自由な空に、君と愛を。
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暗い廊下の突き当たり、錆びついた鉄の扉に、先ほど手に入れたばかりの古びた鍵を差し込む。硬質な金属音が地下の静寂に不気味に反響し、ナマエは無意識に隣に立つエルヴィンの腕に指先を触れさせた。エルヴィンは静かに、けれど力強く彼女の指を包み込み、ゆっくりと扉を押し開けた。
扉の向こう側は、かつての城主が知の深淵に耽ったであろう「書斎」だった。壁一面を埋め尽くす書架には、革装丁の背表紙が骸骨のように並んでいる。埃の混じった古い紙の匂いが、肺の奥をくすぐる。
「……ここにも、仕掛けがあるはずだ。ナマエ、君の力を貸してくれ」
「はい。この部屋の空気、どこか歪んでいる気がします」
ナマエは本棚の一角、不自然に磨り減った一冊の分厚い事典に目を留めた。エルヴィンと視線を交わし、同時にその背表紙を押し込む。重々しい石の軋む音が響き、本棚が音を立てて横にスライドした。 その先に広がっていたのは、光の届かない完全な闇。
「……! 団長、あれは……」
ナマエの声が戦慄に震えた。隠し部屋の奥、数メートルの至近距離に、異様な巨影が蹲っていたのだ。
三メートル級の巨人。 だが、その巨体は微動だにしない。どんよりとした眼球は半分閉じられ、口からは力ない吐息さえ漏れていなかった。
「……どうやら、この巨人は長く暗がりにいたせいで、活動ができなくなったのだろうな。光を失い、深い眠りについたというわけだ」
エルヴィンの眼が、冷徹な観察者のそれとなって闇を射抜く。
「三メートル級……。間違いなく、本物ですね。こんな近くで……」
ナマエは呼吸を忘れ、その異形の肌の質感を凝視した。まるで古い樹皮のように乾燥し、生命の輝きを一切失っている。
「……先へ進もう。ナマエ」
「あ……はい」
エルヴィンが一度、巨人との距離を取る。その動作に躊躇はなかった。彼は残された一本のブレードを逆手に握り直すと、一陣の風となって踏み込んだ。
ビシュッッ!!
鮮やかな弧を描いた刃が、抵抗なく巨人のうなじを削ぎ落とす。蒸気が上がり、異形の体躯がゆっくりと崩れ落ちた。
「……これでいい。いつ動き出すか分からない脅威は、排除しておくべきだ。行くぞ」
「はい……!」
情け容赦のない、けれど最善の判断。ナマエは彼の背中に、リーダーとしての孤独と、それゆえの気高さを改めて感じ取っていた。
階段を上り、一行はようやく地下一階へと辿り着いた。 地上に近づいたはずのその場所は、階下よりもさらに荒廃していた。天井は大きく崩れ、瓦礫が通路を塞いでいる。湿った土の匂いに混じり、腐敗した木材の香りが鼻を突く。
「音がした方に行ってみるとしよう。状況を確認する必要がある」
「はい!」
足音を殺して進んだ先、一室の奥にうつぶせになった巨人の姿があった。
「……動いています! 目覚めたばかりのようです」
ナマエが警告を発するのと同時に、巨人が這いずるような動きを見せた。だが、エルヴィンの動きはそれよりも遥かに速かった。瞬く間にうなじを両断し、巨人を沈黙させる。その流麗な動作には、無駄な力が一切入っていない。
「ここは天井が脆くなっているようだ。あまり長居はしないほうがいいだろう。この階の状況を確かめ、脱出路を確定させるぞ」
探索を続けながら、二人はぽつりぽつりと会話を交わした。極限状態の中で交わされる言葉は、かえって純粋な熱を帯びる。
「……エルヴィン団長。リヴァイ兵長は、出会った頃からあんなに厳しい方だったんですか?」
ナマエの問いに、エルヴィンはふっと口角を緩めた。
「リヴァイか……。そうだな。出会った頃は今よりもずっと鋭い目をしていたよ。獣のような、誰の言葉も寄せ付けない拒絶を纏っていた。……まぁ、それは今もあまり変わらないがね。気になるなら今度、直接話しかけてみたらどうだ。意外と、対等な立場の者と話すことは嫌いじゃないらしい」
「兵長と対等だなんて……恐れ多いです」
ナマエが苦笑すると、エルヴィンは立ち止まり、彼女の顔を正面から見つめた。
「そうだな……私からもひとつ、君に質問してもいいか?」
