自由な空に、君と愛を。
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カールの診療所の窓から見える景色は、どこまでも続く高い壁と、中世を思わせる石造りの街並みだった。
ナマエがこの世界に落ちてから、数日が経っていた。 記憶を失った異邦人として扱われることに、彼女は微かな罪悪感を覚えながらも、それ以上に目の前の現実を把握することに必死だった。
「体調はどうだい、ナマエ。少しは歩けるようになったかな」
薬草の独特な、鼻を突くような香りを纏ったカールが、穏やかに微笑みながら声をかけてくる。
「はい、ありがとうございます。カールさん。おかげさまで、もう大丈夫そうです」
ナマエはベッドから降り、木製の床の冷たさを足裏に感じた。現実感のない夢の中にいるような感覚はまだ拭えない。けれど、枕元に置かれたあの翠緑のループタイに触れるたび、指先から伝わる確かな冷たさが、ここが現実であることを告げていた。
ある日、ナマエはカールの手伝いでシガンシナ区の街中へと出た。
市場の活気、馬車の車輪が石畳を叩く硬質な音、焼きたてのパンの香ばしい匂い。すべてが新鮮で、そしてどこか物悲しい。 その時だった。 街の喧騒を切り裂くように、整然とした蹄の音が近づいてきた。
「調査兵団の帰還だ……!」
誰かが呟いた声に、ナマエは弾かれたように顔を上げた。 人だかりの向こう側、門から入ってきたのは、あの夢で見た「自由の翼」の紋章を背負った兵士たちだった。
そして、その先頭。 白馬に跨り、毅然とした態度で進む男の姿を見つけた瞬間、ナマエの心臓は激しく脈打った。
(……あの人だ)
夢で見た、金髪碧眼の騎士。 けれど、夢の中の悲劇的な姿とは違い、今の彼はまだ右腕を失っていない。鋭い眼光を放ち、周囲を圧倒するカリスマ性を放っている。
「あの、あの方は……?」
隣にいた少年に、震える声で尋ねる。
「ああ、あの人はエルヴィン・スミス分隊長だよ。人類の希望、調査兵団の要さ」
エルヴィン・スミス。その名が耳に届いた瞬間、ナマエの胸に熱い何かが込み上げた。 夢ではない。彼は今、確かにこの場所で生きている。 そしていつか、あの残酷な未来が彼を襲うのだとしたら。
(私が、守りたい。あの腕が失われる前に、あの人が傷つく前に……私が彼を救うんだ)
それは、異世界から来た少女が抱くにはあまりにも無謀で、けれど抗いがたい宿命のような決意だった。
ナマエはその足で、訓練兵団への入団を志願した。
元陸上部という経歴があったとはいえ、この世界の軍事訓練は想像を絶する過酷さだった。
「ナマエ!足が止まっているぞ! 巨人に食われたいのか!」
教官の罵声が飛び交う中、彼女は泥にまみれ、肺を焼くような冷たい空気を吸い込みながら走り続けた。 訓練兵としての三年間は、まさに地獄そのものだった。 雨の日も風の日も、重い装備を背負って山を駆け抜け、立体機動装置の扱いに心血を注いだ。
「エマ、あなたの動き……人間離れしてる。まるで何かに取り憑かれたみたい」
同期のミカサ・アッカーマンが、汗を拭いながら静かに告げる。
「……負けたくないの。どうしても、届かなきゃいけない背中があるから」
「そう。私も、守りたい人がいる。理由は違っても、目指すところは同じかもしれない」
ミカサという圧倒的な天才に食らいつくため、ナマエは睡眠時間を削ってまで自主練に励んだ。 趣味だった読書も、今は兵法書や解剖学の本に変わった。すべては、あの男の隣に立つための代償だった。 結果として、ナマエはミカサと同率主席という、訓練兵団の歴史に残る成績で卒業を果たした。
そして迎えた、運命の新兵勧誘式。
二十一歳になったナマエは、整列した兵士たちの一員として、壇上の男を見上げていた。
エルヴィン・スミス――今は調査兵団第十三代団長となった彼が、松明の炎に照らされて立っている。
「諸君、私は、君たちを死地へ誘いに来た。……だが、もしその勇気があるのなら、心臓を捧げてほしい」
