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『勘違いから始まる恋』第一章『恋の終わり』

第011話

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 AKB48劇場。
東京都千代田区 ドン・キホーテ秋葉原8階にあるAKB48が公演を行なうためだけに用意された専用の施設。
どんなに売れ“国民的アイドル”となろうがドームでの大型ライブを行なおうが、彼女たちは“AKB48劇場ここ”をいつまでもホームグラウンドだと思っている。

 そのためかメンバー達は、外に居るときよりもリラックスしていた。
いや、リラックスし過ぎていた。

「ふぇ~ 疲れたぁ」

「ちょっと! おっさんくさいよ、佐江!」

「そんなこと言ったってさ。 劇場のリハなんて久しぶり過ぎ……こんなハードだった?」

 足を投げ出し寝転がりオヤジくさいことを言っている“宮澤 佐江”に、腰に手を当て注意する“秋元 才加”。
AKB48 Team Kの“ツインタワー”がAKB48劇場での公演に揃って出演できるのは最近では珍しいことだった。
それだけではなく今日の公演はTeam Kのオリジナルメンバー全員揃っている。
AKB48劇場は狭く、広いステージで踊ることが多くなっていたメンバーの中には、それのために細かく振り付けを変更しなければいけないため、リハーサルがいつにもなく長時間でハードだったのだ。
檄を飛ばしていた才加も、額に汗を浮かべ肩で息をしていたほどだった。
他のメンバーも同様なようで、リハーサルが終わるとグッタリしている者が多かった。

 その中で1人だけ、他のメンバーとはテンションが違う者がいた。
リハーサルが終わるとメンバーは楽屋に戻ったのだが、優子は戻るなり部屋の隅に置かれていたイスに俯き気味に座っていた。
他のメンバーとは距離をとっていた優子の様子を、足を投げ出しボヤいていた佐江は横目でしっかり見ていた。

「はぁ……」

「どうしたの優子? 佐江と違ってリハ完璧だったよ?」

 優子とは互いを“心友”と呼び合う仲の佐江には、優子のため息が他のメンバーと違うことを薄々感づいていたが聞き出しやすいようにあえて違う聞き方をした。

「そんなこと……佐江だって、もう完璧じゃん」

「ありがと。 でもね、優子が辛そうだとファンの人達も……私も悲しいよ」

「佐江……」

 佐江はしゃがみ優子と同じ目線で優しい眼差しを向ける。
普段はどちらかというと男性的な印象の彼女。
その彼女が時折見せる聖母を思わせる眼差しに優子は自然と悩みを打ち明けていた。
ストーカーの事、瑛士の事全てを話す優子の瞳から涙が零れる。
佐江は涙で服が濡れるのも構わず優子を抱きしめ、優しく頭を撫でた。

「よく頑張ったね。 優子はがんばったよ」

「うん、グス、ありがとう……グス」

 2人のやり取りは楽屋の奥で、誰にも見えないところで行なわれていた。
内容は聞こえないが時折聞こえる優子の泣き声に、気になった“峯岸 みなみ”や“板野 友美”それに“梅田 彩佳”など数人が奥へ行こうとする。

「やめときなよ」

「何で止めるの才加? 優子が泣いてるんだよ?」

 行く手を阻むようにする才加に、食ってかかるみなみ。

「気になるけど、優子が泣き止むまで待とう? あたし達がいたら全部吐き出せないよ」

「……そうかもしれませんね……優子はん、みんなの前では頑張り過ぎるから……」

「……ごめん、才加」

 そこまで考えている才加に“横山 由衣”が相槌を打つと、それに対して素直に謝るみなみ。

『AKBに入れて幸せやんな。 優子はんみんなに慕われて羨ましい。』

 才加もみなみも、お互い優子のことを心配しているからこそ丸く収まるのだろうと、由依はニコニコしながら見ていた。
だが、その2人が心配する相手“優子”が泣いている理由が分かった訳ではなく、由依も周りのメンバー同様心配していた。

『でも、気になるなぁ。 優子はん、風船でも無い限り泣かんのに……』


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