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『恋愛禁止条例』

第04話:悲しい現実

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「私の何処が好きなの?」

 そんな大島の質問に、俺は“あの日”を思い出すようにしながら答えた。

「少し前、大島がここで毎日唄っていたことあったよね?」

 それを言うと大島の顔色が変わり「なんで知っているの?」といつもより低い声で聞いてきた。

「俺もあの時間になると、いつもこの屋上で夕陽を見てたんだ」

「そう……それで?」

 先程まての穏和な表情は消え、今まで見たことのない無表情な大島がそこにいた。
俺は何か悪いことをしたのかと思ったが、大島に「それで?」と促され続きを話した。

「最初、たまたま大島の歌を聴いたとき上手いなって思った。流石アイドルってね。 でもさ、毎日聴いているうちに歌に変化っていうか、そういうのを感じた」

「変化?」

「そう、変化。初めは何か確かめるように唄っていると感じていたんだけど。 ある日、大島の歌声が悲しそうに聞こえた。 その日はどうしたんだろうって思ってたんだけど、次の日から大島が学校1週間休んで……それからは一度も唄わなくなっただろ?」

「えぇ……」

「学校に戻ってきた大島はみんなと以前のように笑ってた……。 でも、何だか俺には大島が心から笑ってないように見えて仕方なかった……だからかな。 大島の心からの笑顔がみたい。 そして、またあの歌を聞きたいって思った……そのときからかな。 大島のことが好きなんだって気付いたのは「クスクス……あはは」……お、大島?」

 急に笑い出した大島に虚を衝かれた俺はきっと間抜けな顔をしていただろう。
一方、大島はお腹を抱え笑っている。

 何か変なこと言ったのだろうかと思っている俺に「新城くんさ。 私がアイドルだって知ってるよね?」と馬鹿にしたように聞いてくる。
勿論、俺の答えなど知っている大島は、俺の言葉を待たず言葉を続けた。

「私たちって“恋愛禁止条例”ってあるの。 好きな相手の事ぐらいちゃんと知ってなよ。 それに仲良くしてたのは……リップサービスだから」

 そう言うと大島は踵を返すように校舎へと戻っていった。

 確かに彼女の言うように、AKBというグループのこと、大島のこと、そしてアイドルについて知っておくべきだったと思う。
振られた理由があまりにも真っ当過ぎてぐうの音もでない。

 でも、何よりも悲しかったのは大島が自分と仲良くしていたのが、クラスメイトだからではなくアイドルとしてのリップサービスだったという事実だった。
俺は振られた悲しみより、その事実が悲しくて俯いた。

 すると、大島は校舎に入る直前、ドアの所で「……貴方が悪いのよ」と小さく呟き校舎へと戻って行った。

 その時、彼女が何を言っているのか意味が分からなかったが、振られたことだけは理解できた――。


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