重厚で、慈愛と非情さが入り混じったその声。
ナマエは確信した。一目惚れだった。 夢の中で彼に感じた「悲しさ」や「痛ましさ」は、今や激しい「愛慕」へと姿を変えていた。
(エルヴィン団長。あなたの盾に、あなたの剣に、私はなります)
彼女は迷わず、調査兵団の道を選んだ。
初めての壁外調査。 巨大な樹木が立ち並ぶ森の中、ナマエは風を切って飛んでいた。
「前方に巨人二体! ナマエ、行けるか!」
班長の指示が飛ぶ前に、彼女の体は動いていた。 ガスを噴射し、ワイヤーを巨人の肩へと打ち込む。 鋭い加速。視界が高速で流れ、風の音が耳を打つ。
「……はぁっ!」
回転を加え、巨人のうなじを深々と削ぎ落とす。返り血が頬を濡らすが、不快感はなかった。ただ、彼と同じ景色を見ているという充足感だけが、彼女を突き動かしていた。その調査で、ナマエは単独で五体の巨人を討伐するという、新兵としては異例の戦果を挙げた。
帰還後、夕闇に包まれた兵舎の廊下。
「おい、ガキ。少し面を貸せ」
背後からかけられた低く鋭い声に、ナマエは足を止めた。 振り返ると、そこには「人類最強」と名高いリヴァイ兵長、そして分隊長のハンジ、ミケが立っていた。
「新兵の分際で、えらく派手に暴れたらしいな」
リヴァイが鋭い眼光でナマエを射抜く。
「君がナマエか! 君の立体機動、凄かったよ! まるで風そのものだった! ぜひ今度、じっくり話を聞かせてくれないかな?」
ハンジが目を輝かせて詰め寄る。ミケはナマエに近づくと、鼻をクンと鳴らしてフッと口角を上げた。
「……フン。悪くない匂いだ。骨のある奴が来たようだな」
「ありがとうございます。……ですが、私はただ、果たすべき務めを果たしただけです」
ナマエは毅然とした態度で応じた。その瞳に宿る強い意志に、リヴァイは微かに目を細める。
「……チッ。口だけじゃなさそうだな。エルヴィンがお前を呼んでいる。ついてこい」
心臓が跳ねた。 ついに、彼と直接言葉を交わす時が来たのだ。 リヴァイに導かれ、重厚な扉の前に立つ。
「入れ」
中から聞こえてきたのは、ナマエが夢にまで見た、あの愛おしい声だった。
ナマエがこの世界に落ちてから、数日が経っていた。 記憶を失った異邦人として扱われることに、彼女は微かな罪悪感を覚えながらも、それ以上に目の前の現実を把握することに必死だった。
「体調はどうだい、ナマエ。少しは歩けるようになったかな」
薬草の独特な、鼻を突くような香りを纏ったカールが、穏やかに微笑みながら声をかけてくる。
「はい、ありがとうございます。カールさん。おかげさまで、もう大丈夫そうです」
ナマエはベッドから降り、木製の床の冷たさを足裏に感じた。現実感のない夢の中にいるような感覚はまだ拭えない。けれど、枕元に置かれたあの翠緑のループタイに触れるたび、指先から伝わる確かな冷たさが、ここが現実であることを告げていた。
ある日、ナマエはカールの手伝いでシガンシナ区の街中へと出た。
市場の活気、馬車の車輪が石畳を叩く硬質な音、焼きたてのパンの香ばしい匂い。すべてが新鮮で、そしてどこか物悲しい。 その時だった。 街の喧騒を切り裂くように、整然とした蹄の音が近づいてきた。
「調査兵団の帰還だ……!」
誰かが呟いた声に、ナマエは弾かれたように顔を上げた。 人だかりの向こう側、門から入ってきたのは、あの夢で見た「自由の翼」の紋章を背負った兵士たちだった。
そして、その先頭。 白馬に跨り、毅然とした態度で進む男の姿を見つけた瞬間、ナマエの心臓は激しく脈打った。
(……あの人だ)
夢で見た、金髪碧眼の騎士。 けれど、夢の中の悲劇的な姿とは違い、今の彼はまだ右腕を失っていない。鋭い眼光を放ち、周囲を圧倒するカリスマ性を放っている。
「あの、あの方は……?」
隣にいた少年に、震える声で尋ねる。
「ああ、あの人はエルヴィン・スミス分隊長だよ。人類の希望、調査兵団の要さ」
