自由な空に、君と愛を。
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埃の粒子が、わずかに差し込む光を反射して銀色に瞬いている。 足を踏み入れたのは、木箱や樽、巨大な棚が迷路のように入り組んだ倉庫のような空間だった。湿った空気の中に、古い油とカビの匂いが混ざり、時間の堆積を肌で感じさせる。
「倉庫のようだな。何か脱出に役立つものがあるかもしれない、調べてみよう」
エルヴィンの言葉に頷き、ナマエは棚の影へと足を進めた。指先で箱の縁をなぞると、厚い埃が指の形に拭われる。 その時、棚の最上段、不自然に並んだ数冊の台帳のようなものがナマエの目に留まった。背表紙の並びが、どこか幾何学的な紋様を描いているように見える。
「……団長、これを見てください。この棚の仕掛け、どこかで見覚えがあります」
趣味の読書で培われた観察眼が、違和感を捉えていた。特定の順番で台帳を押し込むと、カチリ、という硬質な音が地下室の静寂に響き渡った。
「見事だ、ナマエ。君の洞察力には、度々驚かされる」
エルヴィンの大きな手がナマエの肩に添えられ、その体温が制服越しに伝わってくる。 重い石壁が音を立ててスライドし、その先には四つの扉が整然と並ぶ、秘密めいた通路が現れた。
扉の奥を一つひとつ探索していくうちに、ナマエの胸の中に一つの仮説が形を成していく。 広大な地下施設、緻密な仕掛け、そして不自然なほどの大量の備蓄と、かつてここに集められたであろう「精鋭」たちの痕跡。 机に残された色褪せたメモや、地図に書き込まれた赤い印。それらはすべて、一方向を指し示していた。
「……なんだか、だんだん分かってきた気がします。これだけの設備を地下に隠し、複雑な仕掛けを施した理由。この古城の主の目的は……クーデターだったんですね。王政の目を盗み、ここで私兵を育てていた……」
ナマエの呟きに、エルヴィンは深く重い沈黙を返した。彼は壁に掛けられた、今は亡き主の紋章を冷徹な目で見つめている。
「そうか、君にも見えたか。おそらく、その通りだろうな。そして、そうまでして計画していたクーデターは、結局のところ失敗に終わった。城主と、あのメモの主との決別という形でな。……皮肉なものだ。人類を救うための情熱が、ここでは反逆の牙として研がれていたとは」
エルヴィンはゆっくりと振り返り、碧い瞳の奥に宿る鋭い光をナマエへと向けた。
「……ナマエ。君はなぜ、調査兵団に入った?」
不意の問いに、ナマエは一瞬息を呑んだ。
(本当は、夢で見たあなたを守るため。あなたの未来を書き換えるために、私はこの世界に来た……)
けれど、その真実を口にするには、今はまだ時期が早すぎる。彼女は唇を噛み締め、別の、けれど嘘ではない理由を紡ぎ出した。
「……巨人のことを、もっと知りたいからです。ヤツらとの力の差は圧倒的で、絶望的です。でも、だからこそ知らなければ勝てない。弱点も、性質も、習性も……。とにかく知らなきゃ、何も始まらないと思ったんです。そのために、調査兵団が最も適していると考えました」
ナマエの声は、地下の静寂を震わせるほどに凛としていた。 エルヴィンは一瞬、驚いたように目を見開いた。
「……! そうか。……いや、すまない。あまりにその瞳が強かったものでな、ハンジに似ていると思ってしまった」
「ハンジさんに……? 恐縮です。私なんて、あの方に比べたら足元にも及びません」
「いや。君のような新兵がいると分かれば、ハンジも喜ぶだろうな。……ただし、本人に言うことはあまり勧めないが。実験台にされかねないからな」
エルヴィンはわずかに口角を上げると、ナマエの肩に力強く、けれど慈しむように手を置いた。
「いずれにせよ、覚悟はできているようだな。新兵勧誘式での私の言葉を覚えているか。……自らの意志でこの地獄を選んだ君に、改めて問うのは愚問だったな。許してくれ、ナマエ」
「いえ、そんな……!」
「これからも人類の勝利のため、君の力を借りたい。頼りにしているぞ」
その掌から伝わる重圧と信頼。ナマエは、自分の中の正義感が、彼への執着と混ざり合い、より強固な芯となっていくのを感じた。
次に二人が足を踏み入れたのは、冷たい鉄の匂いが立ち込める武器庫だった。 壁には無数の銃器や剣が飾られている。だが、それらはどれもうなじを削ぐためのスナップブレードではなく、対人用の武器ばかりだった。
「ここにあるものは、すべて人間相手の武器のようだな。巨人相手に使うのは難しそうだ」
エルヴィンの言葉に、ナマエは並んだ銃を見つめた。
(もし私に、もっと圧倒的な力があれば……。立体機動装置がなくとも、彼をどんな脅威からも守り抜けるのに)
「団長、私は……もっと強くなりたいです。あなたを守り、人類を救えるだけの力を」
「……君は、十分に強い。だが、その向上心こそが壁外で生き残る唯一の術だ」
エルヴィンは武器庫の奥にある、埃を被った重厚な扉に手をかけた。 地上の光は未だ遠く、周囲は不気味なほどの静寂に包まれている。 けれど、ナマエの胸の中には、彼と共に歩むという不退転の決意が、地下室の闇を照らす灯火のように赤々と燃え盛っていた。
