2、迷える恋路
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山道を逃げていたウォルファは、人目につかないように移動していたが、かえってそれが裏目に出てしまい、先程命を狙った刺客の一派に出くわしてしまった。
「今度は逃がさん。……消せ!」
───逃げなきゃ…!
だが、相手は彼女一人にはあまりに多すぎる。じわじわと追い詰めてくる彼らに怯えることしか出来ないウォルファは、荷物を抱き締めて震えた。
その時だった。刺客の一人が倒れる。何が起きたのかさっぱり理解していない彼女は、一瞬兄が助けに来たのかと勘違いした。だが、その人は……
「そなた、手間をかけさせるなと言ったはずだぞ」
「ヒジェ様……!?」
呆然としているウォルファに、また一人切りかかろうとする刺客が現れた。背後から近づいてきたそれを、虎よりも素早く切り殺すと、ヒジェは彼女を自分の背に隠した。
「離れるな。ここで手こずらせたら、死んでもらうからな」
彼女は黙ってヒジェの背にしがみついた。普通の女性にされれば邪魔だと怒るのだが、彼はむしろ空いたほうの手でウォルファの背中を自分の背に寄せた。
「……どうして、助けてくれたの?」
「助けるつもりはなかった。むしろ、見つけたら即行この手で殺すつもりだった。…だが、結局また私はそなたに手間をかけた」
彼はまた素直になれない自分に苛立ちながらも、果敢に刺客を次々と倒していく。それを見た刺客の一人が、小刀型の武器を構えた。彼は頃合いを見計らうと、ヒジェとウォルファにわずかな隙間が出来た瞬間、彼女めがけてそれを放った。空気を切りながら真っ直ぐ飛んでくる武器に気づいたヒジェは、とっさに彼女を突き飛ばそうとした。だが、間に合いそうもない。彼は無我夢中で前に飛び出すと、代わりに小刀を肩に受けた。
「───ヒジェ……様?」
明らかに様子がおかしい彼に声を掛けたウォルファは、次の瞬間自らの体を支えきれなくなった彼と共に斜面を転がり落ちた。ある一定まで落ちてようやく止まってから、ウォルファはヒジェの肩に小刀が刺さっていることに気づいた。彼女は声にならない悲鳴を上げた。
「ヒジェ様!?ヒジェ様!?ねぇ、しっかりして。ヒジェ様!こんなところで死なないで!お願い………」
───このまま、死に別れたくない。
その一心で彼女はヒジェを近くの洞窟まで引きずっていった。服が汚れようが、靴に穴が開こうが、彼女は一切気に留めなかった。今の彼女の心の中には、ただ彼を救いたいという思いだけが居座っている。
昔、近所の医女のお姉さんに教えてもらった手当ての方法を思い出しながら、ウォルファは薬草を探した。
「探さなきゃ、探さなきゃ……このままではあの人が死んでしまう」
───もうお会いするつもりはありませんので、尋ねてこないで下さい。
違う。本当は会えて誰よりも嬉しかった。
──愛しているなら、もうこれ以上私を苦しめないで。さようなら。
違う。どこにも行かないで。苦しめてもいいから、私を殺しても良いから。傍に居たい。
……好きだ、ウォルファ。
私も。あなたをずっと愛していました。
彼女は泣きながら薬草を手に持ってヒジェの元へ戻った。
「お願い……死なないで…死んでは駄目。こんな別れ方……嫌よ……愛してるから。愛してるから。嘘をついてごめんなさい……本当に、ごめんなさい……」
相変わらず青白い顔をしている彼は、目を覚ます様子もない。このまま死に別れることを覚悟したウォルファは、夢中で手探りの手当てを始めた。
まず、すりつぶした薬草を塗るために彼女はヒジェの服を脱がせた。月明かりに照らし出された美しい肌が、受けた傷の痛々しさをより鮮明に映しだす。少しだけ体を起こさせると、彼女は肩に刺さっている小刀に手を掛けた。すると、丁度そのときにヒジェが目を覚まし、ウォルファの手を掴んだ。
