Chapter 3 ⛧光ある場所へ
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観測デッキでの誓いから三ヶ月後。ブリッジに流れる空気は、表面上は以前と変わらぬ規律に満ちていた。しかし、エルヴィンとナマエの間には、当人たちにしか解らぬ、絹糸のように細く、それでいて鋼よりも強靭な熱が通っていた。
ふとした瞬間に重なる視線。報告書を受け取る際に触れ合う指先。そこから伝わる拍動。冷徹な指揮官の瞳に、自分だけに向けられる深い慈しみを見つけるたび、ナマエの胸の奥は甘い痺れに包まれる。
だが、銀河は二人の幸福を静かに見守るほど優しくはなかった。
「――艦長! 第3宙域から未確認艦隊が急速接近! 識別信号、拒絶! 戦闘態勢に入ります!」
ナマエの悲鳴に近い報告が、ブリッジの平穏を粉砕した。 瞬時に、指揮官の顔へと戻るエルヴィン。その碧眼は鋭いナイフのように研ぎ澄まされ、私的な情愛を鋼の意志で奥底へ押し込める。
「総員、第一種戦闘配備。シールド出力を最大に。リヴァイ、空間機動部隊を出撃させろ!」
「言われなくても準備はできてる。おいクソメガネ、動力系のバックアップを忘れるなよ」
「わかってるって! ああ、あんな美しい曲線美の戦艦を壊すなんて勿体ないけど、背に腹は代えられないね!」
ハンジの狂気交じりの叫びと同時に、艦体は激しい衝撃に襲われた。敵艦隊からの重粒子砲が、シールドを激しく削っていく。ブリッジの照明が明滅し、焦げた回路の臭いが立ち込めた。
「敵の波長を解析……ノイズが酷すぎます! でも、聴こえる……。艦長、敵は三方向からの包囲陣形を敷いています。隙間は……左舷後方、デブリ帯の影!」
ナマエは震える指先でコンソールを叩き、情報の奔流を捌いていく。エルヴィンは彼女の報告を即座に戦術へと昇華させた。
「デブリ帯へ全速。リヴァイ、敵の追撃を振り切れ」
「了解だ。……ナマエ、お前は死ぬ気でその声を繋ぎ止めとけ。お前の声が途切れた時が、この艦の最期だ」
リヴァイの冷徹な、しかし確かな信頼を含んだ言葉に、ナマエは「はい!」と力強く応じた。 しかし、敵の数は圧倒的だった。数時間に及ぶ激戦。艦の装甲は限界を超え、生命維持装置にも異常が出始める。
「――もはや、通常の航行では逃げ切れないな」
エルヴィンが苦渋の決断を下す。その視線は、通信士席で必死に耐えるナマエに向けられた。
「これより『超空間跳躍(ハイパースペース・ジャンプ)』を敢行する。ただし、この損傷状態だ。成功率は五割を切るだろう」
ブリッジに戦慄が走る。跳躍の失敗は、銀河の塵になることを意味していた。 エルヴィンは席を立ち、ナマエの元へ歩み寄った。彼は周囲の目を憚ることなく、彼女の肩を強く、痛いほどに掴んだ。
「ナマエ。君の声を、真実へと続く道標にする。……信じているよ」
「……はい、エルヴィン艦長。どこまでも、お供します」
エルヴィンはわずかに目を見開いた後、満足げな、そして狂おしいほどの独占欲を孕んだ笑みを浮かべた。
「全軍、跳躍準備。カウント開始!」
ナマエの声がブリッジに響き渡る。 「3、2、1……ジャンプ!!」
世界が引き絞られるような、凄まじい重力加速度。 視界が白濁し、すべての感覚が摩滅していく。艦全体を襲う、これまで経験したことのない異常な振動。金属が軋み、千切れる音が鼓膜を打つ。
その時、轟音と共にブリッジ後方で爆発が起きた。
