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『勘違いから始まる恋』第四章『それぞれの想い』

第073話

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 コンサートは後半戦へ突入し、各々のグループのヒット曲を中心に進行していく。

 優子たちAKB48は“フライングゲット”“ポニーテールとシュシュ”などを含む16曲を、SKE48、NMB48、HKT48、JKT48はそれぞれ“片想いFinally”“純情U-19”“手をつなぎながら”“会いたかった”を披露する。

 その中でも優子はチームK、そして全ての選抜曲に参加し8曲もの楽曲に参加していた。
それはもう1人のエース前田 敦子と並ぶ最多出演回数で、片山 陽加による部活紹介のMCを挟んだ後のAKBグループ全員での“ひこうき雲”と“少女たちよ”も含めれば殆ど出突っ張りの状態。

 公演やコンサートに出ることが何より大好きと公言する優子も、流石に第一部が終わりステージ裏に戻る頃には肩で息をし、“少女たちよ”のときに肩に掛けていたコンサート名入りタオルは絞れるのではと思える程に汗で濡れていた。
ステージ裏に戻りスタッフからミネラルウォーター入りのペットボトルを受け取った優子は、勢いよくそれを飲み干し、やっと一息つくことができた。

「ふぅ……よしッ!」

 だが、そんな状況でも優子の表情は明るく、気合いを入れ直すと楽屋に足を向ける。
廊下はアンコールに向け準備に忙しく動き回るスタッフが行き交い、休憩室や楽屋に向かうメンバーたちもいて大混雑をしていた。

 優子は小さい身体を生かし、器用に避けながら廊下を楽屋へ向け歩く。
こんなとき自分の身長は小回りが利いてありがたいと思う。

 そんな中、小走りで優子に後ろから近づく足音があった。

「「「「「優子さ~ん(優子さん)、お疲れさまです!」」」」」

 そう挨拶しながら優子を追い抜いてゆく足音の正体は、島崎 遥香や松井 珠理奈、渡辺 美優紀に加え“児玉 遥”など数名のメンバーだった。

 “NEW SHIP”のために各グループから選抜された“次世代メンバー”で、その曲をアンコール1曲目で披露するための準備に楽屋へ急いでいるようだった。
優子は抜き去っていく彼女たちに笑顔で応える。

「おつかれ~、アンコール最初の曲、頑張ってね」

「「「「「はいッ!」」」」」

 彼女たちの背中を見送る優子の眼差しは優しくもあり、何処か物憂げだった。
優子がそんな表情をするには理由わけがあった。

 それは“Dear J”直前、TeamKのメンバーと交わした言葉が優子を変え、再びコンサートに集中することができるようになってはいた。
パフォーマンスやMCの出来もまずまずで、優子は自分でもこれでメンバーやファンの人たちに心配を掛けずに済むと半ば安心しかけていた。
ところが、ふとした折に無意識にまだ隼人の居る客席を見ている自分に気付いてしまう。
だから、成長してゆく“次世代”メンバーたちの姿を見て嬉しくなる反面、心の片隅にある想いを捨てきれないまま中途半端な状態でステージに立ち続けている自分と比べていた。

アンコールッ! アンコールッ! アンコールッ!……ワァ~ッ!!

 暫く続いたアンコールの声が、明るかった会場が再び暗くなると歓声に変わってゆく。
その一際大きくなった歓声と共にアンコールが始まった。

 アンコールは“NEW SHIP”に始まり、次はAKB48として最大となる36人の選抜メンバーを配し、この日が初お披露目となる26thシングル“真夏のSounds good!”がサプライズとして披露された。
参加メンバーの多くが若手のメンバーだったことはファンにとって嬉しいサプライズで、優子たちにとっても会場の雰囲気で“次世代”の波がAKBにも来ていることを感じさせた。

 続く楽曲の披露に加え3月24日が誕生日というメンバー2人を祝う会場全体でのイベントも高橋 みなみのMCで盛り上がりをみせながら滞りなく進んでいき、ステージには再びみなみの号令の下全てのメンバーが並んでいた。

