『世界がいくつあったとしても』
第21話:「大好き!」
「俺は……」
そこまで言うと隼人は七瀬のことを真っ直ぐ見つめる。
2人の視線は交わり、それだけで胸が高鳴ってゆくのを感じる七瀬。
トクトク――
鼓動を重ねる度、自分の内にある唯一の“
だがそれでいて隼人がどう想うのかを聞けていないことに不安が胸を過ってもいた。
そんな一喜一憂を心の内で繰り返す七瀬に、幾ばくかの時が過ぎたころ隼人が口を開いた。
「……七瀬が好きだ」
飾り気のないシンプルで簡潔な一言。
ゆっくり、そしてはっきりと隼人は七瀬へ告げた。
するとその言葉を聞いた七瀬の表情はみるみると変わってゆく。
これまでと異なるのは、そこに悲しみの一欠片さえも含まれていないことだろう。
そして七瀬の瞳からは、今日二度目の涙が一筋頬を伝って零れ落ちてゆく。
隼人本人から聞きたかった
それが今こうして夢の内ではなく、現実に七瀬の耳へと届いたのだから嬉しくない訳がない。
それは同時に拒絶されるやも知れないという不安からも解放され、安堵と共に堰を切ったように涙と喜びの感情が溢れた結果であった。
そして溢れ出た気持ちは七瀬の口から言葉となって出る。
「ななも隼人が好き……大好き!」
“隼人が好き”
そう七瀬から返事が返ってくるだろうことは、これまでの経緯を鑑みれば至極当然の流れとも言えた。
だが隼人が七瀬へ伝えたのは誰かを準えたものなどではなく、自らの胸の内に秘めていた想いを紡いだ“好き”という言ノ葉。
その“特別な”言葉に対し“好き”だと想い人から返ってくることが、どれだけ幸福に満ち溢れているものなのかを隼人は七瀬に言われ実感するのだった。
それが切っ掛けとなり、それまで傍観者であったことから動きを止めていた心の内の歯車が動き始める。
「泣かないで……」
目の前で七瀬が涙を流す姿に、隼人の身体は考えるよりも先に動いていた。
席から腰を浮かし彼女の頬を伝う涙を自らの指で拭う。
すると指先を濡らした涙は触れた途端熱を失い、七瀬の頬から伝わる微かな
その
手全体で触れた頬は女性特有の柔らかさと熱に満ち、そこに在る命の存在の大きさを隼人に示した。
不意に手を伸ばされた七瀬であったが、驚き身動ぎしたり身体を強ばらせるようなことはなかった。
それどころかその
「ななは泣き虫やから……離さんといてな」
「七瀬……」
目を瞑り互いの
心を通わせ幸せを噛み締める2人に怖いものなど存在しないようであったが、夢で“追体験”があったことを相手に明かすことだけは出来なかった。
口にすれば見えぬ力に引き裂かれてしまう気がし、今は唯々心の内にこの刻が続くことを願うのだった――。