自由な空に、君と愛を。
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古城からの帰還後、調査兵団の拠点は静かな活気を取り戻していた。
しかし、ナマエの心は未だにあの塔の屋上で見た、燃えるような落日とエルヴィンの孤独な瞳に囚われたままだった。
一週間後。ナマエは団長室への呼び出しを受けた。重厚な扉を叩き、許可を得て入室すると、そこには山積みの書類を前にペンを走らせるエルヴィンの姿があった。窓から差し込む午後の陽光が、彼の金髪を眩しく縁取っている。
「入ってくれ。……よく来てくれた、ナマエ」
エルヴィンはペンを置き、組んだ手の上に顎を乗せて彼女を見つめた。その碧眼には、以前よりも深い信頼の色が宿っている。
「今回の調査において、君が見せた機転と勇猛さは、兵団にとって計り知れない利益をもたらした。いくつもの死地を乗り越え、古城の謎の一端を暴いたその気概に、心からの敬意を表する」
「ありがとうございます、団長」
ナマエは背筋を伸ばし、最敬礼を捧げた。その称賛だけで胸がいっぱいになる。けれど、彼女が望むのは単なる「優秀な兵士」という評価ではなかった。
「ナマエ、君には引き続き、兵団の要として重大な任務を担ってもらいたいと考えている。新しい案件が入り次第知らせる。心して待っていてくれ」
「……団長。一つ、お願いがあります」
ナマエは意を決して、彼を真っ直ぐに見据えた。
「お願い?」
「私を、あなたの副官……副団長にさせてください。候補でも構いません。今の私では力不足かもしれませんが、私は、あなたのすぐ側であなたを守りたいんです」
エルヴィンの眉が微かに動いた。副団長という役職は、単なる実力だけでなく、軍事的な采配や政治的な調整能力も求められる重責だ。
「……私を守る、か。君はどこまでも献身的だな」
「わがままであることは重々承知しています。ですが、私は……あなたを失いたくないんです」
ナマエの切実な声に、エルヴィンはしばし沈黙した。彼は立ち上がり、窓の外を見つめる。その広い背中は、人類の未来を背負う冷徹な指導者のものだが、ナマエにはそこに一筋の危うさが見えていた。あの夢で見た、右腕を失う彼の姿が脳裏をよぎる。
「……いいだろう。古城での功績を考えれば、異論を唱える者は少ないはずだ。明日から君を『副団長候補』に任命する。だが、正式な就任は、一ヶ月後に行われる『第五十七回壁外調査』で結果を残してからだ。厳しい試練になるが、やれるか?」
「はい! ありがとうございます!」
翌日から、ナマエの生活は一変した。
午前中は分隊長ミケ・ザカリアスの元で、小規模な壁外調査や近接戦闘の猛訓練を受ける。ミケの動きは野性的で、ナマエは何度も土を噛み、全身を泥と汗で汚した。
「……いい根性だ、ナマエ。お前は、折れない刃のような匂いがする」
ミケは不敵に笑い、倒れ込む彼女に手を貸した。
「ミケ分隊長……ありがとうございます。まだまだ、足りません」
「焦るな。お前の身体能力は、リヴァイに近いものがある。あとは経験だけだ」
午後はエルヴィンの側で、書類仕事や会議の補佐をこなした。 夜深く、執務室で二人きり、ランプの灯火の下で作業をする時間は、ナマエにとって何よりも甘美な休息だった。
「疲れただろう。少し休むといい」
「いいえ、団長こそ。……お茶を淹れますね」
淹れたての紅茶の香りが部屋に満ちる。エルヴィンがふっと表情を緩め、ナマエが差し出したカップを受け取る。その際、指先が触れ合うだけで、ナマエの胸は苦しいほどに高鳴った。
しかし、平穏なばかりではなかった。
ある日、兵舎の中庭で兵士たちの親睦を深めるための「交流会」が開かれた。ナマエは主席卒業の新兵、しかも副団長候補として、注目の的だった。
「よう、ナマエ! 今日の訓練も凄かったな!」
同期の兵士たちが彼女を囲み、笑い合う。ミケは相変わらず彼女の匂いを嗅いでは周囲を威嚇し、リヴァイまでもが「おい、あまりこいつを甘やかすな。図に乗るぞ」と言いながら、彼女に新しい掃除用具を(彼なりの親愛の情として)手渡していた。
