『勘違いから始まる恋』第一章『恋の終わり』
第007話
「遅い……部屋に行ってみるか……」
何度目かの電話を切ると山本 学は、優子のマンションに入って行った。
オートロックに暗証番号を入力しながら、昨日の優子の様子について考えていた。
『昨日は朝から様子がおかしかった……その前の夜はメンバーとの食事会だったみたいだけど、膝を擦りむいたりしてどうしたんだ? それに仕事に向かう途中何かを見たみたいだけど、そこから一段とおかしくなったような気がする……結局、何が原因か言ってくれなかったし……これじゃあマネージャー失格だ』
学はエレベーターに乗り優子の部屋の前に行くまでに、そんなことを考えていた。
マネージャーとして、担当するタレントの悩みや問題の解決に手を貸すのは当然だが、相手が相談してくれないことにはどうしようもなかった。
特に、相談を受けることすらできないのはマネージャーとして信用されていないということに他ならない。
優子とは、AKB48に入った当初からの担当だったし、妹のように可愛がっているだけにショックは大きかった。
ピンポーン……ピンポーン……
チャイムを何度か押すが、優子が出る気配はなかった。
『何かあったんだ……』
もしかしたら、貧血や何かで倒れたりしたのかもしれない。
ガチャ、ギィ……バタン
部屋の合い鍵を使い部屋に入る。
部屋は真っ暗だったが、玄関の靴が無造作というには乱暴な状態で落ちていた。
几帳面ではない優子であっても、ここまで乱暴な靴の脱ぎ方はしない。
部屋の様子を覗うと、部屋の奥から何かくぐもった音が聞こえる。
「……グス……ウッ……」
それが音ではなく嗚咽だと分かると学は部屋の中に入っていった。
『!』
リビングを抜け嗚咽が聞こえたベッドルームに入ると、嗚咽を漏らし憔悴仕切った優子がいた。
長い付き合いの学でさえ泣きながら頭から布団を被る優子の姿など見たことが無かった。学はベッドに駆け寄り、優子の顔をのぞき込みながら言った。
「優子、どうしたんだいったい? 何があった?」
優子の瞳に学は写っておらず、焦点の定まっていない瞳から止めどなく涙が流れていた。
「優子! おい! しっかりしろ」
何度目かの学の問いかけに、瞳だけがこちらを向き驚いた表情をする。
「ま、学……グス、ぅわーん」
学の存在を認めた瞬間、優子は学に抱き付いて大声でまた泣き始めた。
「大丈夫、もう大丈夫だから……」
何がどう“大丈夫”なのか自分でも疑問に思ったが、学は優子を落ち着かせるため、そう言いながら頭をなで抱きしめた。
暫くして泣き止む優子を待って学は何があったのかを尋ねた。
優子は暫く考えていたようだが、やがて口を開く。
「私……またストーカーに……」
それだけ言うと俯むいた――。