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『恋愛禁止条例』

第18話:後悔

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―優子side―

キィッ

 屋上へ続くドアを開けると、そこには夕暮れの空が広がっていた。
日が落ちるのが早くなり、風の冷たさに冬が近いのだと実感する。

 新城君も同じことを考えていたのか、空を見上げ呟いていた。

「この前、夏が終わったとばかり思っていたのに、あっと言う間に秋も終わっちゃうんだな」

 屋上に出た私たち。
目の前で両手を広げ伸びをする新城君の姿は、数ヶ月前とは全く違って大人びて見えた。
思わず私はそんな彼の夕日に染まった横顔に見惚れていると、視線に気付かれてしまう。

「ん? 何か顔に付いてます?」

「う、ううん。 新城君顔つきが変わったなって」

「そうですか? もしそうなら“AKB”のお陰ですね」

「AKBの?」

「えぇ、今凄く充実してるって言うか、嫌なことは忘れて楽しんで生きてるって感じます。それもこうやってAKBのスタッフとして働いているからなんだと思います」

 “嫌なこと”それはたぶん学校のこと。
私が振ったことで男子から無視されたりしている。
今ではそんなこともなくなってきたみたいだけど、それでもまだ続いている。
きっと私が言えばみんなやめるけど、何故か言えないでいる私は嫌な女だな本当。

 それなのに新城君は「俺のことはどうでもよくって。それより大島さんの悩みのことですが……」と私を見て言う。

 目が合った私は思わず逸らしてしまった。
正直、自分のやったことを考えると今更どの顔で“好き”だなんて言えるのか、そう思った。

 でも、そうとは知らない新城君は私の態度を違うように受け取ってしまう。

「……ですよね」

「えっ」

 暫くの沈黙の後、新城君の言葉に顔を見ると苦笑していた。

「俺なんかに言えるわけないですよね。 すみません相談のれなくて」

 彼はきっと私が嫌っているから、その相手に相談できる訳がないと思ったのだろう。

「違う……」

「秋元先生なら「違うの!」えっ?」

 違うんだよ……。

 私は彼の言葉を遮る。

「新城君のことが嫌いだから言えないんじゃないの。 悩んでいるのは……貴方のことなの」

 私の言葉に新城君は目を丸くして驚いていた。

「俺のこと?」

「うん……」

 ここまで来たら隠したって意味がない。
私は全て話すことにした。

「新城君に告白された時は、友達としてしかみてなかった。 だって、貴方も周りの男子たちと同じように私がアイドルだから寄って来たんだと思ってたから。 でも、新城君言ったよね? 笑ってるけど“嘘笑い”だって」

 私の言葉に静かに頷く新城君。

「あの時、喉の手術をして、もしかしたら二度と歌えないかもしれないって言われていたの。 秋元先生以外に、その事実を言ったことがなかったから、私にとっては知られたくないことだった。 だってアイドル続けられないかもしれなかったから……なのに、新城君は何も言ってないのに言い当てた。 見透かされているようで怖くて……だから、リップサービスだとか酷いこと言って拒絶したの……」

 私の告白に絶句したようになる新城君。
その反応に当然だろうなと思いながらも続ける。

「だけど、新城君がAKBのスタッフとして働くようになって……貴方が働いている様子を見ている内に、この人は他の人たちと違うんだって分かったの。 そうしたら、いつも目で追っている自分に気付いて……さっき珠理奈とか麻友とか他のメンバーと楽しそうにしているのを見て嫉妬したんだ……ねぇ、新城君はもし今、私が好きって言ったらどうする?」

 私は彼にそう言って答えを静かに待った。

 新城君は驚き考え込んでいたけど、暫くして口を開いた。

「大島……大島の気持ちは凄く嬉しいよ。ありがとう……けど、今の大島との関係、今のAKBでの毎日を壊したくないし失いたくない。だから……ごめん」

 そう言って深々と私に頭を下げる新城君。
予想はしていたから、答えを聞いて『あぁ、やっぱり』って思った。

 だって、あんな最低な振り方した私に告白されて嬉しい訳ないよね。
でも、やっぱり本人の口から聞くと辛く、私は今すぐこの場から離れたくて嘘を吐いた。

「だよね……うん、言えてスッキリした。ありがとう……じゃあ、これからもアイドルとスタッフ兼クラスメイトで……それじゃあ私戻るね」

 そう言って、私は彼が何か言ってるのも聞かず屋上から“逃げ出した”。

 溢れでる涙が止まらなくて楽屋に戻ることができなかった私は、トイレに篭って暫くの間声を上げ泣いた――。


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