そんな様子を、執務室の窓から静かに見下ろす男がいた。 エルヴィン・スミス
彼は無意識のうちに、手にしていた羽ペンを強く握りしめていた。 ミケに頭を撫でられ、リヴァイと対等に言葉を交わし、若い兵士たちに慕われるナマエ。彼女の周りには常に人が絶えず、その素直な笑顔が向けられている。
(……不愉快だ)
自分でも驚くほど、どす黒く鋭い感情が胸の奥で渦巻いた。 彼女を自分の隣へ置いたのは、その優秀さを利用するためであり、同時に自分の監視下に置くためだったはずだ。だが今、彼女が自分以外の男たちに笑いかけている姿を見るだけで、心臓の奥が焼け付くように痛む。
それは、冷静沈着な指揮官としてあるまじき、醜い「嫉妬」だった。
交流会が終わり、夜、報告書を届けに来たナマエを、エルヴィンはいつもより低い声で迎えた。
「……楽しそうだったな、ナマエ」
「えっ? ああ、交流会のことでしょうか。皆さんとても優しくて、勇気をもらえました」
ナマエがいつものように無垢な瞳で微笑むと、エルヴィンは彼女の手首を掴み、自分の方へと引き寄せた。
「だん、ちょう……?」
「……あまり、他の男に気を許しすぎるな。君は自分が思っている以上に、人を惹きつける。……君を副団長候補にしたのは、私の側に置くためだということを忘れないでほしい」
その碧眼に宿る、昏く激しい独占欲。 ナマエは驚きに目を見開いたが、すぐにその痛いほどの握力に、彼もまた自分と同じ「一人の男」であることを知った。
「……私の中にはあなたしかいないです、エルヴィン団長。」
ナマエがそう囁くと、エルヴィンはハッとしたように力を緩め、彼女を抱き寄せた。広い胸の中から聞こえる、不規則で力強い鼓動。
「……すまない。私は、どうやら君を失うことを、誰よりも恐れているらしい」
壁外調査を目前に控え、二人の想いは、より深く、より逃れられない形へと変容していく。しかし、運命の歯車は無慈悲にも、彼らを最大の悲劇へと誘っていた。
しかし、ナマエの心は未だにあの塔の屋上で見た、燃えるような落日とエルヴィンの孤独な瞳に囚われたままだった。
一週間後。ナマエは団長室への呼び出しを受けた。重厚な扉を叩き、許可を得て入室すると、そこには山積みの書類を前にペンを走らせるエルヴィンの姿があった。窓から差し込む午後の陽光が、彼の金髪を眩しく縁取っている。
「入ってくれ。……よく来てくれた、ナマエ」
エルヴィンはペンを置き、組んだ手の上に顎を乗せて彼女を見つめた。その碧眼には、以前よりも深い信頼の色が宿っている。
「今回の調査において、君が見せた機転と勇猛さは、兵団にとって計り知れない利益をもたらした。いくつもの死地を乗り越え、古城の謎の一端を暴いたその気概に、心からの敬意を表する」
「ありがとうございます、団長」
ナマエは背筋を伸ばし、最敬礼を捧げた。その称賛だけで胸がいっぱいになる。けれど、彼女が望むのは単なる「優秀な兵士」という評価ではなかった。
「ナマエ、君には引き続き、兵団の要として重大な任務を担ってもらいたいと考えている。新しい案件が入り次第知らせる。心して待っていてくれ」
「……団長。一つ、お願いがあります」
ナマエは意を決して、彼を真っ直ぐに見据えた。
「お願い?」
「私を、あなたの副官……副団長にさせてください。候補でも構いません。今の私では力不足かもしれませんが、私は、あなたのすぐ側であなたを守りたいんです」
エルヴィンの眉が微かに動いた。副団長という役職は、単なる実力だけでなく、軍事的な采配や政治的な調整能力も求められる重責だ。
「……私を守る、か。君はどこまでも献身的だな」
「わがままであることは重々承知しています。ですが、私は……あなたを失いたくないんです」