 そして、そこで東北地方太平洋沖地震チャリティソング“誰かのために-What can I do for someone?”がメンバー全員によって披露された。
震災という未曾有の大惨事に人間は為す術はなく、それは1年経った現在(いま)も多くの人々の心に深い傷となって残っている。
震災が起きた直後から東日本大震災の慈善活動プロジェクトとして義援金、慰問公演などの支援活動を行ってきたメンバーが当時、そして今までを振り返りながら歌う姿に観客も静かに見守りながら耳を傾けていた。

<私が生まれた日から、今日まで? 陽射しのような、そのぬくもり、やさしく包まれてた?>

 メンバーそれぞれの想いが詰まった歌声が会場全体を包み込むように響き渡る。
優子も歌いながら当時を振り返っていた。

 震災の当日、優子は多くのメンバーと共に新曲のPV撮影でグアムに居た。
日本で極めて大きな地震があったことを聞かされ、メンバーたちは直ぐ様、家族や友人、そして優子はウエンツ 瑛士にも連絡を取る。
しかし、電話は繋がらずテレビもない場所で、為す術もないままPVの撮影をすることしかできなかった。
結局、優子の両親や兄、仙台に住む親戚、そして瑛士、全員が無事であったが、連絡の取れない間に感じた“大事な人を失うかもしれない”という不安や恐怖は今でも彼女の内に残っていた。

<一人ぼっちじゃ、生きて行けない♪ 誰かがいるから、私がいるの?>

 歌詞の一言一言が当時を思い出させ、心に刻まれた記憶とリンクするように隼人の幻が現れたかと思うと目の前でスッと消えていく。

『ッ!?』

 “現実ではない”そうは分かってはいても、その光景に自分と隼人の未来を見ているようで怖くなり、マイクが握られていない方の手で自分を抱きしめた。

<声が届くように、私は歌おう♪……>

 歌を終え頭を下げたメンバーの表情は誰もが神妙で、それを見た観客も歓声を上げるのを躊躇いアンコール最後としては静か過ぎる会場がそこにはあった。
俯いた優子の表情は周囲のメンバー同様に神妙で、先程見た幻のような光景が彼女の表情を更に強張らせていた。

 脳裏にあったその光景を振り払うように、優子は他のメンバーと同じタイミングで顔を上げると、目を閉じ大きく呼吸をした。

 そして、再び目を開けた優子の顔には笑顔があった。

「いよいよ、2日目は終了となりますけれども……」

 名残惜しそうな優子の言葉に、会場からは「えぇ~っ!!」という声が上がる。
そんな会場の声に笑みを増してみせた優子は、観客に向け元気一杯に言った。

「そんな“えぇ~”という皆さんに、最後の最後! もう自分の汗を全部出し切るぐらい盛り上がっていただきたいと思います! メンバー走れーッ!」

 優子の「走れーッ!」の掛け声と共に、メインステージにいたメンバーがそれぞれの場所へと一斉に走り出す。

 優子もTeam Kのメンバー宮澤 佐江や秋元 才加と共に正面に広がる花道を抜け、サブステージ目指し走り始めた。
優子は花道、円形ステージ、再び花道を笑顔を振りまきながら通り抜けると、目的の場所へと足を踏み入れた。

「……」

 それまで、手を振りスタンドやアリーナのファンへ向けられていた笑顔が一瞬、本当に一瞬だけ強ばるが直ぐさま元の笑顔へと戻る。

「準備はOK?」

 優子は先ほどの表情の変化などなかったかのように自分のマイクスタンドを準備し終え、周囲を見回しながら近くの者、そして他のステージや花道に居るメンバーに準備ができたかどうか声をかけていく。
それに会場のあちらこちらから「OK」の声が上がり、それを聞いた優子は続いて客席へ向け問いかける。

「皆さ~んッ!! 準備は良いですかぁ~?」

ワァーッ!!

