Chapter 3 ⛧光ある場所へ
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死の淵から生還した『ウィングス・オブ・リバティ号』の医療センターには、静謐な時間が流れていた。 滅菌された空気の匂いと、精密機器が刻む規則的なリズム。集中治療室のベッドに横たわるエルヴィン・スミスは、繋がれた点滴の管も厭わず、隣の椅子で自分の手を握りしめたまま眠るナマエを見つめていた。
ポッドの中での、あの凍えるような絶望。 彼女の命を繋ぐために、自分の酸素を、そして未来を差し出した瞬間の、不思議なほどの心の平穏。 エルヴィンは、生き延びたことに安堵すると同時に、自分の中に起きた決定的な変革を噛みしめていた。
「……ん、……エルヴィン、さん?」
ナマエがゆっくりと瞼を持ち上げる。焦茶色の瞳に、意識の戻ったエルヴィンの碧眼が映り込み、彼女の顔にぱあっと花が咲くような喜びが広がった。
「起きてしまったか。……済まない、もう少し眠っていてよかったのに」
「いいえ! 夢じゃないんですよね……本当に、戻ってこれたんですね」
ナマエは堪らず、彼の大きな掌を自分の頬に擦り寄せた。その温もりに、エルヴィンは目を細める。彼は震える指先でナマエの髪を掬い上げ、銀河の果てまで逃さないと言わんばかりの熱い視線を向けた。
「ナマエ。……私はこれまで、この世界の真実を暴くこと、それだけを唯一の目的として生きてきた。そのためには、自分を含めた何千もの命を天秤にかけることも厭わなかった。それが私の宿命だと思っていたんだ」
「……はい」
「だが、あの暗闇の中で君を抱きしめた時、初めて気づいた。……君のいない世界で真実を見つけたところで、そこに何の意味があるのかと。……今までは真実のためだけに突き進んできたが、これからは君を守るために、私は進もう。君が笑い、君が息づくこの世界を守ること。それが、私の新たな『進路』だ」
重厚な、魂の告白。 エルヴィンの声には、一介の通信士に向けたものとは思えないほど、重苦しく、そして狂おしいほどの情熱が込められていた。ナマエは彼の胸に顔を埋め、静かに涙を流した。冷徹な艦長の「進め」という号令が、今、自分という一人の女性のための愛の言葉へと昇華した瞬間だった。
数日後、艦内はかつてないほどの熱気に包まれていた。 絶望的な状況からの生還、そして艦長と通信士の救出。これを祝わないわけにはいかないと、副長のリヴァイや科学主任のハンジが中心となり、メイン食堂を解放しての大規模なパーティーが開催されたのだ。
「おい、こら。そこ、油を零すな。床を磨き直す羽目になるだろうが」
リヴァイは、いつも通り掃除の不備に目を光らせながらも、手には高級なシャンパングラスを握っていた。彼の宇宙服は相変わらずピカピカに磨き上げられ、パーティーの華やかな照明を眩しく反射している。
「いいじゃないか、リヴァイ! 今日はお祭りなんだから! 見てよ、この宇宙食を改造した特製ケーキ。未知の惑星の果実を使ったから、食べた後に口から火が出るかもしれないけどね!」
「……毒を出すな、クソメガネ」
ハンジの狂騒を冷ややかな一言で切り捨てながらも、リヴァイの視線は会場の隅へと向けられた。 そこには、正装したエルヴィンと、彼に寄り添うように立つナマエの姿があった。
エルヴィンは漆黒の式典用礼服に身を包み、その圧倒的な存在感で会場を威圧……もとい、魅了していた。だが、彼の視線は、一秒たりとも隣のナマエから離れることはない。
ナマエは、ハンジがどこからか調達してきたという、星屑のようなラメが散りばめられた深い紺色のドレスを纏っていた。黒髪は美しく結い上げられ、その艶やかさがエルヴィンの独占欲を激しく刺激しているようだった。
「艦長、少し飲みすぎですよ。顔が赤いです」
ナマエがクスクスと笑いながら、彼の手からグラスを取り上げようとする。だが、エルヴィンはその手を逆に捕らえ、指先を絡ませて引き寄せた。
「構わない。……君に酔っているだけだ」
「……っ、もう。公衆の面前ですよ、エルヴィンさん」
頬を赤らめるナマエ。その睦まじい様子を、逃さず観察していた影があった。
「やあやあ、愛の逃避行から戻った英雄カップル! ご馳走様だねぇ、当てられちゃうよ」
ハンジが、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべて二人の間に割って入った。その手には、怪しげな録音端末が握られている。
「ハンジさん、茶化すのはやめてくださいっ」
