自由な空に、君と愛を。
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隠し扉の向こう側に広がっていたのは、さらに濃密な静寂が支配する回廊だった。
壁に埋め込まれた燭台には、もう何十年も火が灯された形跡はない。ただ、崩落箇所から漏れ出る月光に似た淡い光が、浮遊する埃の粒子を銀色に染め上げている。 エルヴィンの背中は、暗がりの中でも確かな輪郭を持ってナマエを導いていた
カツ、カツと響く足音だけが、自分たちがまだ生きていることを証明する鼓動のようだった。
「怖いか? ナマエ」
不意に投げかけられた問いに、ナマエはわずかに肩を震わせた。偽らざる本心を喉の奥から絞り出す。
「……はい。調査兵団に志願した時から、覚悟はできていたつもりだったんですが……。いざこうして光の届かない場所に閉じ込められると、自分の無力さが身に染みます」
エルヴィンは歩みを止めず、けれど語りかける声は夜の海のように深く、穏やかだった。
「当然の感情だ。恥じる必要はない。君と同じ状況に陥れば、誰しもが同じように恐怖に支配されるだろう。だが、もしこの試練を乗り越えることができた時、君は大きく成長する。怖がるということは、同時に慎重であるということだ。それは、壁外で生き残るために最も必要な資質の一つでもある」
「ありがとうございます……」
その言葉は、冷え切ったナマエの指先に微かな熱を灯した。彼が言うのなら、この恐怖さえも戦うための武器に変えられる気がした。
二人は、突き当たりにある重厚な木扉を押し開けた。そこは食糧庫か、あるいは備蓄倉庫だったのだろう。湿り気を帯びた古びた木の匂いの中に、わずかに金属のような香りが混じっている。
「何か使えるものがあればいいが……」
エルヴィンが部屋の隅にある木箱に目を留めた。分厚い埃が積もったその箱の封を、彼は慎重に抉じ開ける。 中には、銀色の光沢を失っていない小さな金属の塊が、整然と敷き詰められていた。
「結構な量の備蓄ですね。……これ、缶詰でしょうか? まだ食べられるのでしょうか」
「どうだろうな。日付は……掠れていて読めない。試してみるか?」
エルヴィンは器用に短剣を使い、石で柄を叩いて蓋を切り裂いた。パキッという乾いた音と共に、蓋が跳ね上がる。
「……臭いは問題なさそうだ」
差し出された缶の中には、煮凝った脂に包まれた肉の塊が収まっていた。ナマエは一口、それを口に運ぶ。
鉄の味が混じるような独特の風味。けれど、噛み締めるほどに肉の旨味が広がり、空腹で悲鳴を上げていた身体の隅々まで滋養が行き渡るのがわかった。
「美味しいです……! すごく。これ、何の肉なんですか?」
「猪のようだな。保存状態が良かったらしい」
「お肉……ずいぶん久しぶりに食べた気がします。こんなに美味しかったなんて」
夢中になって頬張るナマエの様子を、エルヴィンはどこか眩しそうな、慈しみを湛えた目で見つめていた。
「さすがは城だけあって、備蓄の品も豪勢なようだ。……いい食べっぷりだな。見ていて清々しいほどだ」
「あ……っ。すみません、エルヴィン団長の前で、つい、がっついてしまって……」
急に恥ずかしさが込み上げ、ナマエは顔を赤らめた。淑やかさとは程遠い自分の姿に落ち込むが、エルヴィンはふっと、今日一番の柔らかな笑みを漏らした。
「謝る必要はない。生きようとする意志が強い証拠だ。……君は、実に不思議だな。他人を警戒させない空気を持っている。だからだろうか、ついつい私も話しすぎてしまいそうになる。気をつけなければいけないな」
エルヴィンはそう言いながら、自身の分を口にする。
「私が思うに、君はおそらく、恐ろしいまでに根が素直なのだろう。それは君の利点でもあり、またその逆にもなりうる。この経験を役立て、君がどう成長していくのか、私は楽しみにしているよ。調査兵団のためにも、君自身のためにも」
その言葉は、単なる上官からの評価を超えて、ナマエの魂を直接揺さぶる重みがあった。 食事を終え、わずかな休息で体力を取り戻した二人は、再び部屋の調査を開始した。石造りの壁の一部に、崩落の影響か、わずかな隙間ができているのをナマエが見つけた。
「団長、ここ……奥に続いているみたいです」
隙間の向こう側を覗き込めば、暗闇の中に上へと伸びる石階段が、幽霊のように浮かび上がっていた。
「階段の位置からして、この部屋のどこかに隠し扉がある可能性が高いな。ナマエ、調べてみよう」
二人は壁の凹凸や、不自然な飾り皿を一つずつ確かめていく。やがてナマエが壁に掛けられた古い地図の裏側に、小さな突起を見つけた。 それを押し込むと、鈍い音と共に壁が横にスライドし、先ほどの階段へと続く道が開かれた。
階段から吹き抜けてくる空気は、地下三階の澱んだものより、わずかに軽やかだった。
「地上に近づいているようです」
「ああ。だが、それだけ外との接触点が増えるということだ。……行こう。一歩ずつ、真実へと近づくために」
エルヴィンが先に立ち、一段、また一段と階段を上っていく。 彼の背中を追いながら、ナマエは先ほど言われた「根が素直」という言葉を反芻していた。 彼に隠し事などできない。