 大歓声に満足したようにニコリと笑うと優子も負けじと叫んだ。

「さいたまぁ行くぞぉーッ!!」

 優子は一度だけ隼人の居る観客席を見やると、何かを振り払うようにマイクを握り直すと前を見据えた。

「ラストはこの曲、ヘビーローテーション!」

 優子はそう言いドラムのスティックを振るポーズを取ると、それに併せドラムの音が鳴る。

「one, two, three, four!」

 そして優子の掛け声と共に音楽が始まった。



 マイクスタンドの周りをクルリと回ったり、エアーギターを演奏するポーズをとったかと思うと、可愛らしくマイクを傾け観客席を指差す。
先程までの静寂を誘う曲から一変し、コンサートのラストを飾るに相応しい軽快なロック調ナンバーに乗り、全メンバーがそれぞれ所属するチームやグループに分かれ会場のステージや花道で笑顔を振りまきアイドルらしく可愛くパフォーマンスをする姿があった。

 アンコールとあってメンバーによっては既にTシャツにハーフパンツというラフな姿でいるメンバーも多くいたが、ファンの目には衣装など目に入っておらず、寧ろ疲れを微塵も感じさせない笑顔とパフォーマンスをする彼女たちの姿に歓喜していた。
ステージ上でもそんな歓喜の渦に湧くファンの様子に呼応し、メンバーたちのパフォーマンスも一段と熱を帯びてゆく。
誰ひとり全力でパフォーマンスしろと強制された訳ではないし、メンバーがたとえ疲れの混じる笑顔や無難なパフォーマンスをしたとしても、ファンならばアンコールなのだからと温かい目を向けたことだろう。

 だが、メンバーの誰もが自分たちが“何か”に突き動かされているのを感じ取っていた。
そして、その答えはファンの視線の先に存在していた。
ファンが見る先にはMCに始まり、イントロの掛け声、間奏でのソロダンスと、常に全力でメンバーをリードし、そして会場の雰囲気さえも支配する“大島 優子”の姿があった。
ファンの誰を見てもその瞳には“大島 優子”が映り、メンバーもそんな彼女の存在に感化されていた。

 前田 敦子が周囲を淡く照らす“月”であるなら、大島 優子は燦々と強烈な光を放つ“太陽”であろう。
多くを語ることをせずメンバーに自分の背中で、自らの生き様で語る敦子。
それとは対照的に、自らが放つ強烈な光をもってメンバーへと熱い想いを伝える優子。
最多出演回数でありながら疲れをみせないパワフルなパフォーマンスと、誰よりも輝き溢れんばかりの笑顔をみせる優子の“熱量”がメンバー、ファンへと伝わり会場は一つとなっていた。

 その様子を見ていた誰もが優子の輝きは、この“ヘビーローテーション”によるものだと思っていた。
元々“ヘビーローテーション”という楽曲は、選抜総選挙で初めて1位に輝いたご褒美として与えられた優子にとって感慨深いセンター曲。
だから、誰よりも輝く姿を見せていたとしても疑問を持つ者などおらず、同じサブステージで共に踊る才加などTeam Kの殆どのメンバーも違和感を持つことはなかったし寧ろ、笑顔が優子に戻ったことを喜んでさえいた。

 そんな中、佐江だけが笑顔の裏に優子を心配する感情を隠しながら、彼女の様子を窺っていた。



 それからも優子は笑顔を振りまきながら“ヘビーローテーション”のパフォーマンスは勿論、曲が終わりステージを駆けながら舞台袖へと捌けていった。
舞台袖からステージ裏へとTeam Kのメンバーと共に戻ると、そこにはスタッフがメンバーへとタオルとミネラルウォーターを渡していた。

「ありがとう」

 優子は笑顔でスタッフからそれらを受け取ると、MCで自らが宣言したように全身から噴き出す汗をタオルで拭いながら渇いた喉を水で潤す。

「優子、最高だったね!」

 一息吐いていると、そんな言葉と共に優子は峯岸 みなみに後ろから抱き付かれる。

「みいちゃん、暑い~」

「あはは、ごめんごめん。 でも、いつも通りの優子って感じで良かったよ」

「ほんまですね」

「そうそう。 負けてらんないって張り切っちゃった」

 優子は(峯岸)みなみに抱き付かれ迷惑そうな言葉とは裏腹に笑顔だった。
その笑顔を見て内心、優子の様子を気に掛け言葉を選んでいた(峯岸)みなみの表情が綻ぶ。
その様子は周囲に居たメンバーにも伝わり、横山 由衣と内田 眞由美が嬉しそうに話しかければ、他のTeam Kのメンバーも優子の周りに集まり嬉しそうにしていた。

