『恋愛禁止条例』
第07話:バイト
数日後、俺はAKB劇場のステージの上に居た。
「……という訳で、今日からステージの清掃スタッフとして働くことになった“新城 隼人”君だ。 みんな仲良くするように」
劇場支配人の“戸賀崎 智信”さんが、メンバーやスタッフさんたちをステージ周辺に集め俺の紹介をしてくれた。
俺の素性はこの戸賀崎さんだけが知っていて、ここでは単なる学生のバイトということになっている。
まぁ、クラスメイトの大島たちにも言ったことないから、今更言うつもりはないし、何よりそうじゃないと働きづらいだろうからね。
「新城 隼人です。バイト自体初めてなので、暫くご迷惑をお掛けするかもしれませんが、一生懸命やりますので宜しくお願いします!!」
戸賀崎さんに紹介された俺は自己紹介をし頭を下げた。
パチパチパチパチパチ
拍手の音はスタッフ側からもメンバー側からも聞こえ胸を撫で下ろした。
ここに来るまでずっと大島など同級生の交じるメンバーたちからは、嫌われるのを覚悟していたので、意外な拍手に嬉しくなり顔を上げた。
『うっ……』
ニコニコと歓迎してくれるメンバーに混じり、俺を冷ややかに見ている大島たち同級生メンバーが目に入り思わずたじろいだ。
『何でアンタがって思ってるんだろうな……前途多難だ』
こうして俺は叔父さんの計らいでAKB劇場で働くことになった。
仕事は公演が終わった後のステージ清掃で、ステージの終わる9時頃に劇場へ行って清掃して帰る、そんな内容だった。
それほど大変な訳でもなく、1週間もすれば仕事の要領を掴んだ俺は、いつものようにバイトから帰ってくるとベッドの上で考えごとをしていた。
『何かバイトする前とあんま変わんないな……』
時間がメンバーや他のスタッフさんとズレているせいか、未だに挨拶を交わす程度。
結局、学校に行って帰る生活に清掃の仕事が追加されただけの毎日で、以前と代わり映えのしない日々に飽きてきていた。
「隼人~ ちょっと手伝ってくれる~?」
どうしたものかと頭を悩ませていると、階下のリビングから麻巳子さんが俺を呼ぶ声が聞こえる。
「どうしたんですか?」
「あっ、来た来た。 洗濯物畳むの手伝ってくれる?」
俺がリビングに行くと洗濯物がリビングのテーブルの上に大量にあり、それを指差しながら麻巳子さんがニコニコしていた。
「いいですよ」
そう言うと俺は麻巳子さんの隣に移動し、洗濯物を畳むのを手伝い始めた。
………………
…………
……
洗濯物の量は2人でやればどうってことはなく、麻巳子さんと俺は他愛もない話をしながら畳んでいくと、ものの10分ぐらいで終わった。
「よし、完了!」
俺は最後の服を畳むと、それを同じ種類の服の上に重ねる。
両親が共働きで小さい頃から家事全般をこなしていたから、こういうことをするのが楽しく久しぶりにしたせいか思わずニコニコしてしまう。
「ありがとう。 隼人は仕事が丁寧だから助かるわ」
「こういうのやるの好きなんですよ。 最近バイトばかりだったからて手伝えなくてすみません」
「ふふ、隼人は何でもできて気が利く子だから、きっと劇場の方たちに重宝されそうね」
「えっ……」
麻巳子さんの言葉に俺はハッとする。
単調な毎日に飽きていたのは、自分が言われたことだけをしていたからなのではないかと。
「そうか……ありがとう麻巳子さん」
俺がそう言うと麻巳子さんはニコニコしていた。
麻巳子さんの一言で自分に足りていないものに気付いた俺は、次の日から学校が終わるとそのまま劇場に向かい、忙しそうに働く他のスタッフさんたちの手伝いをするようになった。
力仕事から、裁縫、買い出しなど、俺が出来ることなら何でもやった。
すると……。
「おーい隼人、手伝ってくれ」
「隼人君これお願い」
「隼人、大至急ドンキ行って買ってきてくれ」
俺の仕事ぶりを見てくれていたスタッフさんたちと仲良くなることができた。
いつしか俺の呼び名も“新城”から“隼人”になり、御飯に連れて行ってもらえるぐらい親しくなった。
「隼人はどっちが良いと思う?」
それだけに留まらず、いつの間にか新作の衣装デザインを、戸賀崎さんや衣装スタッフさんたちと決めるなんて事もさせてもらえるようになり、以前の清掃だけして帰る生活から一変した。
忙しく毎日を送っていたが心の充実具合は半端なく、麻巳子さんから「毎日楽しそうね」と言われた程だ。
そして、変わったのはスタッフさんたちとの関係だけではなかった――。