Chapter 3 ⛧光ある場所へ
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磁気嵐の熱狂が去り、物理的な拘束から解放されたはずの二人の間には、以前よりもずっと強固で、目に見えない引力が生じていた。
艦内時間が深夜を指し、人工的な静寂が通路を包む頃。ナマエは、最上層にある観測デッキへと足を運んだ。透明な強化樹脂の向こう側には、吸い込まれるような真珠の輝きを放つ星々が、漆黒の天鵞絨に散りばめられている。
その星の海を独り、背を向けて見つめる影があった。広い肩幅を包む軍服が、星の光を反射して微かに青白く光っている。エルヴィン・スミスだ。
「……艦長」
ナマエが静かに声をかけると、エルヴィンは振り返らずに、ただ低く、落ち着いた声で応じた。
「ナマエか。……磁気の影響で、機器の調整に追われていたのではないか」
「一通り終わりました。……艦長こそ、また夜更かしですか?」
ナマエが隣に並び、ガラス越しに遠くの銀河を見つめる。 エルヴィンの横顔は、彫刻のように美しく、そしてどこまでも孤独だった。彼が背負っているのは、この巨大な艦の指揮権だけではない。人類の未来、そしてこれまでの航海で失われてきた、数え切れないほどの命の重みだ。
「……美しいな。だが、この輝きの一つ一つが、どれほど冷酷な現実を秘めているかを、私は知っている」
エルヴィンの碧眼が、暗い深淵を見つめたまま細められる。
「私は、この艦をここまで導くために、多くの仲間を死なせてきた。私の『進め』という号令一つで、未来のあった若者たちが虚空へと消えていった。……彼らの叫びが、今もこの耳の奥で鳴り止まないのだよ」
「……」
「私のような男に、星を愛でる資格などない。ましてや、個人的な幸福を享受する資格など、あるはずがないのだ。……私はただ、真実という名の地獄へ向かって、死者たちの背中を押し続けるだけの装置であればいい」
自嘲気味に紡がれた言葉。それは、彼が自分自身に課した、あまりにも残酷な罰だった。 冷徹なリーダーという仮面の下に隠された、血を流し続ける傷口。エルヴィンは、自分を愛することさえ自分に禁じている。
ナマエの胸が、締め付けられるような痛みで溢れた。 相手の感情の機微を敏感に察知する彼女には、彼の発する絶望の臭いが痛いほど分かった。だが、彼女はそれ以上に、彼の中にある「生きたい」という微かな、しかし消えない熱を信じていた。
「艦長」
ナマエはエルヴィンの正面に回り込み、その大きな、冷え切った掌を、両手で包み込んだ。 エルヴィンが驚いたように眉を上げる。
「私は、艦長の言う『地獄』なんて知りません。軍人としての覚悟も、あなたには及ばないかもしれない。……でも、一つだけ確信していることがあります」
ナマエは、焦茶色の瞳に意志の光を宿し、真っ直ぐに彼の碧眼を射抜いた。 その表情は、ブリッジを明るく照らすいつもの太陽そのものだった。
「幸せになる資格がないなんて、そんなの、誰が決めたんですか? もし、過去の犠牲があなたの幸せを許さないというのなら……私が、艦長を幸せにする『義務』を背負います!」
「義務……だと?」
「そうです! ポジティブ全開で、逃げられないくらいにあなたを幸せにして差し上げます。あなたが自分の罪を数える暇もないくらいに、明日の楽しみを詰め込んであげます。……それが、私の新しい『任務』です。文句は受け付けません!」
曇りのない、真っ直ぐな宣言。 エルヴィンの瞳が大きく見開かれた。 これまで彼に向けられてきたのは、心臓を捧げるという忠誠か、あるいはその非情さへの畏怖だった。 だが、この女性は、彼の「罪」さえもひっくるめて、幸福という名の戦場へ自分を連れて行こうとしている。
