『勘違いから始まる恋』第一章『恋の終わり』
第005話
ザーッ……
車のフロントガラスに雨が勢いよくぶつかり、時折雷鳴が轟いている。
「雷凄い……」
「スタジオにいたから気づかなかったね」
雷に驚く優子に山本 学は運転しながら適当な相槌を打つ。
時刻は深夜。
優子出演のドラマの撮影が深夜まで続き、帰る頃には外が大雨だったこともありマンションまで送ってもらうことにした。
「あのさ優子。 本当に何もないんだよな?」
学は朝の優子の態度が気になり、今日“何度目かの”同じ質問をした。
「そんなに心配しなくても平気だから。 ただの二日酔いだってば。 心配性なんだから学は」
案の定、優子は笑いながら同じ返答をしてきたが、長く彼女のマネージャーをしている学は言葉通りに信じることができなかった。
一方、優子も学に男のことを言うか悩んでいた。
優子のスケジュールは、ほとんど土日も仕事が入っており最近はろくに休みが取れていない。
裏を返せばマネージャーも休みがないことになる。
自分はウエンツ 瑛士と交際していたとき、スケジュール調整や深夜の送迎など、学には無理をかなり言ってきた。
そのうえ、自分でさえも半信半疑の件で、学に余計な負担をかけたくないという気持ちが相談することを躊躇わせ、結局悟られぬよう普段の自分を演じていた。
マネージャーの仕事はタレントよりも早く始まり、遅く終わる。
それを間近で見て来た優子のほんの僅かな恩返しのつもりの行動が、おもわぬ事態に発展することなど彼女は知らなかった。
「ありがとう。 また明日ね」
「……明日は10時に迎えにくるから……」
車を降りた優子は雨に濡れないように足早にマンション入口に入っていった。
学は手を振る優子をバックミラー越しに見ながら、今日何度目かの溜息を吐いた。
『絶対、何かを隠している』
そう確信はあるものの、彼女からそれを聞き出すことができなかった自分への歯がゆさを感じながら帰路についた――。