エルヴィン・スミス。その名が耳に届いた瞬間、ナマエの胸に熱い何かが込み上げた。 夢ではない。彼は今、確かにこの場所で生きている。 そしていつか、あの残酷な未来が彼を襲うのだとしたら。
(私が、守りたい。あの腕が失われる前に、あの人が傷つく前に……私が彼を救うんだ)
それは、異世界から来た少女が抱くにはあまりにも無謀で、けれど抗いがたい宿命のような決意だった。
ナマエはその足で、訓練兵団への入団を志願した。
元陸上部という経歴があったとはいえ、この世界の軍事訓練は想像を絶する過酷さだった。
「ナマエ!足が止まっているぞ! 巨人に食われたいのか!」
教官の罵声が飛び交う中、彼女は泥にまみれ、肺を焼くような冷たい空気を吸い込みながら走り続けた。 訓練兵としての三年間は、まさに地獄そのものだった。 雨の日も風の日も、重い装備を背負って山を駆け抜け、立体機動装置の扱いに心血を注いだ。
「エマ、あなたの動き……人間離れしてる。まるで何かに取り憑かれたみたい」
同期のミカサ・アッカーマンが、汗を拭いながら静かに告げる。
「……負けたくないの。どうしても、届かなきゃいけない背中があるから」
「そう。私も、守りたい人がいる。理由は違っても、目指すところは同じかもしれない」
ミカサという圧倒的な天才に食らいつくため、ナマエは睡眠時間を削ってまで自主練に励んだ。 趣味だった読書も、今は兵法書や解剖学の本に変わった。すべては、あの男の隣に立つための代償だった。 結果として、ナマエはミカサと同率主席という、訓練兵団の歴史に残る成績で卒業を果たした。
そして迎えた、運命の新兵勧誘式。
二十一歳になったナマエは、整列した兵士たちの一員として、壇上の男を見上げていた。
エルヴィン・スミス――今は調査兵団第十三代団長となった彼が、松明の炎に照らされて立っている。
「諸君、私は、君たちを死地へ誘いに来た。……だが、もしその勇気があるのなら、心臓を捧げてほしい」
重厚で、慈愛と非情さが入り混じったその声。
ナマエは確信した。一目惚れだった。 夢の中で彼に感じた「悲しさ」や「痛ましさ」は、今や激しい「愛慕」へと姿を変えていた。
(エルヴィン団長。あなたの盾に、あなたの剣に、私はなります)
彼女は迷わず、調査兵団の道を選んだ。
初めての壁外調査。 巨大な樹木が立ち並ぶ森の中、ナマエは風を切って飛んでいた。
「前方に巨人二体! ナマエ、行けるか!」
班長の指示が飛ぶ前に、彼女の体は動いていた。 ガスを噴射し、ワイヤーを巨人の肩へと打ち込む。 鋭い加速。視界が高速で流れ、風の音が耳を打つ。
「……はぁっ!」
回転を加え、巨人のうなじを深々と削ぎ落とす。返り血が頬を濡らすが、不快感はなかった。ただ、彼と同じ景色を見ているという充足感だけが、彼女を突き動かしていた。その調査で、ナマエは単独で五体の巨人を討伐するという、新兵としては異例の戦果を挙げた。
帰還後、夕闇に包まれた兵舎の廊下。
「おい、ガキ。少し面を貸せ」
背後からかけられた低く鋭い声に、ナマエは足を止めた。 振り返ると、そこには「人類最強」と名高いリヴァイ兵長、そして分隊長のハンジ、ミケが立っていた。
「新兵の分際で、えらく派手に暴れたらしいな」
リヴァイが鋭い眼光でナマエを射抜く。
「君がナマエか! 君の立体機動、凄かったよ! まるで風そのものだった! ぜひ今度、じっくり話を聞かせてくれないかな?」
ハンジが目を輝かせて詰め寄る。ミケはナマエに近づくと、鼻をクンと鳴らしてフッと口角を上げた。
「……フン。悪くない匂いだ。骨のある奴が来たようだな」
「ありがとうございます。……ですが、私はただ、果たすべき務めを果たしただけです」
ナマエは毅然とした態度で応じた。その瞳に宿る強い意志に、リヴァイは微かに目を細める。
「……チッ。口だけじゃなさそうだな。エルヴィンがお前を呼んでいる。ついてこい」
心臓が跳ねた。 ついに、彼と直接言葉を交わす時が来たのだ。 リヴァイに導かれ、重厚な扉の前に立つ。
「入れ」
中から聞こえてきたのは、ナマエが夢にまで見た、あの愛おしい声だった。