沈黙がデッキを支配する。 遠くで、エンジンの微かな振動だけが伝わってくる。 エルヴィンの碧眼が、次第に潤みを帯び、そして熱い独占欲と情熱へと塗り替えられていった。
「……君という人は、本当に……」
エルヴィンが、溜息のような笑い声を漏らした。 次の瞬間、ナマエの視界が反転した。 強靭な腕が彼女の腰を引き寄せ、逃げ場のない鉄の檻のように閉じ込める。 エルヴィンの身体が、覆い被さるように彼女を包み込んだ。
「……後悔しても、もう遅いぞ。ナマエ」
掠れた低い声が、ナマエの鼓膜を震わせる。
「君が私の幸せを義務だと言うのなら……私は、君を一生、私の傍から解放しない義務を遂行しよう。君の明るさも、その声も、その魂も……すべて、私の孤独を埋めるための糧にさせてもらう」
エルヴィンの顔が近づく。ナマエが息を呑む暇もなく、熱い唇が重ねられた。 それは、これまで耐えてきた渇きを癒そうとするような、激しく、深い口づけだった。 エルヴィンの舌先がナマエの唇を割り、内側の柔らかな粘膜を執拗に撫で上げる。彼の大きな掌が、ナマエの後頭部をしっかりと固定し、一滴の吐息さえも逃さないと言わんばかりに深く、深く。
星の海が回る。ナマエは彼の制服の胸元をぎゅっと掴み、抗えない愛の重さに身を委ねた。 冷徹な指揮官の仮面は完全に砕け散り、そこにはただ、一人の女性を狂おしいほどに欲する、飢えた男がいた。
「……ナマエ。私の光だ……」
唇が離れた瞬間、 エルヴィンは彼女を抱きしめたまま、その肩口に顔を埋めた。 彼の震えるような呼吸が、ナマエの肌に伝わってくる。
「誓うよ。君を幸せにするためなら、私は神にさえ背こう。……君を、二度と離さない」
暗い宇宙の片隅、観測デッキの片隅で。 孤独な王は、ついに自分自身の太陽を手に入れた。 それは、人類の勝利よりもずっと個人的で、ずっと重く、そして何よりも甘い、救済の始まりだった。
艦内時間が深夜を指し、人工的な静寂が通路を包む頃。ナマエは、最上層にある観測デッキへと足を運んだ。透明な強化樹脂の向こう側には、吸い込まれるような真珠の輝きを放つ星々が、漆黒の天鵞絨に散りばめられている。
その星の海を独り、背を向けて見つめる影があった。広い肩幅を包む軍服が、星の光を反射して微かに青白く光っている。エルヴィン・スミスだ。
「……艦長」
ナマエが静かに声をかけると、エルヴィンは振り返らずに、ただ低く、落ち着いた声で応じた。
「ナマエか。……磁気の影響で、機器の調整に追われていたのではないか」
「一通り終わりました。……艦長こそ、また夜更かしですか?」
ナマエが隣に並び、ガラス越しに遠くの銀河を見つめる。 エルヴィンの横顔は、彫刻のように美しく、そしてどこまでも孤独だった。彼が背負っているのは、この巨大な艦の指揮権だけではない。人類の未来、そしてこれまでの航海で失われてきた、数え切れないほどの命の重みだ。
「……美しいな。だが、この輝きの一つ一つが、どれほど冷酷な現実を秘めているかを、私は知っている」
エルヴィンの碧眼が、暗い深淵を見つめたまま細められる。
「私は、この艦をここまで導くために、多くの仲間を死なせてきた。私の『進め』という号令一つで、未来のあった若者たちが虚空へと消えていった。……彼らの叫びが、今もこの耳の奥で鳴り止まないのだよ」
「……」
「私のような男に、星を愛でる資格などない。ましてや、個人的な幸福を享受する資格など、あるはずがないのだ。……私はただ、真実という名の地獄へ向かって、死者たちの背中を押し続けるだけの装置であればいい」
