Chapter 1 ⛧邂逅と覚醒
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母艦『ウィングス・オブ・リバティ号』の深部、第7整備区画。そこは巨大な核融合エンジンの鼓動が響き、重油とオゾン、そして科学主任ハンジ・ゾエの狂気が入り混じる場所だ。
「これだよ、これ! 未知の惑星で拾った発光石を、エンジンの増幅器に直接ブチ込んだらどうなるか。……見てよナマエ、出力グラフが銀河の果てまで突き抜けそうだよ!」
「ハンジさん、落ち着いてください! グラフが突き抜けるのは、システムが崩壊する寸前って意味です!」
通信レポートを届けに来ただけのナマエは、目の前の光景に絶叫した。コンソールは警告の赤一色に染まり、中央のリアクターからは、金属を削るような不気味な高周波が漏れ出している。ハンジは興奮のあまり、緊急停止コードさえ聞き取れない状態だ。
「熱い! 美しい! これこそが宇宙の産声……っ!」
「産声じゃなくて断末魔です!……っ、どいてください!」
ナマエは半狂乱のハンジを突き飛ばし、コンソールへ飛びついた。通信士としての聴覚が、リアクターの振動周期と制御プログラムのズレを瞬時に読み取る。
「位相がズレてる……。通信プロトコルを強制介入、このコードで共鳴させて減衰を狙う……。いけっ!」
ナマエの指先が電光石火の速さでキーを叩く。次の瞬間、爆発寸前だったリアクターの咆哮が、嘘のように静かな低音へと変わった。過熱していた区画内に、冷たい冷却ガスがプシュッと噴き出し、沈黙が訪れる。
「……助かった……のか?」
ハンジが呆然と呟いた時、背後の自動ドアが開いた。
「――何事だ。報告しろ」
そこには、騒ぎを聞きつけて駆けつけたエルヴィン・スミスが立っていた。冷徹な碧眼が、未だ震える指をコンソールに置いたままのナマエを射抜く。
「……艦長。ハ、ハンジさんの実験が少々、その……」
「エルヴィン! 聞いてよ、ナマエが凄かったんだ! 彼女の咄嗟の判断がなけりゃ、今頃この艦の3分の1は宇宙の塵だったよ!」
ハンジの言葉を聞き、エルヴィンはゆっくりとナマエに歩み寄った。ナマエは思わず身を竦める。
「……通信士、ナマエ。君の機転が、この艦の危機を救ったようだな。……見事だ」
エルヴィンは短く告げると、彼女の肩に、一瞬だけ、力強くも温かい掌を置いた。それは、上官としての評価を超えた、確かな「信頼」の重みだった。
その一件以来、ナマエの艦内生活に奇妙な変化が訪れた。 なぜか、エルヴィンと遭遇する確率が異常なまでに跳ね上がったのだ。
ある時は、深夜の自販機コーナーで。
「……こんな時間に珍しいな、ナマエ。水分補給は重要だ」
エルヴィンは、なぜか最高級のブラックコーヒーを二つ買い、一つを無言で彼女に差し出した。
またある時は、図書資料室の狭い棚の影で。
「失礼。……この資料を探していたのか? 君の身長では、少し届きにくい場所だったな」
背後から伸びてきた逞しい腕が、ナマエが求めていたデータチップを軽々と取り出す。密着した背中から伝わる彼の体温に、ナマエの鼓動はエンジンの振動よりも激しく跳ねた。
「……おかしい。あんなに忙しい艦長が、なんでこんな一般区画にばっかり……」
ナマエが廊下で首を傾げた、その直後だった。
「――ナマエ。ちょうどいい、少し話せるか」
角を曲がったところで、またしてもエルヴィンが立っていた。まるで、彼女がここを通るのを秒単位で計算していたかのようなタイミングで。
「か、艦長。……また、お会いしましたね」
「あぁ。偶然、だな。……ところで、今日の食堂の日替わりメニューは、君の好きなオムライスだと聞いたが。……同行しても構わないか?」
「偶然」を装うには、あまりにも真っ直ぐすぎる碧眼。 エルヴィンの不器用な、しかし確実な「ロックオン」に、ナマエは自分がリアクターの臨界よりも危険な状態にあることを、まだ自覚していなかった。
数日後。
銀河の静寂を切り裂くように、母艦の第4回廊でリヴァイの冷徹な声が響いた。
「おい。止まれ、エルヴィン」
角を曲がろうとしていたエルヴィン・スミスが足を止めた。その視線の先には、数秒前に角を曲がっていったナマエの長い髪が微かに揺れていた。
