『恋愛禁止条例』
第19話:真実
―隼人side―
大島の言葉に俺は驚くしかなかった。
「私が好きって言ったらどうする?」
そう言われ俺は彼女にどう答えれば良いか迷った。
スタッフとして劇場で働くようになった俺は大島の色々な姿を見るようになり、学校での印象と大分違うことを知る。
普段“何でもそつなくこなす優等生”だったり“一緒に居るだけで周囲を明るくするムードメーカー”そんな印象が強い大島。
だけど本当は、意地っ張りだったり、泣き虫だったり、寂しがりだったり、それでいて誰よりも頑張り屋な人間らしい“素”の大島を知った俺は、寧ろ前よりも一層彼女に惹かれた。
しかし、同時にAKBというグループが身近になればなるほど“恋愛禁止条例”が俺の気持ちにブレーキを掛けた。
破ればそれ相応のペナルティを科され、最悪“解雇”だってあり得るのが“恋愛禁止条例”。
何より、AKBグループの頂点に立つ“秋元 康”が自分の叔父なのだから、甥が率先してそれを破ることが出来る訳がない。
それに、俺と大島が付き合い、仮にその事実を隠したとしても、万一バレたりしたら大島が以前言っていた“女優”への夢に傷を付けかねない。
それだけは大島のために絶対避けなければならない。
俺にもう一度笑顔をくれた
『恋愛禁止条例ってあるの。好きな相手の事ぐらいちゃんと知ってなよ。』
彼女の言う通りだった。
俺があの時、自分の叔父がAKBの総合プロデューサーで“恋愛禁止条例”の存在を知ってさえいれば……そして俺が告白さえしなければ……。
進んだ針を戻すことはできない。
だから、俺にできることは一つだった……。
「大島……大島の気持ちは凄く嬉しいよ。ありがとう……けど、今の大島との関係、AKBという場所は俺にとって大事で、壊したくも失いたくもない。だから……ごめん」
俺の答えを聞いた大島が苦笑するように、それでいて今にも泣きそうな表情になる。
「だよね……うん、言えてスッキリした。ありがとう……じゃあ、これからもアイドルとスタッフ兼クラスメイトで。それじゃあ私戻るね」
そういって踵を返すように屋上を出て行こうとする。
その瞳にキラリと光るものを見た俺は引き止めるつもりで声を上げた。
「大島!」
でも、俺の言葉に彼女は振り向くことなく屋上を足早に出て行ってしまう。
1人屋上に残された俺は大島を泣かせたことに罪悪感を憶え暫く立ち尽くした。
………………
…………
……
その後、劇場に戻った俺はいつものように仕事をし、時間はいつの間にか劇場公演の時間になっていた。
大島は暫く楽屋に戻って来なかったみたいだけど、公演が始まるといつもの彼女に戻っていた。
公演中はやることのない俺は、普段であればモニターで公演を観ているのだけど、今日はそんな気になれずスタッフ休憩室に居た。
「はぁ……」
何もせずボーっとしていると大島の泣き顔が思い浮かび溜息がでた。
コンコン、ガチャッ
ノックの後、扉を開け入ってきたのは劇場支配人の戸賀崎さんだった。
俺はそれまで座っていた椅子から立ち上がると挨拶をする。
「お疲れさまです」
「おっ、いたな。隼人、明日はフリーか?」
「明日は劇場休みですし……俺も休みです」
「なら、急で悪いんだが、明日の握手会のスタッフに入ってくれないか?」
「いいですけど、どうしたんですか?」
聞くところによるとスタッフに欠員が出てしまい、手配が間に合わなくて急遽人手が必要になったという。
今の気分だと仕事している方が気分が紛れると思った俺は、仕事を受けることにした。
だけど、その選択が俺と大島、そしてAKB全体の運命を大きく変えることになることなど知る由もなかった――。