自由な空に、君と愛を。
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肺の奥まで冷え切るような、湿った石と古びた土の匂いがした。
視界の端で揺れる、淡い黄金色の光。それがエルヴィンの髪だと気づくまでに、数秒の時間を要した。 意識の混濁が引いていくにつれ、全身を打った鈍い痛みが主張を始める。ナマエは震える手で地面を押し、上体を起こした。
「ようやく気がついたか。無理に動かなくていい、骨に異常はなさそうだ」
すぐ傍らで、エルヴィンの低く落ち着いた声が響く。 見上げれば、彼は既に立ち上がり、片手に握った折れたブレードを杖代わりに、周囲の暗闇を警戒していた。その背中は、たとえ地の底に堕ちようとも揺らぐことのない、鋼のような意志を感じさせる。
「ありがとうございます……。」
「……なぜ礼を言う?」
エルヴィンは表情を変えず、ただ静かに碧い瞳を彼女へと向けた。
「あ、いえ。落下する際、誰かに強く抱き寄せられた感覚がありました。巨人から守ってくださったのかと……」
「察しがいいようだな。だが礼には及ばない。団員の命を守るのも、私の務めだ」
淡々とした言葉。けれど、その瞳の奥には、部下を慈しむ以上の、何か鋭く熱い感情が潜んでいるようにナマエには見えた。
「ここは……どこ、なんですか?」
「その様子では、まだ状況が理解できていないようだな。ここは今回調査に来た壁外のエルズニル城……その地下室と思われる場所だ」
エルヴィンが指し示した天井を見上げ、ナマエは息を呑んだ。
遥か頭上、十数メートルはあろうかという場所にぽっかりと大穴が開いている。そこから差し込む薄明かりが、この巨大な空間をぼんやりと照らし出していた。
「我々は城まであと一歩というところで、複数の巨人の襲撃に遭い、崩落に巻き込まれた。君は瓦礫と接触し、意識を失ってしまったようだが……。立てるなら、少し周囲を見てみるといい。我々の置かれている状況が、より鮮明に分かるだろう」
ナマエはエルヴィンの差し出した左手を借りて、よろめきながら立ち上がった。
視線を上へ戻した瞬間、彼女の全身に冷たい戦慄が走る。
天井の穴。その縁から、いくつかの巨大な「顔」がこちらを覗き込んでいた。 どんよりとした眼球、異様に裂けた口元。巨影が光を遮り、巨大な指が穴の縁をガリガリと削る不快な音が反響する。
「……!!! わああぁっ! エ、エルヴィン団長、早く逃げないと!」
「落ち着くんだ。ヤツらは見ているだけだ。自分から降りては来ない。降りることができないのか、もしくはその発想がないのかは分からないが……。いずれにせよ、我々にとっては不幸中の幸いだ」
エルヴィンの声は驚くほど冷静だった。恐怖をねじ伏せ、状況を冷徹に分析するその姿は、まさに極限の地でこそ輝く指導者のものだ。
「結果として、この城に入ることもできたしな。だが、地下にこれほどの建造物があるとは予想外だった。これは……考えを改めなくてはな」
(エルヴィン団長は、こんな時でも……調査のことを考えている。なんて強い人なんだろう)
ナマエは自分の腰に手を当て、絶望に顔を伏せそうになった。 立体機動装置は激しい衝撃で変形し、ガスの噴射口からは力なく白い煙が漏れている。ブレードの鞘は空で、彼女を守る術は、もう何も残されていなかった。
「他の、皆さんは……?」
「ここからでは、状況が確認できないな。だが、私がいなくとも彼らは目的を果たすために最善を尽くすはずだ。私はそう信じている」
(……いざとなったら、私が団長を守らなければ。たとえ武器がなくても、この命に代えても)
心に誓ったその瞬間、背後の瓦礫の山が「ガラリ」と崩れる音が響いた。
「巨人か」
エルヴィンの短く鋭い言葉に、ナマエは身体を強張らせた。 積み重なった瓦礫の隙間から、節くれだった巨大な腕が這い出してくる。三メートル級だろうか、崩落の際に共に落下し、埋もれていた個体だ。
巨人は濁った声を漏らし、瓦礫を跳ね除けて起き上がろうとしている。
「ここからでは、うなじは狙えないな……。ナマエ、扉が見えるか。あそこまで走るんだ」
エルヴィンが指差した先、壁の奥深くに、崩落の被害を免れた重厚な木製の扉がひっそりと佇んでいた。
「でも、団長は……!」
「迷っている暇はない! 行くぞ!」
巨人が瓦礫から抜け出し、四つん這いでこちらへ向かって突進してくる。 ナマエはエルヴィンに背中を押されるようにして走り出した。心臓が早鐘を打ち、肺が灼けるように熱い。背後で巨人の咆哮と、石が砕ける轟音が響く。
扉に辿り着き、二人は滑り込むようにしてその奥へと飛び込んだ。 エルヴィンが渾身の力で扉を閉め、閂を下ろす。直後、扉の向こう側で「ドスン」と巨人が激突する鈍い振動が伝わってきた。
「……はぁ、はぁ……。追っては、こないようですね……」
「よし、この扉の強度は十分なようだ。……ナマエ、行くぞ」
エルヴィンの視線の先には、闇の奥へと延びる一本の通路があった。