「エルヴィン団長からですか? もちろんです」
「君自身のことを聞かせてくれ。君は何を好み、何を考えてその若さでここへ来たのか」
ナマエは一瞬、言葉に詰まった。本当の理由は、夢の中で見た彼を守るため。けれど今は、その情熱の源泉を別の言葉で紡ぐ。
「私は……読書が趣味です。文字の中に広がる、ここではないどこかの物語を追うのが好きなんです」
「読書か。そういえば、君は座学の成績も非常に優秀だったと聞いているよ」
「団長は……お休みの日に本を読まれることはありますか?」
エルヴィンはどこか寂しげに、碧い瞳を伏せた。
「そうだな……。あまり、仕事以外の本を読んだ覚えがないな。調査兵団に入ってからというもの、小説や詩集といったものには縁がなくなってしまった。世界の真実を解き明かすための資料ばかりを捲っている」
「そうなんですか……。それは、少し勿体ない気がします」
「……興味がないわけではないんだ。単に、自分で選ぶ心の余裕がない、というのが現状でね。……ナマエ、一つ約束をしてくれないか」
「約束、ですか?」
エルヴィンは一歩近づき、ナマエの目線に合わせて僅かに腰を落とした。
「壁内に戻ったら、君のおすすめの小説を教えてほしい。君が愛した物語を、私も共有したい。……楽しみにしているよ」
「……! はい。責任重大ですね。一生懸命、選びます…!」
「ああ、頼む。……君の話を聞くというのは、なかなか面白いものだな。自分の凝り固まった思考が、君の言葉で柔らかく解けていくのを感じるよ」
その温かな言葉に、ナマエの心臓が甘く疼いた。 死と隣り合わせの地下室で交わされた、日常への約束。それが、何よりも強い生きる糧となる。
だが、現実はすぐに彼らを引き戻した。 通路の先に、再びうずくまった巨人の影が複数現れる。日の光を遮断された室内で、石像のように静止した異形たち。
「……今のうちに倒す。部屋の調査はそれからだ」
「はい!」
ビシュッッ!! ビシュッッ!!
エルヴィンの刃が、闇を切り裂く。 一歩進むごとに、死の影を振り払い、二人は着実に地上へと近づいていく。ナマエは手にしたブレードを強く握り直した。 彼に教えたい本は、もう決まっている。 共に生き残り、壁内の穏やかな陽光の下で、その物語の続きを語り合いたい。
「エルヴィン団長。この付近の部屋を調べましょう。何か、手がかりがあるはずです」
「ああ。君の言う通りだ。行こう、ナマエ」
地下一階。崩落の激しさを物語る瓦礫の隙間から、わずかに外の空気が流れ込んできた。 運命の出口まで、あと少し。
扉の向こう側は、かつての城主が知の深淵に耽ったであろう「書斎」だった。壁一面を埋め尽くす書架には、革装丁の背表紙が骸骨のように並んでいる。埃の混じった古い紙の匂いが、肺の奥をくすぐる。
「……ここにも、仕掛けがあるはずだ。ナマエ、君の力を貸してくれ」
「はい。この部屋の空気、どこか歪んでいる気がします」
ナマエは本棚の一角、不自然に磨り減った一冊の分厚い事典に目を留めた。エルヴィンと視線を交わし、同時にその背表紙を押し込む。重々しい石の軋む音が響き、本棚が音を立てて横にスライドした。 その先に広がっていたのは、光の届かない完全な闇。
「……! 団長、あれは……」
ナマエの声が戦慄に震えた。隠し部屋の奥、数メートルの至近距離に、異様な巨影が蹲っていたのだ。
三メートル級の巨人。 だが、その巨体は微動だにしない。どんよりとした眼球は半分閉じられ、口からは力ない吐息さえ漏れていなかった。
「……どうやら、この巨人は長く暗がりにいたせいで、活動ができなくなったのだろうな。光を失い、深い眠りについたというわけだ」
エルヴィンの眼が、冷徹な観察者のそれとなって闇を射抜く。
「三メートル級……。間違いなく、本物ですね。こんな近くで……」
ナマエは呼吸を忘れ、その異形の肌の質感を凝視した。まるで古い樹皮のように乾燥し、生命の輝きを一切失っている。
「……先へ進もう。ナマエ」
「あ……はい」
エルヴィンが一度、巨人との距離を取る。その動作に躊躇はなかった。彼は残された一本のブレードを逆手に握り直すと、一陣の風となって踏み込んだ。
ビシュッッ!!