「ヒ……ヒジェ様…」
「……ウォルファ………怪我は…ないか?」
傷を受けてもまだ、自分の心配をし続けるヒジェに対し、ますます自責の念を募らせた彼女は、暖かなその胸に思わず飛び込んだ。
「なっ………何を……」
「ごめんなさい……私……嘘をついていました。私は……あなたを………あなたを、まだ愛しています」
彼は驚いていたがやがて穏やかな顔になると、ウォルファの頭を優しく撫でた。
「……そうか。誰でも…素直になるには時間が…かかるものだ。私がそうだった…ように」
だが二人が互いの想いを確かめる間もなく、ヒジェの体を激しい痛みが駆け抜けた。悶絶する彼を支えながら、ウォルファは必死で呼び掛けた。
「ヒジェ様!!ヒジェ様!!今から小刀を抜きます。…これをくわえてください」
髪を結い上げている布をほどいて彼の口にたたんでくわえさせると、ウォルファは深呼吸した。そして、一思いに刀を引き抜いた。幸いにも出血は酷くなく、彼女は痛みのあまり気絶しているヒジェの呼吸を確認すると、今度は患部に巻く布を探し始めた。だが、それらしいものが見当たらない。仕方がなく彼女は自分の肌着を破ろうとした。けれど、思うように破くことが出来ない。何かないだろうかと探していると、ヒジェの懐から見覚えのある短刀が現れた。
「ヒジェ様……」
改めて自分を愛してくれていたことに衝撃と喜びを覚えた彼女は、その短刀を鞘から取り出すと自分の肌着の裾を破いた。そしてそれを器用に薬草を塗り込めた患部に当たるように彼の身体に巻き付けると、丁寧に服を着せ直した。
「よし、これで何とかなるわ。あとは……」
ウォルファは自分の荷物を腰に巻き直し、ヒジェに肩を貸して歩き始めた。目指すはソリの妓楼。そう近くもない距離に絶望している暇もなく、彼女は一歩ずつ足を進めるのだった。
もう決して、傍を離れたりしないと決意しながら。
「今度は逃がさん。……消せ!」
───逃げなきゃ…!
だが、相手は彼女一人にはあまりに多すぎる。じわじわと追い詰めてくる彼らに怯えることしか出来ないウォルファは、荷物を抱き締めて震えた。
その時だった。刺客の一人が倒れる。何が起きたのかさっぱり理解していない彼女は、一瞬兄が助けに来たのかと勘違いした。だが、その人は……
「そなた、手間をかけさせるなと言ったはずだぞ」
「ヒジェ様……!?」
呆然としているウォルファに、また一人切りかかろうとする刺客が現れた。背後から近づいてきたそれを、虎よりも素早く切り殺すと、ヒジェは彼女を自分の背に隠した。
「離れるな。ここで手こずらせたら、死んでもらうからな」
彼女は黙ってヒジェの背にしがみついた。普通の女性にされれば邪魔だと怒るのだが、彼はむしろ空いたほうの手でウォルファの背中を自分の背に寄せた。
「……どうして、助けてくれたの?」
「助けるつもりはなかった。むしろ、見つけたら即行この手で殺すつもりだった。…だが、結局また私はそなたに手間をかけた」
彼はまた素直になれない自分に苛立ちながらも、果敢に刺客を次々と倒していく。それを見た刺客の一人が、小刀型の武器を構えた。彼は頃合いを見計らうと、ヒジェとウォルファにわずかな隙間が出来た瞬間、彼女めがけてそれを放った。空気を切りながら真っ直ぐ飛んでくる武器に気づいたヒジェは、とっさに彼女を突き飛ばそうとした。だが、間に合いそうもない。彼は無我夢中で前に飛び出すと、代わりに小刀を肩に受けた。
「───ヒジェ……様?」
