自由な空に、君と愛を。
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ある日の団長室。窓から差し込む陽光は穏やかだが、室内の空気は澱んでいた。
トロスト区奪還作戦で捕獲された二体の巨人、ソニーとビーン。人類にとって計り知れない価値を持つはずだった研究対象が何者かに殺害された事件は、調査兵団に重い影を落としていた。
「それで、ソニーとビーンを殺した犯人はまだ見つからないのかい?」
ハンジが沈痛な面持ちで切り出した。
「被験体の二体の巨人を殺した犯人については、憲兵団からまだ何も報告はない」
「もう何日も経つっていうのに……」
エルヴィンは、机の上に広げられた膨大な資料に目を落としたまま、静かに答えた。彼の指先が、微かに万年筆の軸を強く握る。窓の外から差し込む夕闇が、彼の彫りの深い顔立ちに濃い影を落とし、その疲れを際立たせていた。
「ハンジ、君の方の調査で何か分かったことはあるか?」
「いや何も……ああ、ソニー……ビーン……かわいそうに……!」
嘆くハンジに対し、エルヴィンは冷静なトーンを崩さない。
「そうか……おそらく憲兵団の調査では何も判明しないだろう。ハンジ、君は今までの調査内容を報告書にまとめて提出してくれ。今後の対策も含めてな」
「ああ……そうだね。いつまでも悲しみに暮れてはいられない。……そしたら長距離索敵陣形も組み直さないといけないね」
「次の……第五十七回壁外調査への課題と対策も、明朝の会議で打ち合わせする予定だったな」
「そうだね。ああ、一ヶ月後の壁外調査が楽しみでたまらないよ……! あー、ところで、忙しいところ悪いけどミケが個人的に相談があるそうなんだ。時間は取れる?」
「わかった、時間を作ろう」
エルヴィンの返答に、ハンジは少しだけ眉を下げ、気遣わしげに彼を見た。
「大変だね……私にできることがあれば手伝いたいのはやまやまだけど……ナマエもいるしね」
「いや、これは団長としての私の役目だ。気にする必要はない」
「そうは言っても……」
「すまないな。気を使わせてしまって」
そこへ、扉が叩かれた。
「エルヴィン団長、失礼します!馬車の用意が整いました。お急ぎください」
「もうそんな時間か……すまないハンジ、後を頼む」
エルヴィンは足早に上着を羽織る
「ザックレー総統との会談だっけ? 戻りはいつ頃になりそう?」
「夕刻には戻れる、と思う。もっと早く戻りたいところだが、総統と話したいことは山積みだ。そうもいかんだろう。書類は机の上にまとめて置いておいてほしい。戻ってから、書類に目を通す前にミケと話す時間を作るから、あいつにはそう伝えてくれ。それから……」
「エルヴィン団長、お時間が……」
「わかった。では行ってくる」
「行ってらっしゃい」
その日の夜、団長室の灯火はいつまでも消えることがなかった。
「……書類はこれで最後か。こんな時間までかかってしまうとはな。夜明けも近い……少しだけでも眠るとしよう」
エルヴィンは羽ペンを置き、深く椅子に身を預けた。目を閉じると、闇の向こうから父の声、そして同胞たちの叫びが聞こえてくる気がした。
(……こうして目をつむると、ついこの世界の謎について考えてしまう。昔からそうだ。そして、追い求めてきた答えが手を伸ばせば、届くところにあるのかもしれない……イェーガー家の地下室に世界の秘密を解き明かす一端がある!幼き日、父を死に追いやって以来、多くの同胞を失いながら追い求めてきた答えが……!)
