーク艦長率いる、規律と秩序の権化「憲兵団艦隊」の旗艦『セントラル・アイギス』。
そしてもう一隻は、エルヴィン・スミス艦長率いる、自由と混沌の探求者「調査兵団艦隊」の旗艦『ウィングス・オブ・リバティ』である。
この二隻が並ぶだけで、宇宙空間の空気がピリつくようだった。
「……フン。相変わらず、薄汚れた艦だ。整備が行き届いていない証拠だな」
『セントラル・アイギス』のブリッジは、塵一つない完璧な清浄空間だった。ナイル・ドークは、磨き上げられた艦長席で、モニターに映るエルヴィンの艦を見下ろしていた。
「総員、第一種戦闘配置。演習プログラム『デルタ・フォーメーション』を開始する。一秒の遅れも、一ミリのズレも許さん。中央の威信を見せつけてやれ」
ナイルの号令と共に、彼の艦隊は芸術的なまでに美しい動きを見せた。数百のドローン機が一糸乱れぬ隊列を組み、教科書通りの完璧な回避行動と模擬射撃を行う。それは「軍事演習」というよりは、完成された「舞踏」のようだった。
「見たかエルヴィン。これが『統率』というものだ。お前のところの野良犬どもには、逆立ちしても真似できまい」
ナイルは勝利を確信し、満足げに髭を撫でた。
一方、『ウィングス・オブ・リバティ』のブリッジ。
「……ナイルの艦は、相変わらず面白みがないな。動きが予測できすぎて、あくびが出る」
エルヴィン・スミスは、紅茶を片手に退屈そうにモニターを眺めていた。その隣では、通信士のナマエが胃薬を握りしめている。
「か、艦長! 向こうは完璧な布陣ですよ!? 私たちはどうするんですか!」
「問題ない。……リヴァイ、ハンジ。始めてくれ」
エルヴィンの短い指令が、カオスへの引き金だった。
ドォォォォン!!
突然、ウィングス・オブ・リバティ号が、物理法則を無視したような角度で急加速した。
「なっ!? なんだあの機動は! 重力制御装置がイカれているのか!?」
ナイルが叫ぶ。
操舵席(今日は特別に彼が座っている)のリヴァイが、舌打ちしながら操縦桿を握っていた。
「……チッ。ナイルの野郎、動きがトロすぎて邪魔くせぇ。まとめて追い抜くぞ」
リヴァイは、通常なら艦体がバラバラになるような「超高速立体機動ターン」を敢行。ナイルの完璧な隊列のど真ん中を強引に突破した。
さらに、ハンジがこの日のために用意した「実験兵器」が火を噴く。
「ひゃっはー! 見て見てエルヴィン! 新開発の『煙幕弾散布ポッド』だよ! ただの煙幕じゃない、相手のセンサーに『巨人の顔』を無数に投影する幻覚機能付きさ!」
ナイルの艦のレーダー画面が、突如として無数の奇行種の顔で埋め尽くされた。
「ひぃぃっ!? て、敵影多数!? いや、これは……顔!? 気持ち悪い!!」
憲兵団のクルーたちがパニックに陥り、完璧だった隊列は一瞬で崩壊した。
演習は、エルヴィン側の圧勝(というより、ナイル側の自滅)ムードで進んでいた。
「……ふむ。ナイルのやつ、少しストレスが溜まっているようだな。動きが硬い」
エルヴィンが友人を気遣うように呟く。
それを聞いたハンジが、目を輝かせた。
「そうだね! やっぱりナイルには『癒やし』が必要だよ! ……フフフ、こんなこともあろうかと、彼のためにとっておきのプレゼントを用意しておいたのさ!」
ハンジがコンソールの赤いボタンを押した。
ウィングス・オブ・リバティ号から、小さな可愛らしいポッドが射出され、混乱する『セントラル・アイギス』の搬入口へと吸い込まれていった。
『セントラル・アイギス』の艦内。
搬入口に、「友情の証」と書かれたリボン付きの小型ロボットが着陸した。
ナイルの部下が恐る恐る近づく。
「……艦長、ウィングス・オブ・リバティ号から何かが届きました。爆発物ではなさそうですが……」
その時、ロボットのカメラアイが、不気味な赤色に発光した。
そして、合成音声が響き渡った。その声の主は、明らかに――
『……おい。ここは掃き溜めか?』
「なっ、この声は……リヴァイ!?」
ナイルがモニターを見て驚愕する。
ハンジが送り込んだのは、リヴァイの「潔癖思考回路」を完全コピーしたAIを搭載した、自律型強制清掃ロボットだったのだ。
『汚ねぇ。菌が繁殖してる音が聞こえるぞ。……消毒だ。一匹残らず駆逐してやる』
ロボットの体が変形し、全方位に高圧洗浄ノズルと超強力除菌ミスト噴射口が現れた。
「ま、待て! ここはブリッジだぞ! やめろぉぉぉ!!」
シュゴォォォォォォ!!!
