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『勘違いから始まる恋』第二章『最悪な3日間』

第033話

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 ♩♪♫♬~ ♩♪♫♬……

「はい、山本です……」

 静寂を破るように山本 学の携帯電話が鳴り、電話を片手に学が部屋を出ていく。

「あっ……しまった。 大島さん」

「は、はい!?」

 再び発表会の事を思い出した隼人は優子に声をかける。
かけられた優子は、突然のことでどうしたのだろうと思い首を傾げながら応えた。

「これから大事な発表会があるので、これで失礼します。 後日ちゃんとお詫びします」

 そう言うと優子の答えを待たず頭を下げる。

「あっ……」

 このまま隼人が行ってしまうと会えない気がし思わず手を伸ばしかけるが、隼人はそれに気づかず他の者のもとへと行ってしまう。

 『後日っていつ?』隼人の背中に問いかけ、伸ばしかけた手をブレスレットに持って行く。

「後藤さん、本当にありがとうございます。 それに前野さん、高峯さん! お世話になりました。 急がなければならないので、これで失礼します!」

 優子に対するのと同様、急いだ様子で刑事達に挨拶をすると、返事を待たず部屋を出て行く。
廊下に出ると、警官を避けながら出口へと走る。

「新城くん、待ちたまえ!」

 廊下を走る隼人の後ろで後藤が呼び止める声がするが「急いでいるので、すみません!」と振り向き応えながらもそのまま出口へと向かった。

 警察署を出ると春の日差しが心地よく空を見上げると晴れ渡る空が広がっていた。
昨日の夜から色々あったせいか、解放され大きく伸びすると身体の凝りがとれる気がした。

「ん~……って、してる場合じゃない!」

 警察署の前は大きな幹線道路が走っていた。
隼人はそこまで来ると走る車の中からタクシーを見つけようと目を懲らした。

「全然来ないじゃないか……」

 タイミングが悪いのか交通量が多い割にタクシーが一台も走ってこない。

プップー

 その時、途方に暮れる隼人にクラクションを鳴らす車があった。
グレーのTOYOTAマークXが隼人の横で止まると、窓が開き後藤が顔を覗かせた。

「新城君、乗りたまえ。 送るよ」

「ご、後藤さん!?……ありがとうござます!!」

 まさか後藤が現れ、しかも送ってもらえるとは思ってもみなかった隼人は車に飛び乗った。
隼人が助手席に座ると、後藤は車を発進させながら話し始めた。

「少し待っていれば初めから送って行くつもりだったんだよ。 急に出て行くものだからビックリしたよ」

「えっ、そうだったんですか……すみません。 つい焦ってしまって」

 シートベルトを締めながら後藤の話を聞いていた隼人は、早とちりな自分の行動に苦笑した。

「何時に何処で、その発表会はあるんだね?」

「えっと、12時から渋谷のドコモビルです」

 隼人の時間や場所を聞きながら後藤は、車内のデジタル時計をちらりと見ると10時20分を周っていた。

「会場に直接行くかい? それとも一度自宅へ戻るかい?」

「自宅へお願いします。 着替えたり書類を取りに行かなければならないので」

「わかった」

 後藤は隼人の自宅へ車を向ける。
後藤は車を走らせながらあることを考えていた。
今から直接、渋谷へ向かうのなら十分時間はあったのだが隼人の自宅まで戻るとなると、法定速度で走っていては支度など準備の時間を作ることはできない。
かといって自分たち警察の不手際のせいで、発表会の壇上で多くの人々を前に見窄みすぼらしい格好で立たせる訳にもいかない。
時間を作るために普段滅多に使わない“あれ”を使うしかないと考えた後藤は車を停める。

「?」

 急いでいるはずの車が左に寄ると停車する。
不思議に思う隼人をよそに、後藤は車の天井部に何かを付け隼人に一言注意をする。

「新城君、しっかりつかまっているんだよ」

「えっ?……嘘!」

 後藤が何を言っているのか分かる訳もなく疑問を口にするが、すぐ答えがわかり顔が引き攣る。

ウゥゥーン、ウゥゥーン……

 サイレンがけたたましく鳴り響き始めたかと思うと車は急加速をし法定速度を超える速度で走り始めたのだ。
強いGで座席へ押し込められる身体。
レースゲームでしか見たことのないようなスピードで流れる風景に、信頼する後藤の運転とはいえ生きた心地がしない。

『助けて……』

 猛スピードで走る車内で、二度とパトカーには乗らないと心に誓った隼人だった――。


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