ナマエが困ったように笑うと、ハンジはさらに調子に乗った。
「いやぁ、実を言うとね。あの小型艇が切り離された時の通信、微かにブリッジのバックアップに残ってたんだよ。『君だけは必ず帰す』とか、なんとか……。あれ、全艦放送で流しちゃおうかな? 艦長の甘〜い愛の囁き、みんな聞きたいだろうしね!」
その瞬間、パーティー会場の空気が一変した。 エルヴィンの碧眼から、優しさが一瞬で霧散し、戦場での「非情な指揮官」の鋭さが戻った。
「ハンジ。……今、何と言った?」
「えっ、あ、いや……冗談だよ、冗談! そんな怖い顔しな――」
「リヴァイ」
エルヴィンは背後の副長を呼び、凍りつくような声で命じた。
「今すぐ第1通信アーカイブの全データを精査しろ。小型艇切り離し前後、十時間の通信記録を完全にフォーマットしろ。一文字、一デシベルの音声も残すな」
「……はぁ? 記録は任務の証だろうが。なんでそんなことを……」
「艦長命令だ。……私の、プライバシーに関わる。今すぐにだ。削除命令を出す。リヴァイ、進め」
「チッ……独占欲の塊が。勝手にしろ、クソ艦長」
リヴァイは呆れ果てた様子で、端末を操作しながらブリッジへと向かった。 ハンジは「えぇー! 科学的資料としての価値がぁー!」と叫びながら、エルヴィンの放つ「絶対に聞かせない」という執念のオーラに押され、そそくさと退散していった。
静寂が訪れた会場の片隅で、ナマエは顔を真っ赤にして彼を見上げた。
「……エルヴィンさん、やりすぎです。そこまでしなくても」
「……いいや、足りないくらいだ」
エルヴィンは、彼女の耳元に唇を寄せ、周囲には聞こえないほど低い、しかし熱を帯びた声で囁いた。
「あの時の私の声も、君が流した涙も、私が君を愛していると認めたあの瞬間の空気も……すべて、私だけのものだ。他の誰の記憶にも残したくない。……君の耳と、私の心の中だけでいいんだ」
その独占欲の重さに、ナマエは眩暈を覚えた。 冷徹な指揮官。人類の希望。 その正体は、愛する女性のためなら歴史の記録さえも消し去ろうとする、あまりにも愛の重い、一人の男だった。
「……わかりました。でも、私の記憶からは、絶対に消さないでくださいね」
ナマエが優しく微笑み、彼の胸に寄り添う。 エルヴィンは満足げに、そして今度こそ離さないという強い意志を込めて、彼女を力強く抱きしめた。
祝祭の夜は更けていく。 しかし、二人の真の航海は、ここから始まろうとしていた。 真実という名の空虚な星ではなく、愛という名の確かな熱を求めて。
ポッドの中での、あの凍えるような絶望。 彼女の命を繋ぐために、自分の酸素を、そして未来を差し出した瞬間の、不思議なほどの心の平穏。 エルヴィンは、生き延びたことに安堵すると同時に、自分の中に起きた決定的な変革を噛みしめていた。
「……ん、……エルヴィン、さん?」
ナマエがゆっくりと瞼を持ち上げる。焦茶色の瞳に、意識の戻ったエルヴィンの碧眼が映り込み、彼女の顔にぱあっと花が咲くような喜びが広がった。
「起きてしまったか。……済まない、もう少し眠っていてよかったのに」
「いいえ! 夢じゃないんですよね……本当に、戻ってこれたんですね」
ナマエは堪らず、彼の大きな掌を自分の頬に擦り寄せた。その温もりに、エルヴィンは目を細める。彼は震える指先でナマエの髪を掬い上げ、銀河の果てまで逃さないと言わんばかりの熱い視線を向けた。
「ナマエ。……私はこれまで、この世界の真実を暴くこと、それだけを唯一の目的として生きてきた。そのためには、自分を含めた何千もの命を天秤にかけることも厭わなかった。それが私の宿命だと思っていたんだ」
「……はい」
「だが、あの暗闇の中で君を抱きしめた時、初めて気づいた。……君のいない世界で真実を見つけたところで、そこに何の意味があるのかと。……今までは真実のためだけに突き進んできたが、これからは君を守るために、私は進もう。君が笑い、君が息づくこの世界を守ること。それが、私の新たな『進路』だ」
重厚な、魂の告白。 エルヴィンの声には、一介の通信士に向けたものとは思えないほど、重苦しく、そして狂おしいほどの情熱が込められていた。ナマエは彼の胸に顔を埋め、静かに涙を流した。冷徹な艦長の「進め」という号令が、今、自分という一人の女性のための愛の言葉へと昇華した瞬間だった。
数日後、艦内はかつてないほどの熱気に包まれていた。 絶望的な状況からの生還、そして艦長と通信士の救出。これを祝わないわけにはいかないと、副長のリヴァイや科学主任のハンジが中心となり、メイン食堂を解放しての大規模なパーティーが開催されたのだ。