「みんな、一杯心配かけてごめんなさい!」

 優子は(峯岸)みなみに抱き付かれながら、周りのみんなに顔の前で両手を合わせ謝る。
それまで和やかだったその場の雰囲気が、優子の言動で凍り付くかと思われた。

「残りのダブルアンコールも頑張るから、宜しくお願いします!」

 しかし、そう言って合わせられた手を解き顔を上げた優子の顔は笑顔だった。
それを見たメンバーはキョトンとしていたが、次の瞬間「合ったり前じゃん!」と口々に言いながらある者は優子に笑顔を向け、ある者は抱き付いた。

 その様子にみんなの輪の中で少し心配そうにしていた才加が目を細め微笑んでいた。
だが、隣で同じく心配そうに見つめる佐江だけは眉をピクリと動ごかし、ステージで優子を見つめていたときと変わらぬ表情のままだった。

………………

…………

……

「ダブルアンコール~ ありがとうございま~す!」

 それから暫くしファンのダブルアンコールの声に応えステージが明るくなると、手を振りお礼を述べながら(高橋)みなみが敦子、小嶋 陽菜、柏木 由紀、渡辺 麻友、そして優子らと共にステージへと姿を現した。

 ステージが照らされ彼女たちの姿を見るやファンからは大歓声があがり、2度目のアンコールの幕が上がる。

 5人らと共にMCをする優子はトークで陽菜が天然ボケを見せれば、チャームポイントの笑窪を覗かせツッコミを入れるなど、普段と変わらぬ調子を取り戻していた。
その優子の姿に不調を感じ取り心配していた一部のファンは勿論のこと、一緒にMCをするメンバーも安堵していた。

 殊に(高橋)みなみは敦子の一件があり、優子には中心メンバーとして、そしてこれから新たなセンターとしてAKB48を牽引してもらう意味でも失敗の許されないコンサートなだけに、安堵する気持ちも一入であった。

 一方、舞台袖で出番を待つメンバーは、コンサートが終盤ということもあってか、ステージのMCをキャッキャとはしゃいだ様子で眺めていた。

「優子……」

 そんなはしゃぐメンバーたちの中に、複雑な表情を浮かべたままの佐江が、ステージにいる優子の様子をモニターで見つめ小さく呟く。

 端から見れば佐江の様子は、今の優子に向けられる表情とは思えず“何をそんな顔をするのか”と訝しむだろう。
だが、佐江の心中は表情と同様に複雑だった。
ただ見ているだけで何も出来ない自分に、佐江はもどかしさを感じずにはいられなかった。
それは佐江が優子の“不調の原因”を知る唯一のメンバーだからであり、モニター越しで笑う“心友”の気持ちを察していたからであった。

 そんな視線を送られていることなど露とも知らない優子は、ステージでMCを続けていた。

「GIVE ME FIVE!でしょ!」

 コントのようなトークが暫く続いていたが、由紀がいつものオーバーリアクションで会場を沸かせ、篠田 麻里子が1曲目で登場した時のようにバンドセットを載せたゴンドラが天井から降りて来る。

 (高橋)みなみがMCの6人を含む、この曲のために選抜されたメンバー“Baby Blossom”をステージに呼び寄せると、各々担当する楽器のチューニングを始めた。

「それでは……本当に最後の曲! 盛りあがっていきましょう! GIVE ME FIVE!」

<GIVE ME FIVE!>

 ダブルアンコール、そしてコンサート二日目最後を飾る“GIVE ME FIVE!”が敦子の掛け声と共に始まった。

 曲が始まると、それまで舞台袖で待機していた残りのグループメンバーも現れ、各ステージへと散りながら曲に合わせ踊り始める。

<桜の歌が街に流れ♪ あっと言う間だった別れの日? 校舎の壁のその片隅? みんなでこっそり寄せ書きした?>

 ボーカル・リズムギターを担う敦子、リードギターを弾く(高橋)みなみなど“Baby Blossom”メンバー18人の中に混じり、弾けんばかりの笑顔を湛え優子もベースギターを軽快に弾く姿があった。