だが、昂る感情を理性で抑え込み、彼は重い体をベッドへと運んだ。
(……いや、今は眠ろう。体力を回復させなければ……)
翌朝。
エルヴィンは、窓から漏れる光で意識を浮上させた。
「……もう朝か。朝一番の会議はハンジやリヴァイ、ナマエ達と壁外調査の打ち合わせだったか。……いかんな。気を引き締めていかなくては。調査兵団を率いる者として情けない姿は……見せられない……」
だが、体は鉛のように重かった。
会議室では、すでに他のメンバーが集まっていた。
「やあ、諸君! おはよう!」
ハンジが快活に挨拶をする
「おはようございます」
ナマエが控えめに返す。だが、リヴァイは時計を見て鼻を鳴らした。
「チッ、おはようじゃねえ。遅刻だぞ。会議の時間は守りやがれ」
「おやおや? 珍しくエルヴィンも遅刻だね」
ハンジが不思議そうに首を傾げる
「珍しいですよね……」
数分待っても現れないエルヴィンに、リヴァイの不機嫌さが増していく。
「大方、クソでも詰まらせてるんだろう。少し待て」
「そうだね。この隙にお茶でも淹れてこよう」
「あっ! ハンジさん、私が淹れます!」
さらに時間は過ぎた。
「……いったい、いつまで待たせる気だ。クソが長引くにも程がある」
「本当だね~。もしかしたら下しちゃってる方かもしれないよ。どっちにしろ大変だ。ちょっと様子を見てこようか」
「俺も行こう」
「心配です……私も行きます」
三人が団長の自室へ向かい、リヴァイが扉を叩く。
「俺だ、エルヴィン。いるのか? エルヴィン、入るぞ。……?」
鍵はかかっておらず、扉がそっと開いた。
「リヴァイ兵長?」
「……おい、エルヴィン?」
そこには、パジャマ姿でベッドの縁に腰掛けたまま、上半身を預けて眠り込んでいるエルヴィンの姿があった。着替える途中で意識を失うように眠りに落ちたのだと、一目でわかった。
「ははぁ、これはこれはぐっすりお休み中だね。連日連夜の仕事で、このところ忙しかったから疲れてるんだよ」
ハンジが声を落として囁く。リヴァイは呆れたように肩をすくめた
「……チッ、めんどくせえな」
「団長……よく寝てる……」
ナマエは、その無防備な寝顔に胸を締め付けられた。普段の鉄壁の仮面が剥がれ、ただの疲れ果てた男がそこにいた。
「どうする? 起こす?」
「いや、いい。しばらくこのままにしておけ。放っておきゃ、そのうち起きるだろ。こんな状態で仕事をさせて外で倒れられたら、調査兵団がいい笑い物だ」
「そうだね、リヴァイの言う通り、エルヴィンの体調が心配だ。じゃあ予定を少し調整して休ませてあげよう」
「……他の連中も集まってきやがったな」
「皆さんに予定調整のこと知らせてきますね……!」
数時間後。ようやく意識を取り戻し、身なりを整えて団長室の机に向かおうとしたエルヴィンのもとへ、ナマエが静かにお茶を運んできた。
「……ナマエか。すまない、会議を遅らせてしまった」
「いいんです。ハンジさんとリヴァイ兵長が、今日は予定を調整してくださいましたから」
エルヴィンは気まずそうに視線を逸らし、すぐに書類へ手を伸ばそうとした。だが、ナマエがその手の上にそっと自分の手を重ねて止めた。
「エルヴィン団長……。」
「……ナマエ?」
「お願いがあります。いえ、これは『一兵士』としての進言ではなく、私個人の心からのお願いです」
エルヴィンは、ナマエの真剣な、それでいて潤んだ瞳を真っ向から受け止めることになった。
「なんとか一日だけでいいんです。……一日だけでいいので、近いうちに休暇を取ってください。 このままでは、あなたが壊れてしまいます。あなたがいない未来なんて、私は耐えられません」
「……しかし、作戦の詰めが……」
「それはハンジさんやリヴァイ兵長が担います。だから……お願いです。一日だけ、ただのエルヴィンさんとして休んでください。それができないなら、私もここで一歩も動きません」
