『勘違いから始まる恋』第二章『最悪な3日間』
第034話
隼人が慌てて出て行った後も扉を見つめ続ける優子。
“後日”そう言い残し出て行った隼人に、残された優子は『それはいつなの?』と心の中で問いかけた。
できることなら追い掛け本人に言いたかった。
有耶無耶のままなのが嫌という、優子個人の我が儘ではない。
事務所も警察としても今回の事は表沙汰にしたくない。
その状況で被害者の隼人自身が謝罪も不要としたことで、この件はクローズしてしまったのだ。
AKBのメンバーとして男性と会うこと自体問題となりうる現状で、謝罪という外せないアポイントを入れておかなければ二度と会えないような気がしたのだ。
『どうしよう……』
山本 学は電話を終え部屋に戻る。
すると扉を開けた学の方を見る優子がいた。
外で電話をしている間に隼人が出ていくのを見ていた学は、優子が自分を見ていないことは直ぐに理解していたが、どこかソワソワしているように見え首を傾げた。
声こそ出していなかったが“うーん”と聞こえてきそうな表情だった。
先程まで居た後藤という刑事も隼人を追って出て行ったので、優子、前野と高峯の3人が部屋にいた。
「心の広い男性だったな」
責任を追求されずに済んだことを喜ぶ前野が高峯に話しかけていたが、高峯は適当な相槌をしながら優子をチラ見していた。
「優子ぉ~ どうした~?」
「えっ? あっ、何してるの!?」
自分の存在に一向に気付かない優子の顔の前で、顔を近づけ手をヒラヒラさせながら声をかける。
ようやく気付いた優子は学の顔と手が余りにも近かったことに驚いていた。
「全然気付いてないからさ。 そんなに残念?」
クスクスと笑う学に「な、なに、変な事言ってるの……」と歯切れ悪い回答をする優子。
「まぁ、いいや。 優子。 俺たちもそろそろ仕事に出ないといけない」
「あっ、もうそんな時間?」
学は「あぁ」と答えると、優子をその場に残し前野と高峯へ挨拶をしに行く。
「色々、お騒がせしてすみません。 皆さんのご尽力で大島も元気になりました」
学が頭を下げ、優子も離れたところで頭を下げていた。
「いやいや、大事にならずに済んで良かった!」
前野は喜んでいたが、それは警察が無用な批判に晒されずに済んだという意味合いだった。
前野の考え自体に色々思うところはあったが、今回の事に関して言えば同じ意見と言わざる終えないので何も言えなかった。
学は後味の悪さを感じつつ優子を連れ部屋を後にしようとする。
「お、大島さん!」
「はいっ!?」
部屋を出ようとする優子を高峯が呼び止めた。
「状況を見ると新城という人にも責任があったと思います。 大島さんが気にかける必要はないですよ」
「……」
高峯は大島を庇うような発言をし優子からの印象を高めようとするのだが、聞いている優子からすれば無神経な言葉に感じ言葉を失う。
「僕ならいつでも相談にのりますから」
そう言い優子の手を取ろうと近づく高峯に、優子は思わず感情が顔に出そうになる。
「お気遣いありがとうございます。 すみません。 急いでいますので失礼します」
学はそれをいち早く察知し、それなりの理由をつけ高峯と優子の間に割った。
高峯は学の行動にあからさまに不機嫌な表情となるが、前野の手前それ以上の事はしてこなかった。
学と優子はそのまま警察署を後にした――。