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『勘違いから始まる恋』第二章『最悪な3日間』

第041話

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 暫く一つになっていた影が二つに離れると佐江が口を開いた。

「ところで優子。 気になる男性ってどんな人なの? 私達も知っている男性ひと?」

「あ~……知らない。っていうか私もさっきまで名前も知らなかったから」

 そういうと「テヘッ」と言って舌を出す優子。

「あぁ、そうなんだ……って、えぇ!!」

 先程までとは打って変わり明るさを取り戻したことに安心する佐江だったが、優子の言葉を理解した途端驚きの余り声を上げてしまう。

「どういうこと名前も知らないって何で? 何処で知り合ったの? 何処が気に入ったの?」

 食いつき気味に佐江の質問責めに合う優子は、佐江の興味の持ち方がさっきまでと大きく違うことに呆れていた。

「もう、そっちの方が興味あるのかよぉ」

 口を尖らせる優子に佐江が楽しそうに答える。

「だって優子が好きになるような男性だよ? どんな人か知りたいじゃん」

「いや、まだ好きって訳じゃ。 ただ、凄く気になるっていうか……」

「それって優子の本能が選んだ相手ってことでしょ? どんな人なの?」

「本能って……何かいやらしいな……」

「まぁまぁ、そこは置いといて」

「むぅ……その人は26歳年上で、新城 隼人さんって言うの」

「ほぉ、年上ですか。 それで、その新城さんとはどうやって知り合ったの?」

「えっと……私、昨日ストーカーされてるって話したよね?」

「うん、さっき学から解決したって聞いたよ。 まさか、優子が同じマンションの人をストーカーだって勘違いするなんてね。 そんな強面の人だったの? あっ! わかった。 その新城さんって刑事さん? 刑事さんかぁ、格好いいね」

 ストーカーの一件が解決したことが余程嬉しかったのだろう、佐江は勝手に喋り続ける。一方、勝手に話しが進んでしまい真実を言うタイミングを逃す優子。

「あ、あの佐江ちゃん?」

「ん? あっ、ごめんごめん。 それで、その刑事さんのメアドとかゲットしたの?」

「刑事さんじゃないんだ……その……ストーカーだって勘違いした男性ひとが新城さんなの」

 佐江は一瞬目が点になったかと思うと「はい?」と聞き返してきた。

「だから、勘違いしていた男性が新城さんなの!」

「えー! だってストーカーって思うぐらいの相手だよ?」

「うん……そうなんだけど……」

「何処をどうしたらそうなるの?」

 佐江が言うことももっともな事だと優子も理解している。
ただ、今まで感じたことのない心の高鳴りを感じたのは真実で、佐江の言う自分中にある女性としての“本能”が隼人を選んだのかもしれないと思うと妙に納得した。

「佐江の言うように、ほ、本能なのかな……」

「もしかして欲求不満?」

「ち、違うよ。 ただね……」

 そう言うと自分の胸に手を当て目を瞑る優子。

「新城さんの瞳を見たとき今まで感じたことのない気持ちになったの。 包まれるような感じかな。 それに私の勘違いで逮捕されたのに、私と面会したときに何て言ったと思う?」

 そういうと目を開け佐江に問う。

「う~ん、気にしてないですよとか?」

「ううん。 “怖がらせてすみません”って言って頭を下げたの。 信じられる? 自分が捕まったのにだよ?」

「でもさ、優子がAKBなのを知っていたらお近づきになりたいって思って格好つけたんじゃないの?」

「うん、それってあるかもね。 でも、新城さん最近までアメリカに居て最近帰って来たんだって。 AKBの存在は知っていたみたいだけど、私がメンバーだってことはおろか、芸能人だって知らなかったんだよ。 失礼だよね~」

 そう言うとケラケラ笑う優子の表情は嬉しそうだった。
常にどこに居てもアイドルというフィルターを通してしか見られなくなった優子にとって、素の“大島 優子”を見てくれる男性が現れたことは嬉しかった。
その幸せそうな表情に安堵しつつも、素性の分からない“新城 隼人”という男性に不安を覚える佐江。
とはいえ、どのような相手かを知らない自分は認めるしかなく歯がゆさを感じた。

「ところで連絡先とか交換したの?」

「ううん。 急ぎの発表会があるからとか言って出ていっちゃったから聞いてない」

「そんなんで平気なの?」

「うん。 今度改めて私から謝ろうと思うし、何ならお隣だからいつでも会えるの!」

 そう言って人差し指を顔の横で左右に振りながら笑う優子。

「はぁ……気にし過ぎるかと思えばアバウトだし。 本当に優子は手がかかるんだから」

「えぇ~、嫌いにならないでぇ~」

「あぁ! もう! わかったから休憩室にもどるよ」

 笑いながら優子が抱きつくと、佐江は困り顔をしながらもしっかり受け止めながら、何処か嬉しそうにしていた。
その光景は子猫が親猫に甘えるようだった――。


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