『恋愛禁止条例』
第03話:告白
それは一週間程前のこと。
俺が大島を学校の屋上に呼び出したことに始まる。
「新城君、話ってなに?」
夕陽に照らされた大島の髪が黄金色に染まり風になびいていた。
その乱れた髪を屋上のフェンスに持たれながら直す姿に、俺は緊張し上手く喋れずいた。
「あぁ、えっと、大した話じゃ……いや大事な話で……」
「変な新城君」
そう言いながらクスクス笑う。
そんな大島の笑顔が可愛くて、言いたいことが余計喉の奥でつっかえて出てこない。
「お、大島!」
「うん。何?」
意を決し俺は口を開く。
「大島が好きなんだ。俺と付き合ってくれないか」
そう言いながら俺は頭を下げた。
………………
…………
……
『?』
ドキドキしながら暫く返事を待ったが、一向に返事が返って来る気配がない。
恐る恐る顔を上げると、大島がさっきと変わらない笑顔でこちらを見ていた。
「あの、おおし「私の何処が好きなの?」」
俺が名前を呼ぶのを遮り大島が聞いてくる。
その笑顔に何処か違和感を憶えたけど、その時は深く考えることはなかった。
『好きなところか……』
………………
…………
……
俺と大島の趣味は似通っていた。
好んで読む本の作家であったり、観る映画やテレビのジャンル、聞いている音楽、好きな食べ物まで似ていた。
そして何より、芸能人なのに気さくで一緒にいて居心地が良かったのだ。
大島も『新城君と居ると変に気を遣わなくて楽ちんなんだ』って、笑って言っていたっけ。
でも、それは表向きの理由。
彼女に惹かれた本当の
両親を目の前で亡くした俺は何故か涙を流すことも、悲しいと“感じる”こともなかった。
それは“感情”を欠落させブロックすることで、強烈な悲しみを感じさせぬようにとの、身体の防衛反応だろうと入院していた先の医師に言われた。
“心から笑う”そんな普通のこともできなくなった俺は、仮面を被るように偽ることだけが上手くなり、転校した先のクラスメイトは疎か、叔父さんたちにも偽り続け、次第に本当の自分が分からなくなっていた。
そんな時だった……。
「へぇ、新城君も、その小説読んでるんだ?」
「えっ、あ、うん」
「実は、私も今それ読んでるんだよね……ほらっ」
そう言って、自分の鞄から同じ小説を取り出し嬉しそうに見せる大島。
それが、大島と俺の初めての会話だった。
芸能人にも関わらず誰にでも気さくに接する大島は男女問わず人気者だった。
初めはそんな大島に対し、特別な感情を抱くこともなく単なるクラスメイトとして見ていて、寧ろ少し距離を置いてさえいたかもしれない。
それなのに席が近かったせいか、色々な共通点があったからか、大島は俺にやたらと絡んできた。
そればかりか何の縁か学校の行事でも大島と行動を共にする機会が多く、俺の大島への心の壁が次第になくなっていく。
不思議なことに彼女と一緒に居ると俺は自然と笑みが溢れ、無くしていた“感情”が自分の中に蘇ってくるのが分かった。
そして、徐々にクラスメイトや叔父さんたちにも、偽ることなく接することができるようになっていた。
きっと、大島が声をかけてくれなければ俺の心に“感情”は戻らなかった。
だから、俺は大島に“救われた”。
いつしか大島と一緒に居ることが当たり前になり、気付くと心揺さぶられるような感覚を大島に抱くようになっていた。
その感覚は慣れるどころか、日に日に強まるばかりだった。
そして俺は“あの日”この気持ちの正体に気付いた――。