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『勘違いから始まる恋』第二章『最悪な3日間』

第019話

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「♪~ ♪♪~」

 優子は鼻歌交じりでシャワーを浴びている。

キュッ

 シャワーを止め風呂場から出た優子は、身体のラインに沿って流れていたお湯をバスタオルで拭き取る。
洗面所の鏡で自分の身体を見ながら『良い身体してるねぇ』などと中年男性のようなことを思う優子。
メンバーから“おやじくさい”と言われる所以だ。
自分の身体を眺め満足したのか、手早く髪を乾かし化粧などの支度を整えリビングに向かった。

「はい、わかりました。 すぐお伺いします。 はい、それでは」

 リビングに入ると山本 学が携帯電話を切るところだった。

「どうしたの? トラブル?」

「あぁ、すぐ警察署に向かうぞ」

 電話口で焦って答えていたように見えたのが気になり優子が聞くと、学が険しい表情で答えた。

「もう? まだ9時前だよ」

「続きは車の中で話そう。 とにかく準備して」

「う、うん」

 カーオーディオもかかっていない車内はエンジン音だけが聞こえ重苦しい雰囲気だった。
時折聞こえる車外の音もこの重苦しい空気を払拭することはできず、優子は俯いてiPhoneのメール確認などして気を紛らわせていた。

キキッ

 赤信号で停車する車。
ハンドルに頭を乗せ俯きながら学がため息をついた。
そのまま静寂が訪れるが、いい加減耐えきれなくなった優子が口を先に開いた。

「で、でさ、何があったの?」

 iPhoneをしまい努めて明るく振る舞いながら聞くが、学の態度からただならぬ状況なのだと理解しているので引きつった笑顔しかできなかった。

「誤認逮捕かもしれない」

「えっ?」

プップー

 背後でクラクションが鳴り顔を上げた学は車を走らせた。
学が言ったその言葉の内容が一瞬理解できず、優子は加速する車のシートに身体が押さえつけられながら一言聞き返すのが精一杯だった。

「昨日捕まえた男性はストーカーじゃなかった」

「でも!」

「詳しいことはわからないが、もし違うなら大事になる」

 『追いかけてきた男で間違いない』と言おうとしたが、学の“大事”という言葉に口を開くことができなくなり警察署に着くまで2人は無言のままでいた。

「こちらです。 どうぞ、そこに座ってお待ちください」

「はい……」

 警察署に着くと応接室のような所に通された。
優子が芸能人ということもあり人目に付かないようにという配慮だった。

コンコン

 暫くするとノックと共に男性2人が入ってきた。
優子と学は立ち上がり挨拶をする。

 小太りでいかにも現場一筋という中年男性が“前野”と名乗り、その後ろに部下だと思われる背は高いがおどおどした男性が“高峯”と名乗った。

「流石アイドル、お綺麗ですな」

「そんなことないです。 私なんかまだまだです」

 お世辞をさらり受け流す。

「いやいや。 な、高峯お前もそう思うだろ?」

 それでもまだ前野は、この話題を引っ張るように部下の高峯に同意を求め始める。

「ち、近くでみると本当に綺麗ですね」

 話題を振られた高峯は一瞬肩を振るわせ視線をこちらに向け、相変わらずおどおどした態度でいた。
しかし、そのおどおどの原因が先程とは違うのを優子は知っていた。
高峯は部屋に入り名乗ってから自分のことをじっとみていたのだ。
それも胸や足などを舐めるように見てきた。
その最中に話題を振られたので、驚いておどおどしたのだった。

「ありがとうございます」

「い、いえ……」

 優子は牽制の意味を込め視線を合わせながら高峯に笑顔でお礼をいう。
高峯は視線の意味が分かったようにばつが悪そうに言葉を濁し視線を落とす。
それでも優子のことが気になるのか、チラチラこちらの様子を覗う高峯に薄気味悪さを感じていた。

『この人とは生理的に合わないな……』

「早速なのですが、本題をお願いして良いでしょうか?」

 その様子を見ていた学は助け船を出すように前野に本題を切り出す。

「そうでしたな。 これは失礼。 ではこちらへどうぞ」

 前野は2人を部屋の外へと促し、応接室から出ると大理石調の階段を上ってゆく。
この警察署は古い建物を警察署に改装し使用しているためかエレベーターは無く、1階にあった応接室から他のフロアに移動する場合はどうしても階段を上る必要があった。
前野の後ろを優子、学、高峯の順に歩いているのだが、自分の後ろを歩く高峯の視線が自分を通り越して優子に注がれているのを背中越しに感じる学。
先程の優子と高峯のやり取りを見てわざと2人の間に入るようにしたのだが、自分が間に入っているにも関わらず階段を上る優子のお尻に“熱視線”を送っている。

 この高峰の行為に内心気持ち悪さを憶え、このあと前野から教えられることになる“本題”のことも含め、ため息しかでてこなかった――。


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