『勘違いから始まる恋』第二章『最悪な3日間』
第042話
12時30分。
「おはよ~」
板野 友美は劇場の休憩室に入ると、既に数人のメンバーが談笑していた。
ヘッドフォンを外しながら部屋を見渡し空いてる場所を探すと、食べかけのサンドウィッチが置かれた席の横が残されているのが目に入った。
『誰の……優子か』
席に残されていたバックが優子のだと分かると、友美は隣の空いていた席に座る。
足を組みながら、バッグからキラキラにデコレーションされたHP製のパソコンを取り出し開いた。
タンッ
enterキーを叩きスリープから復帰するのを肘を突きながら待つ。
細い指に顎をちょこんと乗せながらチラリと横目で優子のであろう席を見つめる。
『食べ掛けで席を外すなんて珍しい』
躾に意外とうるさい優子が食べ残したまま席を外すのは珍しく、それが何となく気になり近くに居た横山 由依に声をかけた。
「由依」
「あっ、おはようございます板野さん」
「おはよう。 ここって優子だよね? 何処行ったの?」
そういうと綺麗にネイルされた細長い人差し指をそこに向ける。
由依はその場所に顔を向けると「ん~」と呻った後に口を開いた。
「トイレか何か違いますかね。 私が来た時には確かもうおらんかったですよ」
「そうなんだ。 ありがとう」
周りが誰も騒いでいないのだから由依の言う通りトイレなのだろうと納得すると、再びパソコンに目を向ける。
そこには既に起動し、ここにくる移動の車中で書いていた自身のブログサイト“TOMO Powered by アメブロ”が表示されていた。
昨日分の書き忘れをアップするため休憩室でパソコンを開いていた。
毎日ブログを更新しているメンバーもいて頭の下がる思いだったが、友美自身は気ままに書いていた。
残りはアップするだけの作業だったのであっという間に終わりパソコンを閉じようと思ったが、やることもないのでニュースサイトにアクセスする。
すると、そこには“ライブ中継中 docomo春の新商品発表会”と表示された動画が流れていた。
少し太った中年男性がスマートフォンを片手に喋っていた。
この少し太った男性はdocomoの山田社長であることなど知る由もない友美は退屈そうに呟いた。
『つまんない……』
あまり興味が湧かなかったのかそれともイケメンが出ていなかったからなのか、友美はいつも見るショップのサイトをブックマークから呼び出そうとトラックパッドに指を滑らせた。
「ともちん」
「さやか、どうしたの?」
友美は後ろから声をかけられ振り返ると秋元 才加がいた。
才加は最近になり私服のセンスが悪いことを気にしてか、友美に私服のアドバイスを受けるようにしていた。
「服買ったんだけど見てくれない?」
「うん、いいよ」
今度も最近買った服を見立ててもらおうと声をかけていた。
友美はパソコンを触るのをやめると、服を見立てるため才加と共に楽屋へ行ってしまう。
残されたパソコンはdocomoの発表会のライブ映像を流し続け、画面には山田社長が壇上で次のプレゼンテーションのスピーカーを紹介するシーンが映っていた。
紹介された人物が拍手を受けながら壇上へ上がると、落ち着いた様子でプレゼンテーションを始めた――。