Chapter 1 ⛧邂逅と覚醒
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艦内のリサイクル・システムが静かに唸りを上げ、人工的な夜の帳が降りる頃。
ナマエは、最新の宙域スキャン報告書を手に、再び艦長室の前に立っていた。 前回の「紅茶事件」と、その後のリヴァイ副長による「物理的な制裁」は、すでに艦内の一部で微笑ましい(あるいは恐ろしい)噂として広まりつつあったが、当のナマエは、ただ任務を全うしようと背筋を伸ばしていた。
(……今日は、ちゃんと報告書を渡して、すぐに退出するんだから)
自分に言い聞かせ、彼女は入室の許可を求めた。 「入れ」 返ってきたのは、いつも通りの、低く安定したエルヴィンの声。だが、扉が開いた瞬間にナマエの鼻腔を突いたのは、いつもの芳醇な茶の香りではなく、過熱した電子機器が発する独特のオゾンの臭いと、古い紙束が放つ微かな埃の匂いだった。
「失礼します、艦長。第8宙域の最新観測データを持ってまいりました」
ナマエが室内へ一歩踏み込むと、そこには驚くべき光景が広がっていた。 普段は整然としているエルヴィンのデスクの上に、何枚ものホログラム・ウィンドウが乱舞するように展開されている。そこには、連邦の公式記録には存在しない未踏の惑星の地質データや、古文書をスキャンしたかのような奇妙な幾何学模様が浮かび上がっていた。
「……ナマエか。ちょうどいい、ここへ来てくれ」
エルヴィンは顔を上げず、手招きをした。その声は、いつもの威厳に満ちた指揮官のものとは異なり、どこか浮き足立った、熱を孕んだ響きがあった。
ナマエが恐る恐るデスクに近づくと、エルヴィンは彼女の腕を軽く掴み、ホログラムの中央へと引き寄せた。
「見てくれ、この分光分析の結果を。この星の地殻には、理論上でしか存在し得ない特殊な結晶構造が見られる。もしこれが、古代の記録にある『星の核』の欠片だとしたら……」
「艦長……?」
ナマエは、彼を見上げて息を呑んだ。 そこには、「冷徹な人類の盾」としてのエルヴィン・スミスはいなかった。 碧眼は少年のように爛々と輝き、わずかに開いた唇からは、溢れ出す好奇心が熱い吐息となって漏れている。巨躯を折り曲げるようにしてモニターを覗き込むその姿は、世界の真実を求めて止まない、一人の純粋な探求者そのものだった。
「人類は、この広大な銀河のほんの一部しか知らない。壁の向こうに何があるのか……いや、この宇宙の果てに何が隠されているのか。私はそれを、この目で見たいんだ。誰かが書き残した嘘ではない、真実を」
彼はナマエの存在を忘れたかのように、熱っぽく語り続けた。 その横顔を、ナマエは瞬きも忘れて見つめた。 完璧なリーダーとして、常に非情な決断を下し、部下の死さえも糧にして進むことを己に課している男。その内側に、これほどまでに無垢で、破壊的なまでの情熱が眠っていたなんて。
「……素敵です」
ナマエの口から、ふいに心の声が溢れた。 エルヴィンが、弾かれたように動きを止める。彼はゆっくりと視線をナマエへと移した。 至近距離で、二人の視線が絡み合う。
「……何がだ?」
「今の艦長、とてもキラキラしています。まるで、初めて海を見た子供みたいに。……私は、そんなふうに何かを心から信じて、追いかけている人の瞳が大好きです」
ナマエは共感力の塊となって、彼の情熱をまるごと包み込むような笑顔を見せた。 その瞬間、エルヴィンの心臓が大きく、重く、打鐘した。
自分の内に秘めたこの「執着」とも呼べる探求心は、時に部下を死なせるための言い訳になり、自分を呪う鎖にもなる。他人に見せるべきではない、醜い欲望だと思っていた。 だが、目の前の女性は、それを「素敵だ」と言った。
「ナマエ……君は……」
彼は無意識のうちに、彼女の手を握りしめていた。大きな、厚みのある手のひらが、ナマエの華奢な手を包み込む。その体温は驚くほど高く、彼が内に秘める情熱の大きさを物語っていた。
「……私は、ずっと探していたのかもしれない。この景色を、私と一緒に見てくれる人間を。この真実を、分かち合える存在を」
「艦長……?」
「……君の前では、ただの男でいたい」
エルヴィンの碧眼が、独占欲という名の深い淵へと沈んでいく。 彼はナマエの手を引き、さらに距離を詰めた。鼻先が触れ合うほどの距離。ナマエの焦茶色の瞳に映るのは、正義のためでも、任務のためでもなく、ただ一人の女性を渇望し始めた男の剥き出しの感情だった。
「君の声で、私の夢を肯定してほしい。君の瞳で、私が見る景色をなぞってほしい。……ナマエ、君は他の奴らと同じように、私を敬う必要はない。ただ、傍で、私の執着の共犯者になってくれないか」
その言葉は、愛の告白よりも重く、呪いよりも深くナマエの心に突き刺さった。 エルヴィンの長躯が、逃がさないと言わんばかりに彼女の影を覆う。
「私は、一度手に入れた真実は、決して手放さない。……それは、君に対しても同じだ」
冷徹なリーダーの仮面を脱ぎ捨て、真実と一人の女性に狂い始めた探求者の素顔。ナマエは、その瞳の輝きに、自分自身もまた呑み込まれていくのを感じていた。 暗い宇宙を往く艦の中で、二人の間にだけ、熱く、甘く、そして逃げ場のない絆が結ばれようとしていた。