一歩、また一歩。 二人の足音は重なり合い、歴史の闇に沈んだ古城の奥深くへと、さらに深く刻まれていく。
「倉庫のようだな。何か脱出に役立つものがあるかもしれない、調べてみよう」
エルヴィンの言葉に頷き、ナマエは棚の影へと足を進めた。指先で箱の縁をなぞると、厚い埃が指の形に拭われる。 その時、棚の最上段、不自然に並んだ数冊の台帳のようなものがナマエの目に留まった。背表紙の並びが、どこか幾何学的な紋様を描いているように見える。
「……団長、これを見てください。この棚の仕掛け、どこかで見覚えがあります」
趣味の読書で培われた観察眼が、違和感を捉えていた。特定の順番で台帳を押し込むと、カチリ、という硬質な音が地下室の静寂に響き渡った。
「見事だ、ナマエ。君の洞察力には、度々驚かされる」
エルヴィンの大きな手がナマエの肩に添えられ、その体温が制服越しに伝わってくる。 重い石壁が音を立ててスライドし、その先には四つの扉が整然と並ぶ、秘密めいた通路が現れた。
扉の奥を一つひとつ探索していくうちに、ナマエの胸の中に一つの仮説が形を成していく。 広大な地下施設、緻密な仕掛け、そして不自然なほどの大量の備蓄と、かつてここに集められたであろう「精鋭」たちの痕跡。 机に残された色褪せたメモや、地図に書き込まれた赤い印。それらはすべて、一方向を指し示していた。
「……なんだか、だんだん分かってきた気がします。これだけの設備を地下に隠し、複雑な仕掛けを施した理由。この古城の主の目的は……クーデターだったんですね。王政の目を盗み、ここで私兵を育てていた……」
ナマエの呟きに、エルヴィンは深く重い沈黙を返した。彼は壁に掛けられた、今は亡き主の紋章を冷徹な目で見つめている。
「そうか、君にも見えたか。おそらく、その通りだろうな。そして、そうまでして計画していたクーデターは、結局のところ失敗に終わった。城主と、あのメモの主との決別という形でな。……皮肉なものだ。人類を救うための情熱が、ここでは反逆の牙として研がれていたとは」
エルヴィンはゆっくりと振り返り、碧い瞳の奥に宿る鋭い光をナマエへと向けた。
「……ナマエ。君はなぜ、調査兵団に入った?」
不意の問いに、ナマエは一瞬息を呑んだ。
(本当は、夢で見たあなたを守るため。あなたの未来を書き換えるために、私はこの世界に来た……)
けれど、その真実を口にするには、今はまだ時期が早すぎる。彼女は唇を噛み締め、別の、けれど嘘ではない理由を紡ぎ出した。
「……巨人のことを、もっと知りたいからです。ヤツらとの力の差は圧倒的で、絶望的です。でも、だからこそ知らなければ勝てない。弱点も、性質も、習性も……。とにかく知らなきゃ、何も始まらないと思ったんです。そのために、調査兵団が最も適していると考えました」
ナマエの声は、地下の静寂を震わせるほどに凛としていた。 エルヴィンは一瞬、驚いたように目を見開いた。
「……! そうか。……いや、すまない。あまりにその瞳が強かったものでな、ハンジに似ていると思ってしまった」
「ハンジさんに……? 恐縮です。私なんて、あの方に比べたら足元にも及びません」
「いや。君のような新兵がいると分かれば、ハンジも喜ぶだろうな。……ただし、本人に言うことはあまり勧めないが。実験台にされかねないからな」
エルヴィンはわずかに口角を上げると、ナマエの肩に力強く、けれど慈しむように手を置いた。
「いずれにせよ、覚悟はできているようだな。新兵勧誘式での私の言葉を覚えているか。……自らの意志でこの地獄を選んだ君に、改めて問うのは愚問だったな。許してくれ、ナマエ」
「いえ、そんな……!」
「これからも人類の勝利のため、君の力を借りたい。頼りにしているぞ」
その掌から伝わる重圧と信頼。ナマエは、自分の中の正義感が、彼への執着と混ざり合い、より強固な芯となっていくのを感じた。
次に二人が足を踏み入れたのは、冷たい鉄の匂いが立ち込める武器庫だった。 壁には無数の銃器や剣が飾られている。だが、それらはどれもうなじを削ぐためのスナップブレードではなく、対人用の武器ばかりだった。
「ここにあるものは、すべて人間相手の武器のようだな。巨人相手に使うのは難しそうだ」
エルヴィンの言葉に、ナマエは並んだ銃を見つめた。
(もし私に、もっと圧倒的な力があれば……。立体機動装置がなくとも、彼をどんな脅威からも守り抜けるのに)
「団長、私は……もっと強くなりたいです。あなたを守り、人類を救えるだけの力を」
「……君は、十分に強い。だが、その向上心こそが壁外で生き残る唯一の術だ」
エルヴィンは武器庫の奥にある、埃を被った重厚な扉に手をかけた。 地上の光は未だ遠く、周囲は不気味なほどの静寂に包まれている。 けれど、ナマエの胸の中には、彼と共に歩むという不退転の決意が、地下室の闇を照らす灯火のように赤々と燃え盛っていた。
一歩、また一歩。 二人の足音は重なり合い、歴史の闇に沈んだ古城の奥深くへと、さらに深く刻まれていく。
