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『恋愛禁止条例』

第01話:好きだから

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「くっ、大島、なんとも……ない?」

「う、うん」

「良かった……」

 俺は刺された箇所から走る激痛に耐えていた。
自分が想像していたよりも傷が深いのか、それともナイフが抜かれたせいなのか、体から流れ出した血が赤黒い水溜まりを作り床に拡がるのが見える。

「何で!? なんで、私なんかを庇ったりするのよ!」

 覆い被さったままの俺の胸のなかで“大島 優子”は突然のことに気が動転しているのか、それとも恐怖のあまりなのか泣きながら疑問を叫ぶ。

「……好きな奴を守るのに、理由なんかいらないだろ……」

 痛みで顔を上げることが出来なかった俺は、大島の髪に顔を埋めるようにして何とか答える。
普段、彼女が近くを通るだけで漂うシャンプーの良い香りも、今はこんなに近くにいるのに感じることができない。

「ぼ、僕の大事な優子に触れるなぁ~」

 後ろではスタッフに取り押さえられた男が、何か俺に喚きながら連れていかれる。
背中越しに喚く男に『大事な女性ひとならナイフでなんて脅すなよ!』と言ってやりたかったが、痛みに耐えるのに精一杯の俺にそんな余裕はない。

「もう、大丈夫か……ごめん大島、限界かも……」

 犯人が連れて行かれ大島も無傷だと分かり、俺の中で張りつめていた緊張の糸が切れたのか全身から力が抜け、自分の身体を支えきれず大島を抱き締めるように倒れ込む。

「えっ、新城君!?」

 大島は俺を抱き返すように身体を支えながら、突然の俺の変化に驚いていた。

 やばい、意識が薄れ徐々に視界が狭くなってきた……。

「新城君しっかりして! 隼人! はや……」

 遠くなる意識の中で、大島がずっと俺の名前を叫び続けているような気がする。

 最後に大島を守れたんだから、俺の人生も満更じゃなかったなと思ったところで意識が途切れた――。


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