「――っ! ナマエ!!」
エルヴィンの叫びが、次元の裂け目に消える。 跳躍の衝撃と構造的欠陥が重なり、ブリッジの一部が物理的に分断された。ナマエの座るコンソールを含むブロックが、緊急脱出用の小型艇を巻き込む形で、母艦から強制的に切り離されてしまったのだ。
「艦長! 切り離されたブロックにナマエさんが――!」
「わかっている!!」
エルヴィンは反射的に動いていた。 彼は指揮官としての理性をかなぐり捨て、分断される寸前の隔壁を強引に潜り抜け、ナマエがいる小型艇へと飛び込んだ。
「エルヴィンさん!? どうして……艦長がここに来ては……!」
「黙っていろ。……君を一人で行かせるわけがないだろう」
エルヴィンがナマエを抱き寄せた瞬間、小型艇は激しい衝撃と共に母艦から放り出された。窓の外に見えるのは、跳躍の余波で歪んだ虹色の空間と、次第に遠ざかっていく『ウィングス・オブ・リバティ号』の影。
やがて、衝撃は収まり、不気味なほどの静寂が訪れた。 狭い小型艇の内部で、重なり合う二人の呼吸音だけが聞こえる。 計器類は死に絶え、非常灯の薄暗い赤が、エルヴィンの険しい顔を照らし出していた。
「……ここは……」
「跳躍は成功したようだ。だが、母艦とははぐれた。そして……」
エルヴィンがコンソールを確認し、言葉を濁した。 その碧眼に宿る、かつてないほどの焦燥と、ナマエに対する重苦しいほどの愛着。
「……動力系が死んでいる。酸素供給も、長くは持たないだろう」
死の宣告。しかし、エルヴィンはナマエを抱きしめる腕の力を緩めなかった。むしろ、逃がさないと言わんばかりに、その体温を確かめるように強く、深く。
「怖いか、ナマエ」
「いいえ。……あなたが、隣にいてくださるから」
ナマエは彼の胸に顔を埋めた。 暗く冷たい宇宙の片隅、漂流する小さな揺り籠の中で、二人の命の炎だけが、静かに、しかし激しく燃え上がっていた。
ふとした瞬間に重なる視線。報告書を受け取る際に触れ合う指先。そこから伝わる拍動。冷徹な指揮官の瞳に、自分だけに向けられる深い慈しみを見つけるたび、ナマエの胸の奥は甘い痺れに包まれる。
だが、銀河は二人の幸福を静かに見守るほど優しくはなかった。
「――艦長! 第3宙域から未確認艦隊が急速接近! 識別信号、拒絶! 戦闘態勢に入ります!」
ナマエの悲鳴に近い報告が、ブリッジの平穏を粉砕した。 瞬時に、指揮官の顔へと戻るエルヴィン。その碧眼は鋭いナイフのように研ぎ澄まされ、私的な情愛を鋼の意志で奥底へ押し込める。
「総員、第一種戦闘配備。シールド出力を最大に。リヴァイ、空間機動部隊を出撃させろ!」
「言われなくても準備はできてる。おいクソメガネ、動力系のバックアップを忘れるなよ」
「わかってるって! ああ、あんな美しい曲線美の戦艦を壊すなんて勿体ないけど、背に腹は代えられないね!」
ハンジの狂気交じりの叫びと同時に、艦体は激しい衝撃に襲われた。敵艦隊からの重粒子砲が、シールドを激しく削っていく。ブリッジの照明が明滅し、焦げた回路の臭いが立ち込めた。
「敵の波長を解析……ノイズが酷すぎます! でも、聴こえる……。艦長、敵は三方向からの包囲陣形を敷いています。隙間は……左舷後方、デブリ帯の影!」
ナマエは震える指先でコンソールを叩き、情報の奔流を捌いていく。エルヴィンは彼女の報告を即座に戦術へと昇華させた。
「デブリ帯へ全速。リヴァイ、敵の追撃を振り切れ」
