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『勘違いから始まる恋』第一章『恋の終わり』

第009話

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「大島 優子さん入りまーす」

 取材を受けるため取材現場であるホテルの一室に通される。
既に取材担当の女性レポーターの“小谷 真生子”と、撮影や照明など数名のスタッフがいた。
テレビ撮影の対談のためかいつもの取材の時より人数が多い。
その一人ひとりに挨拶と遅刻したことに対しお詫びを言う優子。

「本当にすみませんでした」

 最後に小谷に頭を下げて謝る優子に、彼女は何か感心したように笑う。
この小谷 真生子というのは、夜のニュースでキャスターを務める程の大物であった。
今回の対談は彼女がメインキャスターを務める情報番組が、先日行なわれたAKB48選抜総選挙について取材をしたいということで実現したもので、AKBが国民的と言われ、ニュース番組でもトップの視聴率を誇る番組からオファーが来たことが嬉しかったので今日を楽しみにしていた。

『変なこと言ったかな?』

 小谷の様子に首をかしげる優子。

「ごめんなさいね。 国民的アイドルとなると遅刻しても謝ったりしないのかなと思っていたから」

「そんなこと……」

 世間からAKBのメンバーは天狗になっていると言われることがある。
分刻みのスケジュールの中で一日に何十人と会うのだから、ちゃんとした挨拶ができないことや、ニコニコしていられる気分ではないときもあるが、蔑ろにしているつもりなどない。
だから、このような言い方をされると表情にこそ出さなかったが、やはり不愉快な気持ちになる。
部屋の空気が変わるのを山本 学も含めスタッフたちも感じたようで、手を止め遠目でみている。
小谷は優子の変化に気づき苦笑した。

「失礼だったわね。 謝ります」

 そういうと頭を下げる。
頭を下げられたからといって自分以外のメンバーに対しての侮辱であることには変わらない。

「私への個人的なことでしたら、遅刻したことも含めて謝ることしかできません。 でも、他のメンバーはみんな頑張っています。 だから……」

 “だから謝れ”それこそ天狗になっている証拠ではないか。
自らの発言が小谷に言われたことを認めている、そんな気がして言い淀み俯く。

 小谷は先ほどから態度を崩さず、それどころか今は先ほどよりも笑顔だった。

「秋元さんが言うように、メンバー想いなのね」

 その言葉に優子は顔を上げた。

「秋元先生?」

「そうよ、今回の取材をするにあたって秋元さんにお願いをして、貴女の、大島さんのスケジュールを都合つけてもらったの」

「そうなんですか……」

 いまいち状況がわからないので生返事しかできない優子。

「その時にね。 秋元さんが『取材の前にAKBを批判するようなことを言えば、大島 優子という人間が理解できるはず』だと言われていたの。 それが彼女を知る一番の方法だってね」

「そんな……」

 “秋元 康”の策略にはまったということらしい。

「でも、貴女のことを含めてAKB48がなぜ“国民的アイドル”と呼ばれるまでに成長できたのかが理解できた気がするわ」

 小谷の笑みに優子も笑顔になる。
2人のそのやり取りで場の雰囲気も和み対談もスムーズに行なわれた。

 途中“AKB48がアイドルの、芸能界の頂点に上る間に失ったもの”という話題になったとき、ウエンツ 瑛士の顔が一瞬浮かび表情に出るが直ぐに「劇場公演、そしてなによりファンの方と過ごす時間が減ってしまいました」と取り繕った。
実際、AKBの今の姿に“会いに行けるアイドル”が感じられなくなりつつあるのは確かだった。

………………

…………

……

 収録は順調に進み、テープチェンジの間の休憩が入った。

 優子は学に飲み物を頼もうと探したが、部屋に姿はなかった。
『どうしたのかな?』そう思っていると、電話を切りながら学が部屋に入ってくる。

「では、そのようにします。 失礼します……」

ピッ

 内容はわからなかったが真剣な表情を浮かべていた。

「優子、お疲れ様。 何か飲むかい?」

 優子が見ていることに気がつくと、いつもの温和な表情で労いの言葉をかけてくる。

「うん。 お願い」

「分かった。 待ってて」

 そう言うと学は再び部屋から出て行った。

「2人は随分仲が良いのね?」

 2人の様子を見ていた小谷が水を口に運びながら話しかけてくる。

「私がAKBに入ってからずっとマネージャーをしてくれているんです。 今ではメンバーの次に長く一緒に居る人かもしれませんね」

 2人は暫くお互いのプライベートの事を話し親睦を深めていった――。


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