ナマエの必死な訴えに、エルヴィンは言葉を失った。多くの命を背負う彼にとって、「休む」ことは最大の贅沢であり、同時に恐怖でもあった。だが、目の前の少女の温かな拒絶が、彼の凍てついた心を溶かしていく。
「……ふ。君にそこまで言われては、指揮官としての面目丸潰れだな」
エルヴィンは、ようやく微かに微笑んで、机から手を離した。
「わかった。君の言う通りにしよう」
「……本当ですか!? ありがとうございます……っ」
安堵して笑うナマエの姿を見て、エルヴィンは初めて、この世界に休む価値のある平和が確かに存在することを実感したのだった。
トロスト区奪還作戦で捕獲された二体の巨人、ソニーとビーン。人類にとって計り知れない価値を持つはずだった研究対象が何者かに殺害された事件は、調査兵団に重い影を落としていた。
「それで、ソニーとビーンを殺した犯人はまだ見つからないのかい?」
ハンジが沈痛な面持ちで切り出した。
「被験体の二体の巨人を殺した犯人については、憲兵団からまだ何も報告はない」
「もう何日も経つっていうのに……」
エルヴィンは、机の上に広げられた膨大な資料に目を落としたまま、静かに答えた。彼の指先が、微かに万年筆の軸を強く握る。窓の外から差し込む夕闇が、彼の彫りの深い顔立ちに濃い影を落とし、その疲れを際立たせていた。
「ハンジ、君の方の調査で何か分かったことはあるか?」
「いや何も……ああ、ソニー……ビーン……かわいそうに……!」
嘆くハンジに対し、エルヴィンは冷静なトーンを崩さない。
「そうか……おそらく憲兵団の調査では何も判明しないだろう。ハンジ、君は今までの調査内容を報告書にまとめて提出してくれ。今後の対策も含めてな」
「ああ……そうだね。いつまでも悲しみに暮れてはいられない。……そしたら長距離索敵陣形も組み直さないといけないね」
「次の……第五十七回壁外調査への課題と対策も、明朝の会議で打ち合わせする予定だったな」
「そうだね。ああ、一ヶ月後の壁外調査が楽しみでたまらないよ……! あー、ところで、忙しいところ悪いけどミケが個人的に相談があるそうなんだ。時間は取れる?」
「わかった、時間を作ろう」
エルヴィンの返答に、ハンジは少しだけ眉を下げ、気遣わしげに彼を見た。
「大変だね……私にできることがあれば手伝いたいのはやまやまだけど……ナマエもいるしね」
「いや、これは団長としての私の役目だ。気にする必要はない」
「そうは言っても……」
「すまないな。気を使わせてしまって」
そこへ、扉が叩かれた。
「エルヴィン団長、失礼します!馬車の用意が整いました。お急ぎください」
「もうそんな時間か……すまないハンジ、後を頼む」
エルヴィンは足早に上着を羽織る
「ザックレー総統との会談だっけ? 戻りはいつ頃になりそう?」
「夕刻には戻れる、と思う。もっと早く戻りたいところだが、総統と話したいことは山積みだ。そうもいかんだろう。書類は机の上にまとめて置いておいてほしい。戻ってから、書類に目を通す前にミケと話す時間を作るから、あいつにはそう伝えてくれ。それから……」
「エルヴィン団長、お時間が……」
「わかった。では行ってくる」
「行ってらっしゃい」
その日の夜、団長室の灯火はいつまでも消えることがなかった。
「……書類はこれで最後か。こんな時間までかかってしまうとはな。夜明けも近い……少しだけでも眠るとしよう」
エルヴィンは羽ペンを置き、深く椅子に身を預けた。目を閉じると、闇の向こうから父の声、そして同胞たちの叫びが聞こえてくる気がした。
(……こうして目をつむると、ついこの世界の謎について考えてしまう。昔からそうだ。そして、追い求めてきた答えが手を伸ばせば、届くところにあるのかもしれない……イェーガー家の地下室に世界の秘密を解き明かす一端がある!幼き日、父を死に追いやって以来、多くの同胞を失いながら追い求めてきた答えが……!)