「了解だ。……ナマエ、お前は死ぬ気でその声を繋ぎ止めとけ。お前の声が途切れた時が、この艦の最期だ」
リヴァイの冷徹な、しかし確かな信頼を含んだ言葉に、ナマエは「はい!」と力強く応じた。 しかし、敵の数は圧倒的だった。数時間に及ぶ激戦。艦の装甲は限界を超え、生命維持装置にも異常が出始める。
「――もはや、通常の航行では逃げ切れないな」
エルヴィンが苦渋の決断を下す。その視線は、通信士席で必死に耐えるナマエに向けられた。
「これより『超空間跳躍(ハイパースペース・ジャンプ)』を敢行する。ただし、この損傷状態だ。成功率は五割を切るだろう」
ブリッジに戦慄が走る。跳躍の失敗は、銀河の塵になることを意味していた。 エルヴィンは席を立ち、ナマエの元へ歩み寄った。彼は周囲の目を憚ることなく、彼女の肩を強く、痛いほどに掴んだ。
「ナマエ。君の声を、真実へと続く道標にする。……信じているよ」
「……はい、エルヴィン艦長。どこまでも、お供します」
エルヴィンはわずかに目を見開いた後、満足げな、そして狂おしいほどの独占欲を孕んだ笑みを浮かべた。
「全軍、跳躍準備。カウント開始!」
ナマエの声がブリッジに響き渡る。 「3、2、1……ジャンプ!!」
世界が引き絞られるような、凄まじい重力加速度。 視界が白濁し、すべての感覚が摩滅していく。艦全体を襲う、これまで経験したことのない異常な振動。金属が軋み、千切れる音が鼓膜を打つ。
その時、轟音と共にブリッジ後方で爆発が起きた。
「――っ! ナマエ!!」
エルヴィンの叫びが、次元の裂け目に消える。 跳躍の衝撃と構造的欠陥が重なり、ブリッジの一部が物理的に分断された。ナマエの座るコンソールを含むブロックが、緊急脱出用の小型艇を巻き込む形で、母艦から強制的に切り離されてしまったのだ。
「艦長! 切り離されたブロックにナマエさんが――!」
「わかっている!!」
エルヴィンは反射的に動いていた。 彼は指揮官としての理性をかなぐり捨て、分断される寸前の隔壁を強引に潜り抜け、ナマエがいる小型艇へと飛び込んだ。
「エルヴィンさん!? どうして……艦長がここに来ては……!」
「黙っていろ。……君を一人で行かせるわけがないだろう」
エルヴィンがナマエを抱き寄せた瞬間、小型艇は激しい衝撃と共に母艦から放り出された。窓の外に見えるのは、跳躍の余波で歪んだ虹色の空間と、次第に遠ざかっていく『ウィングス・オブ・リバティ号』の影。
やがて、衝撃は収まり、不気味なほどの静寂が訪れた。 狭い小型艇の内部で、重なり合う二人の呼吸音だけが聞こえる。 計器類は死に絶え、非常灯の薄暗い赤が、エルヴィンの険しい顔を照らし出していた。
「……ここは……」
「跳躍は成功したようだ。だが、母艦とははぐれた。そして……」
エルヴィンがコンソールを確認し、言葉を濁した。 その碧眼に宿る、かつてないほどの焦燥と、ナマエに対する重苦しいほどの愛着。
「……動力系が死んでいる。酸素供給も、長くは持たないだろう」
死の宣告。しかし、エルヴィンはナマエを抱きしめる腕の力を緩めなかった。むしろ、逃がさないと言わんばかりに、その体温を確かめるように強く、深く。
「怖いか、ナマエ」
「いいえ。……あなたが、隣にいてくださるから」
ナマエは彼の胸に顔を埋めた。 暗く冷たい宇宙の片隅、漂流する小さな揺り籠の中で、二人の命の炎だけが、静かに、しかし激しく燃え上がっていた。
