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『世界がいくつあったとしても』

第1話:「なんなん?」

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「何してるの“ナナ”?」

「ん、昔のナナにな念じてんねん」

「昔の自分に?」

「そうや。 ハヤトと初めておうたときの自分に、念送ってるんよ。 “ケイコ”から貰った連絡先にちゃんと返事するんよ~って」

「あぁ、そう言えば夜中に突然LINEが来て、それがナナだったから驚いて飛び起きたよ……あれが俺たちの始まりだったね」

「あの時、ナナね。 今みたいな会話してる夢みてん。 それで目が覚めたら、いてもたってもいられなくて連絡したんよ」

「そうだったんだ」

「だから、私も昔のナナに送らんと、ハヤトと付き合えへんような気がする」

「そうか。じゃあ二人で過去のナナにお願いしようか」

「うん」

「「………………」」

「……よしこれで、大丈夫だね」

「そうやね」

「ところでさ、ナナは平行世界パラレルワールドって知ってる?」

「あー、同じような世界がいくつもあるってやつやろ?」

「そうそう。 選ばなかった選択肢の方の自分が違う世界で生きてるってやつ」

「そんな世界あるんやったら面白そうやね。 でも、それがどないしたん?」

「んー、そっちの世界の俺も、ナナと幸せになってたら良いなって」

「ナナがもし連絡しなかったらってこと?」

「そう。 もしかしたら貰った連絡先、落としてしまうかもしれないだろ?」

「ぷっ、ドジっ子やな……そんでもナナはハヤトと一緒におる気がする」

「ふふ、ナナがそう言うならそうなのかもね」

「せやろ? どの世界のナナもハヤトが大好きなんは確定してるんやから……」

 そう言って“ナナ”は“ハヤト”へキスをせがむように瞳を閉じた。

 次第に近付く二人の距離。
やがて、二人のそれはゼロになる……。

ガバッ!!

「って、なん今の!?」

 それまで時折ニヤけたりしながらもスヤスヤと寝息を立てていた女性が、突然目を開けたかと思うと独り叫ぶように起き上がる。

 今見た光景に驚き周りを見渡すが、そこは暗闇に支配されこそすれど自分の慣れ親しんだ自室で、誰か居る気配も感じられなかった。
何より独り暮らしの彼女の部屋なのだから、誰か居たらそれはそれで恐怖体験なのだが、その様子もなく自分が見たものが“夢”であることに気付き独りごちた。

「夢……なんよね……」

 だが、夢なのだと自問しても返答が誰からあるわけでもなく、納得するどころか妙なリアルさに、一瞬触れた唇の感触を確かめるように自分のそこに触れた。
唇は熱を帯び、触れた感覚も僅かだが確かに残っていた。

 そして何より、夢に登場した“ハヤト”と呼んでいた男性を、自分が知っていたことに驚きを感じていた――。


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