自嘲気味に紡がれた言葉。それは、彼が自分自身に課した、あまりにも残酷な罰だった。 冷徹なリーダーという仮面の下に隠された、血を流し続ける傷口。エルヴィンは、自分を愛することさえ自分に禁じている。
ナマエの胸が、締め付けられるような痛みで溢れた。 相手の感情の機微を敏感に察知する彼女には、彼の発する絶望の臭いが痛いほど分かった。だが、彼女はそれ以上に、彼の中にある「生きたい」という微かな、しかし消えない熱を信じていた。
「艦長」
ナマエはエルヴィンの正面に回り込み、その大きな、冷え切った掌を、両手で包み込んだ。 エルヴィンが驚いたように眉を上げる。
「私は、艦長の言う『地獄』なんて知りません。軍人としての覚悟も、あなたには及ばないかもしれない。……でも、一つだけ確信していることがあります」
ナマエは、焦茶色の瞳に意志の光を宿し、真っ直ぐに彼の碧眼を射抜いた。 その表情は、ブリッジを明るく照らすいつもの太陽そのものだった。
「幸せになる資格がないなんて、そんなの、誰が決めたんですか? もし、過去の犠牲があなたの幸せを許さないというのなら……私が、艦長を幸せにする『義務』を背負います!」
「義務……だと?」
「そうです! ポジティブ全開で、逃げられないくらいにあなたを幸せにして差し上げます。あなたが自分の罪を数える暇もないくらいに、明日の楽しみを詰め込んであげます。……それが、私の新しい『任務』です。文句は受け付けません!」
曇りのない、真っ直ぐな宣言。 エルヴィンの瞳が大きく見開かれた。 これまで彼に向けられてきたのは、心臓を捧げるという忠誠か、あるいはその非情さへの畏怖だった。 だが、この女性は、彼の「罪」さえもひっくるめて、幸福という名の戦場へ自分を連れて行こうとしている。
沈黙がデッキを支配する。 遠くで、エンジンの微かな振動だけが伝わってくる。 エルヴィンの碧眼が、次第に潤みを帯び、そして熱い独占欲と情熱へと塗り替えられていった。
「……君という人は、本当に……」
エルヴィンが、溜息のような笑い声を漏らした。 次の瞬間、ナマエの視界が反転した。 強靭な腕が彼女の腰を引き寄せ、逃げ場のない鉄の檻のように閉じ込める。 エルヴィンの身体が、覆い被さるように彼女を包み込んだ。
「……後悔しても、もう遅いぞ。ナマエ」
掠れた低い声が、ナマエの鼓膜を震わせる。
「君が私の幸せを義務だと言うのなら……私は、君を一生、私の傍から解放しない義務を遂行しよう。君の明るさも、その声も、その魂も……すべて、私の孤独を埋めるための糧にさせてもらう」
エルヴィンの顔が近づく。ナマエが息を呑む暇もなく、熱い唇が重ねられた。 それは、これまで耐えてきた渇きを癒そうとするような、激しく、深い口づけだった。 エルヴィンの舌先がナマエの唇を割り、内側の柔らかな粘膜を執拗に撫で上げる。彼の大きな掌が、ナマエの後頭部をしっかりと固定し、一滴の吐息さえも逃さないと言わんばかりに深く、深く。
星の海が回る。ナマエは彼の制服の胸元をぎゅっと掴み、抗えない愛の重さに身を委ねた。 冷徹な指揮官の仮面は完全に砕け散り、そこにはただ、一人の女性を狂おしいほどに欲する、飢えた男がいた。
「……ナマエ。私の光だ……」
唇が離れた瞬間、 エルヴィンは彼女を抱きしめたまま、その肩口に顔を埋めた。 彼の震えるような呼吸が、ナマエの肌に伝わってくる。
「誓うよ。君を幸せにするためなら、私は神にさえ背こう。……君を、二度と離さない」
暗い宇宙の片隅、観測デッキの片隅で。 孤独な王は、ついに自分自身の太陽を手に入れた。 それは、人類の勝利よりもずっと個人的で、ずっと重く、そして何よりも甘い、救済の始まりだった。