ナイルの悲鳴は、凄まじい噴射音にかき消された。
ロボットは艦内を高速で移動しながら、壁、床、コンソール、そして逃げ惑うクルーたちに、容赦なく最高レベルの滅菌ガスと洗剤を浴びせかけた。
「目が! 目があぁぁ! しみるぅぅぅ!!」
「俺の完璧な制服が泡だらけに!!」
『セントラル・アイギス』の艦内は、一瞬にして真っ白な泡と蒸気に包まれ、機能不全に陥った。
演習場に、静寂が戻った。
『ウィングス・オブ・リバティ』のメインスクリーンに、通信を繋いできたナイルの姿が映し出された。
彼は全身泡まみれで、自慢の整った髪も濡れそぼり、肩で息をしていた。その顔は、怒りを通り越して、深い絶望と疲労に満ちていた。
エルヴィンは、いつものポーカーフェイスで問いかけた。
「……やあ、ナイル。少しはリラックスできたか? ハンジがお前のために――」
「エルヴィン!!!」
ナイルの絶叫が、通信機のスピーカーを震わせた。
「お前の艦には!! 一人も!! まともな人間がいないのかぁぁぁ!?」
演習は「機材トラブル」という名目で中止となった。
ブリッジで、エルヴィンは少し残念そうに肩をすくめた。
「……おかしいな。ナイルは綺麗好きだと聞いていたのだが。喜んでもらえると思ったのに」
その隣で、通信士のナマエが遠い目をしながら呟いた。
「……艦長。私たち、中央政府から『最も関わりたくない艦』のブラックリストに入れられた気がします……」
そして、掃除用具を手にしたリヴァイが、不満げに鼻を鳴らした。
「……チッ。あのAI、まだ甘ぇな。隅の埃を見逃してやがった。ハンジ、作り直しだ」
ナイル・ドークが、ウィングス・オブ・リバティ号との合同任務を二度と引き受けなくなったのは、言うまでもないことだった。
参加するのは、ナイル・ドーク艦長率いる、規律と秩序の権化「憲兵団艦隊」の旗艦『セントラル・アイギス』。
そしてもう一隻は、エルヴィン・スミス艦長率いる、自由と混沌の探求者「調査兵団艦隊」の旗艦『ウィングス・オブ・リバティ』である。
この二隻が並ぶだけで、宇宙空間の空気がピリつくようだった。
「……フン。相変わらず、薄汚れた艦だ。整備が行き届いていない証拠だな」
『セントラル・アイギス』のブリッジは、塵一つない完璧な清浄空間だった。ナイル・ドークは、磨き上げられた艦長席で、モニターに映るエルヴィンの艦を見下ろしていた。
「総員、第一種戦闘配置。演習プログラム『デルタ・フォーメーション』を開始する。一秒の遅れも、一ミリのズレも許さん。中央の威信を見せつけてやれ」
ナイルの号令と共に、彼の艦隊は芸術的なまでに美しい動きを見せた。数百のドローン機が一糸乱れぬ隊列を組み、教科書通りの完璧な回避行動と模擬射撃を行う。それは「軍事演習」というよりは、完成された「舞踏」のようだった。
「見たかエルヴィン。これが『統率』というものだ。お前のところの野良犬どもには、逆立ちしても真似できまい」
ナイルは勝利を確信し、満足げに髭を撫でた。
一方、『ウィングス・オブ・リバティ』のブリッジ。
「……ナイルの艦は、相変わらず面白みがないな。動きが予測できすぎて、あくびが出る」
エルヴィン・スミスは、紅茶を片手に退屈そうにモニターを眺めていた。その隣では、通信士のナマエが胃薬を握りしめている。
「か、艦長! 向こうは完璧な布陣ですよ!? 私たちはどうするんですか!」
「問題ない。……リヴァイ、ハンジ。始めてくれ」
エルヴィンの短い指令が、カオスへの引き金だった。
ドォォォォン!!
