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『恋愛禁止条例』

第05話:代わり映えしない日々

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 仲の良い女友達に告白し見事ともいえる“玉砕”。
軽い気持ちで告白した訳ではないし、断られた理由が理由なだけにショックは大きい。
でも、ここまでだったら何処にでもある甘酸っぱい青春の1ページ……と言えなくもなかったのだが、それだけで終わることはなかった。

 その後、俺に急転直下とも言える展開が待ち受けていた……。

 まず、大島は俺から告白されたことを、同じAKBのメンバーに喋ったのだろうか。
次の日にはそのことが教室中に広まり、その翌日には学年全体に、翌週にはなんと全校生徒に広まっていた。

 告白し断られたことについては、事実なのだから仮にヒソヒソと言われても仕方ないと諦めもつく。
だが、いつの間にか話が歪曲され“抜け駆け”だの“無理矢理迫った”だの話にいわれのない尾ひれが付き、いつしか学校中の男子を敵に回す結果となっていた。
そして、そればかりか男子の目を気にした女子からも、敬遠される存在となってしまったのだ。

『はぁ……俺は告白しただけだぞ……』

 そんなことを思ってみても後の祭りで目の前の現実が変わることなどなく、今日までそれは続いている。

…………………………

……………………

………………

…………

……

キーンコーンカンコーン

 学校中に放課後のチャイムが鳴り響き、気が滅入る学校が終わりを告げる。

 「何処か寄ってくか?」「ゲーセンでも行こうぜ」などと、同級生が繰り広げる放課後の会話を尻目に、教室に居ても碌なことがない俺は早く帰ろうと、誰にも挨拶することなく教室を出ようとする。

 だが、そんな俺の細やかな願いも虚しく、大島が「新城君、じゃあね」と手を振ってきた。

「あぁ、じゃあ……」

 惚れた弱みか俺は大島のリップサービスに、ぶっきらぼうながらも律儀に応え足早に学校を後にした。

 教室を出るとき、俺の大島に対する態度が気に入らないのだろう、周囲に居た男子が俺に不満そうに一瞥してきた。

 理由は何となく想像できる。
大島が交際を断わり話し辛いであろう相手である俺にも努めて普通に接しているのに、俺はそれに比べ大人げない態度をとっているように見えるんだろうからな……。

………………

…………

……

「ただいま帰りました」

 何処に寄る訳でもなく真っ直ぐ家に帰ってきた俺は、リビングにいた“麻巳子さん”に挨拶をする。

 麻巳子さんっていうのは“叔父さんの奥さん”のこと。
美人な上に料理も上手いし優しく、それだけに留まらずイラストも得意で、人柄を表しているような温かみのある絵で本も出している才能豊かな女性だ。

 麻巳子さんはリビングで何かしていたけど、それを止めると「お帰りなさい」そう言って笑顔を向けてくれた。
学校でずっと無視されている俺は、この笑顔に癒される毎日なのだ。

「美味しいって評判のケーキ買ってきたんだけど食べる?」

「いただきます」

「もう、他人行儀なのは、いつ直るのかしらね」

「ごめんなさい」

 2人の間に子供は出来なかったらしく、俺を引き取ってくれたとき叔父さんも麻巳子さんも「息子が出来た」と喜んでくれた。
なのに俺は3ヶ月経った今でも、まだまだ2人に対して他人行儀に接してしまう。
それに俺は戸籍上“新城”のままでいる。
叔父さんたちは、いつでも俺を“養子”に迎えたいと言ってくれたのだけど、まだ俺の中では死んだ両親に申し訳なくて踏ん切りがついていないかった。

「ゆっくりでいいの。 隼人のペースでいいから」

 複雑な顔をしていた俺の気持ちなどお見通しのように、麻巳子さんは優しい言葉をかけてくれた。

………………

…………

……

ガチャッ

 ケーキを食べながら暫く麻巳子さんと世間話をした後、俺は自分の部屋に戻りベッドに寝っ転がる。

『毎日こんなんでいいんだろうか……』

 大島に振られてからというもの、寄り道も殆どせずに毎日こうやって真っ直ぐ学校から帰る生活に些か疑問を感じていた。
この状況で部活などという選択肢もなく、毎日家の手伝いと予習復習という、学生の鑑のような生活を規則正しく送り過ぎればこうもなるだろう。

 そんなことを思っていると、ふと壁に掛かったカレンダーが目が留まる。

『そういえば、麻巳子さんの誕生日って12月だったよな……』

 叔父さんの時は、俺の両親の四十九日にぶつかってしまいお祝いできなかった。
だから、せめて麻巳子さんの誕生日ぐらいは何かプレゼントして日頃の感謝を伝えたい。
そして、この代わり映えのしない毎日を少しでも充実させたい。

 そう思った俺は“ある”承諾を得るべく、叔父さんの帰宅を待った――。


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