けれど、もし彼が未来を知っていると言ったら、彼はどう思うだろうか。 そんな考えを振り払うように、ナマエは強く階段の手すりを握りしめた。
壁に埋め込まれた燭台には、もう何十年も火が灯された形跡はない。ただ、崩落箇所から漏れ出る月光に似た淡い光が、浮遊する埃の粒子を銀色に染め上げている。 エルヴィンの背中は、暗がりの中でも確かな輪郭を持ってナマエを導いていた
カツ、カツと響く足音だけが、自分たちがまだ生きていることを証明する鼓動のようだった。
「怖いか? ナマエ」
不意に投げかけられた問いに、ナマエはわずかに肩を震わせた。偽らざる本心を喉の奥から絞り出す。
「……はい。調査兵団に志願した時から、覚悟はできていたつもりだったんですが……。いざこうして光の届かない場所に閉じ込められると、自分の無力さが身に染みます」
エルヴィンは歩みを止めず、けれど語りかける声は夜の海のように深く、穏やかだった。
「当然の感情だ。恥じる必要はない。君と同じ状況に陥れば、誰しもが同じように恐怖に支配されるだろう。だが、もしこの試練を乗り越えることができた時、君は大きく成長する。怖がるということは、同時に慎重であるということだ。それは、壁外で生き残るために最も必要な資質の一つでもある」
「ありがとうございます……」
その言葉は、冷え切ったナマエの指先に微かな熱を灯した。彼が言うのなら、この恐怖さえも戦うための武器に変えられる気がした。
二人は、突き当たりにある重厚な木扉を押し開けた。そこは食糧庫か、あるいは備蓄倉庫だったのだろう。湿り気を帯びた古びた木の匂いの中に、わずかに金属のような香りが混じっている。
「何か使えるものがあればいいが……」
エルヴィンが部屋の隅にある木箱に目を留めた。分厚い埃が積もったその箱の封を、彼は慎重に抉じ開ける。 中には、銀色の光沢を失っていない小さな金属の塊が、整然と敷き詰められていた。
「結構な量の備蓄ですね。……これ、缶詰でしょうか? まだ食べられるのでしょうか」
「どうだろうな。日付は……掠れていて読めない。試してみるか?」
エルヴィンは器用に短剣を使い、石で柄を叩いて蓋を切り裂いた。パキッという乾いた音と共に、蓋が跳ね上がる。
「……臭いは問題なさそうだ」
差し出された缶の中には、煮凝った脂に包まれた肉の塊が収まっていた。ナマエは一口、それを口に運ぶ。
鉄の味が混じるような独特の風味。けれど、噛み締めるほどに肉の旨味が広がり、空腹で悲鳴を上げていた身体の隅々まで滋養が行き渡るのがわかった。
「美味しいです……! すごく。これ、何の肉なんですか?」
「猪のようだな。保存状態が良かったらしい」
「お肉……ずいぶん久しぶりに食べた気がします。こんなに美味しかったなんて」
夢中になって頬張るナマエの様子を、エルヴィンはどこか眩しそうな、慈しみを湛えた目で見つめていた。
「さすがは城だけあって、備蓄の品も豪勢なようだ。……いい食べっぷりだな。見ていて清々しいほどだ」
「あ……っ。すみません、エルヴィン団長の前で、つい、がっついてしまって……」
急に恥ずかしさが込み上げ、ナマエは顔を赤らめた。淑やかさとは程遠い自分の姿に落ち込むが、エルヴィンはふっと、今日一番の柔らかな笑みを漏らした。
「謝る必要はない。生きようとする意志が強い証拠だ。……君は、実に不思議だな。他人を警戒させない空気を持っている。だからだろうか、ついつい私も話しすぎてしまいそうになる。気をつけなければいけないな」
エルヴィンはそう言いながら、自身の分を口にする。
「私が思うに、君はおそらく、恐ろしいまでに根が素直なのだろう。それは君の利点でもあり、またその逆にもなりうる。この経験を役立て、君がどう成長していくのか、私は楽しみにしているよ。調査兵団のためにも、君自身のためにも」
その言葉は、単なる上官からの評価を超えて、ナマエの魂を直接揺さぶる重みがあった。 食事を終え、わずかな休息で体力を取り戻した二人は、再び部屋の調査を開始した。石造りの壁の一部に、崩落の影響か、わずかな隙間ができているのをナマエが見つけた。
「団長、ここ……奥に続いているみたいです」
隙間の向こう側を覗き込めば、暗闇の中に上へと伸びる石階段が、幽霊のように浮かび上がっていた。
「階段の位置からして、この部屋のどこかに隠し扉がある可能性が高いな。ナマエ、調べてみよう」
二人は壁の凹凸や、不自然な飾り皿を一つずつ確かめていく。やがてナマエが壁に掛けられた古い地図の裏側に、小さな突起を見つけた。 それを押し込むと、鈍い音と共に壁が横にスライドし、先ほどの階段へと続く道が開かれた。
階段から吹き抜けてくる空気は、地下三階の澱んだものより、わずかに軽やかだった。
「地上に近づいているようです」
「ああ。だが、それだけ外との接触点が増えるということだ。……行こう。一歩ずつ、真実へと近づくために」
エルヴィンが先に立ち、一段、また一段と階段を上っていく。 彼の背中を追いながら、ナマエは先ほど言われた「根が素直」という言葉を反芻していた。 彼に隠し事などできない。
けれど、もし彼が未来を知っていると言ったら、彼はどう思うだろうか。 そんな考えを振り払うように、ナマエは強く階段の手すりを握りしめた。
