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『勘違いから始まる恋』第三章『私はストーカーに恋をする』

第055話

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チュンチュン……

 窓の外で鳥たちにさえずりが聞こえ、カーテンの隙間から日の光が漏れ入り朝であることを教えていた。

 朝日が隼人を照らすと次第に覚醒する隼人の意識。
脳が本格的に活動を開始し四肢を統制下においてゆく。
もぞもぞと動く隼人の体だったが、何故か右腕だけが重く動かすことが出来なかった。
そこで意識が急速に覚醒し、隼人の瞼が開いた。
重みを感じ動かない右腕に視線を向けると、そこには腕にしがみつくようにして眠る優子の姿があった。

『おいおい……』

 しかし、隼人は目のやり場に困り直ぐ視線を外す。
それもその筈、そこには裸の優子が寝息を立てて居たのだから、目のやり場に困るのは当然だった。
正確にはショーツを身につけていた筈なので全裸ではないが、それでも隼人の腕が彼女の胸の谷間に挟まれていたり、手を挟む太ももの柔らかい感覚は朝の光景としては過激すぎた。

「んんぅ……」

 微かに優子の呻くのが聞こえ視線を戻す。
昨日キスを交わし合った2人は、優子の冷えた体を温めるためベットで抱き合い、そのまま寝てしまった。
優子の過去を知った隼人だったが、それでもなお彼女が愛おしい。
安心しきった寝顔に隼人は目を細め微笑んだ。
今の彼女を見ていると、優子も自分と同じ思いでいてくれていると感じられた。
隼人は優子の口元に掛かる髪を優しく払う。

「んぅ……隼人ぉ?」

 すると、起こしてしまったのか、優子の瞼がゆっくり開き寝ぼけ眼でこちらを見ていた。

「起こしちゃったみたいだね。 ごめん」

「ううん、平気……今何時?」

 まだはっきりとしない頭で優子は時間を聞く。
隼人はベッドサイドに置かれた目覚まし時計を見ると時刻は6時3分を指していた。

「6時を少し過ぎたくらいだよ」

「そっかぁ。 じゃあまだ寝てられるかな。 隼人は?」

「俺もあと1時間半位は寝てられるかな」

 それを聞いた優子は絡みついた隼人の腕に顔を埋めると嬉しそうに頬ずりする。
猫がじゃれつくように可愛らしかったが、抱き付かれた隼人の方は堪ったものではなかった。

「なぁ、優子……上だけでも着てくれないかな……」

「んふふ。 いや」

 困っている隼人の反応を楽しむように優子は余計に胸を腕に押しつける。
隼人が困っている理由は昨日の夜にあった。

 優子の体を温めるためスウェットの上を脱いでTシャツ姿で彼女を抱きしめていた。
そのため今も腕は直に優子の素肌に触れているのだ。
そのような状況で抱き付かれれば隼人でなくともこうなるだろう。

「せめて腕から離れてくれるかな?」

「わかった」

 素直に優子が離れてくれたことに安堵する隼人だったが、それも長くは続かなかった。

「……優子……」

「腕じゃなきゃいいんでしょ?」

 腕から“は”離れた優子だったが、今度は隼人の体に抱き付いていた。
確かに裸が見えなくなったが、逆に隼人の下半身に優子の体が密着したことで、より感覚が増し状況的は悪化すらしていた。
好きな女性に密着されれば心でいくら自制しようと思おうが、身体は素直に反応してしまう。
それを優子も理解しているだろうにと心の中で溜息をついた。
しかし、密着していたからこそ気付くこともあった。
優子は隼人の首筋辺りに顔を埋めると鎖骨にキスをする。

「ちゅっ、ねぇ隼人……」

パサッ

「また体が冷えてしまうよ」

 優子が『好き?』と質問しようとしたが、言い終える前に隼人が自分の体の上に布団を掛けてくれた。
その行為が彼の気持ちそのもののように思え言葉を吞み込んだ。
抱かれることが1つの愛情表現だと思うようになっていた優子の中で、隼人の肉体関係を介さない愛情表現が堪らなく嬉しく隼人の顔をジッと見つめた。

「なに?」

「ううん、何でもない」

 見つめられている理由など知る由もない隼人だったが、優子の笑顔を見ると自分も自然と笑みが溢れた。

「もう少し寝ようか?」

「うん」

 隼人は彼女の背中に腕を回すと優子は安心したのか瞼を閉じる。
隼人もそれを見届けると瞼を閉じた。

 優子は隼人の心臓の鼓動を聞きながら『夢の中でも隼人と一緒に居られますように』と願った――。


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