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『恋愛禁止条例』

第23話:新城 隼人と秋元 康

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―優子side―

「あ、秋元先生!!」

「すまんな。 盗み聞きするつもりはなかったんだが……」

 扉の所でばつが悪そうにする秋元先生がいて、その後ろにも誰かいることに私は気付いた。

「いえ……あの秋元先生、後ろの方は?」

「あぁ、妻の麻巳子だ」

「えっ、奥様!?」

 秋元先生の奥様を初めて見たけど、元アイドルだけあって美しい女性ひとだった。
でも何故、奥様を連れて新城君の病室を訪れたのか全く分からずいる私たちに、奥様の麻巳子さんが秋元先生の横に移動し頭を下げてくる。

「いつも秋元がお世話になっています」

「え……いえ、私たちこそ、今があるのは秋元先生のおかげです。 こちらこそいつもお世話になっています」

 そう私が頭を下げると麻里子も頭を下げる。

 暫くして頭を上げた私は、率直な疑問を口にする。

「あの秋元先生……何故、奥様と一緒に新城君の病室へ?」

「それは場所を変えよう……麻巳子、隼人を見ていてやってくれないか?」

「はい」

 秋元先生が親しくもないだろう彼の事を“隼人”と呼ぶのを聞き、私も麻里子も顔を見合わせた。

………………

…………

……

 私たち三人は病院の屋上にいた。

「あの……秋元先生は新城君と、どういったご関係なんですか?」

「隼人は私の妹の息子……つまり甥だ」

「え……隼人が秋元先生の甥……」

 隣にいた麻里子は思わず口を手で押さえるように驚く。
内心、私も驚いていたけど、それ以外に疑問が浮かび、それを口にしようとした。

「あの……でも……」

「大島が言いたいことは分かる……隼人の両親は交通事故で亡くなってね。 それで私が引き取ったんだよ」

 それから秋元先生は事故のことや、新城君が事故で負った精神的な後遺症のことなど教えてくれた。

「「……」」

 私も麻里子も言葉も出ず、唯々絶句するしかなかった。
新城君はご両親のこと、秋元先生のこと、それに自分のこと、それらを一度も口にしたことなんてなかったから。

「隼人が篠田に言ったことは間違いではない。 もし、大島と隼人が付き合えば否が応でも私の耳に入る。 そうなったらどうなる?」

「……何かしらの処分があるはずです……」

「そうだ……それに隼人は真面目な子だ。 私の甥が自ら“恋愛禁止条例”を破る……そんなことを良しと出来なかったんだろう。 だから色々考え、隼人は大島の告白を断ったんだと私は思う」

 全て私を想っての言葉だったことを知り、自分が新城君にしたことをこれ以上黙っていることができなかった私は、学校でのことなど今までのことを全て包み隠さず秋元先生に話した。

「……すみませんでした」

 私は全て話し終え秋元先生に頭を下げた。

「顔を上げるんだ、大島」

 頭を上げた先にあった秋元先生の表情は普段と変わらぬものだった。

「大島、謝る相手を間違えているんじゃないか? 謝るのは私にではなく、隼人だろ」

「はい……」

「だが……隼人に謝らなければならないのは私も同じだ」

「えっ?」

「大島たちと同じ学校へ行かせたのも、劇場以外でのバイトは許さないと言ったのも私だ。 私は隼人のためと思い色々したつもりだったが、もっとあの子の性格を理解するべきだった……これで、隼人の親になりたいと思ってしまうんだから……こうなってしまったのは私の責任だろう」

 初めて見る秋元先生の弱気な姿。
深い愛情があるからこそ自分のしたことに責任を感じているのだろう。

 それは私も同じで自分が彼にしたことを悔やんでも悔やみきれず、私の心には後悔だけが募り、思わず相手が秋元先生だというのに私は生意気なことを言っていた。

「そんなことはありません……秋元先生は新城君の事を考えてされたことじゃないですか。 新城君は言ってました。AKBは自分にとって大事な場所だって。 だから、失いたくない場所なんだって。 それに握手会も学校の事も私の責任です。 私こそ選択を間違えたんです」

 秋元先生はそんな私の言葉を最後まで静かに耳を傾け、話し終わった私に1つの質問をしてきた。

「大島は隼人をどう思っている?」

 勿論、新城君は大事な人でいつも私の隣で微笑んでいて欲しい。
だけど、私にはもう一つ大事なもの、アイドルの先にある“女優”という夢もある。
その夢を叶えるためにAKBで、やりたいこと、やらなければならないことがまだまだ沢山あった。
かといって“恋愛禁止条例”が存在する今のAKBにいては、夢を追いながら新城君と付き合うことなどできない。

 本当に好きな人の為なら、夢を諦めることはできるんだろうか。
本当に叶えたい夢の為なら、好きな人を諦められるんだろうか。

 そして答えを出したその先に何があるんだろう……。

「私は……」

 どちらか一方しか手に入れられない、そんな究極の選択を迫られた私が出した答えは――。


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