「……何かな、リヴァイ。私は今、次の作戦海域の……」
「作戦海域が、自動販売機の『本日のおすすめ飲料』の隣にあるのか? それとも、さっきの資料室の入り口か?」
リヴァイは腕を組み、三白眼をさらに鋭くしてエルヴィンを見上げた。その手には、消毒液が染み込んだ布が握られている。
「この一時間で、お前がそのガキと『偶然』遭遇したのはこれで5回目だ。確率論を語る前に、お前の行動はもはやストーカー紛いの不審者、あるいは不衛生な粘着質の何かにしか見えんぞ」
エルヴィンは微動だにせず、冷静な表情を崩さない。
「偶然だよ、リヴァイ。私は全艦の状況を把握するために巡回しているだけで……」
「巡回コースに『ナマエの全シフト表』が組み込まれているのはどういう理屈だ? お前が角で待ち伏せしているのを見るたびに、こっちの掃除のやる気が削がれる。空気が淀むんだよ、お前の執着でな」
リヴァイは一歩近づき、エルヴィンの胸元を指差した。
「いいか、エルヴィン。お前は人類の希望だかなんだか知らんが、今はただの『特定の女子隊員を追い回す巨大な害虫』に成り下がっている。ガキが困惑しているのが分からんのか? さっきも自販機の前で、お前にブラックコーヒーを渡されて、あいつは『私、甘いミルクティーが飲みたかったのに……』と小声で溢していたぞ」
「…………。そうだったのか」
エルヴィンが初めて、動揺を隠すように視線を彷徨わせた。
「作戦の詰めは甘いくせに、遭遇のタイミングだけは無駄に正確だ。気色が悪い。次に『偶然』を装ってあいつの3メートル以内に現れたら、お前のその輝かしい金髪に漂白剤をぶっかけてやる」
リヴァイは鼻を鳴らすと、無言で廊下の壁を拭き始めた。 エルヴィンはしばらくその場に佇んでいたが、やがて小さく溜息をつき、ナマエが去っていった方向とは逆の、自身の執務室へと歩き出した。
「リヴァイ。……助言、痛み入る」
「……あぁ? 礼を言う暇があるなら、自分の私室の『不衛生な煩悩』を片付けてから出てこい」
背後から飛んできた毒舌を浴びながら、エルヴィンは密かに決意していた。
(……次は、彼女がミルクティーを買うタイミングを、正確に計算しなければならないな)
反省の方向が絶望的にズレている艦長を背に、リヴァイは再び、艦内の空気の清浄化に勤しむのだった。
「これだよ、これ! 未知の惑星で拾った発光石を、エンジンの増幅器に直接ブチ込んだらどうなるか。……見てよナマエ、出力グラフが銀河の果てまで突き抜けそうだよ!」
「ハンジさん、落ち着いてください! グラフが突き抜けるのは、システムが崩壊する寸前って意味です!」
通信レポートを届けに来ただけのナマエは、目の前の光景に絶叫した。コンソールは警告の赤一色に染まり、中央のリアクターからは、金属を削るような不気味な高周波が漏れ出している。ハンジは興奮のあまり、緊急停止コードさえ聞き取れない状態だ。
「熱い! 美しい! これこそが宇宙の産声……っ!」
「産声じゃなくて断末魔です!……っ、どいてください!」
ナマエは半狂乱のハンジを突き飛ばし、コンソールへ飛びついた。通信士としての聴覚が、リアクターの振動周期と制御プログラムのズレを瞬時に読み取る。
「位相がズレてる……。通信プロトコルを強制介入、このコードで共鳴させて減衰を狙う……。いけっ!」
ナマエの指先が電光石火の速さでキーを叩く。次の瞬間、爆発寸前だったリアクターの咆哮が、嘘のように静かな低音へと変わった。過熱していた区画内に、冷たい冷却ガスがプシュッと噴き出し、沈黙が訪れる。
「……助かった……のか?」
ハンジが呆然と呟いた時、背後の自動ドアが開いた。
「――何事だ。報告しろ」
そこには、騒ぎを聞きつけて駆けつけたエルヴィン・スミスが立っていた。冷徹な碧眼が、未だ震える指をコンソールに置いたままのナマエを射抜く。
「……艦長。ハ、ハンジさんの実験が少々、その……」
「エルヴィン! 聞いてよ、ナマエが凄かったんだ! 彼女の咄嗟の判断がなけりゃ、今頃この艦の3分の1は宇宙の塵だったよ!」
ハンジの言葉を聞き、エルヴィンはゆっくりとナマエに歩み寄った。ナマエは思わず身を竦める。
「……通信士、ナマエ。君の機転が、この艦の危機を救ったようだな。……見事だ」