ナマエの切実な声に、エルヴィンはしばし沈黙した。彼は立ち上がり、窓の外を見つめる。その広い背中は、人類の未来を背負う冷徹な指導者のものだが、ナマエにはそこに一筋の危うさが見えていた。あの夢で見た、右腕を失う彼の姿が脳裏をよぎる。
「……いいだろう。古城での功績を考えれば、異論を唱える者は少ないはずだ。明日から君を『副団長候補』に任命する。だが、正式な就任は、一ヶ月後に行われる『第五十七回壁外調査』で結果を残してからだ。厳しい試練になるが、やれるか?」
「はい! ありがとうございます!」
翌日から、ナマエの生活は一変した。
午前中は分隊長ミケ・ザカリアスの元で、小規模な壁外調査や近接戦闘の猛訓練を受ける。ミケの動きは野性的で、ナマエは何度も土を噛み、全身を泥と汗で汚した。
「……いい根性だ、ナマエ。お前は、折れない刃のような匂いがする」
ミケは不敵に笑い、倒れ込む彼女に手を貸した。
「ミケ分隊長……ありがとうございます。まだまだ、足りません」
「焦るな。お前の身体能力は、リヴァイに近いものがある。あとは経験だけだ」
午後はエルヴィンの側で、書類仕事や会議の補佐をこなした。 夜深く、執務室で二人きり、ランプの灯火の下で作業をする時間は、ナマエにとって何よりも甘美な休息だった。
「疲れただろう。少し休むといい」
「いいえ、団長こそ。……お茶を淹れますね」
淹れたての紅茶の香りが部屋に満ちる。エルヴィンがふっと表情を緩め、ナマエが差し出したカップを受け取る。その際、指先が触れ合うだけで、ナマエの胸は苦しいほどに高鳴った。
しかし、平穏なばかりではなかった。
ある日、兵舎の中庭で兵士たちの親睦を深めるための「交流会」が開かれた。ナマエは主席卒業の新兵、しかも副団長候補として、注目の的だった。
「よう、ナマエ! 今日の訓練も凄かったな!」
同期の兵士たちが彼女を囲み、笑い合う。ミケは相変わらず彼女の匂いを嗅いでは周囲を威嚇し、リヴァイまでもが「おい、あまりこいつを甘やかすな。図に乗るぞ」と言いながら、彼女に新しい掃除用具を(彼なりの親愛の情として)手渡していた。
そんな様子を、執務室の窓から静かに見下ろす男がいた。 エルヴィン・スミス
彼は無意識のうちに、手にしていた羽ペンを強く握りしめていた。 ミケに頭を撫でられ、リヴァイと対等に言葉を交わし、若い兵士たちに慕われるナマエ。彼女の周りには常に人が絶えず、その素直な笑顔が向けられている。
(……不愉快だ)
自分でも驚くほど、どす黒く鋭い感情が胸の奥で渦巻いた。 彼女を自分の隣へ置いたのは、その優秀さを利用するためであり、同時に自分の監視下に置くためだったはずだ。だが今、彼女が自分以外の男たちに笑いかけている姿を見るだけで、心臓の奥が焼け付くように痛む。
それは、冷静沈着な指揮官としてあるまじき、醜い「嫉妬」だった。
交流会が終わり、夜、報告書を届けに来たナマエを、エルヴィンはいつもより低い声で迎えた。
「……楽しそうだったな、ナマエ」
「えっ? ああ、交流会のことでしょうか。皆さんとても優しくて、勇気をもらえました」
ナマエがいつものように無垢な瞳で微笑むと、エルヴィンは彼女の手首を掴み、自分の方へと引き寄せた。
「だん、ちょう……?」
「……あまり、他の男に気を許しすぎるな。君は自分が思っている以上に、人を惹きつける。……君を副団長候補にしたのは、私の側に置くためだということを忘れないでほしい」
その碧眼に宿る、昏く激しい独占欲。 ナマエは驚きに目を見開いたが、すぐにその痛いほどの握力に、彼もまた自分と同じ「一人の男」であることを知った。
「……私の中にはあなたしかいないです、エルヴィン団長。」
ナマエがそう囁くと、エルヴィンはハッとしたように力を緩め、彼女を抱き寄せた。広い胸の中から聞こえる、不規則で力強い鼓動。
「……すまない。私は、どうやら君を失うことを、誰よりも恐れているらしい」
壁外調査を目前に控え、二人の想いは、より深く、より逃れられない形へと変容していく。しかし、運命の歯車は無慈悲にも、彼らを最大の悲劇へと誘っていた。