鮮やかな弧を描いた刃が、抵抗なく巨人のうなじを削ぎ落とす。蒸気が上がり、異形の体躯がゆっくりと崩れ落ちた。
「……これでいい。いつ動き出すか分からない脅威は、排除しておくべきだ。行くぞ」
「はい……!」
情け容赦のない、けれど最善の判断。ナマエは彼の背中に、リーダーとしての孤独と、それゆえの気高さを改めて感じ取っていた。
階段を上り、一行はようやく地下一階へと辿り着いた。 地上に近づいたはずのその場所は、階下よりもさらに荒廃していた。天井は大きく崩れ、瓦礫が通路を塞いでいる。湿った土の匂いに混じり、腐敗した木材の香りが鼻を突く。
「音がした方に行ってみるとしよう。状況を確認する必要がある」
「はい!」
足音を殺して進んだ先、一室の奥にうつぶせになった巨人の姿があった。
「……動いています! 目覚めたばかりのようです」
ナマエが警告を発するのと同時に、巨人が這いずるような動きを見せた。だが、エルヴィンの動きはそれよりも遥かに速かった。瞬く間にうなじを両断し、巨人を沈黙させる。その流麗な動作には、無駄な力が一切入っていない。
「ここは天井が脆くなっているようだ。あまり長居はしないほうがいいだろう。この階の状況を確かめ、脱出路を確定させるぞ」
探索を続けながら、二人はぽつりぽつりと会話を交わした。極限状態の中で交わされる言葉は、かえって純粋な熱を帯びる。
「……エルヴィン団長。リヴァイ兵長は、出会った頃からあんなに厳しい方だったんですか?」
ナマエの問いに、エルヴィンはふっと口角を緩めた。
「リヴァイか……。そうだな。出会った頃は今よりもずっと鋭い目をしていたよ。獣のような、誰の言葉も寄せ付けない拒絶を纏っていた。……まぁ、それは今もあまり変わらないがね。気になるなら今度、直接話しかけてみたらどうだ。意外と、対等な立場の者と話すことは嫌いじゃないらしい」
「兵長と対等だなんて……恐れ多いです」
ナマエが苦笑すると、エルヴィンは立ち止まり、彼女の顔を正面から見つめた。
「そうだな……私からもひとつ、君に質問してもいいか?」
「エルヴィン団長からですか? もちろんです」
「君自身のことを聞かせてくれ。君は何を好み、何を考えてその若さでここへ来たのか」
ナマエは一瞬、言葉に詰まった。本当の理由は、夢の中で見た彼を守るため。けれど今は、その情熱の源泉を別の言葉で紡ぐ。
「私は……読書が趣味です。文字の中に広がる、ここではないどこかの物語を追うのが好きなんです」
「読書か。そういえば、君は座学の成績も非常に優秀だったと聞いているよ」
「団長は……お休みの日に本を読まれることはありますか?」
エルヴィンはどこか寂しげに、碧い瞳を伏せた。
「そうだな……。あまり、仕事以外の本を読んだ覚えがないな。調査兵団に入ってからというもの、小説や詩集といったものには縁がなくなってしまった。世界の真実を解き明かすための資料ばかりを捲っている」
「そうなんですか……。それは、少し勿体ない気がします」
「……興味がないわけではないんだ。単に、自分で選ぶ心の余裕がない、というのが現状でね。……ナマエ、一つ約束をしてくれないか」
「約束、ですか?」
エルヴィンは一歩近づき、ナマエの目線に合わせて僅かに腰を落とした。
「壁内に戻ったら、君のおすすめの小説を教えてほしい。君が愛した物語を、私も共有したい。……楽しみにしているよ」
「……! はい。責任重大ですね。一生懸命、選びます…!」
「ああ、頼む。……君の話を聞くというのは、なかなか面白いものだな。自分の凝り固まった思考が、君の言葉で柔らかく解けていくのを感じるよ」
その温かな言葉に、ナマエの心臓が甘く疼いた。 死と隣り合わせの地下室で交わされた、日常への約束。それが、何よりも強い生きる糧となる。
だが、現実はすぐに彼らを引き戻した。 通路の先に、再びうずくまった巨人の影が複数現れる。日の光を遮断された室内で、石像のように静止した異形たち。
「……今のうちに倒す。部屋の調査はそれからだ」
「はい!」
ビシュッッ!! ビシュッッ!!
エルヴィンの刃が、闇を切り裂く。 一歩進むごとに、死の影を振り払い、二人は着実に地上へと近づいていく。ナマエは手にしたブレードを強く握り直した。 彼に教えたい本は、もう決まっている。 共に生き残り、壁内の穏やかな陽光の下で、その物語の続きを語り合いたい。
「エルヴィン団長。この付近の部屋を調べましょう。何か、手がかりがあるはずです」
「ああ。君の言う通りだ。行こう、ナマエ」
地下一階。崩落の激しさを物語る瓦礫の隙間から、わずかに外の空気が流れ込んできた。 運命の出口まで、あと少し。
