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『勘違いから始まる恋』第二章『最悪な3日間』

第040話

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「えっ……優子、今なんて?……」

 それが優子の話を聞いた宮澤 佐江の第一声だった。
佐江は、優子の意外な告白に思わず聞き返してしまった。

 一方、聞き返された優子は2度も言うのが恥ずかしいのか真っ赤だった。

「だから、気になる男性が……いるの……」

 シドロモドロになりながら言い終わると俯く優子。
その仕草は普段の“やんちゃなお転婆娘”から“恋する乙女”になっていた。
優子にとって至極真面目な話なのだが、彼女の姿があまりに可愛すぎて佐江は先程まで張っていた緊張の糸が切れるのを感じた。
端からみれば涙を流す程悩やんでいた心友の悩みを軽んじているように見えるかもしれない。
しかし、今目の前で耳まで真っ赤にさせた優子の事を、誰よりも考えているのは佐江に他ならなかった。

 佐江にとって優子が恋をすることに反対などする訳がない。
それがたとえ実の兄を愛したと聞かされても優子を応援するだろう。
優子とはAKBの二期生として寝食を共にしプライベートも一緒に居て彼女を知れば知る程、彼女の幸せを願わずにはいられなかった。
だから、ウエンツ 瑛士と付き合うことになったときも、本当に嬉しそうに彼の事を話す優子を見て恋愛禁止条例を無視する形になっても協力を惜しまなかった。

 ただ、結果として優子と瑛士は別れた。
優子の状態を見ていて良い別れ方をしなかったのはわかったが、優子は一言も彼を批判する事はなかった。
それでも男性との距離を取ったり、触れられることも怖がるようになり、彼を忘れるために以前にも増して仕事に打ち込むようになってしまった。
今まで以上に強がる優子の背中はいつも泣いているように見え、いつか潰れてしまうのではないかと不安に思いながら心友として出来ることをしてきた。
それでも彼女の拠り所になることはできなかった。
それが、優子自身から心を再び開けるかもしれないと思える男性が現れたと聞かされれば、どんな事を聞かされるか心配していた佐江の緊張が何処かへ飛んでしまうのは当然だった。
ただ、優子の涙の理由わけが何だったのか、そして今までそんな素振りを見せなかったにも関わらず急に現れた気になる男性とはどんな人物なのか知る必要があった。
佐江も学同様、優子に相応しい相手なのか心配していた。

「優子、その気になる男性ってどんな人?」

「うん……あのさ佐江は私を……軽蔑しないの?」

「何で?」

「だって……前も恋愛禁止を破ったのに、またかよって……」

 さっきまで真っ赤な顔をして恥ずかしがっていた優子が、再び神妙な顔つきでこちらの様子を窺っていた。
佐江がどう反応するか不安で仕方ないのだろう、佐江の服の袖をちょっとだけ掴んでいる。
その様子に佐江は優子の涙の理由わけを悟り、彼女を安心させようと笑顔で答えた。

「するわけないでしょ」

 そういうと佐江は優子の頭を撫でながら言葉を続けた。

「確かにAKBには恋愛禁止って条例はあるよ」

 頭を撫でられていた優子がビクッっとするが、佐江はそのまま続ける。

「でもね、秋元先生も言っていたでしょ“両立できない”からだって……でも優子は誰よりも頑張ってAKBを盛り上げながら両立していたよ。 その頑張りは皆知ってるし、私は優子の味方。 応援も協力もするよ。 他のメンバーだってきっと優子を応援してくれるよ」

「佐江ぇ~」

 優子は佐江の胸に飛び込み泣き始めた。
佐江は力一杯に抱き締められ少し苦しくなったが、その力が今の優子の気持ちの大きさを表しているようで嬉しくなり佐江も優子を抱き締め返した―。


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