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『勘違いから始まる恋』第二章『最悪な3日間』

第032話

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『何を考えているんだ……金銭でも要求するつもりなのか?』

 山本 学は隼人のあまりに善意溢れる言葉に、逆に不信感を持って聞いていた。
学同様、謝罪を断るとは誰も思ってもみなかったのだろう、驚きのあまり部屋は沈黙に包まれた。

 そんな部屋の状況を気にする様子もなく、隼人は優子に近づく。
学はそれをみると険しい表情で優子の前に出ようと立ち上がろうとする。
隼人の事をストーカーではないと認めていたし謝罪をしなければならない立場なのだが、隼人の言葉に不信感を抱いての行動だった。
そんな学を優子は制止し、代わりに自ら進んで隼人の前に出る。

 優子も学同様、隼人の言葉に驚いていたが、隼人の人となりが自分の想像していた通りで彼の言動に妙に納得してしまう。
なので、次に何をしようとしているのか理解でき、学に笑顔で平気だと伝え制止したのだ。
学は優子の表情をみると渋々ソファーに座り直す。

 隼人は、パーカーのポケットからブレスレットを取り出し、優子にそれを差し出した。

「大島さん、怖が「本当にすみませんでした」!?」

 優子の予想通り隼人は謝罪の言葉を口にだそうとするので、優子はそれよりも早く頭を下げ謝った。
一瞬の間が空き慌てて隼人も「こちらこそ怖い思いをさせてすみませんでした」と頭を下げた。
暫く頭を下げていた2人が顔を上げるとそこには互いの視線があり、優子は悪戯っぽく隼人に微笑んだ。

 “悪いことをしたら謝る”竹を割ったような性格の彼女にとって今回の一件は自分に責任があり、謝罪しないで良いと言われても納得していなかった。
勿論、隼人が謝罪したことに不満を言うことはないという確信が不思議とあり、不意打ちで行動を起こしたのだ。
一方、表情にこそ出さなかったが、何事もキッチリしたいと常日頃心がけている隼人にとって、不覚をとったことを悔しく思う反面、新しい発見に驚いてもいた。
初めて会った日の満面の笑み、ここ数日の恐怖に怯えた顔や泣き顔、良い悪いを含め優子の沢山の表情を見てきた。
それは彼女の“性格”を表す表情というよりも端的な“感情”を表す表情に過ぎない。
それがいま目の前で悪戯っぽく微笑む姿に、彼女の内面を少し垣間見れた気がして嬉しく、その表情にドキッとした。

 優子は優子で慌てたような表情の隼人に『こんな表情もするんだ』と思いながら見ていた。
そのせいか距離感を見誤り、差し出されたブレスレットを受け取るとき隼人の手に触れてしまう。
真っ赤な顔で「ごめんなさい」と言う優子に顔が綻ぶ隼人。
端から見れば初々しいカップルのような2人の光景に、1人高峯だけ厳しい視線を向けていた――。


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