明らかに様子がおかしい彼に声を掛けたウォルファは、次の瞬間自らの体を支えきれなくなった彼と共に斜面を転がり落ちた。ある一定まで落ちてようやく止まってから、ウォルファはヒジェの肩に小刀が刺さっていることに気づいた。彼女は声にならない悲鳴を上げた。
「ヒジェ様!?ヒジェ様!?ねぇ、しっかりして。ヒジェ様!こんなところで死なないで!お願い………」
───このまま、死に別れたくない。
その一心で彼女はヒジェを近くの洞窟まで引きずっていった。服が汚れようが、靴に穴が開こうが、彼女は一切気に留めなかった。今の彼女の心の中には、ただ彼を救いたいという思いだけが居座っている。
昔、近所の医女のお姉さんに教えてもらった手当ての方法を思い出しながら、ウォルファは薬草を探した。
「探さなきゃ、探さなきゃ……このままではあの人が死んでしまう」
───もうお会いするつもりはありませんので、尋ねてこないで下さい。
違う。本当は会えて誰よりも嬉しかった。
──愛しているなら、もうこれ以上私を苦しめないで。さようなら。
違う。どこにも行かないで。苦しめてもいいから、私を殺しても良いから。傍に居たい。
……好きだ、ウォルファ。
私も。あなたをずっと愛していました。
彼女は泣きながら薬草を手に持ってヒジェの元へ戻った。
「お願い……死なないで…死んでは駄目。こんな別れ方……嫌よ……愛してるから。愛してるから。嘘をついてごめんなさい……本当に、ごめんなさい……」
相変わらず青白い顔をしている彼は、目を覚ます様子もない。このまま死に別れることを覚悟したウォルファは、夢中で手探りの手当てを始めた。
まず、すりつぶした薬草を塗るために彼女はヒジェの服を脱がせた。月明かりに照らし出された美しい肌が、受けた傷の痛々しさをより鮮明に映しだす。少しだけ体を起こさせると、彼女は肩に刺さっている小刀に手を掛けた。すると、丁度そのときにヒジェが目を覚まし、ウォルファの手を掴んだ。
「ヒ……ヒジェ様…」
「……ウォルファ………怪我は…ないか?」
傷を受けてもまだ、自分の心配をし続けるヒジェに対し、ますます自責の念を募らせた彼女は、暖かなその胸に思わず飛び込んだ。
「なっ………何を……」
「ごめんなさい……私……嘘をついていました。私は……あなたを………あなたを、まだ愛しています」
彼は驚いていたがやがて穏やかな顔になると、ウォルファの頭を優しく撫でた。
「……そうか。誰でも…素直になるには時間が…かかるものだ。私がそうだった…ように」
だが二人が互いの想いを確かめる間もなく、ヒジェの体を激しい痛みが駆け抜けた。悶絶する彼を支えながら、ウォルファは必死で呼び掛けた。
「ヒジェ様!!ヒジェ様!!今から小刀を抜きます。…これをくわえてください」
髪を結い上げている布をほどいて彼の口にたたんでくわえさせると、ウォルファは深呼吸した。そして、一思いに刀を引き抜いた。幸いにも出血は酷くなく、彼女は痛みのあまり気絶しているヒジェの呼吸を確認すると、今度は患部に巻く布を探し始めた。だが、それらしいものが見当たらない。仕方がなく彼女は自分の肌着を破ろうとした。けれど、思うように破くことが出来ない。何かないだろうかと探していると、ヒジェの懐から見覚えのある短刀が現れた。
「ヒジェ様……」
改めて自分を愛してくれていたことに衝撃と喜びを覚えた彼女は、その短刀を鞘から取り出すと自分の肌着の裾を破いた。そしてそれを器用に薬草を塗り込めた患部に当たるように彼の身体に巻き付けると、丁寧に服を着せ直した。
「よし、これで何とかなるわ。あとは……」
ウォルファは自分の荷物を腰に巻き直し、ヒジェに肩を貸して歩き始めた。目指すはソリの妓楼。そう近くもない距離に絶望している暇もなく、彼女は一歩ずつ足を進めるのだった。
もう決して、傍を離れたりしないと決意しながら。