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『恋愛禁止条例』

第16話:嫉妬

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 赤や黄に色づいた葉は落ち始め、今年のカレンダーも残り少なくなってきたある日のこと。

 俺はメンバーからリクエストされていたお菓子を抱え楽屋を訪れた。

コンコン

「失礼します」

 部屋に入るとメンバーの視線が一様に俺に集まる。
大島も楽屋に居て小嶋さんと1つの椅子に2人で座りながら、部屋の奥の方でこちらを見ていた。

「あっ、新城さん、それってお菓子ですか?」

「そうですよ。 北原さんにリクエストいただいたお菓子も入ってます」

 一番早く俺の持つモノに気付いたのは“北原 里英”さん。
食いしん坊で有名で、俺が彼女のリクエストしていたお菓子があることを告げると、「やった!」と嬉しそうに寄ってきた。
それが合図になったように他のメンバーも次々と俺の周りに集まってくる。

 ワイワイと騒がしくなる楽屋。

 女子校のノリだなと思いながら、お菓子を近くにあったテーブルに並べていると、ひとりのメンバーが他のメンバーを掻き分けてやってきた。
その手には何か白い紙を持っている。

「お兄ちゃん! 見て見て! この間のテストで全教科90点台採れたんだよ!!」

 寄ってきたメンバーとは珠理奈で、その手にあった用紙にはパッと見る限りどれも赤い字で90点以上の点数が書かれていた。

 俺は持ってきたお菓子をテーブルに並べ終え、人垣から抜け出すと珠理奈から用紙を受け取りマジマジと見た。
すると、各教科×は一つか二つくらいなもので残りは気持ちの良いくらいの○で埋め尽くされ、彼女の頑張りの跡が見えるテスト結果がそこにはあった。

「おぉ、凄いじゃないか。 それだけ珠理奈が頑張ったってことだよ」

「えへへ、それ程でも~。 それでね……珠理奈に頑張ったご褒美頂戴!」

 可愛らしく珠理奈が言うものだから思わずドキッとしてしまった。
だが、その言葉に反応したのは俺だけではなかった。
珠理奈の一言にそれまでお菓子に夢中だったり、お菓子に興味なさそうにしていた大島も含め、部屋に居たメンバー全ての視線が俺たちに集まった。

「ご、ご褒美?」

「うん!」

 俺は視線が矢のように突き刺さるのを感じ思わず吃る。
特に大島の視線が痛く、何故だか表情はあからさまに不機嫌だった。

「珠理奈、頑張ったんだよ!」

 俺に突き刺さる視線という名の矢など見えない珠理奈は、チャームポイントのアヒル口を更に尖らせ催促してくる。
視線は痛いのだが、確かに学業とアイドルを両立させようと頑張っていた珠理奈を隣で見ていた俺は、それぐらいしてあげてもいいのかなと思ってしまう。

「……わかったよ」

「わーい! こっちこっち。 ここに座って♪」

 根負けした俺に、珠理奈は何故か自分の隣に空いた席をポンポンと叩き、来るようにと促してきた。
俺はその行動が何を意味するのか分からなかったが、とりあえずその席に座る。
すると、珠理奈が突然、俺の膝に頭を預けてきた。
その姿は所謂“膝枕”というやつだった。

「えへへ、お兄ちゃんの膝あったかーい♪」

 猫のように目を細め気持ち良さそうに俺の膝にすり寄る珠理奈。

「お、おい珠理奈、何してんだ!」

「う~ん、膝枕?」

「い、いやそうじゃなくて……」

「んふふ~♪」

 天然なのかわざとなのか、膝からどこうとしない珠理奈。
そんな彼女に“どいて”とは言えない小心者の俺は、再び楽屋に居るメンバーたちの視線の餌食になる。

 その視線に珠理奈も気付いたのか、キョロキョロすると近くで俺たちを見ながら固まっている“まゆゆ”こと“渡辺 麻友”さんに不思議そうに尋ねる。

「まゆゆさん、皆どうしたんですか?」

「じゅ、珠理奈って新城さんと仲いいんだね?」

「はい! お兄ちゃんは私の先生で、勉強を見てくれてるんです。 お陰さまで成績もバッチリです!」

 膝枕されながらピースする珠理奈。

「先生……お兄ちゃん……」

 それを見た渡辺さんは、一瞬何か呟きながら思案するような感じだったけど、今度は思い詰めた表情で俺を見てくる。

「新城さん!」

「は、はい!」

「私にも勉強教えて下さい!」

「へっ?」

 思い詰めた表情で何を言い出すのかと思ったが、鯔のつまり家庭教師をしろと言うことらしく、俺は思わず間抜けな声を出してしまった。

「新城さん! 私にも教えて下さい!」

「私にも!」

「私もッ」

 すると、渡辺さんが口火を切ったように、他のメンバーたちも一斉に俺の元に詰め寄るようにやってきた。
その人数に俺も驚いたが、俺より驚いたのが珠理奈でバッと起き上がると俺と皆の間に割り込んだ。

「ちょっと! ダメダメダメ!」

「何でよ。 珠理奈だけずるい!」

「そうだ、そうだ」

「ぜーったいダメ! そうだよね、お兄ちゃん!」

「えっ?」

 珠理奈、なぜ俺に振るんだ……。
珠理奈に加え先ほどの渡辺さんを含むメンバーたちが、ジッとこっちを見ながら俺の答えを待っている。
そんなこと言われても……と針のむしろ状態で困っていた俺。

「……モテる男は大変だ」

 そんな俺に皮肉たっぷりの言葉を放つのは、さっきまで部屋の離れた所で怖い顔をし、こっちを睨んでいた大島だった。

「そういうことじゃ……」

「じゃあ、何よ?」

 一段と怖いよ大島……。
あからさまに気に入りませんって顔されても困るんだけど……。

 とはいえ、彼女たちのお願いを邪険にするのも悪いし、学業も大事だろうと思い俺は条件付きでOKした。

 すると、教えてもらえると喜ぶ渡辺さんたちメンバーと肩を落とす珠理奈の横で、大島がムスッとした表情で俺に「ばーか」と一言残し楽屋を出て行ってしまった――。


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