だが、昂る感情を理性で抑え込み、彼は重い体をベッドへと運んだ。
(……いや、今は眠ろう。体力を回復させなければ……)
翌朝。
エルヴィンは、窓から漏れる光で意識を浮上させた。
「……もう朝か。朝一番の会議はハンジやリヴァイ、ナマエ達と壁外調査の打ち合わせだったか。……いかんな。気を引き締めていかなくては。調査兵団を率いる者として情けない姿は……見せられない……」
だが、体は鉛のように重かった。
会議室では、すでに他のメンバーが集まっていた。
「やあ、諸君! おはよう!」
ハンジが快活に挨拶をする
「おはようございます」
ナマエが控えめに返す。だが、リヴァイは時計を見て鼻を鳴らした。
「チッ、おはようじゃねえ。遅刻だぞ。会議の時間は守りやがれ」
「おやおや? 珍しくエルヴィンも遅刻だね」
ハンジが不思議そうに首を傾げる
「珍しいですよね……」
数分待っても現れないエルヴィンに、リヴァイの不機嫌さが増していく。
「大方、クソでも詰まらせてるんだろう。少し待て」
「そうだね。この隙にお茶でも淹れてこよう」
「あっ! ハンジさん、私が淹れます!」
さらに時間は過ぎた。
「……いったい、いつまで待たせる気だ。クソが長引くにも程がある」
「本当だね~。もしかしたら下しちゃってる方かもしれないよ。どっちにしろ大変だ。ちょっと様子を見てこようか」
「俺も行こう」
「心配です……私も行きます」
三人が団長の自室へ向かい、リヴァイが扉を叩く。
「俺だ、エルヴィン。いるのか? エルヴィン、入るぞ。……?」
鍵はかかっておらず、扉がそっと開いた。
「リヴァイ兵長?」
「……おい、エルヴィン?」
そこには、パジャマ姿でベッドの縁に腰掛けたまま、上半身を預けて眠り込んでいるエルヴィンの姿があった。着替える途中で意識を失うように眠りに落ちたのだと、一目でわかった。
「ははぁ、これはこれはぐっすりお休み中だね。連日連夜の仕事で、このところ忙しかったから疲れてるんだよ」
ハンジが声を落として囁く。リヴァイは呆れたように肩をすくめた
「……チッ、めんどくせえな」
「団長……よく寝てる……」
ナマエは、その無防備な寝顔に胸を締め付けられた。普段の鉄壁の仮面が剥がれ、ただの疲れ果てた男がそこにいた。
「どうする? 起こす?」
「いや、いい。しばらくこのままにしておけ。放っておきゃ、そのうち起きるだろ。こんな状態で仕事をさせて外で倒れられたら、調査兵団がいい笑い物だ」
「そうだね、リヴァイの言う通り、エルヴィンの体調が心配だ。じゃあ予定を少し調整して休ませてあげよう」
「……他の連中も集まってきやがったな」
「皆さんに予定調整のこと知らせてきますね……!」
数時間後。ようやく意識を取り戻し、身なりを整えて団長室の机に向かおうとしたエルヴィンのもとへ、ナマエが静かにお茶を運んできた。
「……ナマエか。すまない、会議を遅らせてしまった」
「いいんです。ハンジさんとリヴァイ兵長が、今日は予定を調整してくださいましたから」
エルヴィンは気まずそうに視線を逸らし、すぐに書類へ手を伸ばそうとした。だが、ナマエがその手の上にそっと自分の手を重ねて止めた。
「エルヴィン団長……。」
「……ナマエ?」
「お願いがあります。いえ、これは『一兵士』としての進言ではなく、私個人の心からのお願いです」
エルヴィンは、ナマエの真剣な、それでいて潤んだ瞳を真っ向から受け止めることになった。
「なんとか一日だけでいいんです。……一日だけでいいので、近いうちに休暇を取ってください。 このままでは、あなたが壊れてしまいます。あなたがいない未来なんて、私は耐えられません」
「……しかし、作戦の詰めが……」
「それはハンジさんやリヴァイ兵長が担います。だから……お願いです。一日だけ、ただのエルヴィンさんとして休んでください。それができないなら、私もここで一歩も動きません」
ナマエの必死な訴えに、エルヴィンは言葉を失った。多くの命を背負う彼にとって、「休む」ことは最大の贅沢であり、同時に恐怖でもあった。だが、目の前の少女の温かな拒絶が、彼の凍てついた心を溶かしていく。
「……ふ。君にそこまで言われては、指揮官としての面目丸潰れだな」
エルヴィンは、ようやく微かに微笑んで、机から手を離した。
「わかった。君の言う通りにしよう」
「……本当ですか!? ありがとうございます……っ」
安堵して笑うナマエの姿を見て、エルヴィンは初めて、この世界に休む価値のある平和が確かに存在することを実感したのだった。
