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『世界がいくつあったとしても』卒業記念

おまけ


「さっきは本当に焦ったんだからね」

「堪忍て、嬉しかったんやもん」

「もう……」

 言葉とは裏腹に、腕にしがみつく七瀬の表情は筒抜けに明るい。
と言っても、その顔にはマスクが付けられていて口元は見えない。
それを差し引いても、七瀬が笑っていることは一目瞭然だった。

 海岸で盛大な告白をした七瀬。
告白の主が“西野 七瀬”だと周囲に分からなくとも、初日の出を背景(バック)に、大声の告白をすれば目を惹くのは当然だった。
案の定、周囲がザワつき始め、七瀬の告白を噛み締めるどころではなくなった隼人は、彼女の手を引くと、足早にその場を後にしたのだった。

 それでも怒って帰ることをしなかった隼人は今、七瀬を連れ初詣の列の中にいた。

「もぉ……暫くは外でマスク外すの禁止だからね」

「ふふ、分かっとるって、2月まで辛抱します。 せやけど、卒コン終わったら一杯お出かけしよな」

 そう言って屈託無く笑う七瀬につられ、隼人も笑顔になっていた。
他愛のない話をしながら、列が進むのを待っていた。
すると、思い出したように七瀬が言う。

「そうそう、卒コンには来るやろ? 関係者席とっとこうか?」

「自力だと難しそうだから、お願いして良い?」

「彼氏なんやから当たり前やろ。 めっちゃええ席とってもらうから」

「期待してます」

「あっ、そろそろうちらの番や」

 話している内、最前列そうしていると前の人たちが掃け、2人の順番となった。
七瀬は賽銭を投げ入れると手を併せお願事をする。

 まずは、名前と住所を……そんなことを思いながらチラリと隣を見ると、まるで通じ合ったかのように、隼人も七瀬を見ていて視線が交差する。
微笑み合うと再び目を瞑ると、七瀬は願う“隣に居る隼人が幸せでありますように”と。

 そして、もう一つ願事を告げる。

『どの世界のななも、隼人と幸せになれますように――』




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