『優子の部屋にギターあったもんな……それにしても、みなみ歌以外全然駄目だったのに……』

 互いを恋人と認め合った夜、優子の部屋の片隅に置かれたギターのことを思い出す隼人。
だが、そんな隼人の関心事の大半が(高橋)みなみであったのは、優子があまりに完璧過ぎたからなのかもしれない。

 隼人はそれまで周囲のファン同様、客席から優子のパフォーマンスを食い入るように見つめ、自らの行いが優子を傷付け不調を招いたことを悔いていた。
それが“Dear J”を境に優子の纏うオーラが変わると、まるで雪覆われた不毛の地を太陽が照らし、草木を芽吹かせ花さえ咲かせるように、隼人をステージへと誘い悔いる気持ちを少しずつ氷解させていく。

 “大島 優子”にとって力強いパフォーマンスは、見る者を魅了して止まず、その魅力は最大の武器と言えた。
だが、それは優子にとって最大の弱点でもあった。
以前、AKBグループの総合プロデューサーである秋元 康は優子を“優等生”と評したことがあった。
一見何をやらせても高いポテンシャルを発揮する彼女へ対する褒め言葉に聞こえるのだが、事実はそうではなかった。
秋元は同時に『欠点が無いことがアイドルとしては欠点』と語り、優子の完璧とも言える能力を危惧していた。
要は子供の頃の逆上がりのようなもの。
運動神経の良い子は、皆の手本になれはした。
だが、教師が横に付き教えたり努力を賛美されるのも、友人から応援を受けるのも出来の悪い子の方なのだ。

 そして、それはアイドルにも言えることで、この時の優子はアイドルとして誰から見ても完璧だったせいで、隼人の関心は知らず知らずに楽器など弾けなかった(高橋)みなみに向いてしまっていたのだ。

 だから、隼人はこのときの優子を見ても気付いてはいなかった。
優子が見せる笑顔は“プロとしての意地”であり、全て彼女の“演技フェイク”であることを。

 優子はTeam Kのメンバーの言葉に救われたと思っていた。
だが、それで忘れられるほど隼人への想いは弱いものではなく、彼への想いを頭から追い出しコンサートへ集中するため優子は“アイドル”という仮面を被り、笑顔という嘘を吐き続けていた。
こうすることでしか普段の自分でいられない気がしてのことだったが、皮肉にも優子のその行為は隼人から送られた言葉そのものであった。
しかし、強い輝きは同時に濃い影を作り出すように、優子がアイドルとして完璧に振る舞い輝けば輝くほど隼人への想いは高まり、これ以上堪え切れないほどになっていた。
そして、高まった“想い”は、いつしか違う感情へと姿を変え始めていた。

 それでも時は容赦なく刻まれていき、大型モニタには楽器を演奏する者、ステージで踊る者、そして優子たちAKBを牽引するメンバーの姿が次々に映し出されていく。

<友よ♪ 巡り逢えて 最高だった 青春の日々に? まだ 言えなかった ありがとうを ハイタッチで♪>

 結局、隼人が優子の心の変化に気付かぬまま楽曲は終盤を迎え、優子、(高橋)みなみ、敦子の三人がジャンプで曲の最後を締め括るギタープレイを見せ、コンサート二日目の全楽曲のパフォーマンスを終えた。

「ありがとうございました!」

「「「ありがとうございました~」」」

 コンサート全日程を終え、(高橋)みなみが観客に向け叫ぶようにお礼を述べると、優子や他のメンバーたちも続くように口を開く。
誰もが充実感と、やりきったという安堵の表情を浮かべ、コンサートは無事終わりを迎えるかに思えた。


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