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短編小説|世界がいくつあったとしても|ランジェリー|西野 七瀬

短編小説|世界がいくつあったとしても|ランジェリー|西野 七瀬

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「肌寒いかもってゆうてたからパーカーも入れな……」

 七瀬が自宅のリビングで確認するように呟きながら、キャリーバッグに何やら物を詰めていた。
何故このようなことをしているのかと言うと、明日から数日泊まりがけで乃木坂46が新たにリリースするシングルのMV撮影を行うことになっているのだ。
既に時計は12時てっぺんを超えた時間であったが、日々の忙しさもあり七瀬はその荷造りを今この時間に行っていた。

「……」

 そんな七瀬であったが荷造りをしている最中、気になる視線をずっと背中に感じていた。その視線の主は始めこそ七瀬の後ろで雑誌を読んでいたのだが、いつしか手を止め彼女の荷造りを背中越しに見てきた。
声を掛けて来る訳でもなく様子を窺うように見てくるものだから、七瀬も視線に気付いていたが何も言わずに準備を進めていた。

「なぁ……」

 だが流石に作業も終盤に差し掛かっても何も言わないことを不思議に感じ、七瀬は荷造りの手を止めた。
そして先程から気になっていた“視線”の元、後ろを振り返ると少し困った表情をソファーに座る相手へ向けた。

「さっきからどうしたん?……準備してるのなんて見ててもおもろくないやろ」

 そう七瀬がソファーに座る“隼人”に問うが“興味津々”だという雰囲気を崩すことはなかった。

「いや、バックの中は何入れていくのかなって興味があって……」

「普通やと思うで? あっちで着る私服に部屋着やろ、それにお化粧道具とか……あとは“下着”やね」

「し、下着か……」

 下着と聞いて何故か七瀬から視線を外し、視線を少し彷徨わせる隼人。
すると、それを見て隼人の反応に七瀬は何か思い付いたのか、あれやこれや詰めたキャリーバッグからひょいとトラベル用の衣装ケースを出して見せる。

「ななが普段外では、どんなん着けてるか気になる?」

 そこに下着を入れているであろう黒いネットのケースを、ふりふりと小さく振りながら七瀬は隼人の様子にニヤリとした。

「……うん、ちょっと気になる」

 左右に揺れるネットの隙間から、白やピンクなど色がチラチラと見え、隼人は恥ずかしさを感じつつ気持ちを素直に伝えていた。

「正直に言うんはえぇけど……エッチやな隼人は」

「えぇ!?」

「ふふ冗談。 隼人の前の時とはちょっとちゃうねん」

「違うの?」

「うん。 泊まりがけのお仕事の時はね。 綺麗めなのを持っていくねん」

「綺麗め?」

「そう、綺麗めなの。 だってドッキリとか何かの時に見られる可能姓あるやん? アイドルがダサいの着けてたらあかんやろ」

「確かに……それはそうだね……」

「でもな、隼人の前でもそれとも違うの着けてるんよ。 気付いてる?」

「えっ、そうなの?」

「あっ、気付いてへんかったんや。 ひどいな隼人は」

「ごめん、いつも七瀬に夢中で気付かなかった……」

「……ぷっ」

 七瀬は思わず隼人の言葉に吹き出してしまった。
それは鈍いという理由でではなく自分に夢中だからなのだと聞かされたからだ。
まさかそんな風にストレートに言われるなど想像していなかったから、吹き出しつつ内心隼人に求められているのだと実感し嬉しくもあった。

 だがそんな七瀬の内心など気付かない隼人は、自分が変な事を口走ったからだと思ったようであった。

「え? なに、なんか変なこと言った?」

「言うてへんよ……なぁ、隼人」

 困惑する隼人の他所に、というか寧ろそんな彼の様子が七瀬の“ある感情”を昂らせた。
七瀬は突然後ろのソファーに座る隼人へとしな垂れかかる。
隼人は彼女の体を抱きとめ、七瀬は彼の首元に顔を寄せ耳元で甘えるような声で名を呼んだ。

「な、なに?」

 七瀬の突然の雰囲気の変貌にたじろぐ隼人。
そんな様子に首元に顔を寄せたままペロリと唇を舐める七瀬。
そして顔を上げると妖艶な笑みを浮かべ七瀬は隼人を見つめた。

「2日間もお預けは、なな辛いなぁ……」

「えっ、でも明日朝早いんでしょ?」

「なら集合場所まで車で送って」

「う、うん。 それは構わないけど……」

「やった! よし準備もおしまい!」

 言い訳をしてみたものの難なく押し通されてしまう隼人。
そんな彼の返事に満足げな表情を見せるた七瀬は、キャリーバッグの周りに残った荷物をパパッと詰め込んでしまう。

「ちょっ、七瀬?」

「なぁ、しよ……ななとじゃ嫌?」

 そんな荷造りで大丈夫かと思う隼人だったが、目の前それも下から見上げられるようにして七瀬という恋人に誘われれば欲情もするだろう。
あっさりと隼人は抵抗をやめ、七瀬を抱き竦めると真顔で呟いた。

「嫌な訳ないだろ…好きだよ七瀬」

 普段は温和な隼人に対し、七瀬が年上ということもあってリードしているように見える。
だが実際はいざとなった時に隼人が見せる男の表情ひとつで、2人の関係は逆転する。

「……ウチも好き」

 抱き竦められ予想外の表情で“好き”だと反撃され、恥ずかしさが込み上げてきた七瀬は顔を真っ赤にする。

「……なぁ、隼人」

「ん?」

「……今日はちゃんと下着も見てな」

 勇気を振り絞り恥ずかしそうに告げた七瀬は、そのまま瞳を閉じ唇を隼人に差し出す。

 重なり合う2人。
こうして2人の夜は更けてゆくのだった――。


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