突然、ウィングス・オブ・リバティ号が、物理法則を無視したような角度で急加速した。
「なっ!? なんだあの機動は! 重力制御装置がイカれているのか!?」
ナイルが叫ぶ。
操舵席(今日は特別に彼が座っている)のリヴァイが、舌打ちしながら操縦桿を握っていた。
「……チッ。ナイルの野郎、動きがトロすぎて邪魔くせぇ。まとめて追い抜くぞ」
リヴァイは、通常なら艦体がバラバラになるような「超高速立体機動ターン」を敢行。ナイルの完璧な隊列のど真ん中を強引に突破した。
さらに、ハンジがこの日のために用意した「実験兵器」が火を噴く。
「ひゃっはー! 見て見てエルヴィン! 新開発の『煙幕弾散布ポッド』だよ! ただの煙幕じゃない、相手のセンサーに『巨人の顔』を無数に投影する幻覚機能付きさ!」
ナイルの艦のレーダー画面が、突如として無数の奇行種の顔で埋め尽くされた。
「ひぃぃっ!? て、敵影多数!? いや、これは……顔!? 気持ち悪い!!」
憲兵団のクルーたちがパニックに陥り、完璧だった隊列は一瞬で崩壊した。
演習は、エルヴィン側の圧勝(というより、ナイル側の自滅)ムードで進んでいた。
「……ふむ。ナイルのやつ、少しストレスが溜まっているようだな。動きが硬い」
エルヴィンが友人を気遣うように呟く。
それを聞いたハンジが、目を輝かせた。
「そうだね! やっぱりナイルには『癒やし』が必要だよ! ……フフフ、こんなこともあろうかと、彼のためにとっておきのプレゼントを用意しておいたのさ!」
ハンジがコンソールの赤いボタンを押した。
ウィングス・オブ・リバティ号から、小さな可愛らしいポッドが射出され、混乱する『セントラル・アイギス』の搬入口へと吸い込まれていった。
『セントラル・アイギス』の艦内。
搬入口に、「友情の証」と書かれたリボン付きの小型ロボットが着陸した。
ナイルの部下が恐る恐る近づく。
「……艦長、ウィングス・オブ・リバティ号から何かが届きました。爆発物ではなさそうですが……」
その時、ロボットのカメラアイが、不気味な赤色に発光した。
そして、合成音声が響き渡った。その声の主は、明らかに――
『……おい。ここは掃き溜めか?』
「なっ、この声は……リヴァイ!?」
ナイルがモニターを見て驚愕する。
ハンジが送り込んだのは、リヴァイの「潔癖思考回路」を完全コピーしたAIを搭載した、自律型強制清掃ロボットだったのだ。
『汚ねぇ。菌が繁殖してる音が聞こえるぞ。……消毒だ。一匹残らず駆逐してやる』
ロボットの体が変形し、全方位に高圧洗浄ノズルと超強力除菌ミスト噴射口が現れた。
「ま、待て! ここはブリッジだぞ! やめろぉぉぉ!!」
シュゴォォォォォォ!!!
ナイルの悲鳴は、凄まじい噴射音にかき消された。
ロボットは艦内を高速で移動しながら、壁、床、コンソール、そして逃げ惑うクルーたちに、容赦なく最高レベルの滅菌ガスと洗剤を浴びせかけた。
「目が! 目があぁぁ! しみるぅぅぅ!!」
「俺の完璧な制服が泡だらけに!!」
『セントラル・アイギス』の艦内は、一瞬にして真っ白な泡と蒸気に包まれ、機能不全に陥った。
演習場に、静寂が戻った。
『ウィングス・オブ・リバティ』のメインスクリーンに、通信を繋いできたナイルの姿が映し出された。
彼は全身泡まみれで、自慢の整った髪も濡れそぼり、肩で息をしていた。その顔は、怒りを通り越して、深い絶望と疲労に満ちていた。
エルヴィンは、いつものポーカーフェイスで問いかけた。
「……やあ、ナイル。少しはリラックスできたか? ハンジがお前のために――」
「エルヴィン!!!」
ナイルの絶叫が、通信機のスピーカーを震わせた。
「お前の艦には!! 一人も!! まともな人間がいないのかぁぁぁ!?」
演習は「機材トラブル」という名目で中止となった。
ブリッジで、エルヴィンは少し残念そうに肩をすくめた。
「……おかしいな。ナイルは綺麗好きだと聞いていたのだが。喜んでもらえると思ったのに」
その隣で、通信士のナマエが遠い目をしながら呟いた。
「……艦長。私たち、中央政府から『最も関わりたくない艦』のブラックリストに入れられた気がします……」
そして、掃除用具を手にしたリヴァイが、不満げに鼻を鳴らした。
「……チッ。あのAI、まだ甘ぇな。隅の埃を見逃してやがった。ハンジ、作り直しだ」
ナイル・ドークが、ウィングス・オブ・リバティ号との合同任務を二度と引き受けなくなったのは、言うまでもないことだった。
