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『勘違いから始まる恋』第二章『最悪な3日間』

第029話

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 9時37分。
後藤から自分が無実だったこと、釈放や大島 優子や関係者との面会などの段取りを聞かされた。

 初めは面会はできないと聞いていたのだが、それは後藤が自分を試したのだと後から聞かされ、改めて後藤という人間が“刑事”なんだと再認識した。
それでも、別に後藤に対し嫌悪を感じることもなく、むしろ発表会のことや会社への連絡をさせて欲しいと頼んだ際に「本当は規則違反なんだがね」と言いながらも快く協力してくれた後藤に感謝すらしていた。

 おかげで会社に連絡し事情を説明することができた。
9時には出社する予定だったので、電話にでた女性スタッフは何度携帯電話に連絡しても出ないから心配したと怒っていた。
流石に警察にいることを伝えると「警察!?」と驚いてはいたが、日頃の行いか隼人本人が逮捕されたとは思わなかったようで、警察に居る理由を適当に誤魔化すことができた。
説明するとややこしくなりそうだと思っていた隼人は胸を撫で下ろしたが、問題は釈放されるまでの時間だった。
会社にも間に合うようにすると伝えたが、実際はどうなるか分かっていなかった。
それは釈放をしてもらうためには大島 優子やその関係者に自分を“ストーカーではない”と認めてもらい、被害届を取り下げてもらう必要があるのだ。
後藤には急いで大島 優子に警察へ来るように連絡をしてもらったのだが、現時点で隼人は“容疑者”のままで、これ以上は何もできず暫く取調室ここにいることになった。

『まだ眠い……』

 初めは後藤と談笑していたのだが同時に緊張の糸が切れたせいか、昨夜留置場での睡眠不足が今になって眠気となって襲い、隼人は数分前まで寝ていたのだ。

「新城君。 まだ眠そうだね。 コーヒーでも飲むかい?」

 調書に書き込んでいた後藤は、眠気の抜けきらない様子で俯いたままの隼人に、飲み物を勧めてきた。

「すみません。 頂けると嬉しいです」

 隼人は眠そうな顔を上げると、はにかみながら後藤に返事をした。

「分かった。 ブラックでいいかな?」

「はい」

「少し待っていなさい」

 後藤はそう言うと調書を置き部屋を出て行った。
隼人は後藤の背中を見送りながら、寝ぼけた頭の働かなさに改めて自分が先程まで緊張していたんだと感じていた。

 暫くそのままボ~ッとしていると、コーヒーを手に後藤が戻って来た。

「熱いから気を付けなさい」

「ありがとうございます」

 お礼を言いながらコーヒーを受け取る。
紙コップから伝わる温もりや漂う香りに心地よさを感じ、口に含む度コーヒー特有の苦みが脳の覚醒を促していた。

「ごちそうさまです」

「インスタントで悪いね」

「いえ、美味しかったです」

 コーヒーを飲み終わる頃には隼人の頭は冴え、目には活力が戻っていた。

『……』

 隼人はふと思い出したように、パーカーのポケットからブレスレットを取り出した。
このブレスレットは大事に扱われていたのだろう、細かい傷はあるものの金属の光沢感とあしらわれた濃紺と深紅の宝石の輝きが持ち主の扱い具合を教えていた。

 隼人はブレスレット見つめながら『彼女に笑顔が戻りますように』と願った。
視線の先のブレスレットがそれに応え輝いたように思えた――。


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