『恋愛禁止条例』
第22話:温もり
―優子side―
私は救急車で搬送される新城君に付き添い病院に居た。
あの後、当然のことながら握手会は中止になり、新城君を刺した男性は警察に逮捕された。
新城君は、出血が酷かったっものの致命傷ではないらしく、今は病室のベッドで寝ている。
ベッドに安らかな表情で寝ている新城君とは対象的に、彼の血が付いたままの服で隣にいる私の方がよっぽど怪我人のように見える。
でも、彼の背中には大きなナイフが刺さった傷があって、彼の病院着の胸元から覗く包帯が私を守ってくれたのだと教えていた。
私はベッドで力なく置かれた彼の手を握りながら、ずっとその温もりを確かめていた。
「優子、一旦家に戻った方が良いよ……」
そう言って私を気遣ってくれるのは麻里子。
彼女は握手会の会場から誰よりも早く病院に駆けつけてくれた。
他のメンバーもさっきまで新城君が刺されたという事実にショックを受けながらも病院に来てくれていた。
珠理奈は残ると泣きじゃくりながら駄々をこねていたけど、新城君のためと言って他のメンバーと一緒に帰らせ今病室には私と麻里子だけが居た。
麻里子が一緒に居てくれるおかげで気分は少し楽だった。
きっと、1人でいたら珠理奈のように泣いていたと思う。
スゥ、スゥ……
新城君の規則正しく上下に動く胸と手から伝わる温もりは、今の私には何よりもの安心感と同時に彼への愛しさを込み上げさせた。
私は新城君の瞼に掛かった髪の毛を優しく払いながら改めて思う。
『やっぱり、私は新城君が好き』
そんな事を考えながら、新城君の寝顔を眺めていると麻里子が口を開いた。
「私のせいかもしれない」
「麻里子、急になに?」
「昨日から優子の様子がおかしかったから、さっき隼人と休憩中に話したの……そしたら優子に告白されたけど断ったって……理由聞いたら“付き合えば優子がAKBを居られなくなる”って……私には言い訳みたいに聞こえて思わず“見損なったって”言ってしまったの……」
自分の言動に落ち込むことなど滅多にない麻里子が声を震わせていた。
麻里子の告白に驚かされたけど、それ以上に新城君がそんなことを考えていたことなんて知らなかった。
「それは間違いではないよ」
突然、扉の方から声が聞こえ、私も麻里子も驚いてそちらを向いた――。