「おい、こら。そこ、油を零すな。床を磨き直す羽目になるだろうが」
リヴァイは、いつも通り掃除の不備に目を光らせながらも、手には高級なシャンパングラスを握っていた。彼の宇宙服は相変わらずピカピカに磨き上げられ、パーティーの華やかな照明を眩しく反射している。
「いいじゃないか、リヴァイ! 今日はお祭りなんだから! 見てよ、この宇宙食を改造した特製ケーキ。未知の惑星の果実を使ったから、食べた後に口から火が出るかもしれないけどね!」
「……毒を出すな、クソメガネ」
ハンジの狂騒を冷ややかな一言で切り捨てながらも、リヴァイの視線は会場の隅へと向けられた。 そこには、正装したエルヴィンと、彼に寄り添うように立つナマエの姿があった。
エルヴィンは漆黒の式典用礼服に身を包み、その圧倒的な存在感で会場を威圧……もとい、魅了していた。だが、彼の視線は、一秒たりとも隣のナマエから離れることはない。
ナマエは、ハンジがどこからか調達してきたという、星屑のようなラメが散りばめられた深い紺色のドレスを纏っていた。黒髪は美しく結い上げられ、その艶やかさがエルヴィンの独占欲を激しく刺激しているようだった。
「艦長、少し飲みすぎですよ。顔が赤いです」
ナマエがクスクスと笑いながら、彼の手からグラスを取り上げようとする。だが、エルヴィンはその手を逆に捕らえ、指先を絡ませて引き寄せた。
「構わない。……君に酔っているだけだ」
「……っ、もう。公衆の面前ですよ、エルヴィンさん」
頬を赤らめるナマエ。その睦まじい様子を、逃さず観察していた影があった。
「やあやあ、愛の逃避行から戻った英雄カップル! ご馳走様だねぇ、当てられちゃうよ」
ハンジが、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべて二人の間に割って入った。その手には、怪しげな録音端末が握られている。
「ハンジさん、茶化すのはやめてくださいっ」
ナマエが困ったように笑うと、ハンジはさらに調子に乗った。
「いやぁ、実を言うとね。あの小型艇が切り離された時の通信、微かにブリッジのバックアップに残ってたんだよ。『君だけは必ず帰す』とか、なんとか……。あれ、全艦放送で流しちゃおうかな? 艦長の甘〜い愛の囁き、みんな聞きたいだろうしね!」
その瞬間、パーティー会場の空気が一変した。 エルヴィンの碧眼から、優しさが一瞬で霧散し、戦場での「非情な指揮官」の鋭さが戻った。
「ハンジ。……今、何と言った?」
「えっ、あ、いや……冗談だよ、冗談! そんな怖い顔しな――」
「リヴァイ」
エルヴィンは背後の副長を呼び、凍りつくような声で命じた。
「今すぐ第1通信アーカイブの全データを精査しろ。小型艇切り離し前後、十時間の通信記録を完全にフォーマットしろ。一文字、一デシベルの音声も残すな」
「……はぁ? 記録は任務の証だろうが。なんでそんなことを……」
「艦長命令だ。……私の、プライバシーに関わる。今すぐにだ。削除命令を出す。リヴァイ、進め」
「チッ……独占欲の塊が。勝手にしろ、クソ艦長」
リヴァイは呆れ果てた様子で、端末を操作しながらブリッジへと向かった。 ハンジは「えぇー! 科学的資料としての価値がぁー!」と叫びながら、エルヴィンの放つ「絶対に聞かせない」という執念のオーラに押され、そそくさと退散していった。
静寂が訪れた会場の片隅で、ナマエは顔を真っ赤にして彼を見上げた。
「……エルヴィンさん、やりすぎです。そこまでしなくても」
「……いいや、足りないくらいだ」
エルヴィンは、彼女の耳元に唇を寄せ、周囲には聞こえないほど低い、しかし熱を帯びた声で囁いた。
「あの時の私の声も、君が流した涙も、私が君を愛していると認めたあの瞬間の空気も……すべて、私だけのものだ。他の誰の記憶にも残したくない。……君の耳と、私の心の中だけでいいんだ」
その独占欲の重さに、ナマエは眩暈を覚えた。 冷徹な指揮官。人類の希望。 その正体は、愛する女性のためなら歴史の記録さえも消し去ろうとする、あまりにも愛の重い、一人の男だった。
「……わかりました。でも、私の記憶からは、絶対に消さないでくださいね」
ナマエが優しく微笑み、彼の胸に寄り添う。 エルヴィンは満足げに、そして今度こそ離さないという強い意志を込めて、彼女を力強く抱きしめた。
祝祭の夜は更けていく。 しかし、二人の真の航海は、ここから始まろうとしていた。 真実という名の空虚な星ではなく、愛という名の確かな熱を求めて。