ナマエは、最新の宙域スキャン報告書を手に、再び艦長室の前に立っていた。 前回の「紅茶事件」と、その後のリヴァイ副長による「物理的な制裁」は、すでに艦内の一部で微笑ましい(あるいは恐ろしい)噂として広まりつつあったが、当のナマエは、ただ任務を全うしようと背筋を伸ばしていた。
(……今日は、ちゃんと報告書を渡して、すぐに退出するんだから)
自分に言い聞かせ、彼女は入室の許可を求めた。 「入れ」 返ってきたのは、いつも通りの、低く安定したエルヴィンの声。だが、扉が開いた瞬間にナマエの鼻腔を突いたのは、いつもの芳醇な茶の香りではなく、過熱した電子機器が発する独特のオゾンの臭いと、古い紙束が放つ微かな埃の匂いだった。
「失礼します、艦長。第8宙域の最新観測データを持ってまいりました」
ナマエが室内へ一歩踏み込むと、そこには驚くべき光景が広がっていた。 普段は整然としているエルヴィンのデスクの上に、何枚ものホログラム・ウィンドウが乱舞するように展開されている。そこには、連邦の公式記録には存在しない未踏の惑星の地質データや、古文書をスキャンしたかのような奇妙な幾何学模様が浮かび上がっていた。
「……ナマエか。ちょうどいい、ここへ来てくれ」
エルヴィンは顔を上げず、手招きをした。その声は、いつもの威厳に満ちた指揮官のものとは異なり、どこか浮き足立った、熱を孕んだ響きがあった。
ナマエが恐る恐るデスクに近づくと、エルヴィンは彼女の腕を軽く掴み、ホログラムの中央へと引き寄せた。
「見てくれ、この分光分析の結果を。この星の地殻には、理論上でしか存在し得ない特殊な結晶構造が見られる。もしこれが、古代の記録にある『星の核』の欠片だとしたら……」
「艦長……?」
ナマエは、彼を見上げて息を呑んだ。 そこには、「冷徹な人類の盾」としてのエルヴィン・スミスはいなかった。 碧眼は少年のように爛々と輝き、わずかに開いた唇からは、溢れ出す好奇心が熱い吐息となって漏れている。巨躯を折り曲げるようにしてモニターを覗き込むその姿は、世界の真実を求めて止まない、一人の純粋な探求者そのものだった。
「人類は、この広大な銀河のほんの一部しか知らない。壁の向こうに何があるのか……いや、この宇宙の果てに何が隠されているのか。私はそれを、この目で見たいんだ。誰かが書き残した嘘ではない、真実を」
彼はナマエの存在を忘れたかのように、熱っぽく語り続けた。 その横顔を、ナマエは瞬きも忘れて見つめた。 完璧なリーダーとして、常に非情な決断を下し、部下の死さえも糧にして進むことを己に課している男。その内側に、これほどまでに無垢で、破壊的なまでの情熱が眠っていたなんて。
「……素敵です」
ナマエの口から、ふいに心の声が溢れた。 エルヴィンが、弾かれたように動きを止める。彼はゆっくりと視線をナマエへと移した。 至近距離で、二人の視線が絡み合う。
「……何がだ?」
「今の艦長、とてもキラキラしています。まるで、初めて海を見た子供みたいに。……私は、そんなふうに何かを心から信じて、追いかけている人の瞳が大好きです」
ナマエは共感力の塊となって、彼の情熱をまるごと包み込むような笑顔を見せた。 その瞬間、エルヴィンの心臓が大きく、重く、打鐘した。
自分の内に秘めたこの「執着」とも呼べる探求心は、時に部下を死なせるための言い訳になり、自分を呪う鎖にもなる。他人に見せるべきではない、醜い欲望だと思っていた。 だが、目の前の女性は、それを「素敵だ」と言った。
「ナマエ……君は……」
彼は無意識のうちに、彼女の手を握りしめていた。大きな、厚みのある手のひらが、ナマエの華奢な手を包み込む。その体温は驚くほど高く、彼が内に秘める情熱の大きさを物語っていた。
「……私は、ずっと探していたのかもしれない。この景色を、私と一緒に見てくれる人間を。この真実を、分かち合える存在を」
「艦長……?」
「……君の前では、ただの男でいたい」
エルヴィンの碧眼が、独占欲という名の深い淵へと沈んでいく。 彼はナマエの手を引き、さらに距離を詰めた。鼻先が触れ合うほどの距離。ナマエの焦茶色の瞳に映るのは、正義のためでも、任務のためでもなく、ただ一人の女性を渇望し始めた男の剥き出しの感情だった。
「君の声で、私の夢を肯定してほしい。君の瞳で、私が見る景色をなぞってほしい。……ナマエ、君は他の奴らと同じように、私を敬う必要はない。ただ、傍で、私の執着の共犯者になってくれないか」
その言葉は、愛の告白よりも重く、呪いよりも深くナマエの心に突き刺さった。 エルヴィンの長躯が、逃がさないと言わんばかりに彼女の影を覆う。
「私は、一度手に入れた真実は、決して手放さない。……それは、君に対しても同じだ」
冷徹なリーダーの仮面を脱ぎ捨て、真実と一人の女性に狂い始めた探求者の素顔。ナマエは、その瞳の輝きに、自分自身もまた呑み込まれていくのを感じていた。 暗い宇宙を往く艦の中で、二人の間にだけ、熱く、甘く、そして逃げ場のない絆が結ばれようとしていた。