エルヴィンは短く告げると、彼女の肩に、一瞬だけ、力強くも温かい掌を置いた。それは、上官としての評価を超えた、確かな「信頼」の重みだった。
その一件以来、ナマエの艦内生活に奇妙な変化が訪れた。 なぜか、エルヴィンと遭遇する確率が異常なまでに跳ね上がったのだ。
ある時は、深夜の自販機コーナーで。
「……こんな時間に珍しいな、ナマエ。水分補給は重要だ」
エルヴィンは、なぜか最高級のブラックコーヒーを二つ買い、一つを無言で彼女に差し出した。
またある時は、図書資料室の狭い棚の影で。
「失礼。……この資料を探していたのか? 君の身長では、少し届きにくい場所だったな」
背後から伸びてきた逞しい腕が、ナマエが求めていたデータチップを軽々と取り出す。密着した背中から伝わる彼の体温に、ナマエの鼓動はエンジンの振動よりも激しく跳ねた。
「……おかしい。あんなに忙しい艦長が、なんでこんな一般区画にばっかり……」
ナマエが廊下で首を傾げた、その直後だった。
「――ナマエ。ちょうどいい、少し話せるか」
角を曲がったところで、またしてもエルヴィンが立っていた。まるで、彼女がここを通るのを秒単位で計算していたかのようなタイミングで。
「か、艦長。……また、お会いしましたね」
「あぁ。偶然、だな。……ところで、今日の食堂の日替わりメニューは、君の好きなオムライスだと聞いたが。……同行しても構わないか?」
「偶然」を装うには、あまりにも真っ直ぐすぎる碧眼。 エルヴィンの不器用な、しかし確実な「ロックオン」に、ナマエは自分がリアクターの臨界よりも危険な状態にあることを、まだ自覚していなかった。
数日後。
銀河の静寂を切り裂くように、母艦の第4回廊でリヴァイの冷徹な声が響いた。
「おい。止まれ、エルヴィン」
角を曲がろうとしていたエルヴィン・スミスが足を止めた。その視線の先には、数秒前に角を曲がっていったナマエの長い髪が微かに揺れていた。
「……何かな、リヴァイ。私は今、次の作戦海域の……」
「作戦海域が、自動販売機の『本日のおすすめ飲料』の隣にあるのか? それとも、さっきの資料室の入り口か?」
リヴァイは腕を組み、三白眼をさらに鋭くしてエルヴィンを見上げた。その手には、消毒液が染み込んだ布が握られている。
「この一時間で、お前がそのガキと『偶然』遭遇したのはこれで5回目だ。確率論を語る前に、お前の行動はもはやストーカー紛いの不審者、あるいは不衛生な粘着質の何かにしか見えんぞ」
エルヴィンは微動だにせず、冷静な表情を崩さない。
「偶然だよ、リヴァイ。私は全艦の状況を把握するために巡回しているだけで……」
「巡回コースに『ナマエの全シフト表』が組み込まれているのはどういう理屈だ? お前が角で待ち伏せしているのを見るたびに、こっちの掃除のやる気が削がれる。空気が淀むんだよ、お前の執着でな」
リヴァイは一歩近づき、エルヴィンの胸元を指差した。
「いいか、エルヴィン。お前は人類の希望だかなんだか知らんが、今はただの『特定の女子隊員を追い回す巨大な害虫』に成り下がっている。ガキが困惑しているのが分からんのか? さっきも自販機の前で、お前にブラックコーヒーを渡されて、あいつは『私、甘いミルクティーが飲みたかったのに……』と小声で溢していたぞ」
「…………。そうだったのか」
エルヴィンが初めて、動揺を隠すように視線を彷徨わせた。
「作戦の詰めは甘いくせに、遭遇のタイミングだけは無駄に正確だ。気色が悪い。次に『偶然』を装ってあいつの3メートル以内に現れたら、お前のその輝かしい金髪に漂白剤をぶっかけてやる」
リヴァイは鼻を鳴らすと、無言で廊下の壁を拭き始めた。 エルヴィンはしばらくその場に佇んでいたが、やがて小さく溜息をつき、ナマエが去っていった方向とは逆の、自身の執務室へと歩き出した。
「リヴァイ。……助言、痛み入る」
「……あぁ? 礼を言う暇があるなら、自分の私室の『不衛生な煩悩』を片付けてから出てこい」
背後から飛んできた毒舌を浴びながら、エルヴィンは密かに決意していた。
(……次は、彼女がミルクティーを買うタイミングを、正確に計算しなければならないな)
反省の方向が絶望的にズレている艦長を背に、リヴァイは再び、艦内の空気の清浄化に勤しむのだった。
