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『恋愛禁止条例』

第02話:クラスメイトはアイドル

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 俺が刺された事件から遡ること数ヶ月程前。
学生最大のイベント“夏休み”が迫る7月のある朝のこと。

 俺はいつものように学校へ向かう通学路を歩いていた。
上を見上げると、梅雨明けの雲一つない青空が広がっている。

『こっちの夏は蒸し暑そうだな……』

 そんなことを考えていると、夏の到来を感じさせる空から陽射しが容赦なく照りつけ、歩いているだけだというのに早くもシャツを汗ばませた。

 俺の名前は“新城 隼人”。
高校2年の16才。
何処にでもいるような普通の高校生で、両親と3人で田舎街に住んでいた。
両親は親に一緒になることを反対され駆け落ち同然に結婚、そして俺が生まれたという。
そんな経緯いきさつがあり生活は決して裕福ではなかったけど、俺は高校にも無事進学でき普通に楽しい生活を送っていた。

 だけど、人生分からないもので、そんな俺の“普通の生活”がたった一日で変わった。
その日、両親と俺の3人が乗る車は対向車線をはみ出してきた車に、衝突されるという事故に巻き込まれた。
両親と相手の車の運転手は死亡、俺は幸い軽傷で済んだ。
だが突然、両親を目の前で亡くした俺は、駆け落ち同然で一緒になった両親の親族関係を知る訳もなく、天涯孤独の身となってしまう。
形だけの葬式を終え俺は、これからどうしたらいいのかと途方に暮れていた。
そんな俺を母の兄で叔父に当たる人が、どうやってかは分からないが探しだし引き取ってくれることになった。
そんなことで俺は生まれ育った田舎街を離れ、ここ東京にやってくることとなる。
学校もそれに合わせ転校し、俺は新たな土地の高校で2年の新学期をスタートしたはずだった。

………………

…………

……

「おはよう」

 俺は登校し教室に入るとクラスメイトに向け挨拶をする。

「「「……」」」

 男子がこちらをチラリと見るが、登校したのが俺だと分かるとみんな無視するように、また他の生徒と談笑を再開し始めた。

「お、おはよう、新城君……」

 一方、男子の目が気になるのだろう、辛うじて聞こえる声で何人かの女子が挨拶を返してくれた。
そんな彼女たちに迷惑をかけるのも悪いので小さな声で「おはよう」と返すと、そのまま自分の席に着いた。
そして誰と話すこともないまま鞄から小説を出すと、読みかけだったページを開いた。

 傍から見れば青春真っ只中の学生とは思えない微妙な空気が漂う光景だが、これが俺のいつもの朝の光景だった。

 4月の新学年がスタートし数日過ぎてから転校してくるという珍しい存在だった俺は、クラスメイトからの色々な質問攻めという洗礼を受けることになる。
でも、俺は両親を亡くしていることや、その時に受けた“後遺症”のようなもののせいで、クラスメイトと積極的に親しく接することはなかった。
それでも表面的には普通に挨拶を交わしたり会話をするなど、決してクラスで爪弾きにされることなどなかった。

 だが、ある“事件”をきっかけに、俺は学校で知らない者はいない程の有名でありながら、大多数の男子を敵に回し無視されるような存在になってしまった。
そうなると、男子の友人ができる訳もなく、かといって女子も男子の目を気にし仲良くなどしてくれる訳もなかった。
だから、今では黙々と本を読むのが俺の日課となっていた。

 暫くし次々と生徒が揃い始めると、教室が賑やかになってくる。

「おはよう~♪」

 すると、挨拶をしながら数人の女生徒が並んで教室に入ってくる。

ザワザワ……

 その女子を見た教室の男子たちがざわめく。

「「「「おはよう!!」」」」

 彼女たちの挨拶に教室の男子たちは色めきだち、我先と争うように挨拶を返す様は異様にさえ見える。
だけど、只の挨拶に男子たちがこんなにざわつくのには訳があった。

 その訳とは教室に入って来た女生徒が、アイドルグループ“AKB48”のメンバーなのだ。

 俺は田舎に住んでいたから最近まで知らなかったけど、秋葉原のドンキホーテに専用劇場を構え、毎日のように劇場公演を行うアイドルグループで“会いに行けるアイドル”というコンセプトが受けて、最近世間で人気急上昇中だという。

 そのメンバーが何故かうちの学校に多く通い、しかも俺のクラスには人気メンバー“小嶋 陽菜”“峯岸 みなみ”そして“大島 優子”の3人がクラスメイトなのだ。

「○○君、おはよう♪~」

 男子たちに挨拶しながら席に座るアイドルの面々。
それに嬉しそうに答える男子たちの姿が、俺には“尻尾を振る犬”にダブって見えるのは気のせいだろうか?
毎日の“恒例行事”となっているやり取りに若干胸焼けするのを感じ、俺は再び本に視線を戻す。

 しかし、1行読むか読まないかのところで「おはよう。新城くん」と名前を呼ばれ、俺は本から顔を上げた。
声の主“大島 優子”は俺に声をかけると、俺の隣の席に座る。

「あぁ……おはよう大島」

 自分の席に座った大島は、早速いつものように俺の読んでいた本を横から覗き込んできた。
その瞬間、大島のシャンプーの香りが鼻腔を微かに擽る。

「今日は何読んでいるのかなぁ?」

「……“舟を編む”って辞書作りをする、不器用な男性の話」

 俺がぶっきらぼうに答えても、大島は「へぇ、その作品知らない。また、読み終わったら貸してね」と言いながらニコニコしている。
他の奴ならきっとこの笑顔に色めき立つんだろうし、俺も大島の笑顔は可愛いと思う。

 でも大島がその笑顔の裏で何を考えているかを身を持って知る俺は、内心大きな溜め息をついた。

 何故なら俺がクラスメイトに無視されるきっかけになったのは、彼女が原因なのだから――。


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