そこは、未知の領域。 夢で見た悲劇を回避するため、死地へと足を踏み入れた少女と、人類の未来を背負う男。 二人の運命は、光の届かない地下深くで、より濃密に、より深く絡み合い始めていた。
視界の端で揺れる、淡い黄金色の光。それがエルヴィンの髪だと気づくまでに、数秒の時間を要した。 意識の混濁が引いていくにつれ、全身を打った鈍い痛みが主張を始める。ナマエは震える手で地面を押し、上体を起こした。
「ようやく気がついたか。無理に動かなくていい、骨に異常はなさそうだ」
すぐ傍らで、エルヴィンの低く落ち着いた声が響く。 見上げれば、彼は既に立ち上がり、片手に握った折れたブレードを杖代わりに、周囲の暗闇を警戒していた。その背中は、たとえ地の底に堕ちようとも揺らぐことのない、鋼のような意志を感じさせる。
「ありがとうございます……。」
「……なぜ礼を言う?」
エルヴィンは表情を変えず、ただ静かに碧い瞳を彼女へと向けた。
「あ、いえ。落下する際、誰かに強く抱き寄せられた感覚がありました。巨人から守ってくださったのかと……」
「察しがいいようだな。だが礼には及ばない。団員の命を守るのも、私の務めだ」
淡々とした言葉。けれど、その瞳の奥には、部下を慈しむ以上の、何か鋭く熱い感情が潜んでいるようにナマエには見えた。
「ここは……どこ、なんですか?」
「その様子では、まだ状況が理解できていないようだな。ここは今回調査に来た壁外のエルズニル城……その地下室と思われる場所だ」
エルヴィンが指し示した天井を見上げ、ナマエは息を呑んだ。
遥か頭上、十数メートルはあろうかという場所にぽっかりと大穴が開いている。そこから差し込む薄明かりが、この巨大な空間をぼんやりと照らし出していた。
「我々は城まであと一歩というところで、複数の巨人の襲撃に遭い、崩落に巻き込まれた。君は瓦礫と接触し、意識を失ってしまったようだが……。立てるなら、少し周囲を見てみるといい。我々の置かれている状況が、より鮮明に分かるだろう」
ナマエはエルヴィンの差し出した左手を借りて、よろめきながら立ち上がった。
視線を上へ戻した瞬間、彼女の全身に冷たい戦慄が走る。
天井の穴。その縁から、いくつかの巨大な「顔」がこちらを覗き込んでいた。 どんよりとした眼球、異様に裂けた口元。巨影が光を遮り、巨大な指が穴の縁をガリガリと削る不快な音が反響する。
「……!!! わああぁっ! エ、エルヴィン団長、早く逃げないと!」
「落ち着くんだ。ヤツらは見ているだけだ。自分から降りては来ない。降りることができないのか、もしくはその発想がないのかは分からないが……。いずれにせよ、我々にとっては不幸中の幸いだ」
エルヴィンの声は驚くほど冷静だった。恐怖をねじ伏せ、状況を冷徹に分析するその姿は、まさに極限の地でこそ輝く指導者のものだ。
「結果として、この城に入ることもできたしな。だが、地下にこれほどの建造物があるとは予想外だった。これは……考えを改めなくてはな」
(エルヴィン団長は、こんな時でも……調査のことを考えている。なんて強い人なんだろう)
ナマエは自分の腰に手を当て、絶望に顔を伏せそうになった。 立体機動装置は激しい衝撃で変形し、ガスの噴射口からは力なく白い煙が漏れている。ブレードの鞘は空で、彼女を守る術は、もう何も残されていなかった。
「他の、皆さんは……?」
「ここからでは、状況が確認できないな。だが、私がいなくとも彼らは目的を果たすために最善を尽くすはずだ。私はそう信じている」
(……いざとなったら、私が団長を守らなければ。たとえ武器がなくても、この命に代えても)
心に誓ったその瞬間、背後の瓦礫の山が「ガラリ」と崩れる音が響いた。
「巨人か」
エルヴィンの短く鋭い言葉に、ナマエは身体を強張らせた。 積み重なった瓦礫の隙間から、節くれだった巨大な腕が這い出してくる。三メートル級だろうか、崩落の際に共に落下し、埋もれていた個体だ。
巨人は濁った声を漏らし、瓦礫を跳ね除けて起き上がろうとしている。
「ここからでは、うなじは狙えないな……。ナマエ、扉が見えるか。あそこまで走るんだ」
エルヴィンが指差した先、壁の奥深くに、崩落の被害を免れた重厚な木製の扉がひっそりと佇んでいた。
「でも、団長は……!」
「迷っている暇はない! 行くぞ!」
巨人が瓦礫から抜け出し、四つん這いでこちらへ向かって突進してくる。 ナマエはエルヴィンに背中を押されるようにして走り出した。心臓が早鐘を打ち、肺が灼けるように熱い。背後で巨人の咆哮と、石が砕ける轟音が響く。
扉に辿り着き、二人は滑り込むようにしてその奥へと飛び込んだ。 エルヴィンが渾身の力で扉を閉め、閂を下ろす。直後、扉の向こう側で「ドスン」と巨人が激突する鈍い振動が伝わってきた。
「……はぁ、はぁ……。追っては、こないようですね……」
「よし、この扉の強度は十分なようだ。……ナマエ、行くぞ」
エルヴィンの視線の先には、闇の奥へと延びる一本の通路があった。
そこは、未知の領域。 夢で見た悲劇を回避するため、死地へと足を踏み入れた少女と、人類の未来を背負う男。 二人の運命は、光の届かない地下深くで、より濃密に、より深く絡み合い始めていた。
